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2016年9月26日 (月)

アイ・スティル・ドゥ

 前回も述べたけれど、今年はベテラン・ミュージシャンのアルバムが数多く発表されていて、まるで1970年代に戻ったような感じだった。
 
 それで前回はサンタナで、今回はエリック・クラプトンの新作についてである。23枚目のソロ・スタジオ・アルバムになる「アイ・スティル・ドゥ」は、エリック・クラプトンが70歳を超えて初めてのアルバムになった。A1r4m8utp7l__sl1500_

 このアルバムはエリックの叔母のシルヴィアに捧げられている。彼女は2014年に亡くなっているのだが、エリック・クラプトンが彼女に会いに行って、幼いころ面倒を見てくれたことについて感謝の言葉を述べたとき、叔母のシルヴィアは“いえいえ、あなたのことが好きだったから。そして今でもよ”と言ったらしく、その言葉にインスパイアされてタイトルにしたようである。

 エリック・クラプトンは、祖父母夫婦によって育てられた。本当の父親はカナダ人の兵士で16歳のパトリシア・クラプトンが出産する前に、カナダに帰ってしまった。第二次世界大戦が終わったからだろう。

 
 だから最初は祖父母を両親と、叔父のエイドリアンを年の離れた兄だと思っていたようだ。だからシルヴィアとも親しくしていたようで、エリックが学校で悪いことをしても叔母はかばうこともあったらしい。ちなみに実の母のパトリシアは、別のカナダ人兵士と結婚してドイツに行ってしまった。自分の気持ちに素直というか、奔放な人だったようだ。

 基本的に学生時代のエリックは素行が悪くて、だいたいギターを始めたのも女の子にもてたいためという、まさに不謹慎というか、男の子からすれば至極まっとうな動機からだった。だからアルバムのタイトルにするほど、シルヴィアに対しては特別な思いがあったのだろう。

 また別の話題として、アルバムのプロデューサーにはグリン・ジョンズの名前がクレジットされている。グリン・ジョンズといえば、ジミ・ヘンドリックスからローリング・ストーンズ、ザ・フー、イーグルスと歴史的なミュージシャンやバンドのアルバムのエンジニアやプロデュースを行ってきた人で、本人もまた伝説的なプロデューサーでもあった。9780399163876_large_sound_man3_2
 エリック・クラプトンとは1977年の「スローハンド」、78年の「バックレス」以来の共同作業になった。(国内盤アルバムの解説には「スローハンド」以来とあったが、記載ミスだったのだろうか?)

 グリン・ジョンズは、素朴というか伝統的な音作りに固執するタイプのプロデューサーで、最新型の録音機器を使いながらも、そのミュージシャンやバンドの発する基本的な音を大事にする人だ。だからこのアルバムもあまり凝ったサウンドではなく、エリック・クラプトンらしいブルーズやロック・サウンドが鳴らされている。

 だからこのアルバムを聞いたときの最初のイメージは、70歳を超えたクラプトンらしい渋い、もしくは落ち着いた、あるいは枯れたようなサウンドというものだった。しかも全12曲(国内盤は13曲)のうち、エリックの名前がクレジットされた曲は2曲しかなく、あとはトラディショナルや他人の楽曲で占められている。


 まず最初は、リロイ・カーという人の“
Alabama Woman Blues”というスロー・ブルーズ曲で、スライド・ギターがフィーチャーされている。リロイ・カーという人は、1930年代に活躍したピアノ・マンらしい。

 2曲目の“Can’t Let You Do It”はJ.J.ケイルの曲で、シャウトすることもなく淡々と歌っている。J.J.ケイルの曲はもう1曲あって“Somebody’s Knockin’”というブルーズ・ロック曲だった。こちらでもエリックの渋いギターが披露されている。


3曲目の“I Will Be There”はアコースティックな曲で、癒されてしまうような曲調が印象的だ。このアルバムの中でも心に残る曲だと思う。

 再びスロー・バラード曲になる“Spiral”は、エリックと盟友アンディ・フェアウェザー・ロウ、キーボード担当のサイモン・クライミーの手によるもので、「フロム・ザ・クレイドル」の中のブルーズ曲を聞いているかのようだった。

