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2017年7月10日 (月)

スティーヴィー・レイ・ヴォーン(1)

 ギタリストの中には、自分の名前を頭文字で表す人が何人かいるようで、B.B.キングを始め、E.C.はエリック・クラプトン、J.B.はジェフ・ベックのことを表している。そんなアルファベットがギターケース上に書かれているのを、見た人もいるのではないだろうか。

 それでS.R.V.とくれば、もうお分かりだと思うけれど、今回のお題であるスティーヴィー・レイ・ヴォーンのことを意味している。ミドルネームも含んでいるので、長い名前をわかりやすく表示するのには、確かに適しているだろう。ここでもS.R.V.と表示しようと思う。(S.V.ならスティーヴ・ヴァイになってしまう!)Mi0001399374
 S.R.V.の存在が世間で知られるようになったのは、よく言われているように、デヴィッド・ボウイの1983年のアルバム「レッツ・ダンス」に参加して、そのギターの演奏が素晴らしかったからだ。

 もちろん、これは偶然の出来事ではなくて、デヴィッド・ボウイから声を掛けられたからだが、それに至るまでにいくつかの運命的な出来事がS.R.V.を待ち受けていたのである。

 1982年の4月23日に、S.R.V.と彼のバック・バンドだったダブル・トラブルは、ニューヨークのダンステリア・クラブで演奏をしていた。理由は、ローリング・ストーンズのツアー・サポートを決めるオーディションに参加していたからであった。

 彼らの演奏を最前列で見ていたロン・ウッドは、立ち上がってこう言ったという。“一緒にジャム・セッションをしよう”

 残念ながら、ストーンズのツアーには同行しなかったようだが、3ヶ月後にはスイスのモントルー・ジャズ・フェスティバルという伝統的なライヴで演奏をしていた。
 これはR&Bなどのプロデューサーだったジェリー・ウェクスラーの尽力によるところが大きい。

 ジェリーは、まだ無名だったころのS.R.V.のライヴ演奏をテキサスのオースティンで見て以来、彼らのファンになっていた。
 それで、レコーディング契約もない彼らをモントルー・ジャズ・フェスティバルのプロモーターに紹介して、何とか出演させてもらえるように頼んだのである。

 そして、そのフェスティバルに見に来ていたのが、デヴィッド・ボウイというわけだった。彼はステージ終了とともに、彼らのバック・ステージを訪れ、ブルーズのレコードやギターなどについて話し込んだ。
 S.R.V.のことをすっかり気に入ったボウイは、自分のアルバムのレコーディングに彼を招いたのであった。

 また、このときのモントルー・ジャズ・フェスティバルで、彼らの演奏を見ていた人は他にもいた。プロデューサーで自らもミュージシャンだったジョン・ハモンドである。

 ジョンは、有名なプロデューサーであり、彼によって見いだされ、世の中に紹介されたミュージシャンは数知れない。例えば、古くはビリー・ホリデーにカウント・ベイシー、ピート・シーガー、中期ではアレサ・フランクリンやボブ・ディランにジョージ・ベンソン、後期ではレナード・コーエンでありブルース・スプリングスティーン、そしてスティーヴィー・レイ・ヴォーンである。

 ジョン・ハモンドは、彼らのために1982年の11月から、ジャクソン・ブラウン所有のスタジオでレコーディングが行われるように取り図ってくれたのだ。
 そして、ジャクソン・ブラウン自身もスタジオだけでなく、必要なレコーディングの機材を揃えてやり、彼らをサポートした。

 そうして世に出たアルバムが、彼らのデビュー作である「テキサス・フラッド~ブルースの洪水~」だった。ニューヨークでのストーンズのオーディションから1年もたたないうちに彼らはレコード・デビューし、世界的に認められるようになったのである。61rie3zeil
 このアルバムは、彼らのライヴ演奏の雰囲気を活かすために、2日間で録音されている。ほとんどオーヴァー・ダビングも行われず、“一発録り”に近いものだった。
 だから、S.R.V.の豪放なギターやバックの荒々しいリズム・セクションが丸ごと収められていて、レコードの溝から飛び出してくるようなサウンドが響き渡っている。

 全10曲だが、オリジナルはそのうち6曲、残りはバディ・ガイの1967年の"Mary Had A Little Lamb"、ラリー・ディヴィスの"Texas Flood"、チェスター・バーネットの"Tell Me"、そして1964年にアイズレー・ブラザーズが発表した"Testify"だった。

 基本はブルーズなのだが、ロック・ミュージックとしても十分機能するほど、カッコいい。冒頭の"Love Struck Baby"や次の"Pride And Joy"などは2分や3分少々の曲なのだが、とても密度が濃くて、そんなに短くは感じられない。

 また、インストゥルメンタル曲の"Testify"などは、これぞまさにギターのお手本というような感じだ。キレのあるカッティングと滑走するようなフレージングは、ギター・キッズのお手本とするところだろう。

