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2017年11月20日 (月)

デラニー&ボニー(3)

 いよいよ「デラニー&ボニー」編も終わりに近づいてきたようだ。今年の秋は、デラニー&ボニーを中心にしながら、彼らに影響を受けたミュージシャンや彼らの音楽、いわゆる“スワンプ・ロック”について述べてきた。

 “スワンプ・ロック”というコンセプトも、当時の評論家などが名付けた名前だろう。現場のミュージシャンたちは自分たちのやりたい音楽を単にやっていただけにすぎないだろうし、自分たちの音楽が何と呼ばれようとも、信念や誇りを持って取り組んでいたに違いない。

 それで、今回は「デラニー&ボニー」編の最終章である。彼らの活動が評価されていたのは、1968年から1972年頃までだった。わずか4年余りという短い期間であったが、その影響力は21世紀の現在までにも及んでいる。

 彼らは、1972年に「D&Bトゥゲザー」というアルバムを発表した。このアルバムは、もともと「カントリー・ライフ」というタイトルで、アトランティック・レコードの子会社であるアトコ・レーベルから発表されるはずだったのだが、発売が延期になり、最終的には中止されてしまった。そういういわく付きのアルバムなのである。61iu0cv8fl
 なぜ中止になったのかは定かではないのだが、アトランティック・レコードの重役だったジェリー・ウェクスラーは、アルバムの内容に不満を持っていたといわれていた。彼が直接そう命じたかはわからないのだが、世間的にはそういうふうに伝えられている。

 それで販売権利は、当時のCBSコロンビアに譲渡されたのだが、その際にデモ・トラックがカセット・テープなどでマーケットに出回ってしまった。だからこのアルバムについては、正規盤の他に、カセット・テープなどのいくつかの曲順違いのバージョンが存在している。彼らのファンにしてみれば、まさにレアものであり、貴重なコレクターズ・アイテムになっているようだ。

 最新の正規盤については、ボーナス・トラックが6曲も付いていて、これはこれでまたファンにはうれしいプレゼントである。もちろん彼らのコアなファンはまたこのアルバムも入手するに違いないだろう。

 アルバムは、デイヴ・メイソンの曲"Only You Know I Know"で始まる。この曲は1969年にはすでに録音されていたもので、1971年にはシングルとして発売されて、全米20位を記録していた。もちろんデイヴ・メイソン自身も、自分のソロ・アルバムの中でもレコーディングしていた。

 続いて"Wade in the River of Jordan"、"Sound of the City"と続く。前者はボニーのボーカルによるゴスペル風味の曲で、バックのオルガンやピアノ、女性コーラスがいい味を出している。
 後者は、ノリのよいR&Bで、ディープ・サウスの田舎臭い演奏と都会風のボニーのお洒落なボーカルが絶妙にマッチングしている。こういう感性がデラニー&ボニーの真骨頂なのだろう。

 "Well, Well"はベース・ギターが細かい音を刻んでいて、それにリズム・ギターやボーカルが重なっていく構成で、リードする楽器が見当たらないのが特徴だ。

 "I Konow How It Feels to be Lonely"は、ボニーの伸びやかなボーカルが強調されたバラード曲で、バックのストリングスが曲の美しさをさらに際立たせている。こうやって聞くと、いかに彼女のボーカルが素晴らしいかが分かると思う。

 エリック・クラプトンのギターが強調されているのが、"Comin' Home"で、この曲は1970年の「オン・ツアー・ウィズ・エリック・クラプトン」でも披露されていた。正規のスタジオ録音バージョンということだろう。ここでもクラプトンのギターが目立つようで目立たない感じの的確なサポートをしている。

 また、ボビー・キーズやジム・ホーンなどのホーン・セクションが活躍しているのが、7曲目の"Move'em Out"で、これはスティーヴ・クロッパーが作曲したもの。軽快なポップ・ソングだ。メイン・ボーカルは、ボニーが担当している。

 そしてその傾向は、次の"Big Change Comin'"でも同じで、今度はさらにリズムのノリのよい曲になっている。スワンプ・ロック流のロックン・ロールとは、まさにこんな曲のことを指すのだろう。この曲もボニーがリードを取っている。

