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2018年1月29日 (月)

ビッグ・ビッグ・トレイン(3)

 先週に引き続き、今回もイギリスのプログレッシヴ・ロック・バンドのビッグ・ビッグ・トレインのことについて記そうと思う。Big_big_train_band_members_november
 前回は、「グリムスパウンド」についてだったが、今回は昨年の6月に発表された「ザ・セカンド・ブライテスト・スター」である。前作から2ヵ月あまりで発表されたことになる。

 1年間で2枚のフル・アルバムが発表されたわけだが、この2枚のアルバムは2016年に発表されたアルバム「フォークロア」のアウトテイク集を基本に生まれた。
 「フォークロア」に収録できなかった曲に新曲を加えて制作されていたが、この11枚目のスタジオ・アルバムにあたる「ザ・セカンド・ブライテスト・スター」では、「フォークロア」と「グリムスパウンド」に収めきれなかった曲も含まれていた。

 それで、「ザ・セカンド・ブライテスト・スター」には10曲が含まれていて、72分を超える超大作になっている。全体的な音楽性は、前作や前々作を踏襲しているようで、だから「フォークロア」、「グリムスパウンド」と合わせて、全3部作だと思っている。61uccscxexl
 1曲目のアルバム・タイトル曲"The Second Brightest Star"は7分17秒の曲で、デヴィッド・ロングダムが書いている。
 しっとりとしたピアノ・ソロで始まるが、この冒頭の部分は英米人の子どもならだれでも知っている"Twinkle Twinkle Little Star"のリズムを使っているそうだ。
 それから、この"The Second Brightest Star"とは、おおいぬ座のシリウスのことで、太陽の次に天空で明るく輝いている恒星だ。アルバム・ジャケットにも描かれている。

 この曲が生まれた経緯は、同窓会の案内が書かれた手紙からだった。デヴィッドは40年振りに旧友に会いに出かけたわけだが、その時の情景が綴られている。そして5分過ぎからの叙情的なギター・ソロとファンファーレのようなトランペットが、友人との変わらぬ絆を譬えているかのようだ。

 2曲目は、レイチェル・ホールの作曲したインストゥルメンタル"Haymaking"だ。彼女の演奏するバイオリンがフィーチャーされていて、春の日の小径を駆け抜けるような明るさと軽快さに満ちている。途中からエレクトリック・ギターとフルートが、エンディング近くではピアノも被さってきて、さらなる盛り上げを聞かせてくれた。
 
 実際、デヴィッド・ロングダムは、この曲は自転車で野原や泥の小道の上を走った子どもの頃の思い出を連想させると述べている。ちなみに"Haymaking"とは、春の終わりから初夏にかけての枯れ草を干すことを意味していて、この曲調にピッタリと合っている。

 それから"Make hay while the sun shines"という諺があって、“日が照る間に干し草を作れ”ということは、“チャンスを逃すな”とか“できるときにやっておけ”とかいう意味になるが、デヴィッドは、2016年から17年のビッグ・ビッグ・トレインの状況と照らし合わせながら、この曲を演奏したという。
 つまり、彼ら自身も今の状況が創作意欲のピークに達していると考えているようで、バンドのキャリアが最高点に届くように、自分たちの音楽を進化させようと考えているのであろう。

 3曲目の"Skylon"は、アルバム「フォークロア」の時には出来上がっていた曲だったが、時間の制約でアルバムには収録されなかったものである。時間的には6分少々とそんなに長くはないのだが、曲作りにはデヴィッドだけでなく、グレッグ・スパウトンとリカルド・ソーブロムも関わっていたから没にはしたくなかったのだろう。
 叙情的でミディアムテンポの曲で、4分過ぎの転調から急に盛り上がっていく。ある意味、ジェネシス的な展開を持った曲で、彼らの最も得意とする曲構成だろう。

 "Skylon"とは、世界で初めて開催された1851年のロンドン万国博覧会を記念して、その100年後にテームズ川の南岸で開かれた“英国万博”で建設された記念塔の名前である。その塔は、地上から15mあたりで3本の鉄柱で支えられていて、遠くから見ると、まるで空中で浮遊しているかのようだったと言われている。

 頂上部は地上から約90m離れていて、観光客には落雷の危険性があると言われていたので、ロープを張って人を進入させないようにしていた。
 "Skylon"は、大英帝国の第二次世界大戦後の復興のシンボルとして建築されたもので、隣には"Dome of Discovery"というドームが併設されていた。00_dome_of_discovery_and_the_skylon
 "Skylon"は、翌年まで記念塔として場所を移されて保存されていたが、ウィンストン・チャーチルの命令で解体されて、一部はお土産として販売され、残りはスクラップとして埋められてしまった。この曲には、そういう“栄枯盛衰”のような心情も込められているようだ。