 インストゥルメンタル曲は他にもあって、"Rude Mood"は素早いシャッフル調の曲で、モントルー・ジャズ・フェスティバルでも紹介された。逆に"Lenny"は自由にゆったりと演奏されている。ジャズっぽい雰囲気を持つ一方で、ジミ・ヘンドリックスのような即興性もあわせ持っていて、ライヴでもしばしば演奏されていた。

 タイトルの"Lenny"は、当時のスティーヴィー・レイ・ヴォーンの奥さんだったレノーラから取られていて、彼は自分の愛用するギターにも同じ愛称をつけていた。

 このアルバムを制作する前に、S.R.V.はデヴィッド・ボウイの“シリアス・ムーンライト・ツアー”の参加を断っていて、自分のバンド、ダブル・トラブルとの活動に取り組んでいた。それだけ自分たちの活動を重視していたのだろう。

 スティーヴィー・レイ・ヴォーン&ダブル・トラブルは、アルバム発表後、アメリカやヨーロッパでのツアーを開始した。「テキサス・フラッド~ブルースの洪水~」は、ビルボードのアルバム・チャートで38位まで上昇し、ゴールド・ディスクを獲得している。

 彼らのセカンド・アルバムは、翌年の1984年に発表された。オリジナル盤は全8曲、約38分だった。当時のレコードは最大50分程度は録音できたから、これはやはり短い部類に入るだろう。

 このアルバムでも無駄な装飾をはぎ落した、スリムでスリリングな彼らの演奏を味わうことができる。今回もライヴ感を大切にしていて、ニューヨークのパワー・ステーション・スタジオにおいて、わずか19日間でレコーディングされていた。61k9yi3t6tl

 1曲目の"Scuttle Buttin'"は、S.R.V.によるオリジナルのインストゥルメンタル曲。最初聞いたときは、1分51秒という時間の中に、よくぞこれだけのテクニックやリズム感、リフのカッコよさなどを詰め込んだなという感じがした。まさに弾きまくっているという感じで、これならロック・ファンでも十分満足するに違いない。

 2曲目の"Couldn't Stand the Weather"と次の"The Things (That) I Used to Do"では、3歳年上の兄であるジミー・ヴォーンがリズム・ギターで参加している。
 この曲も中盤のギター・ソロが印象的だし、S.R.V.のよいところは、ギターのカッティングもソロも両方とも超一流という点だろう。MTVで、豪雨の中ギターを弾き続けていたスティーヴィー・レイ・ヴォーンのビデオ・クリップを思い出してしまった。

 もともとS.R.V.は、兄の影響で音楽を聞き始め、楽器を手にした。楽器を演奏してからはブルーズだが、その前はジミ・ヘンドリックスやエリック・クラプトン、ジェフ・ベックなどの音楽を聞いていたという。

 特に、ジミ・ヘンドリックスからの影響は強いようで、このアルバムでも"Voodoo Chile"をカバーしていた。しかもオリジナルに近い形での演奏だったから、ジミ・ヘン・ファンも感動するだろう。

 このアルバムでのカバー曲は4曲で、先ほどのジミ・ヘンの曲に、エディ・ジョーンズ(ギター・スリム)の1953年の曲"The Things (That) I Used to Do"、地元オースティンのブルーズ・ミュージシャンによって書かれた"Cold Shot"、シカゴのブルーズ・ギタリストのジミー・リードの曲"Tin Pan Alley"だ。

 特に、"Tin Pan Alley"は、スロー・ブルーズで、渋い演奏を堪能することができる。1曲目の"Scuttle Buttin'"とは対照的で9分11秒もあり、ときどき70年代のクラプトンの曲のように感じてしまった。今のクラプトンもこれくらいは弾いてほしいのだが、すっかり丸くなってしまったのでもう無理だろう。

 そしてこのアルバムでも、ジャズ・フレイバー溢れる"Stang's Swang"という曲が最後に置かれていて、途中のギターとサックスの掛け合いというかコール・アンド・レスポンスが見事であった。

 スティーヴィー・レイ・ヴォーンの魅力は、ブルーズのみならず、ロックやジャズまでも幅広く吸収し、消化して、その再解釈を提示してくれるところだろう。しかもそれが高度なテクニックに裏打ちされているのだから、非の打ち所がない。48070450b93b15ec040ec2ef4bd3f338

 結局、このアルバムも広く受け入れられ、ビルボードのチャートでは31位まで上がり、2作続けてゴールド・ディスクを獲得した。また、カナダやニュージーランドでもこのアルバムは、プラチナ・ディスクを獲得している。

 ブルーズとロックというジャンルの違いはあっても、エドワード・ヴァン・ヘイレン以来のギターのニュー・ヒーローが世界的にも認められていったのである。(To Be Continued...)


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