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2016年10月24日 (月)

ジュライ

 一般的に言って、“プログレッシヴ・ロック”というと、キーボードはシンセサイザーやメロトロンを使ったり、超絶テクニックを駆使したギター・ソロがあったりと、それぞれの楽器が個性を発揮しながら、同時に絶妙なアンサンブルを聞かせてくれる音楽を想像してしまう。

 だから時間的に長い曲が多くなるし、曲の特徴によっては、構築美やシンフォニック系、叙情性などがフィーチャーされてくるのだが、“プログレッシヴ”の本来の意味は、“進歩的な、急進的な”というものだろう。

 だから1970年代のプログレッシヴ・ロック全盛期を経験している人にとっては、“プログレッシヴ・ロック”といえば、イエスやピンク・フロイド、ジェネシス、キング・クリムゾンなどを思い浮かべるだろうが、60年代や70年代の同時期を生きていた人にとっては、新奇的な音楽やそれを演奏するバンドなどは、すべて“プログレッシヴ・ロック”や“プログレッシヴ・ロック・バンド”だっただろう。

 今回のバンド、ジュライも21世紀の今から思えば、サイケデリックなブリティッシュ・ロック・バンドなのだが、1968年当時は紛れもなく“プログレッシヴ・ロック”だったに違いない。Julyalanjamestomnewmantonyduhigjonf
 このジュライはマイナーなバンドで、1枚しかアルバムを残していない。それは、1968年に発表された「スーパー・サイケデリック!」というもので、商業的にも成功はしなかった。成功していれば、バンドは長続きしてもう数枚アルバムを発表していただろう。

 このバンドのキー・パーソンは、トム・ニューマンだ。彼の名前を知っている人は、きっとマイク・オールドフィールドのことも知っているに違いない。トムは、マイクの1973年のアルバム「チューブラー・ベルズ」 のエンジニアを担当していたからだ。

 このアルバムには、26種類の楽器の音が複雑に絡み合って、まるで壮大な交響曲のように構成されているが、マイク一人で多重録音を繰り返し、そのオーヴァーダビングの回数は2000回以上になったと言われている。

 マイクは当時のヴァージン・レコードが所有していたマナー・スタジオでレコーディングを行ったのだが、そこでエンジニアとして働いていたのが、トム・ニューマンだった。Maxresdefault
 トムは1943年にイギリスのロンドン郊外ぺリヴェイルで生まれている。今年で73歳になるが、若い時から音楽活動を行っていて、ドリーマーズやトム・キャッツというバンドを結成してライヴ活動を行っていた。

 トム・キャッツは1965年に解散したが、翌年にはスペインにおいてバンドを結成して、活動を始めている。当時はリズム&ブルーズなどを演奏するバンドだったようだ。
 彼らは、マドリッドやバルセロナなど、活動の拠点を移しながらレコーディングも行い、シングル・ヒットも出していたらしい。まさにボヘミアン的というか、ヒッピーというか、いかにも当時の若者らしいライフ・スタイルである。

 ところが、トムはなぜかスペインから帰国し、もう一度イギリスでの音楽活動を始めている。ホームシックに罹ったのか、はたまたスペインで何かトラブルでもあったのか、定かではない。

 ロンドンに戻ったトムは、元トム・キャッツのメンバーだったギタリストのピーター・クックとともに曲つくりをはじめ、今度は当時の流行だったサイケデリックな音楽を目指すようになった。

 間違いなく、ザ・ビートルズの「サージャント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」の影響だろう。このアルバムは1967年の6月に発表されているからだ。

 彼らは、自らのバンドをジュライと名付けた。バンドの結成が7月だったからだ。たぶん1967年の7月だろう。
 彼らは1968年にシングル曲"My Clown"を発表した。サイドBは"Dandelion Seeds"というもので、前者はピーターが、後者はトムが作詞・作曲したものだった。

 これらの曲は、如何にもこの時代の空気を反映したような作風で、3分から4分少々の短い曲の中に、ポップなメロディーとテープ操作にエフェクトの効いたやラーガ・ロックのようなタムタムが施されていて、摩訶不思議な雰囲気に満ちた曲調だった。

 メンバーはトムとピーターの2人に、ドラムスのクリス・ジャクソン、ベース・ギターのアラン・ジェイムズ、もう1人のギタリストのトニー・デューグ、フルート&オルガンのジョン・フィールドの5人だった。

