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2016年8月15日 (月)

21世紀のプリンス(3)

 2007年に「プラネット・アース」が発表されたあと、日本のプリンス・ファンは、2014年の「アート・オフィシャル・エイジ」までの7年間、日本での公式アルバムについては待たされることになった。

 だから、日本ではプリンスの動向がよく伝わらずに、様々な憶測が流されていたが、実際は、様々なフェスティバルに参加したり、意欲的にアルバムを発表したりしていたのである。

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 特に、2009年には再び3枚組のアルバムを発表し、話題になった。「ロータスフロー」と名付けられたこのセットは、3枚のうち2枚はプリンスの作品、残り1枚はプリンスが見出した新人女性シンガー、ブリア・ヴァレンティのアルバムだった。
 このアルバムは、3枚組にもかかわらずビルボードのアルバム・チャートでは初登場2位を記録している。

 また、2010年にはイギリスのデイリー・ミラーやベルギーの新聞、ドイツ版の雑誌「ローリング・ストーン」の付録として、無料でCD「20テン」を発表した。タイトルは西暦に因んだもので、内容はプリンス流のファンクやロック・ミュージックだった。
 そして2010年以降では、様々なツアーやフェスティバルに参加したり、未発表曲の再録音などをiTunesを通して発表したりしている。

 だから、日本では彼の動向がなかなか伝わらずにやきもきさせられたのだが、実際はワーカホリック・ミュージシャンの一人のプリンスのことだから、自宅にいるときは曲を書き、録音し、外に出ればライヴ活動に励んでいたのである。

 ただ、インターネット上の違法行為(いわゆる海賊盤の横行)には憤っていて、著作権が保護されない限り、新たなアルバムは発表しないと宣言していた。
 
 そんなプリンスが、2014年には何と喧嘩別れしていたワーナー・ブラザーズと契約を結んだことで、多くのファンや関係者を驚かせた。やはり自分の作品を世界中の人に知ってもらうためには、メジャーなレコード会社との関係は必要不可欠だと感じたのだろうか。

 そして発表されたアルバムが、サード・アイ・ガール名義の「プレクトラム・エレクトラム」と、自身のアルバム「アート・オフィシャル・エイジ」だった。61mcp6qm4l
 自分は貧乏なので、「アート・オフィシャル・エイジ」の輸入盤しか購入できなかったのだが、「プラネット・アース」よりはファンク/ソウル色が強くて、プリンス本来の持つ粘っこさや力強さがよく発揮されていると思った。

 特に印象的だったのは、"Art Official Age"、"Breakdown"、"This Could Be Us"などであろうか。"Art Official Age"ではイントロの緊張感が聞く側に伝わってきて、ワクワクさせてくれるし、バラードの"Breakdown"、"This Could Be Us"などは聞くたびにウットリさせてくれる。何度も言うが、この人の書くバラード曲はどの曲もすばらしいと思う。何か秘訣でもあるのだろうか。

 また、後半の"Way Back Home"、"Funknroll"、"Time"の展開も見事である。バラードからノリのよいリズム曲、そして最後を締めるエンディング曲という配列もよく練られていると思った。

 ただ、個人的には物足りなさも覚えた。天才プリンスにしては、平均点よりもやや上程度の作品だったのではないだろうか。曲によって出来の差が見られるし、80年代の作品よりはやや劣っているような気がしてならなかった。

 これくらいの曲ならプリンスにしてみれば、それほど苦も無く出来上がるだろう。ファンとしては、せめて「ザ・ゴールド・エクスペリエンス」や「ミュージコロジー」、「プラネット・アース」並みの作品を期待していたのだが、何かが足りなかったようだ。
 それでもチャート的には、全米5位、全英8位と健闘した。日本では久々の国内盤だったせいか、よく売れていたようだ。

 翌年には、「ヒット&ラン・フェーズ・ワン」と「ヒット&ラン・フェーズ・ツー」の2枚のアルバムを立て続けに発表した。この2枚は、いずれも2013年あたりから書き溜めていたものやそれ以前の未発表曲、既発の曲の再録などを収めたものだが、さすがプリンス、それなりの統一感がきちんと表れていた。61evg3d6zsl__sl1181_
 前者の「フェーズ・ワン」の方はどちらかといえば、ファンク/ソウル色が強くて、「フェーズ・ツー」の方は、ロック/ポップ色が強い。
 「フェーズ・ワン」では、「アート・オフィシャル・エイジ」にも収められていた"This Could B Us"やプリンス流エレクトリック・ダンス・ミュージックともいえる"Fallinlove2nite"やブルーズ・ファンク・ミュージックの"Hardrocklover"などが印象的だった。

 また後半になるにつれて、ダンス・ミュージックの要素も濃くなり、まさにプリンスの本領発揮といった感があった。

 一方で「フェーズ・ツー」では、ポップでおとなしめな曲"Baltimore"から始まる。この曲は2015年の4月にボルチモアで警官から拷問を受け死亡した黒人青年フレディ・グレイのことを歌ったもので、メロディは明るいものの内容はダークだった。

 プリンスは争いを止め、平和に過ごそうと呼び掛けているが、現実にはつい最近も黒人が一方的に白人警官から射殺されるという痛ましい事件が起こったばかりだ。このままいけば、第二の南北戦争が起きるのではないだろうか。

 「フェーズ・ツー」では、"Rocknroll Loveaffair"、"2Y.2D."、"Look at Me, Look at U"とわかりやすくポップな曲が続く。61supj6uudl__sl1200_
 5曲目の"Stare"あたりから黒っぽくなっていくのだが、"Xtraloveable"は1982年に当時プリンス・ファミリーの一員だったヴァニティー6のために用意されたもので、当時は使用されずにお蔵入りになっていた。今回はそれを再録したものである。

