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2017年8月28日 (月)

バンケット

 今年の夏によく聞いたアルバムの1枚を綴ろうと思った。昔でいうところのスーパー・バンドである。
 スーパー・バンドといえば、古くはクリームやジェフ・ベック・グループ、プログレ界ではE,L&Pやエイジア、アメリカン・ロックではC,S,N&Yやトラヴェリング・ウィルベリーズなどが思い浮かぶ。いわゆる、有名ミュージシャンが集まって結成されたバンドだ。

 ただ、それぞれがそれなりに功を遂げ名を成しているミュージシャンたちばかりだから、エゴも強い。バンド自体も長くは続かなくて、頻繁なメンバー・チェンジが起こったり、短期間で解散したりしてしまう。自己主張が高まったり、自分の才能や能力が十分に発揮されないと思ってしまうのではないだろうか。

 それで今回は、バンケットというスーパー・バンドの登場である。ただ残念なのは、そんなにメジャーなミュージシャンではないというところだろうか。
 とりあえず、どんな人たちが集まってきたか以下に記すことにする。全員知っていたら、本当に素晴らしいと思う。ロック検定1級合格は間違いないはずだ。まだ行われているかどうかは知らないけれど…Bnqt_kristenriffert05s

・エリック・プリード(G&Vo)、マッケンジー・スミス(Dr)、ジョーイ・マクラレン(G)、ジェシー・チャンドラー(Key) 以上、ミッドレイクより
・ジェイソン・ライトル(G&Vo&Key) グランダディより
・ベン・ブライドウェル(Vo&G) バンド・オブ・ホーセズより
・アレックス・カプラノス(Vo&G) フランツ・フェルディナンドより
・フラン・ヒーリィ(Vo&G) トラヴィスより

 ということで、ミッドレイクというバンドを中心にして、計5つの英米のバンドの中心メンバーが集まったバンドが、このバンケットなのである。
 バンド名を見ればわかるけれど、スーパー・バンドという名称の前に、“マイナー”とか“アンノウン”とかいう形容詞がつくような気がする。

 実際、アルバムのキャッチ・コピーにおいても“インディ・ロックのスーパー・グループ”という言葉が使われていたから、欧米諸国の人たちにとってもそんなにメジャーにはなっていないような気がする。 

 この5つのバンドの中で、比較的有名なのは、イギリス勢のフランツ・フェルディナンドとトラヴィスではないだろうか。前者は踊れるロック・バンドであり、後者は美メロのバンドである。両者ともスコットランドのグラスゴー出身だ。

 残りの3つのバンドは、いずれもアメリカのバンドである。ミッドレイクは、テキサスで1999年に結成されている。グランダディは、1992年にカリフォルニアで結成されたが、一旦解散して、また再結成された。
 この2つのバンドについては知っていたけれども、バンド・オブ・ホーセズに至っては、ノーマークだった。2004年にシアトルで結成されていて、米国よりも北欧の方で人気が高いようだ。

 自分が持っているCDの中であるのは、ミッドレイクとトラヴィスだけである。バンド・オブ・ホーセズに至っては、まったく知らなかった。まだまだ無知だと反省しなければならない。学ぶべきことは多いようだ。

 ミッドレイクのエリックが中心となって、他のメンバーに声をかけたそうである。だから、基本的にはミッドレイクがバック・バンドになって、5人のボーカリストが交互にリードを取っている感じである。

 エリック・プリードは、インタビューに次のように応えている。“このバンドは、トラヴェリング・ウィルベリーズの貧乏人バージョンだよ。もともとは2013年頃、ツアーをしていてふと思いついたんだ。憧れのミュージシャンや仲の良い人たちと一緒に仕事ができるってクールな体験だと思ったんだ”Photofrombnqttwitter

 それでエリックは、グランダディのジェイソンに声をかけて快諾を得た。エリックもジェイソンもお互いの音楽にリスペクトを払っていたらしい。
 次に、エリックはベンに呼び掛けた。ベンの方がミッドレイクに影響を受けた音楽をやっていて、ベンの方もかねてからミッドレイクとの共演を望んでいたという。

 アメリカ関係のバンドは、以上で出揃った。次はイギリス勢である。トラヴィスは美メロ中心のソフト・ロックに近いバンドだったから、ミッドレイクと結びついてもおかしくなかったが、フランツ・フェルディナンドに関しては音楽的方向性が少し違うような感じがした。

