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2016年12月12日 (月)

金属恵比須

 今回は日本のプログレッシヴ・ロック・バンドを紹介しようと思う。あるとき、アマゾンでCDを検索していたら、金属恵比須の「ハリガネムシ」というアルバムに遭遇した。

 アルバム・ジャケットを見る限りでは、限りなく怪しくてアンダーグラウンド臭をプンプンさせていたが、ジャケットの中央を見るとロジャー・ディーンまがいのロゴが描かれていたので、これはもう即買いするしかないと思ったのである。51nnuzkv0l_3
 一聴してわかったことは、まぎれもなく日本を代表する、しかも世界にも通用するプログレッシヴ・ロック・バンドだということだった。

 同じ日本にいて、こんな素晴らしいバンドが存在していたとは、何と自分は愚か者なのだろうかと自責の念に駆られたし、同時に、これはすぐにこのブログの数少ない閲覧者に知らせないといけないと思って、紹介した次第である。

 音楽的には、ジェネシスとキング・クリムゾンのいいところ取りだろうか。それにレッド・ゼッペリンやラッシュ的なハード&ヘヴィ的な要素が散りばめられている。70年代ロックを愛する人にとっては、まぎれもなく現代社会に生きるプログレッシヴ・ロックだと憧憬の念をもって受け入れられるに違いない。

 初期のジェネシスのアルバム・ジャケット・デザインを手がけたポール・ホワイトヘッドを想起させるようなデザインが素晴らしい。
 アルバム・タイトルの「ハリガネムシ」をイメージしているのだろうけれど、カマキリに寄生している「ハリガネムシ」はまた、都会の夕暮れに浮かぶ少女にも実は寄生しているのだろう。

 歌詞の中にある“キミはボクの中にいて ボクはキミの中にある”や“ボクはキミの笑顔見て キミはボクをメチャメチャにさせる モウモドレナイ”などをイメージして描かれたと思っている。

 ジャケットも印象的なのだが、メンバー一人一人の演奏テクニックは優れているし、曲構成も複雑、もちろんメロトロンのみならず昔懐かしいフリッパトロニクスまでも使用されているということで、これはもう感涙にむせんでしまうほどだった。

 アルバムは、そのフリッパトロニクスが使用された短いインストゥルメンタル“蟷螂の黄昏”で始まる。フリッパトロニクスとはテープのギター・ループ音にさらにギターを重ねて出すような装置のことらしい。03rovertfripp
 2曲目の“ハリガネムシ”には、うねるようなベース・ラインにミニムーグが宙を舞う。それにエキセントリックなギター・ソロ、ボコーダーを使用したボーカリゼーションなどが特徴だ。基本的にヘヴィ・メタルにキーボードが重ねられていて、ドリーム・シアターかラッシュのような感じだった。

 次の“光の雪”は、これはもうジェネシスの世界観が反映されていて、ハモンド・オルガンやメロトロン、ジェネシスが使用していたプロ・ソロイストまで使われている。
 メロディーや歌詞は日本的情緒にあふれていて、曲調とよく調和されているし、外国の曲の雰囲気をパクったようなところはなく、聞いていて全く違和感はない。

 7分過ぎのギター・ソロはロバート・フリップ風で、叙情性と破壊衝動が共存している。その後を追うかのようなキーボードも見事で、8分40秒過ぎにはジェネシスの"Watcher of the Skies"のフレーズも飛び出してくるなど、エンディングに向かって収束していく様も圧巻である。

 “嵐が丘のむこうに”は、アコースティック・ギターがメインのインストゥルメンタルで1分40秒余りの短い曲。でもメロディー自体は幼い子どものころに見た夕焼け空を思い出させるような印象的なフレーズに満ちていて、なかなかのものである。次の曲“紅葉狩”のプレリュードだろうか。

 “紅葉狩”もまたドラマティックな曲で、文語調の歌詞とそれに合うようなメロディー、途中のフリップ的ギター・ソロとそれを覆うようなメロトロンの壁といった初期のクリムゾン的要素が散りばめられていて、思わず聞き惚れてしまった。

 美狂乱はもろキング・クリムゾンといった感じだったが、この金属恵比須の方は、メタル的要素やオカルティックな歌詞など彼ら流の再解釈がなされていて、それが絶妙なバランスを保っている。

 “イタコ”などはそのいい例で、曲調はベビーメタルのようなアップテンポで破壊性に満ちているが、歌詞はアングラ的で猟奇的で、トータルな意味で和洋折衷的な雰囲気が魅力的なのである。

 ラストの“川”は金属恵比須的バラードだろうか。一歩間違えてしまえば、70年代の四畳半フォーク・ソングになってしまいそうなセンチメンタルな歌詞とメロディーなのだが、バックの演奏がそれをプログレッシヴ・ロックにまで見事に昇華している。

 自分はこのアルバムを車の中で聞き続けているのだが、思わず聞き惚れてしまい何度も事故を起こしかけた。聞けば聞くほど中毒になってしまいそうだ。

 そういえば、昔聞いた新月というバンドに雰囲気が似ていると思った。新月はジェネシス系のバンドだったが、それにメタリックな要素を加えたのが金属恵比須のような気がする。新月の進化形だろうか。