 "A Good Thing (I'm On Fire)"のリード・ボーカルはデラニーの方がとっていて、ファンキーなロックン・ロール曲になっている。2分13秒と短いので、もう少し長く聞きたい気分にさせる。ボニーの歌い方も白人とは思えないほどパンチがあるのだが、デラニーの歌い方も黒っぽい。まるでスライ・ストーンかプリンスのようだ。

 10曲目はボニーの歌う"Groupie"で、レオン・ラッセルの曲。クラプトンのソロ・アルバムのデラックス盤には収録されていたし、ジョー・コッカーの「マッド・ドッグス&ジ・イングリッシュメン」でも歌われていた超有名な曲。1971年にはカーペンターズが"Superstar"というタイトルで歌って全米2位を記録した。

 "I Know Something Good About You"はミディアム調のR&B風の曲で、ここでもホーン・セクションが効果的に使われている。本当にデラニー&ボニーの曲にはアフリカ系アメリカ人の音楽の影響が色濃く反映されていて、何も知らされずに聞けば、多くの人はブラック・ミュージックと思ってしまうだろう。

 公式アルバムでは最後に配置されたのが"Country Life"で、アルバムのオリジナル・タイトルになっていた曲だ。タイトル通りのカントリー・ミュージック・タッチの曲で、それにストリングスが使用されるというユニークな演出が施されている。曲作りにはデラニーとボビー・ホイットロックが携わっていた。

 ここまでがオリジナル12曲の解説で、ここからは2017年バージョンのボーナス・トラックになる。810eog18ndl__sl1276_

 最初は"Over And Over"というロックン・ロールで、コンガなどのパーカッションとバックのホーン・セクションがストーンズの"Sympathy for the Devil"っぽくてカッコいい。中間のファズの効いたエレクトリック・ギターの間奏はデイヴ・メイソンだろうか。

 次の"I'm Not Your Lover, Just Your Lovee"は、オルガンが強調されたゴスペル風スロー・バラード曲で、秋の夜長に聞くと心が洗われそうな気になってくる。教会でゴスペルが生まれ、発展してきたのも、魂を掴まれ洗浄されてしまうからだろう。
 こういう曲がもう2、3曲含まれていれば、このアルバムの評価はもっと高まっていっただろう。アメリカ人のみならず、世界万国の人々の心の中に響くに違いない。

 "Good Vibrations"は、もちろんザ・ビーチ・ボーイズの曲ではない。ボニーがリードをとったミディアム調のR&Bで、本当にアングロサクソン系アメリカ人が歌っているとは思えないほど迫力があるし、ブラック・ミュージックに肉薄しているのだ。
 いや、ブラック・ミュージックとかそうでないとかいう範疇を超えたオリジナルな音楽をやっている。まさにデラニー&ボニーの音楽そのものだろう。

 続いてロックン・ロール調の"Are You a Beatle or a Rolling Stone"が始まる。この曲のスライド・ギターはもちろんデュアン・オールマンが弾いている。ノリノリの演奏なので、ライヴでは間違いなくウケるに違いない。

 一転して、"(You Don't Know) How Glad I Am"では再びオルガンがフィーチャーされたゴスペル・ソングに戻る。こういうスローなゴスペル・ナンバーではもちろんボニーがリードを取っているのだが、ボーナス・トラックではなくて正規盤に入れてほしい曲でもある。
 歌っている最後でフェイド・アウトされているところが、ボーナス・トラックになった所以なのかもしれない。

 そして最後の曲が"California Rain"である。これは珍しくアコースティック・ギターが基調になっているナンバーで、デラニーが歌うバラード曲に、徐々にピアノやホーンが絡んでくる。途中に転調してミディアム調に変わり、子どものコーラス隊やストリングスも加わってくる。
 これも途中でフェイド・アウトしてしまうのが残念だった。レコーディング自体は最後まで行われていると思うのだが、なぜかカットされている。きちんと収録されていれば、これはこれで名曲になったに違いないと思うのだが、どうだろうか。

 このアルバムには、"Only You Know I Know"や"Comin' Home"のように、既発の曲がいくつか含まれていて、そのせいか新鮮味にやや欠けるという点が見受けられた。

