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2017年4月 3日 (月)

ニール・ヤングの新作群

 ニール・ヤング。今年の11月で72歳になる。しかし、70歳を超えてもその創作意欲は尽きないようだ。Ny1

 最近の彼のアルバムを見てみると、いずれも何かに対しての怒りや憤りが原因になっているように見える。まさに現状に反抗するロック・ミュージシャンといったところだろう。

 ロック・ミュージックの原点は、“怒り”であり“抗議”だった。アメリカ南部の黒人の音楽とアングロ・サクソン系の北部の音楽が融合して生まれたもので、だからその音楽の底流には、現状への不満が横たわっている。 

 ニール・ヤングが2015年に発表したアルバム「ザ・モンサント・イヤーズ」には、そんなニールの“怒り”が十分すぎるほど詰まっていた。
 このアルバムは、多国籍企業のモンサント社による遺伝子組み換え事業に対して猛烈にプロテストしている。

 モンサント社は、アメリカのミズーリー州に本部を置いているバイオ企業で、2008年の売上高は約1兆1000億円にものぼり、遺伝子組み換え種の世界シェアは約90%まで及んでいる。日本ではラウンドアップという除草剤が有名だが、あれもこのモンサント社の製品である。

 アメリカや日本では、この遺伝子組換え作物やそれを使用した食品が問題になっているが、2014年にアメリカのヴァーモント州で遺伝子組み換え作物を含んだ食品表示義務の法律が成立し、それに対してモンサント社が表示義務の差し止め訴訟を起こしている。

 これに対してニール・ヤングは、すぐに抗議したし、モンサント社の方針にあの有名なスターバックス・コーヒーが賛意を示すと、今度はスターバックスのボイコットを呼びかけている。(のちに、スターバックスはモンサント社の訴訟には関わっていないと表明した)

 もともとニールは、1985年から経営状態の厳しい小規模農場や農家を応援するために、ファーム・エイドというチャリティー・コンサートを始めていて、その中においても遺伝子組み換え食品には反対意見を表していた。
 だから、ニールが音楽を通して抗議するのも必然というもの。そんな彼が発表したのが、「ザ・モンサント・イヤーズ」だったのである。91tlll5kfil__sl1488_

 全9曲だが、時間にして約51分もあり、全編を通してニールらしいエレクトリック・ギターがフィーチャーされていた。

 1曲目の"A New Day For Love"では、イントロはおとなしいものの、すぐにニールらしいハードなギター・カッティングが聞こえてくるし、途中のグニャグニャしたよくわからないギター・ソロも不変である。ただ、年齢のせいか、幾分おとなしくなったような感じもした。

 次の"Wolf Moon"はアコースティックな曲で、"Harvest"系列の曲だし、"People Want To Hear About Love"はミディアム調のロック・ナンバーに仕上げられている。“みんなが聞きたいのは愛の歌で、自閉症の原因になっている農薬の話などするな”というメッセージが逆説的で、いかにもニールらしい。

 ここまでは序の口で、4曲目の"Big Box"は大企業を皮肉っているし、次の"A Rock Star Bucks A Coffee Shop"は文字通り、大手のコーヒー・ショップ・チェーンのことを歌っている。

 例えば日本では、イオンやモスバーガーのような企業を実名を出して批判するような歌を歌えるだろうか、あるいはそういうミュージシャンがいるかというと、ちょっと考えられない。歌おうとしても、事務所やレコード会社が止めようとするだろう。

 あるいはまた、そのミュージシャンが無名のパンク・ロッカーならライヴでそういうこともあり得るかもしれないが、ある程度、功成り名を遂げたミュージシャンは、間違ってもそんなことはしないだろう。

 それができるのがニール・ヤングであり、それを許容するアメリカの音楽業界もまた素晴らしいと思うのである。

「(前略)
開廷中の最高裁判所が
新しい法律を作った
遺伝子組み換えの種と
特許は致命的な傷がある
最高裁判事の
クラレンス・トーマスは
以前モンサント社のために
働いていた
俺はお前を知らないが
俺は自分がだれかを
知っている
(中略)
私たちはモンサント社
から来ました
組み換え種を所有しています
農家のリストを見せて下さい
自分の立場に固執するなら
大金が必要になりますよ
あなたはどう思いますか」
("Workin' Man"より)
訳:プロフェッサー・ケイ

