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2018年1月22日 (月)

ビッグ・ビッグ・トレイン(2)

 イギリスのプログレッシヴ・ロック・バンドのビッグ・ビッグ・トレインについては、昨年末に簡単に説明した。要するに、今を生きる正統的なプログレッシヴ・ロック・バンドということで、2枚のアルバムについて紹介したつもりだ。

 そして、それから約1か月たった時に、彼らの昨年1年間の活動について調べたところ、意外なことが分かった。彼らは、昨年1年間で2枚のスタジオ・フル・アルバムを制作し、発表していたのだ。驚くべき創作意欲の表出であり、しかも高レベルでの水準を維持していた。彼らの意欲や創造力が、ある意味、ピークに達しているのではないだろうか。

 今回紹介する2枚のアルバムのうち、4月に発表されたのが「グリムスパウンド」というアルバムで、前作の「フォークロア」から約1年あまりたってのリリースになった。

 ちなみに彼らは、この間に「ア・ストーンズ・スロー・フロム・ザ・ライン」という2枚組ライヴ・アルバムも発表している。これは2015年のイギリス・ツアーから収録されていて、8人組編成になってからのもので、主に最近のアルバムからの曲が選ばれていた。51jz7otayzl
 また、2016年の「プログレッシヴ・ミュージック・アワード」では、「バンド・オブ・ザ・イヤー」と「アルバム・オブ・ザ・イヤー」、「ライヴ・イベント」の3部門でノミネートされていたが、その中で「バンド・オブ・ザ・イヤー」と「ライヴ・イベント」の2部門で受賞されていた。ついにビッグ・ビッグ・トレインも世界的なバンドとして認知を受けたというわけだ。

 このライヴ・アルバムもそうなのだが、2014年からビッグ・ビッグ・トレインにバイオリン、ビオラ奏者やキーボード・プレイヤーが参加したことから、空間的で色彩的なサウンド構成がなされており、一分の隙も無い叙情的で、かつテクニカルな楽曲にまとめられている。
 だから、どの曲も聞きこんでいくうちに、イマジネーションが広がっていき、壮大な音世界に身を任せることができるのである。

 「グリムスパウンド」は、全8曲の約68分になっていて、長い曲で15分、短いもので3分程度のものまであり、そういう意味ではバラエティに富んでいるかもしれない。
 前作の「フォークロア」に収録できなかった曲は"Grimspound"と"Skylon"だったが、その内の"Grimspound"は、このアルバムに収められることになった。91kdfa291ol__sl1500__2
 その"Grimspound"とは、グリム童話とは全く関係がないようだ。これはアングロサクソン人が神と呼ぶ“グリマ”から来ていて、またの名をウォーデン(ヴォーデン)というらしい。
 このウォーデン(ヴォーデン)という神が現れるときには、“ヒュージン”と“ミュージン”と呼ばれる2羽の大鴉から先導されるという伝承があり、そのうちの1羽がアルバム・ジャケットに描かれている。

 曲調としては、“穏やかなジェネシス”といったところか。メロディアスかつミディアム・テンポで淡々と進んでいく。中盤はエレクトリック・ギターで盛り上げていき、終盤はギターとキーボードのコラボレーションが施され、エンディングはコーラス・パートで締めていく。まるでムーン・サファリのようだ。

  そういえばアルバム冒頭の曲、"Brave Captain"は4部作の組曲で、時間的には12分32秒もある。この“勇敢な大佐”というのは、第一次世界大戦中のイギリス空軍パイロットで、“空の一匹狼”と呼ばれたアルバート・ボールのことを指している。

 彼はイギリスのみならず、フランスやロシアからも勲章を授けられているくらい勇敢で優秀なパイロットだったが、1917年5月7日に20歳という若さで戦死した。
 昨年はちょうど没後100周年ということもあり、またバンドのメンバーのデヴィッド・ロングトンが1973年の7歳の頃に、たまたま出会ったアルバートの銅像の除幕式の光景をもとにして、この組曲が創作された。

 第1部が1917年の彼の死をイメージしたもので、第2部はデビッドの除幕式の時の思い出、第3部がアルバートの穏やかな人柄や優れた功績、そして戦争の理不尽さを描き、最後の第4部では没後100周年の様子を描いている。

 実際は、彼は一時、戦線から離脱し、イギリスに戻って新兵の徴集などを行っていたのだが、軍本部から国民の戦意を高めるため、また“救国のヒーロー”というイメージ作りのために再び前線に送られたのである。そこには、むしろ悲劇的な死の方が戦意を煽るには望ましいというような意図が隠されていたのではないかと言われている。

 わずか20年しか生きられなかったアルバートだった。いくら勲章をもらっても、もっと生きたかっただろう。そういう悲惨さや哀しみがメロトロンの演奏に込められているようだった。