 2分余りのインストゥルメンタルは、"London Stone"という曲で、アコースティック・ギターとピアノだけで構成されていた。日本人には分かり辛いのだが、"London Stone"はローマ帝国の昔に道路の舗装に使われていたり、中世では街の区割りの目印として置かれていたらしい。英国人にはなじみ深いのだろう。

 同時にこの曲は、「フォークロア」の中の"London Plane"の導入部から引用されていて、リカルドはこの曲からアルバム「グリムスパウンド」の中の"A Mead Hall in Winter"に発展させていた。
 一説によると、リカルドのアコースティック・ギターの音程がズレていたが、それを再録音する時間がなくて、結局、新しい曲"A Mead Hall in Winter"を作ったのだと言われている。

 そしてグレッグ・スパウトンは、さらに"London Plane"のイントロ部分を、この「ザ・セカンド・ブライテスト・スター」の中の"Turner on the Thames"に改編して使用している。
 自分はそんなにイマジネーションをかき立てられる曲とは思えなかったのだが、魅力的なモチーフは手を変え品を変え、変化しながら幾度も使われていくのだろう。

 5曲目の"The Passing Widow"は、夫を亡くした女性がこれからひとりで生きていこうとする決意を込めた曲になっていて、ピアノ演奏をバックにデヴィッドが力強く歌っている。
 また、曲のモチーフには71歳のロージー・スウェイル・ポープのことも含まれていた。彼女の夫のクライヴは、2002年に前立腺癌で亡くなっているのだ。

 ロージーも最初は喪失感から悲しみのあまり何も手につかなかったようだが、持ち前の明るさによって徐々に元気を取り戻し、ついには5年をかけてマラソンで世界一周したり、2015年にはニューヨークからサンフランシスコまで完走したりしている。ビッグ・ビッグ・トレインが生存している人をテーマに選んで曲を書いたことは、珍しいと思う。B2af720cce3b4830dfd256f05741b2b8
 上記にもあるが、ほとんどピアノ1台でのバラード曲で、曲を作ったのはレイチェル・ホールだった。彼女が作曲した曲だからだろう。2分過ぎからバイオリンが使用されているが、そんなに目立ってはいない。バック・コーラスで歌っているからなのかもしれない。

 6曲目は"The Leaden Stour"という曲で、ドーセット州で一番長い川の名前を指すらしい。長さは約61マイルだから約97kmくらいだろう。
 この曲も落ち着いた曲で、それぞれの楽器がそれぞれの役目を忠実に果たしていて、今のバンドの良い状態を表しているようだ。

 4分20秒過ぎから転調されて、少し駆け足になる。それとともにホルンなどの金管楽器も使用されて楽曲に膨らみを持たせたままエンディングに向かっていく。少しジャージーな展開になるところが、これからのビッグ・ビッグ・トレインの新機軸になるに違いない。

 グレッグ・スパウトンは、この川の近くの丘を歩いているときに、様々なこの曲のメロディが浮かんで来たそうで、彼は歩きながらiPhoneに吹き込んでいたという。もちろん周りに誰もいない時を選んでやったというが、最近の作曲の仕方も変わってきたものである。

 またこの曲にはいくつかの哀しい話が込められていて、1803年にはある男が自分の父親を殺そうと思って他の男と共謀して殺害をし、結局、起訴され処刑されている。
 また、1908年には2人の姉妹が霧に迷ってしまい川に落ちて亡くなったし、2011年にはジョン・エッギング大尉が、川の隣の野原に墜落死している。こういう悲劇はおもに100年ごとに起きているのだろうかと、グレッグは呟いている。

 7曲目の"Terra Australis Incognita"もまたインストゥルメンタルで、「グリムスパウンド」の中の曲"Experimental Gentlemen"の最後のテーマを借用して作られたもの。タイトル名の意味は、“南半球の未開の地”というものらしい。
 キャプテン・クックもこの未開の地を探して遠洋の旅に出たようだが、最終的には見つけることはできなかった。見つかったのは、南極大陸とオーストラリアだけだったが、ダニーの演奏するピアノとシンセサイザーは、スペイシーな雰囲気と少しばかりの幽玄さに満ちている。

 8曲目の"Brooklands Sequence"は17分33秒の大作で、元々はアルバム「フォークロア」の中にあった曲の続編になる。
 ⅰ)On the Racing Lineとⅱ)Brooklandsの2部構成で、前半はテクニカルなジャズ・ロック風で、5分過ぎからバイオリンでクール・ダウンした後では、ボーカルが挿入されて一気に緊迫感が高まっていく。この辺の緩急のつけ方は見事だと思う。

 また、"On the Racing Line"は、「グリムスパウンド」の中にあったインストゥルメンタルで、原曲は5分程度だった。オリジナルの"Brooklands"は12分少々の長さだった。だから、この曲順で行くと「グリムスパウンド」と「フォークロア」の曲を繋げたことになる。
 この「ザ・セカンド・ブライテスト・スター」でもほぼ同じ時間数で2曲が繋がれていたが、違和感はほとんどなかった。

