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2016年10月10日 (月)

ラウド・ヘイラー

 「ラウド・ヘイラー」とは、“大声で呼びかける”という意味で、“いま、世界で起こっているいくつかの不快なことを目にしたときに、コメントを発表したいと考えた。そして、集会に参加し、拡声器を使って自分の見解を叫ぶというアイデアが気に入ったのさ”とアルバム制作者のジェフ・ベックは述べている。
 
 そう、今回のアルバムは、あの伝説のギタリスト、歴史に残るミュージシャンであるジェフ・ベックの11枚目のスタジオ・アルバムについてである。
 このアルバムのタイトルの由来が、冒頭にあるジェフ・ベックの言葉だった。だからジェフの“異議あり”という声が伝わるようなパワフルでエッジのきいた楽曲でまとめられている。
 
 ジェフ・ベック、今年の6月24日で72歳になった。72歳である。自分にとっては脅威の72歳だ。72歳になった人のサウンドとはとうてい思えないほど、バリバリとギターを弾き、ガンガンとでかい音を出し、ビンビンとロックしているのだ。このアルバム、彼の長いキャリアの中でも歴史的かつ画期的なアルバムになることは間違いないだろう。519drnc0fwl
 このアルバムは今年の6月に発表されているから、もういろいろなところで書かれているので、多くの人はご存知だと思うが、あえて書かせてもらうと、ボーンズというバンドからボーカリストとギタリストをゲストに招いている。
 
 それがロージー・ボーンズとカーメン・ヴァンデンバーグだった。きっかけは、クイーンのロジャー・テイラーのバースディ・パーティーで、ジェフとカーメンが出会ったことからだった。
 そのときジェフは、ガールズ・パンクか何かをやっているのだろうと思い、ちなみに誰が好きなのか聞いたところ、アルバート・コリンズだと彼女は答えたという。
 
 23歳の若い女の子が渋いブルーズ・ギタリストが好みと答えたことがジェフの興味を引いたようで、彼女たちのライヴを見に行き、さっそくその夜に彼女たちをディナーに誘い、このプロジェクトが始まったといわれている。
 実は2010年に発表されたアルバム「エモーション&コモーション」のあと、2014年にはニュー・アルバムの作品が完成していてミキシング中だったのだが、ジェフの意向により、急遽、お蔵入りになってしまった。
 ジェフが言うには、自分の言いたいこととは少し違って、レトロ過ぎるということで、ジョン・マクラフリンみたいな音楽マニア向けするような作品だったようだ。

 それはそれで聞いてみたい気がするのだが、ジェフにとっては良い思い出にはなっていないし、それをプロモーションするために時間をかけたくなかったと述べている。また、このお蔵入りになった幻のアルバムについては、自分の生前には発表する意思はないとも語っていた。Jeffbeckfb2015
 だから「ラウド・ヘイラー」の方は、全くの別物として新たに曲を書き下ろし、録音した曲群で占められているのである。
 
 冒頭の"The Revolution Will Be Televised"は、ハードなリフが特徴的なスロー・ブルーズ風味の曲で、ロージーのポエム・リーディング調の語りとバックのこれぞジェフ・ベックというギターの絡みが斬新でもある。
 続く"Live in the Dark"は21世紀のジェフ・ベック流ハード・ロックだろう。彼のフィンガー・ピッキングによる一音一音の粒が際立っていて、音のキレが素晴らしい。何度も言うようだが、とても72歳の人の感性とは思えないのだ。
 "Pull It"は1990年代後半から導入されたエレクトロニクス・ミュージックの系統をひくようなインストゥルメンタルで、"Thugs Club"も語り調のボーカルをジェフのギターが切り裂くような曲だ。
 今になっては、こういう曲はもはやジェフ・ベックしか演奏できないのではないだろうか。後半のボレロ調におけるエフェクティヴなギターは、もはや彼のトレードマークといっていいだろう。
 
 5曲目の"Sacred for the Children"は、デレク&ザ・ドミノスの"Little Wing"をバラード風に仕立て上げたような名曲だ。ジェフ・ベックには“泣きのギター”というフレーズは似合わないのだが、そういえばロッド・スチュワートと共演した"People Get Ready"という曲もあったし、久しぶりに涙腺が緩むような気がした。
 今思い出したけど、ジェフは、"A Day in The Life"をインストゥルメンタルで演奏していたけれど、あれもかなりの叙情性を秘めていて、感動的だった。原曲が良いからジェフのギターも冴えていたけれど、改めて秀逸なテクニックに裏打ちされたエモーショナルなジェフの演奏を堪能した。
 この"Sacred for the Children"という曲も、もしロッド・スチュワートが歌ったなら、"People Get Ready"以上のインパクトとポピュラリティを獲得したのではないだろうか。ジェフの久々の名曲だと思っている。
 
