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2017年8月21日 (月)

トッド・ラングレンの新作

 トッド・ラングレンの新作が発表されて、約3か月経った。このアルバムのタイトルは、「ホワイト・ナイト」という。“ナイト”は“夜”という意味ではなくて、“騎士”の方の“ナイト”である。

 だから、“白馬の騎士”という意味なのだが、どういう意図でこういうタイトルになったのかはよくわからない。
 経済界では、“ホワイト・ナイト”というと、敵対的買収を仕掛けられた企業を救うような役割をする人や会社を指すが、このアルバムではトッドを支援しようとする意味で、多くのミュージシャンが参加していた。そういう意味では、確かに“ホワイト・ナイト”がいっぱいいるようだ。

 全15曲(国内盤では16曲)が収められていて、3曲以外は、誰かをフィーチャーしていたり、誰かと一緒に演奏や楽曲をコラボしている。だから、トッドの才能と他のミュージシャンとの才能がぶつかることで、化学反応が引き起こされて、印象的な楽曲が生まれて来るのであろう。41vohqxrw5l
 また、このアルバムは、トッドにとっては26枚目のソロ・スタジオ・アルバムにあたる。前作や前々作がEDM、いわゆるエレクトリック・ダンス・ミュージックが主体のアルバムだったのに対して、このアルバムにはトッド本来のポップな要素やソウル色が目立っている。
 だから、旧来のトッド・ファンにとっては、曲によっては“待ってました”と言えるようなアルバムに仕上げられている(と思う)。

 もう少し正確に言うと、全体的には、確かにポップでソウルなフィーリングが流れているのだが、部分的には前作までの流れを反映した曲も含まれていて、そういう意味では、バラエティに富んでいると言った方が正確かもしれない。

 1曲目の"Come"はトッドのオリジナル曲で、他のミュージシャンは関わっていない。アルバムのオープニングを飾るにふさわしい荘厳なミディアム・テンポの曲。シンセサイザー等を含む多彩なキーボードがカラフルな色どりを添えている。

 次の"I Got Your Back"にはディム・ファンクという人と、KK・ワトソンという人が関わっている。前者はDJ兼ラップ・ミュージシャンで、スヌープ・ドッグともコラボの経験があるらしい。ただ、自分はこのジャンルには詳しくないので、これ以上のことはわからない。
 後者のKK・ワトソンはハワイ在住のミュージシャンのようで、普段の生活面でもトッドと交流があるようだ。

 3曲目の"Chance For Us"には“フィーチャリング・ダリル・ホール・ウィズ・ボビー・ストリックランド”と記載されていた。ダリル・ホールは、かの有名な“ホール&オーツ”の片割れだし、もう一人のボビー・ストリックランドとは80年代からのトッドと共演してきたサックス奏者のようだ。曲自体もスローなエレクトリック・ソウル・ミュージックに仕上げられていた。

 次の"Fiction"はトッド一人で作った曲で、近年の彼の音楽を形作ったEDM系の曲。どうしてトッドほどの才能のある人が、こういうダンス・ミュージックに走るのかよくわからない。確かに今のポップ・ミュージック界の主流の音楽の1つには違いないが、どの曲も同じように聞こえてくるので、個人的にはあまり興味を持てないのである。

 "Beginning (of the End)"にはジョン・ブッテという人がフィーチャーされていて、曲のほとんどすべてを歌っている。一聴すると女性のようにキーが高いのだが、58歳の男性である。ニューオーリンズ出身ののジャズ・シンガーのようで、シルクかベルベットの肌触りのような声が非常に魅力的だった。トッドのお眼鏡に叶ったのだろう。

 "Tin Foil Hat"には、ドナルド・フェイゲンが参加していて、クールでジャジーな音世界を現出させている。聞いただけではスティーリー・ダンの曲だと言われても分からないだろう。
 それにトッドの好きなソウル・ミュージックのスパイスもふりかけられているので、他のミュージシャンのアルバムでは聞くことのできないような絶妙な雰囲気を醸し出している。

 "Look at Me"は、完全なEDMで、架空のライヴ空間の中でエレクトリックなビートとともに、たっぷりとトッドが歌いまくっている。この曲にはマイケル・ホルマンという人がフィーチャーされているが、日本ではあまり知られていないのではないか。1970年代の終わりからニューヨークを中心に活動をしていたグレイというバンドのメンバーでもあった。

 一転して70年代のトッドに戻ったような曲が8曲目の"Let's Do This"で、こういうポップな曲をもっと入れてほしかった。
 この曲にはカナダのバンドのパースート・オブ・ハピネスのメンバーであるモー・バーグという人が関わっている。この人はトロント周辺で活躍しているミュージシャンで、このバンドのアルバムをトッドがプロデュースしたことから親交が始まったらしい。トッドお気に入りの58歳のミュージシャンである。51b5c048ce0aaa915be3d669f69ffbe8
 次の"Sleep"という曲もメロディアスな佳曲で、ここでギターを弾いているのはイーグルスやジェイムズ・ギャングで活躍したジョー・ウォルシュである。
 曲のメロディやコード進行がユニークで、まさにポップ・ミュージックのマエストロといわれる所以が伺えるようだ。

 珍しく女性シンガーがフィーチャーされているのが"That Could Have Been Me"で、ここで歌っているのはスウェーデン出身のロビンという人だ。
 今年で38歳になった彼女だが、10代の頃から活躍しており、ここではスローなバラードをチャーミングな声で歌っている。

