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2017年4月10日 (月)

ブックエンズ

 最近のことだが、サイモンとガーファンクルの"America"が聞きたくて、その曲の入っているアルバム「ブックエンズ」を購入した。貧乏なのでブックオフの中古CD棚で探していたら、偶然見つかったのでうれしかった。“捨てる神あれば拾う神あり”である。51nlts26m9l
 自分がロックの道に足を踏み入れた時には、すでにサイモン&ガーファンクルは解散していたので、彼らのことを知ったのは、ラジオから流れてくる彼らのシングル曲を通してだった。当時は、まだ"The Sounds of Silence"や"The Boxer"、"Homeward Bound"などは、よくかけられていたものだ。

 その中でも、この"America"が好きだった。淡々とした曲調ながらも、シンセサイザーを使ったアレンジも印象的だったし、“アメリカを見つけるためにやってきた”という歌詞は、中学生でも何とか理解することができたからだ。
「俺たち恋人になろうぜ
同じ将来を約束し合うんだ
俺の鞄の中にはちょっとした財産もあるし
だから煙草を一箱と
ミセス・ワグナーのパイを買って
アメリカを探すために歩き始めたんだ

 

キャシー、俺は言った、
ピッツバーグでグレイハウンドに乗った時に
ミシガンは俺にとっては夢のようだ
サギノーからヒッチハイクで4日かかって
俺はアメリカを探しに出てきたんだ

 

バスの中で笑いながら
人の顔を見て当てっこをしていた
彼女は言った
ギャバジンのスーツを着ている男はスパイよ
俺は言った
気をつけろよ、
奴の蝶ネクタイは本当はカメラなんだぞ

 

煙草をくれよ、レインコートに1本あったはずだけど
もう1時間前に最後の一本を吸ったわよ
それで俺は景色を見て
彼女は雑誌を読んでいた
月が広い畑の上に上がっていた

 

キャシー、俺は迷っているんだ
俺は彼女が眠っているのを
知っていたけれども
何だか空しくて心が痛むよ
なぜだかわからないけれど
ニュージャージーの高速道路で
クルマを数えながら
俺たちみんなは
アメリカを探しにやってきているんだ」
(訳;プロフェッサー・ケイ)

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 のちに大学生になったときに、太田裕美のベスト・アルバムを生協で購入した。もちろん2割引きだったからだが、その2枚組のアルバムの中に“ひぐらし”という曲があった。作詞は松本 隆、作曲は荒井 由美だった。
「ねぇ私たち恋するのって
鞄ひとつでバスに乗ったの
マクドナルドのハンバーガーと
煙草はイブをポケットに入れ

御殿場までが矢のように過ぎ
緑の匂い胸にしみるわ
昔はカゴで通ったなんて
雪の白富士まるで絵のよう

読んだ漫画をあなたはふせて
内緒の声で耳打ちばなし
スーツを着ているあいつを見ろよ
三億円に似てないかって

最後に吸った煙草を消して
空の銀紙くしゃくしゃにした

窓に頬寄せ景色を見てると
時の流れを漂うようね

ガラスに映るあなたの寝顔
私はふっとため息ついた
生きている事が虚しいなんて
指先見つめ考えてたの

日暮れる頃に京都に着くわ
それは涯ない日暮らしの旅
あなたと二人季節の中を
愛はどこまで流れてゆくの」

 まさに"America"の中で描かれている世界観である。“ひぐらし”ではなくて、"Japan"というタイトルにすればよかったのではないだろうか。
 ただし、この歌は女性の視点で語られており、歌詞の中の2人はお互いのことだけで完結していて、自分(たち)探しの旅と外の風景とは、そんなに深い関連はなさそうだ。

 その点、ポール・サイモンの世界では、自分たちの生き方や人生をアメリカを探す旅と結び付けて、比喩的にまとめている。
 だからポール・サイモンの詩の方が優れているとはこれっぽっちも思っていないのだが、"America"というタイトルに象徴させている、もしくは収斂させているところは、さすがポール・サイモンだと感心してしまった。

 それはともかく、"America"という曲の影響力がここまで及んでいることを知って驚いた記憶がある。やはり、サイモンとガーファンクルの人気や影響力は計り知れないものがあったのだ。

 これも昔の話になるのだが、「ミュージック・ライフ」という雑誌の中で、音楽評論家や音楽雑誌編集者による企画もの「私の好きなアルバムベスト10」というものを、目にしたことがあった。

 その中に「ブックエンズ」があった。なぜ「ブックエンズ」が選ばれて、「明日に架ける橋」ではないのか、その理由が分からなかった。
 それでいつかは「ブックエンズ」を通して聞こうと思っていたのだが、主な曲はほとんど知っていたので、手を出すのをためらっていた。そうこうしている間に、長い長い時間が過ぎて行ったのである。  710csaqtjl__sl1144__2
 話を元に戻すと、アルバム「ブックエンズ」は1968年に発表された。彼らの4枚目のスタジオ・アルバムだった。よく考えたら、ビートルズやストーンズと違って、彼らはそんなにスタジオ・アルバムを出していなかったことに気がついた。