 "Groovy Potential"、"Screwdriver"は2013年の作品。後者の"Screwdriver"なんかはシングル・ヒットが狙えそうな曲。ちょうど"Around the World in A Day"の頃の曲に似ていて、軽い感じが逆に猥雑な感じを与えてくれる。

 このアルバムでも"When She Comes"、"Revelation"などのバラードが素晴らしいが、前者は2011年頃に、後者は2014年に発表されたものだった。
 「フェーズ・ワン」も「フェーズ・ツー」も古くは80年代から、新しいところでは2015年当時の新曲まで収められているが、「フェーズ・ワン」はファンク色が、「フェーズ・ツー」ではポップな色合いが濃い。そんな統一感があったので、だから聞いていて違和感は無かった。

 この「ヒット&ラン」シリーズは、もとはインターネットの定額スクリーミング・サービスで配信されていたのだが、特に「フェーズ・ツー」の方は、地元ミネアポリスでのライヴ会場とそのミネアポリスのダウンタウンにあるCDショップ「The Electric」でのみCDとして販売されるようになった。13ドル99セントだったらしい。

 これは地元愛に溢れるプリンスが、地元の店を支援しようとして考えたプランだったが、逆に世界中のファンが海賊版に悩まされるという事態が起きたため、結局、CD化されたという事情があった。

 ただ、もしプリンスがこの「ヒット&ラン・フェーズ・ツー」が最後のアルバムになると知っていたら、果たしてこのようなアルバムになったかどうか。もしかしたら、というか全曲オリジナルで固めるのではないだろうか。

 プリンスと同じく、今年亡くなったデヴィッド・ボウイの場合は、これが最後のアルバムになることを知っていて制作したものだった。
 しかし、プリンスの場合は全くこれとは逆で、最後になるとは夢にも思っていなかったはずだ。

 ただ、この「ヒット&ラン」シリーズを通して、今までの未発表曲や再録音をまとめようとは思っていただろう。その上で、さらに新しい局面へと進んで行ったに違いない。
 例えば、「ヒット&ラン」シリーズの発表を通して過去の自分の作品と向き合いながら、新作も発表していっただろう。

 また、プリンスは「パープル・レイン」や「バットマン」のように、映画のサウンドトラックと相性が良かったから、サントラ盤も発表していたかもしれない。ただ残念ながら、我々はもうそこには行き着くことは無いのだ。

 ジミ・ヘンドリックスの場合は、エディ・クレイマーという優秀なエンジニアと一緒に仕事をしていたから、ジミの死後も、エディがジミの真意を探り、彼の意図を鑑みて、彼の意思が反映されたアルバムを、次々とニュー・アルバムとして発表することができた。

 プリンスも未発表曲が数百曲と残されているらしいが、残念ながら彼は演奏からアレンジ、プロデュースをひとりで行っていたから、どんなに優秀なプロデューサーが担当したとしても、彼の意思が正確に反映されたアルバムを発表することはできないだろう。

 もちろん、彼の未発表曲のアルバムが今後も発売されるだろうが、それらが発表されたことをプリンスが聞いたら、果たして完璧主義者の彼はどう思うだろうか。

 享年57歳だった。自分のソウル・ミュージックのCDラックには、プリンスのアルバムがこれからも収められるように、アニタ・ベイカーやホイットニー・ヒューストンのアルバムを売ってしまったのだが、意味がなかったようだ。

 自分は、これからもプリンスのアルバムを何回も何回も聞き続けるだろう。ただ、それはこれからの彼のアルバムではなくて、今まで発表されたものになるだろう。それらのアルバムには、彼の“ソウル”が込められているからで、そうすることが彼の意思を尊重し、彼の魂に耳を傾けることになると思うからである。

 本当に不出世の偉大なミュージシャンだった。ソウル・ミュージックとロック・ミュージックとポップ・ミュージックの境界を軽々と飛び越えてしまったミュージシャンだった。今まで突っ走ってきたのだから、これからはゆっくり休んでほしいと願っている。


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コメント

とうとう最後ですね。そして、もう新しいプリンスの作品もその評価も聞く事ができないんですね。
実は6月半ばから1ヵ月入院していたのですが、その間この2枚をじっくり聞きました。そして、プリンスはまたもターニング・ポイントにいたのでは、と思いました…
本当に早すぎた最後で、とても残念ですが、 まるで彗星のごとく過ぎ去ってしまったのは、なんだかスーパースターに相応しかったな、とも思うのです。

投稿: 川崎の晴れ豚 | 2016年8月18日 (木) 05時35分

 コメントありがとうございます。体調の方はどうですか?病み上がりだったら、あまり無理をしないようにして下さい。

 時期的にもお盆を挟んでのプリンス特集でした。狙ったわけではないのですが、やはり力が入ってしまって、長く続いてしまいました。

 川崎さんの言うように、流れ星のようなミュージシャンでした。しかも途中で、何度も大きく光り輝きながら飛び去ってしまいました。ひょっとしたら過去の音源がこれから発掘され、販売されるかもしれませんが、微妙な感じがします。ライヴ盤なら聞くかもしれませんね。

 いずれにしても、本当に偉大な天才児プリンスだったと思います。彼もまた伝説になってしまいました。

 暑い日が続いていますので、体調を崩されないようにご自愛ください。それでは、また。

投稿: プロフェッサー・ケイ | 2016年8月18日 (木) 21時52分

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