 また、歌の内容は学研の雑誌「ムー」のような感じか、あるいは横溝正史や三津田信三の小説の雰囲気に似ていて、おどろおどろしさや前時代的な土俗性に満ちている。こういうところも好事家には好評だったのだろう。

 彼らのHPを見てみると、今年が結成20周年らしい。といっても20年続けてきたのはギタリストの高木大地ひとりのようで、あとはメンバー・チェンジを繰り返してきたという。1996年にバンド名を金属恵比須に、1998年には金屬惠比須に変えて活動を始めたが、2002年には一旦解散し、翌年には実質再結成して今に至っている。

 今年になって5曲入りミニ・アルバム「阿修羅のごとく」も発表されていて、これもまた冒頭からメロトロンや手数の多いドラミングを聞くことができて、感動してしまうのである。71nhgwndlml_sl1135_
 スタジオ録音曲が2曲で、残りはライヴ録音だった。1曲目の“阿修羅のごとく”は向田邦子の本やそれをドラマ化したテレビ番組からインスパイアされたもののようで、分厚い音の層とそれに負けない女性ボーカルのバランスが素晴らしい。4分40秒程度なのだがもっと長く感じられた。これも金属恵比須的効果なのかもしれない。

 次の“みつしり”は金属恵比須的ヘヴィ・メタルだろう。ドリーム・シアターかラッシュを想起させると書いたが、ギターはロバート・フリップだ。過去の再録曲でもある。

 このアルバムからドラマーが諸石和馬から後藤マスヒロに代わっていて、この後藤氏は和製サイモン・フィリップスかテリー・ボジオだろう。ドラムだけでこれだけ聞かせてくれるミュージシャンはそんなに多くはいないはずだ。

 ちなみに諸石和馬は脱退したわけではなくて、別のバンド(Shiggy Jr.)の活動が忙しくて参加できなかったようである。将来的にはダブル・ドラムスの可能性も残されているようで、今後の展開が楽しみでもある。

 ライヴの1曲目の“真珠郎”は横溝正史の小説から拝借されたもののようで、イントロを聞いたときは、ゼッペリンの“Dazed and Confused”かと思った。

 不気味なバラードだが、ライヴでもきちんとメロトロンを演奏していて、うれしかった。何しろ昔はその日の温度や湿度でピッチが狂い、あまりの使いにくさに庭で燃やしてしまったミュージシャンもいるほどだ。何とかウェイクマンという人だったらしい。 

 続いて“ハリガネムシ”のライヴ曲になるのだが、途中のソロ・パートではメンバー紹介をしていた。そういう展開になる曲なのだろう。

 最後の曲ではボーカルが男性になっていて、たぶんギター担当の高木大地が歌っていると思うのだが、どうだろうか。2001年に発表されたアルバム「箱男」からの抜粋のようで、“破戒”と2曲目のスタジオ曲“みつしり”のメドレー形式になっていた。

 とにかくこういう高水準の曲を聞かされるとライヴも見たくなるもので、ぜひ地方公演を行ってほしいものである。

 こういうバンドがもっともっとメジャーになれば、日本の音楽業界ももっと活性化されるし、CDやDVDも少しは売れるのではないだろうか。それにプログレッシヴ・ロック・ファンも長生きできるというものだ。5621deba8a18b839c7a4321764bb05e8_2
 まだまだ日本のプログレッシヴ・ロック界も捨てたものではないと思った。最後にこの素晴らしいミュージシャンたちを紹介して終わりにしたい。
ギター      …高木大地
キーボード   …宮嶋健一
ベース・ギター …多良洋祐
ボーカル     …稲益宏美
ドラムス     …後藤マスヒロ
           (諸石和馬)


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コメント

 これは知りませんでした(「ハリガネムシ」のジャケはイエスとフロイドですね)。そうですね、近年日本ものから離れっぱなしで・・・・。
 とにかく私のようなものにとっては、「四人囃子」と「美狂乱」でほゞ納得してしまってまして、それ以降何十年と(笑い)日本プログレ探りはしてなかったですね。
 私はジェネシス、イエス寄りよりは、フロイド、クリムゾン寄りに期待してしまうのですが・・・・。日本もこのタイプで市民権を得て欲しいです。

投稿: 風呂井戸(photofloyd) | 2016年12月14日 (水) 20時07分

 コメントありがとうございました。このバンド、もっとメディアに露出すれば、結構売れると思うんです。

 本人たちはどう思っているのかはわからないけれど、夏フェスや地方の小さなクラブ回りを続けていけば、状況が変わると思うのですが…

 日本ではテクニカルなバンドはいると思うのですが、ピンク・フロイドのようなバンドは、なかなかお目にかかれないですね。実験精神と大衆性の止揚は、日本では難しいようです。

投稿: プロフェッサー・ケイ | 2016年12月14日 (水) 22時11分

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