 ジミ・ヘンドリックスを髣髴させるようなイントロが印象的な"Right Now"、50年代のダンス・パーティー中に流されるようなスロー・バラード"Shame"、ファンキーなカッティングがカッコいい"O.I.L."など、佳曲が多いアルバムでもある。
 そういえば、このアルバムは、ニューヨークのエレクトリック・レディランドで録音されている。ジミ・ヘンドリックスの建てたスタジオだ。そういう環境でレコーディングされているので、ジミの幻影が感じられるような曲も収められているのだろう。
 8曲目の"Edna"は続く"The Ballad of the Jersey Wives"の導入曲のようで時間も1分2秒と短い。

 2001年の9月11日のテロ、いわゆる“9・11”でユナイティッド航空93便に搭乗していてテロリストの計画を阻止し、ペンシルヴァニア州郊外に墜落して亡くなった夫たちの妻のことを歌った"The Ballad of the Jersey Wives"は後半のハイライト曲だろう。
 バラードとはいいながらも実際は怒りや嘆きが込められていて、インパクトが強い。それらが乗り移ったかのようにロージーのボーカルとジェフのギターもまた激しい。
 
 ラストの曲"Shrine"は、日本語でいうと“神社”という意味になるが、自分を信じ、ロックン・ロールを信じ、そして他人を信じて生きていける世の中にするために、祈りを捧げ今を生きていこうというメッセージ・ソングだ。穏やかな曲調の中にも力強さを感じさせてくれる。ジェフの新境地なのだろうか。
 ジェフ自身は、どんなスタイルにしたらいいか最も苦労した曲と言っていて、ボブ・ディランのようなギターをどうやって曲に入れ込むかが難しかったようだ。
 
 とにかく、このアルバムは、どこをどう聞いても72歳のミュージシャンのアルバムではない。20歳代後半か30歳代前半の脂ののったミュージシャンのものだ。どうしてこんなアルバムが作れるのだろうか。
 
 彼はヴェジタリアンだが、ポール・マッカートニーもヴェジタリアンだった。ヴェジタリアンは年を取らないのだろうか。Getty621images76055600
 ただ、ジェフはレッド・ゼッペリンやピンク・フロイドで活動するような、いつも同じ演奏を繰り返すことはできないと言っていて、常に自分のやりたいことを自由にやっていきたいと述べている。要するに、わがままで自分のやりたいことをやっているから、いつまでも感性が瑞々しいのだろう。

 だから60年代から70年代はバンドを結成しても、アルバム1、2枚を発表してすぐに解散させてしまったのだろう。もちろんメンバー間の緊張感や軋轢、音楽的な相違などもあったのだろうが、いきなり解散まで行ってしまうところに、ジェフ・ベックの精神性というか、性格的な傾向が反映されているように思えてならない。
 ジェフ・ベックは、今年の11月11日に両国国技館でライヴを行う予定だ。“クラシック・ロック・アワード2016+ライヴ・パフォーマンス”というイベントのためである。

 彼はステージ上ではギターを替えないそうだ。弦が切れた時のスペア用はあるものの、通常は1本のギターで済ませるという。

 今回のレコーディングでも、テレキャスターとストラトキャスター、ブリキ缶のギターの3本しか使用しなかったという。職人肌で自分の意思を貫き通すジェフ・ベックである。彼の音楽のフレッシュネスさの原因は、こんなところにもあるのかもしれない。
 昔は三大ギタリストというのがあったが、今では、一人は過去の遺産で食っているし、もう一人はギターの上手なシンガーになってしまった。残ったジェフ・ベックだけが今もなおロックの可能性を追及しているようだ。


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コメント

 前略、風呂井戸さま。フラッシュバックではなくて、トラックバックありがとうございました。お礼が遅くなりまして申し訳ありません。これからの参考にさせて下さい。

 やはりジェフ・ベックのすごさは現役選手ということでしょうか。年齢は関係ないですね。

投稿: プロフェッサー・ケイ | 2016年10月14日 (金) 22時22分

プロフェッサー・ケイ様
 TBだけで、失礼しました。
 ジェフ・ベックの近年のスタイルでは、彼のギター・テクニックの素晴らしさからか?、むしろミュージックとして聴き入るものと化していたんですが、ここに来て彼のハードなロック展開で、原点回帰したというところで主張を前面に出して嬉しくなりました。・・・・私はこれが、ジェフ・ベックだと言いたいのです。

投稿: 風呂井戸(photofloyd) | 2016年10月15日 (土) 20時46分

 風呂井戸さまへ

 トラックバックのみならず、コメントまで寄せていただいて、ありがとうございました。お互いにジェフ・ベックが現役選手ということで意見が一致したと思っています。

 誰が聞いても72歳の人が出すサウンドとは思えませんね。若い人が聞いたら、ビックリするでしょうね。

投稿: プロフェッサー・ケイ | 2016年10月16日 (日) 18時05分

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