 このアルバムが発売中止になったのも、おそらくそのせいだろうと思う。今になってボーナス・トラックが収められたアルバムが再発されているのだから、曲数的には十分なストックがあったと思うのだが、精選したアルバムにはならなかった。

 また、このアルバム発表時には、すでに2人間には秋風が吹き始めていたのだろう。別々の生活が始まるのもそんなに先の話ではないと2人とも思っていたに違いない。
 だから、名曲になりそうな曲もアレンジを施すこともなく、そのままに置き捨てられたのだろう。ひょっとしたら彼らの代表するアルバムというか、スワンプ・ロックの名盤になったかもしれないアルバムだった。残念で仕方がない。

 最後に、1970年の「オン・ツアー・ウィズ・エリック・クラプトン」の正規盤が4枚組として発売されているのをアマゾンで知って、早速購入した。51z0xdkg1tl
 これは当時のイギリス公演から録音されたもので、合計4時間近い彼らの生のライヴがそのままパッケージされている。

 当時のイギリス公演は、7日間13公演と言われていて、そのほとんどが一日に昼夜2公演だった。ジミ・ヘンドリックスのライヴ盤でもわかるように、当時は、というか60年代では、1日2回公演は当たり前だったようだ。バンドの意向とは関係なく、それだけプロモーターの力が強かったのだろう。

 ディスク1には、1969年の12月1日月曜日のロイヤル・アルバート・ホールでの演奏が収められている。イントロやメンバー紹介も入れて全17トラックだ。

 「オン・ツアー・ウィズ・エリック・クラプトン」には8曲しか収録されていなかったが、このディスク1にはスペンサー・デイヴィス・グループの"Gimme Some Lovin'"や「オリジナル・デラニー・アンド・ボニー」の中の"Get Ourselves Together"も収められていた。

 ディスク2は12月2日火曜日のコルストン・ホールでのライヴで、ここではなぜか実質10曲しか収録されていない。最後はクラプトン・コールも起きるのだが、MCのアナウンスでは、どんなに長くここにいても、どれだけ騒いでも彼らは出てきません、公演はこれでおしまいですという強制終了の合図が出されていた。当然ブーイングも起こったのだが、フェイド・アウトされている。
 理由はわからないが、お客の態度が悪かったのか、クラプトンばかりもてるのでデラニーの方が嫉妬したのか、神のみぞ知るということだろう。

 ディスク3と4は、12月7日の日曜日の昼夜2公演がそのまま収められている。場所はフェアフィールド・ホールだから、「オン・ツアー・ウィズ・エリック・クラプトン」の収録はこの2公演の中から選曲されたのだろう。

 ファースト・ステージではイントロやメンバー紹介も入れて計10曲、セカンド・ステージではそれらも含めて計13曲だった。
 特筆すべきは、この日曜日には元ザ・ビートルズのジョージ・ハリソンも参加していて、ディスク4ではメンバー紹介で名前を呼ばれていた。もちろん「オン・ツアー・ウィズ・エリック・クラプトン」では彼の名前はカットされていた。権利関係が生じるのだろう。

 ツアーの記録なので、ほとんど同じ曲が4枚に連なって収録されているのだが、好きな人にはとってはたまらない内容だろう。ライヴのインパクトや臨場感がそのまま伝わってくるのだからたまらない。81kndvamm9l__sl1200_

 アマゾンでは送料を含めて2500円程度なのだから、これはもう本当に生きててよかったと思ったくらいだ。

 とにかく、この時のライヴはどれもリズムにキレがあるし、クラプトンやデイヴ・メイソンのギターも若々しい。アメリカ人ミュージシャンの力を借りて、さあ、これからだという勢いが伝わってくるステージングだった。今から考えれば、隔世の感がある。

 とにかく、一世を風靡したデラニー&ボニーであり、スワンプ・ロックだった。ブームは去っても、彼らが残した遺伝子は今でもアメリカン・ロックの潮流の中にしっかりと根付いている。
 決して忘れることができない偉大な夫婦デュオといえば、ブラック・ミュージックではアイク&ティナ・ターナーであり、ロック・ミュージックではデラニー&ボニーであろう。


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