 1964年から1970年までに、5枚しか発表していないのだから、当時としては珍しかったのではないだろうか。60年代の売れっ子バンドやミュージシャンは、年に2枚アルバムを発表するのは当たり前だったのだから。
 レーベルやレコード会社側は、人気のあるうちに、アルバムを売り切ってしまおうという魂胆があったのだろう。

 サイモンとガーファンクルは、そんなにアルバムを発表してはいなかった。ただし、シングルは結構出している。売れ始めた1966年に4枚、67年には3枚出していた。シングル主体の活動だったのだろうか。

 よく言われるように、「ブックエンズ」はトータル・アルバムだった。といっても中途半端なトータル・アルバムである。もともとは当時のレコードのサイドAとサイドBを使ってトータル・アルバムを作る予定だったらしい。テーマは「アメリカ人の生活や人生」で、それを音楽で表すものだった。

 ところがレコード会社の横やりが入ったのか、前半の7曲だけで終わってしまい、残りの5曲は既発のヒット曲が中心になった。要するに、半分はトータル・アルバムで、残りの半分は66年~67年当時のベスト・ヒット・アルバムということだろう。

 これが全曲組曲形式のトータル・アルバムだったら、もっと素晴らしくなっていただろう。ひょっとしたら次作の「明日に架ける橋」を超えるミリオン・セラーになっていたかもしれない。それほど前半の出来はなかなかのものだった。

 「ブックエンズ」というタイトルが示すように、"Bookends Theme"のインストゥルメンタル曲と歌詞入りで挟まれている。
 30秒ほどのインストゥルメンタルのあと、"Save the Life of My Child"が始まるのだが、これがまたサイモンとガーファンクルの曲とは思えない程、サイケデリックでハードな曲調だった。

 しかもシンセサイザーなるものも使用されているようで、当時の状況としては、最先端の音楽機器を使用していたのではないだろうか。
 彼らはフォーク・デュオとしてギター1本でデビューしたのだが、次第にその色どりを増やしていき音楽的な完成度を高めていったのである。

 これもビートルズのサージャント・ペパーズの影響かもしれない。あのアルバムのおかげで、ストーンズやザ・フーなどのイギリス勢を始め、ザ・ビーチ・ボーイズやルー・リードなどのアメリカ勢もインパクトを受けていたが、サイモンとガーファンクルもその例に漏れないようだ。

 続けて"America"が始まるのだが、"Kathy, I'm lost," I said, Though I knew she was sleeping, "I'm empty, and aching and I don't know why"というくだりには何度も感動してしまう。この辺は、のちに言われた“モラトリアム症候群”や“アイディンティティ(自己同一性)の危機”にも相当するところであり、今も昔も変わらない若者意識を表現している。詩人としても評価の高いポール・サイモンならではの言い方だろう。

 若者の次は中年の夫婦の会話だろうか。しかも別れを強く意識した様子である。ギター1本の音楽と歌詞の世界とがうまくマッチしている。
 "Overs"というのは、ゲーム・オーヴァーの"over"を表しているのだろうし、同時に、「考え直す」という意味の"think it over"の"over"も兼ねている。だから"Overs"という複数形になっているのだろう。

 実際の老人の会話を集めた"Voices of Old People"から"Old Friends"になるのだが、ストリングス等が使用されている"Old Friends"は本当に美しい曲だ。

 もちろんこの"Old Friends"はサイモンとガーファンクルの未来像を表していたのだろう。そして、ひっそりとベンチに座っている2人の友人の姿が"Bookends"のように見えるのだろう。Img_1_m_2
 ということは、本物のブックエンドのように2人の間には隙間があったはずだ。サイモンとガーファンクル自身も自分たちのすれ違いを意識していたに違いない。

 だからこのアルバムは、単なるアメリカ人たちの人間模様や人生だけを描いたものではなくて、彼ら2人の現状認識やこれからの姿をも描こうとしていたのだろう。
 アメリカを探そうとしていたのは、恋人同士だけではなくて、本当はサイモンとガーファンクルの2人だったのである。

 何となくビートルズの末期におけるジョンとポールのような関係だ。ポールもジョンに対して"Get Back"と歌っていたし、一流のミュージシャン同士には、目には見えない微妙な関係が流れているようだ。

 オリジナルのアルバムでは、たった29分13秒という中途半端で短いものだったが、描かれている内容は、こんなつまらないブログでは尽きせぬほどの深いものが秘められていた。

 「ブックエンズ」がサイモンとガーファンクルのベストアルバムとして選ばれるのも、当たり前のことなのかもしれない。


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