 10分過ぎからのボーカル終了後、元のジャズ・ロック風に戻っていき、ボーカルが再び戻り、リリカルなピアノの調べに誘われて、一気に最後まで走り抜けていく。この部分の演奏は、このアルバムの白眉ではないだろうか。カーヴド・エアやダリル・ウェイのアルバムでは味わえない緊張感である。

 "London Plane Sequence"も「フォークロア」にある曲を再編集したもので、こちらも2部構成である。ⅰ)Turner on the Thamesは最初のアコースティック・ギターの部分で、3分程度だが、それに続く"London Plane"は10分少々と長い。曲の長さでは原曲とあまり変わっていないようだった。

 この曲は、「ザ・セカンド・ブライテスト・スター」の4曲目にあたる"London Stone"と「フォークロア」"London Plane"を合体させた曲で、本当に自然な感じで結ばれている。
 だから全体を通して聞くと、アルバム1枚で同じようなフレーズが出てくるため、壮大なシンフォニーを聞いているようだ。

 さらには、「フォークロア」と「グリムスパウンド」、それに「ザ・セカンド・ブライテスト・スター」の3枚を通して聞くと、それぞれの曲の一部が他のアルバムの曲とつながっているため、3枚のアルバムで組曲のような演出が施されている。こういう方法論は考えて行ったわけではなくて、彼らの内面から自然と生まれてきたものであろう。何度も言うようだが、それだけ創作意欲が高まっている証左でもあろう。

 "Brooklands Sequence"は全体的に緊張感のあるテクニカルな楽曲だったが、"London Plane Sequence"の方は8分過ぎまでは比較的穏やかな感じで、8分過ぎから約2分間程度、これまたカンタベリー系のジャズ・ロックに行きつく。

 ボーカル部分はたおやかで、演奏部分はハードなジャズ・ロックという感じだろうか。13分という時間の長さを感じさせないところが素晴らしい。最後はきちんとまとめていくところがビッグ・ビッグ・トレインの特徴でもある。

 最後の曲の"The Gentlemen's Reprise"は、3分余りのインストゥルメンタルで、これまたアルバム「グリムスパウンド」の"Experimental Gentlemen"の残滓なのかもしれない。作曲者も同じグレッグ・スパウトンだし、似通っている部分もある。
 途中、ボーカルっぽい声が入るのだが、何を言っているのかよくわからないので、インストゥルメンタルにしているのだろう。

 とにかく、現在のプログレッシヴ・ロック界を代表するビッグ・ビッグ・トレインである。制作意欲や創造力、楽曲水準に関しては、今が一番ピークなのは間違いないだろう。Screenshot20160509at9_38_03am
 2018年から2019年にかけては、ライヴ活動やレコーディングに当てるといっていて、次のスタジオ・アルバムは2020年頃に発表すると述べているが、この分ではもう少し早く耳にすることが可能なのではないだろうか。


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コメント

 プロフェッサー・ケイ様、遅まきながら今年もよろしくお願いします。冒頭より気合いの入っているBig Big Trainですが、私は全く白紙のバンドで、余計なことを言えるところにないのですが、ちょっと興味を持って、YouTubeあたりでかじってみました。先ずは印象として、懐かしのプログレですね。こうした世界は今やむしろ新鮮なようにも取れましたが、私はジェネシス、イエス系より、クリムゾン、フロイド系でしたので・・・そんなところからはスリリングや押し寄せる盛り上がりというところでは、ちょっと違うのかなぁ~~とチョイカジリで思いました。チョイカジリですので、違っているのかもしれません。しかし、こうした世界は決して無くならないのが嬉しい限りですね。更なる研究成果のご報告期待しています。

投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2018年1月29日 (月) 20時07分

 コメントありがとうございます。風呂井戸さま、本年もよろしくお願い致します。
 80年代のポンプ・ロックの時代にはマリリオンを始め、その多くがジェネシス系のネオ・プログレッシヴ・ロック・バンドでした。
 
 真似をしやすいと言っては失礼ですが、やはり入りやすいのは、フロイド系よりもジェネシス系だったと思います。
 個人的に思うには、フロイドやクリムゾンには音楽的な要素と同時に、思想的・哲学的な要素もその音楽や歌詞に含まれているところが、他のバンドにとって入りにくさがあるのではないかと考えています。

 フロイドのように、音響空間の中にまで思想性や現代社会に対する批判を含むようなバンドは、なかなか現れません。だからこそ、彼らの存在意義がますます高まっていくというか、貴重になるのだと思います。もうオリジナル・メンバーでは存在していないけれども。

 それでもそういうバンドが今一度現れることを願っています。

投稿: プロフェッサー・ケイ | 2018年1月29日 (月) 22時20分

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