 この5人で先ほどのデビュー・アルバム「スーパー・サイケデリック!」を発表したのだが、シングルもアルバムも両方とも売れなかった。61ivypuwiel_sx466_
 当時は「サージャント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」の影響を受けたアルバムが数多く発表されていて、ジュライのアルバムの独自性というか個性が、ほかのバンドのアルバムと区別がつかなかったからだろう。

 何しろあのローリング・ストーンズでも「サタニック・マジェスティーズ」というパクリのようなアルバムを発表しているし、他にもザ・フーやホリーズ、ゾンビーズ、アメリカでもザ・バーズやフランク・ザッパなども影響を受けたアルバムを発表していた。
 
 「サージャント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」は、プログレッシヴ・ロックそのものの歴史を生み出したアルバムだと言ってもおかしくない記念碑的存在になったし、その後のロックの歴史を塗り替えたアルバムでもあった。

 とにかく、ジュライのアルバムは、有名無名のバンドの同傾向のアルバムの中では埋もれてしまい、ロック史の中では光を放つことはできなかったのである。

 たとえばジュライのアルバムでも"Jolly Mary"のように転調が目立つ曲もあれば、弦楽器等をアレンジした"Hallo to Me"のような曲も収められている。ただ、耳に残るようなキャッチーなメロディは無いし、思わず唸らせるようなアイデアも見られなかった。

 12曲中、トム・ニューマンの手による曲は5曲で、6曲はピーターが、残り1曲はドラムス担当のクリス・ジャクソンが手掛けている。

 ピーター・クックの曲は、どちらかというとポップなメロディーが目立ち、トム・ニューマンの方はSEが使われていたりと、少々手の込んだ技巧的な曲が多いようだ。
 クリス・ジャクソンの曲である"Crying is For Writers"はどちらかというとロック寄りで、途中とエンディングのワウワウ・ペダルを用いたギター・ソロが印象的だった。Julyb
 だからバンド解散後、トムがエンジニアを目指してスタジオで働き始めたのも理解できるように思えた。彼は売れる曲を作るよりも、できた曲をアレンジしたり、プロデュースしたりする方が性に合っていたのだろう。

 ジュライは1969年に解散して、リード・ギターを担当していたトニー・デューグとフルート、キーボード担当だったジョン・フィールドは、ジェイド・ウォーリアーを結成した。

 一方のトムは、マイク・オールドフィールドやハットフィールド&ザ・ノースのアルバムのエンジニアやプロデューサーを務めるかたわら、自分のソロ・アルバムをコンスタントに発表している。

 また、1995年には「ザ・セカンド・オブ・ジュライ」という未発表曲などを収録した編集盤が発表されているが、どこまでメンバーが関与したのかはよくわからない。

 ただ、2009年には元ジュライのメンバーだったトムとピーターに、アラン・ジェイムズとクリス・ジャクソンが加わって、ジュライが再結成され、2013年には「リザレクション」という12曲入りのオリジナル・アルバムが発表されている。

 このアルバムには、トムも2曲提供しているし、バンドは新旧の曲を入り交えてのライヴ活動も行ったようである。今では活動を継続しているかどうかは不明だが、時々は集まってパブなどで演奏しているのかもしれない。

 いずれにしても、当時は“プログレッシヴ”なバンドはたくさんあっただろう。同時に、こういう音楽性を示していた新進気鋭のバンドやそのメンバーの心の中には、成功するしないにかかわらず、時代を切り拓いているという力強い意志があったに違いない。


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コメント

Progressive Rock って、ピンク・フロイドの「原子心母」のアルバム帯に日本にて作られた言葉として登場したという話が有名ですが、いかにもプログレ好きの日本らしいところですね。それを英国でも使われるようになったというから面白い。
 プログレは「音楽スタイル」、「トータル・コンセプト・アルバムとしての評価」、「ロックの社会的位置」、「ロック・アルバム作成の精神」など、多方面からのジャンルとしてなんとなく作り上げられていて、意外に"これだ"と言えないところも面白い。(英国とイタリアでは全く異なる)

 ジュライの話は殆ど知らないところでしたので面白く拝見しました。

投稿: 風呂井戸(photofloyd) | 2016年10月26日 (水) 09時16分

 コメントありがとうございました。サウンド的にはサイケデリックで実験的な音楽でした。しいて言えば、シド・バレット在籍時のピンク・フロイドに近いかもしれません。
 でもピンク・フロイドのように繰り返し聞くかというと、ちょっと微妙です。

 今度は風呂井戸氏のイタリアン・プログレッシヴ・ロック史観をお聞かせ願えればと思っています。自分はその方面には疎いのです。

投稿: プロフェッサー・ケイ | 2016年10月26日 (水) 23時11分

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