 この曲から以下、"Rules of Change"、"Monsanto Years"とモンサント社を非難する曲が続く。ノリノリのロック調からミディアム調の曲まで曲調は異なっても、訴えている内容は変わらない。ある意味、偏執的というか執拗でもある。ひょっとしたら、このアルバムはトータル・アルバムなのかもしれない。

 最後の曲"If I don't Know"は穏やかな曲で、安らぎを感じさせてくれた。このアルバムの中では、この曲と"Wolf Moon"だけだろう、バラード・タイプなのは。ただし、この曲も毒を含んでいるけれども…

 ニールの創作意欲は、いま何度目かのピークを迎えているようで、同年にはこのアルバムをフィーチャーした2枚組ライヴ・アルバム「アース」を発表している。

 バンド・メンバーはウィリー・ネルソンの息子たち、ルーカス・ネルソン(ギター、ピアノ)とマイカ・ネルソン(ギター)を中心としたプロミス・オブ・ザ・リングで、「ザ・モンサント・イヤーズ」のレコーディング・メンバーと同じである。

 翌年の2016年には、今度はスリー・ピース・バンドとして37枚目のスタジオ・アルバム「ピース・トレイル」を発表した。51mfsd2llxl
 前作は、時間もある程度かけて丁寧に制作されていたようだったが、このアルバムは急遽作られたようだった。
 またエレクトリックの要素がやや薄められて、アコースティックな感じもあったし、アルバム・ジャケットを見ても分かるように、ラフな感じがする作りだった。

 バンド・メンバーは、ニール以外にはドラマーにジム・ケルトナー、ベーシストはポール・ブシュネルである。ジムは超有名なセッション・ミュージシャンで、60年代から活躍しているし、ニールよりも年上である。
 ポールはアイルランド出身の若手ミュージシャンで、現在はロサンゼルスを中心に活動しているようだ。

 時間的にも38分程度の短いものだったが、先ほどの「アース」のツアー中にもこのアルバムの中の曲、例えば"Peace Trail"、"Show Me"、"Texas Rangers"などが歌われていて、まさに出来立ての新曲ばかりがパッケージされているアルバムだった。

 ただそのせいか、中にはちょっとどうかなという曲も収められていて、昔からのファンは納得はできなかったのではないだろうか。

 "Peace Trail"は5分32秒もあり、21世紀の"Like A Hurricane"だろう。ただボーカルが弱い。というか、前作もそうだったけれども、齢70歳を超えるとなかなか声も出せないようで、中低音は大丈夫なんだけれども、高音域の伸びがない。

 これは加齢や脳腫瘍の治療後の影響からくるものだろうか。でもある意味、仕方のないことだろう。70年代と同じように歌えることの方が不思議だろう。

 アルバムの前半はなかなか良い雰囲気で進んでいく。"Indian Givers"、"Show Me"などは、ジム・ケルトナーのドラミングがダークでジャズっぽくてよい。ところが、5曲目の"Texas Rangers"あたりからちょっとニールらしくない曲が並ぶのだ。

 "Texas Rangers"は、童謡かわらべ歌のようだし、物語形式の"John Oaks"はメロディが単調すぎて面白みに欠ける。8曲目の"My Pledge"もボブ・ディランの曲のように、歌うというよりも語りかけるという感じだった。

 "Glass Accident"は、ほんわかとしたアコースティックな曲で、ホッとしたのだが、最後の曲"My New Robot"の雰囲気はほぼ同じなのだが、ボコーダーを使った声の後、急に曲が終わってしまった。
 これもニールの演出方法なのか、もう少し聞きたいという気持ちを沸き立たせようとしているのかもしれない。81nqlbfquel__sl1208_
 とにかく、ツアーの合間に短期間でレコーディングしたのだろうから、曲によってはバラツキがあるのも仕方ないだろう。
 逆に、ニールの創作意欲を褒め称えた方がいいのかもしれない。この意欲は、新しい恋をしているから生まれてくるのだろう。

 現在、ニールは女優のダリル・ハンナと付き合っているようで、アルバム「ザ・モンサント・イヤーズ」のジャケットにもイラストでふたりそろって描かれていた。
 ミック・ジャガーもそうだけれども、恋をすると、人間は行動的になるのだろう。齢70歳を超えても、これだけのエネルギーがあれば、まだまだニールも安泰かもしれない。


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