 
 続く“Catch the Blues”はエリック一人によって書かれた曲で、これまたアコースティックというかドブロ・ギターがバックで目立たないように鳴らされていて、エリックは女性バック・ボーカルと一緒に歌っている。確かに70年代のアルバム「スロー・ハンド」や「バックレス」を思い出してしまい、この辺はグリン・ジョンズのアドバイスなのだろう。


 アルバムはこれでもかというかのように、さらにブルーズ曲が続く。クラプトンが子どものころに耳にしたことがあるであろう“
Cypress Grove”で、これはスキップ・ジェイムズの1930年代初期の曲。
 また、ロバート・ジョンソンの“
Stones in My Passway”も収められてる。“Crossroads”やジョン・レノンの“Yer Blues”の中のフレーズも少しだけ聞こえてきて、それらの曲のオリジナルのようにも思えてきた。


 ボブ・ディランの“
I Dreamed I Saw St. Augustine”も9曲目に収められていて、この曲は1967年のボブ・ディランのアルバム「ジョン・ウェズリー・ハーディング」からとられたもの。エンディングでは、エリックはまるで元ザ・バンドのロビー・ロバートソンのように演奏している。

 
 “Little Man, You’ve Had A Busy day”や“I’ll Be Seeing You”も恐らくエリックが子どもの頃に耳にしたり歌ったりしていた曲ではないだろうか。前者は1934年に発表され、ペリー・コモやサラ・ヴォーン、カウント・ベイシーなどが取り上げている。

 
 後者の曲も1938年に書かれたブロードウェイのミュージカル曲で、アン・マレーを始め、ビリー・ホリディ、ビング・クロスビー、トニー・ベネット、ペギー・リーにレイ・チャールズと枚挙に暇がないくらい多くのミュージシャンからカバーされている曲だ。

 
 これは自分の勝手な想像だけれど、これらは叔母さんの好きだった曲ではないだろうか。だからタイトルも含めて、このアルバムを叔母さんに捧げたのではないかと思っている。

 
 したがって、アルバム全体を貫く印象は、最初にも書いたように、落ち着いたものである。これが好きか嫌いかは、意見の分かれるところだろう。個人的にはもう少し躍動感のある曲が欲しかったのだが、これが今のエリック・クラプトンの心境の反映なのだろう。

 あるいは雑誌などでも書かれているように、指の神経損傷でギターも思うように弾けなくなったそうだから、あまりハードなものは無理なのかもしれない。20121119clapton600x1353340058


 ちなみに米国ビルボードのアルバム・チャートでは、前作「オールド・ソック」の13位
を越えて6位を記録している。内容的にはこれからの季節にはふさわしいアルバムと言えるかもしれない。


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コメント

エリック・クラプトン~いっや~大物が出てきましたね。彼の才能は解りつつも、なかなかのめり込まなかったギタリスト。ブルースは良いのですが、どうも田舎のお父さんというイメージ(笑わないで・・・)が私から去らないのです。
しかしそれはそれ、クラプトンってやっぱり凄いと思わされたのは、彼がピンク・フロイド・ナンバーをがんがん演ったのを観たときです。それは1984年ロジャー・ウォーターズの「ヒッチハイクの賛否両論ツアー」の彼の演じたものです。特に”money”の凄さは特筆。メル・コリンズのサックスとの掛け合いまでやってのけた。又バック・スクリーンはヒッチハイクするパンティーまで脱ぐ女性の映像の前で、ギターを泣かせ、ウォーターズのベースとヴォーカルとの火花を散らしたのも有名。
 実はこの時のロジャー・ウォータースの演奏も今までの中で最高だったと思ってます。
 ・・・と、過去の話で済みませんが、クラプトンってやっぱり凄いという事で。

投稿: 風呂井戸(photofloyd) | 2016年9月30日 (金) 21時41分

コメントありがとうございました。今でこそクラプトンは落ち着いた印象がありますが、クリームやブラインド・フェイスの頃は本当に神がかっていましたね。

 アメリカに行ってから落ち着いていったような気がします。昔を知っているものにとっては、もう少し弾きまくってほしいですが、もうそういう時ではないのでしょう。

 それにしても、すごいのはロジャー・ウォーターズの方で、クラプトンといい、ジェフ・ベックといい、一流ロック・ギタリストを従えて公演活動を行っていたのですね。

投稿: プロフェッサー・ケイ | 2016年10月 2日 (日) 22時27分

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