 トッドとナイン・インチ・ネイルズの組合せはユニークだ。トッド流のEDMがインダストリアルで無機質なダンス・ミュージックに変化したのも、ナイン・インチ・ネイルズのリーダーのトレント・レズナーと昨年加入したアッティカス・ロスの影響だろう。ただし曲自体は2分58秒とそんなに長くはなかった。"Deaf Ears"というタイトルが、何やらシンボリックでもある。

 12曲目"Naked & Afraid"にはベテラン・ソウル・シンガーのベティ・ラヴェットが参加していて、これがまたソウル風EDMになっている。何でも吸収し、融合してしまう貪欲なトッドだが、そういう彼の姿勢が新たな音楽的潮流を生み出していくのだろう。

 ちなみに、ベティは今年71歳になるミシガン州出身のアフリカ系アメリカ人女性だが、そういう年齢の高い人が流行りの音楽に乗って歌うところが興味深い。ライヴで見てみたい気がする。

 13曲目の"Buy My T"は、プリンス風のファンキーな曲。タイトルの"Buy My T"とは“俺のTシャツを買え”という意味のようで、特に深い意味はない。こういう曲にこそブーツィー・コリンズやスタンリー・クラークなどを呼んでほしかった。

 "Wouldn't You Like to Know"には、息子のリバップ・ラングレンが参加している。リバップがどのような役割を果たしているのかはわからない。ギターやバック・コーラスなどに加わっているのではないだろうか。

 そして15曲目の"This Is Not A Drill"はアルバム最後を飾るにふさわしいスピーディーでギンギンのハード・ロック・ナンバーだ。
 何しろドラマーが元チューブスのプレイリー・プリンス、ベーシストは元ユートピアで今でも交流のあるカシム・サルトン、そしてギターを弾いているのはジョー・サトリアーニである。このメンツを見ただけで興奮、鳥肌ものだろう。

 しかもバックにはストリングスを用いていやがうえにも盛り上げようとしているから、オープニングからエンディングまで緊張感漂いっぱなしなのである。
 ただ惜しむらくは、3分17秒という時間の短さだろうか。もう少し膨らませて5分ぐらいにしてほしかった。

 このアルバムには15曲も収録されているせいか、1曲当たりの時間が短いのだ。4分を超える曲は2曲しかないし("Come"と"Chance For Us")、ほとんど3分台、2分台も2曲ある("Sleep"と"Deaf Ears")。

 だから、個人的にはEDM系の曲は短くても構わないので、それ以外の曲はもう少し長くしてほしかったと思っている。アルバム自体も約52分少々しかないので、せめて70分前後にまとめてほしかった。3
 それでも以前よりはポップ、ロック、ソウル寄りになっているところが、ファンにとってはうれしい。
 商業的には決して成功したとは言えないけれども、69歳になってもまだ旺盛な創作意欲を見せてくれるところも素晴らしいと思う。

 過去に名をはせた多くのミュージシャンたちが過去のアルバムの再録とか、過去のヒット曲しか演奏しない中で、トッドは意欲的に新しいトレンドや楽曲に挑戦している。
 また、今作のように他のミュージシャンたちと積極的にコラボレーションしている。こういう姿勢がまさにロックだと思うのだが、他の人はどう思うのだろうか。


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コメント

お久しぶりです!相変わらず適格な批評はさすがだな、と。さすがにトッドも老境に入り、枯れてきたのかなと感じます。近頃はライブへ行く事が多く、あまりCD は聞かない為、これもまだ、1回しかきいてないんですよ。以前のロック、ソウル寄りに回帰しているのは確かですが、どうも今一つ吸引力に欠けるんですよね。まだまだ頑張ってほしいです。

投稿: 川崎の晴れ豚 | 2017年8月21日 (月) 06時08分

 コメントありがとうございます。川崎さんのおっしゃり通りですよね。黄金期のトッドを知っている人にとっては、原点回帰してきたといっても、まだまだ不十分。もっと実力を発揮してほしいと願っています。

 ただ何故、トッドがEDMのような流行に走ったのかについては、彼なりの考えがあるようですが、そんなに時代を意識しなくてもエヴァーグリーンのポップネスを持っているのですから、ファンとしてもそちらの方を期待したとしても間違ってはいないはずです。

 ともかく、以前に比べれば、少しは彼なりの良さが発揮された今回のアルバムでした。次回作が今後の彼を占う試金石になると思っています。楽しみに待つことにします。

投稿: プロフェッサー・ケイ | 2017年8月23日 (水) 00時30分

まったくですねー!
ところで、マリリオンが10月に地元川崎チッタに出演するとの事。それなら予約しようかな?とよく見たらなんとチケット代が12000円!!とても行けませーん。よほどファンじゃないと行かないでしょうね。

投稿: 川崎の晴れ豚 | 2017年8月23日 (水) 22時46分

 いつからマリリオンは、日本ではそんなビッグ・ネームなバンドになったのでしょうか。確かに歴史は長いですけれども…

 12000円ならジョン・アンダーソン、トレヴァー・ラビン&リック・ウェイクマンと同じ値段ですね。
 一概には比べられませんが、マリリオンはまだまだ年齢的には何回も来日できると思うので、もう少し何とかなってもいいような気もします。

 これも円安誘導で、外国人や観光客を誘おうとする日本政府の陰謀かもしれません。

投稿: プロフェッサー・ケイ | 2017年8月23日 (水) 23時31分

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