 詳細は不明だが、エリックはまたフランツのような音楽も個人的には好きだったようだ。だから声をかけたのだろう。また、フランツのような踊れる音楽もミッドレイクのようなフォーキーでサイケデリックなポップ・ミュージックと融合すれば、化学変化を起こしてさらに良質な音楽が生まれてくるだろうと思ったのかもしれない。

 いずれにしても今はネットの時代。基本的な楽曲はミッドレイクが用意したようだし、それらをネット上でやり取りをしながら磨きをかけ、より良いものにしてレコーディングしていったという。距離は遠く離れていても、ネット上では瞬時のやり取りで終わる。世の中便利になったものだ。

 それで出来上がったアルバムが「ヴォリューム1」という傑作だった。先のエリックのインタビューを見ても分かるように、トラヴェリング・ウィルベリーズをもろに意識している。
 全10曲で、リード・シングルの"Real Love"以外の曲は、5人のボーカリストが交互に歌っている。"Real Love"ではエリックとベン、アレックスが歌ったり、コーラスをつけたりしていた。61iw2w70qzl
 アルバムは"Restart"という曲から始まる。なぜ“再出発”というタイトルになるのかよくわからないのだが、今までの生き方を見直して、自分らしく生きていこうという決意溢れる曲だった。
 曲調からして、まさにトラヴェリング・ウィルベリーズのようなのだが、これにちょっとしたシンセサイザーの音がかぶさっているので、そういう意味ではフランツ・フェルディナンドの影響も受けている。

 イントロのピアノの音がまるでニッキー・ホプキンスの演奏のように聞こえてくる"Unlikely Force"は、ホーンも加えられて、ポップでさわやかな感じがする。リード・ボーカルは、バンド・オブ・ホーセズのベンらしい。

 次の"100 Million Miles"は本当にドリィーミーな曲で、ストリングスの使い方がまるでポール・マッカトニーのようだった。この曲を歌っているのはグランダディのジェイソン・ライトとのことである。

 4曲目の"Mind Of Man"では、トラヴィスのフラン・ヒーリィが歌っていて、まるでトラヴィスの曲といってもおかしくはないほどのメロディアスな曲になっている。もっと長く歌ってほしいと感じた。

 このアルバムの特徴は、美しいメロディに絡み合うストリングスやシンセサイザーだろう。例えば、フランツ・フェルディナンドのアレックス・カプラノスが歌う"Hey Banana"でもその効果が表れているし、途中で映画のセリフも流れてきて、怪しい雰囲気をより一層高めている。しかもダンサンブルというところが、いかにもアレックスが歌うのに似合っている。

 ちなみに映画は、1974年の「A Woman Under the Influence」というもので、邦題は「こわれゆく女」と名付けられていた。ピーター・フォークやジーナ・ローランズなどが主演している。

 シングルカットされた"Real Love"は、まさにトラヴェリング・ウィルベリーズのパクリである。それだけ愛着が深いというか、憧れの存在なのだろう。高音のピッコロや途中のギターやキーボードのソロが印象的だった。

 "Failing at Feeling"では、シンプルなピアノをバックにジェイソンが切々と歌っていて、途中にストリングスのアレンジが加えられている。ミディアム・テンポのバラードだ。

 トム・ペティの曲のように感じるのが"LA on My Mind"である。途中からどんどんハードになっていくところが興味深い。
 歌っているのが、おそらく自分のアルバムではこういう曲は歌わないだろうなというトラヴィスのフランである。どんな気持ちで歌っていたのだろうか。おそらくたまにはこんな歌もいいだろうと思っていたような気がする。

 さらにアップテンポになるのが9曲目の"Tara"で、軽快なロックン・ロールが収められているところに、このバンド・メンバーでの化学反応があるのだろう。こういう曲は、それぞれが自分のバンドに戻った時には、決してやらないだろうという類のものだからだ。後半のリード・ギターがカッコいい。

 そして最後の曲"Fighting the World"は、何となくミッドレイクの曲調を髣髴させてくれる。このアルバムの最後を締めくくるにふさわしい曲で、ある意味、このメンバーでの最大公約数的曲ともいえるだろう。安心して聞くことのできる曲が最後に置かれているところは、エリックの意思が示されているようだ。20170310175228
 このアルバムが商業的に成功すれば、おそらく第2弾、第3弾と次のアルバムが発表されるだろう。エリックはノラ・ジョーンズにも参加してほしいと言っているから、こうなると、スーパー・バンドというよりは、スーパー・プロジェクトになってくる。

 果たして本家のトラヴェリング・ウィルベリーズを超えるかどうかは、このアルバムの成功にかかってくるのである。


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