 2曲目の"On the Racing Line"は、前作「フォークロア」の中の曲"Brooklands"に登場するレーシング場で活躍したジョン・コブというレーシング・ドライバーについてのインストゥルメンタルで、5分12秒という枠の中でダニー・マナーズのベース・ギターとニック・ディヴァージリオのドラムスが縦横無尽に活躍している。まるで、キャラヴァンかハットフィールド&ザ・ノースのようなカンタベリー系のジャズ・ロックを聞いているようだった。

 次の"Experimental Gentlemen"とは、キャプテン・クックの船に乗船した植物学者や科学者のような“実験的精神にあふれた英国紳士”のことを歌っている。彼らのおかげで、様々な標本を集めることができ、科学の普及や人類の進歩につながったという内容の曲だ。

 このミディアム・テンポの曲では、ギターのアルペジオとメロトロンの幽玄な響きから始まり、途中で哀愁味のあるバイオリンやソリーナの調べが奏でられる。5分40秒過ぎから転調し、力強いギター・ソロが展開するが、徐々にフェイドアウトし、最後の2分余りではピアノやキーボード、バイオリンなどとともに、静かなエンディングを迎えていく。

 4曲目の"Meadowland"とは牧草地のことだが、誰でも集える理想郷を意味している。本当はこの曲は、デヴィッド・アンクル・ジャックという人のことを歌っていて、この炭鉱夫は人生のほとんどを地下で過ごしていて、仕事のない時は地表に出て愛犬のペグと一緒に牧草地を散歩していたという。

 本名は、ジョン・ヘンリー・へリングといって、イギリス人にはそれなりに有名のようなのだが、日本とは少し温度差がある。また、この曲の制作中にジョン・ウェットンの訃報が飛び込んできたため、ジョン・ウェットンにも捧げられている。ジョン・ウェットンも、ビッグ・ビッグ・トレインのためにサポートをしてきたからである。

 6曲目の"The Ivy Gate"は、もともと1つの曲だったが、1つにするには困難が付きまとったので、2つに分けて、"Folklore"と"The Ivy Gate"に分けたという。
 また、この曲の最初の女性ボーカルは、元フェアポート・コンヴェンションのジュディ・ダイブルが歌っていて、バックのバイオリンの音色とともにバンジョーも使用されているので、ブリティッシュ・トラッドのような印象を与えてくれる。

 そのフォーキーな曲をプログレッシヴ・ロックの雰囲気に調合していく巧みさに関しては、まさにビッグ・ビッグ・トレインの面目躍如といったところだろう。3分50秒あたりからアタックの強いベース・ギターとハモンド・オルガンがフィーチャーされていき、壮大なシンフォニーへとつながっていく。

 "The Ivy Gate"には家族の悲劇が歌われている。トーマス・フィッシャーは戦争に徴兵されていき、残された妊娠中の妻は夫の無事な帰還を神に祈るのだが、夫は無事に家に帰ってくるものの、その前に、妻は過酷な労働がもとでお腹の中の子どもと一緒に亡くなってしまう。

 夫は信仰を失くし、自暴自棄になり自殺をしてしまうのだが、キリスト教は自死を許さないため、トーマスの亡骸は家族とともに埋葬されることなく、教会の外の墓地に埋葬されてしまうのである。それで、死後、亡霊となって自分の家族が埋葬されているところをさまよい歩くそうである。恐怖というよりも悲劇的な話だろう。

 "A Mead Hall in Winter"は、15分20秒とこのアルバムの中で一番長い曲で、最初の2分はアコースティック・ギターとピアノの演奏で彩られている。
 この曲のデモは、メンバーのリカルド・ソーブロムが作っていて、歌詞パートのメロディはグレッグ・スポウトンが作曲している。

 転調が多くて、何となくイエスっぽい雰囲気も持っていて、バイオリンが使用された少しマイルドになったイエスという感じだった。
 タイトルは「イングランド教会史」の中の一節から借用されていて、祝祭中の教会のホールを横切る鳥の飛行と人生を譬えている。
 また、外は真冬で寒いが、教会の中は暖かい。これは人々が喜び集い合う光り輝く場所を譬えているといわれている。

 最後の曲の"As the Crow Flies"は、まさにアルバム・ジャケットが象徴している“空を飛ぶカラス”のことだが、アルバムのコンセプトは、前作の「フォークロア」と同じように、“科学と科学技術の進歩”を意味している。

 もう一つ、このタイトルには、“個人の独立、ひとり立ち、独立精神”という意味も込められていて、子どもが補助輪なしで自転車に乗るときや初めて学校に登校したとき、初めて家を離れて夜を過ごす時のような人生の転機一つ一つの連続性も含んでいる。71jz0ph95l__sl1200_
 ということで、「フォークロア」と「グリムパウンド」と「ザ・セカンド・ブライテスト・スター」は、結局、“3部作”ということになるのだろう。最初の「フォークロア」を制作したときに収めきれなかったアイデアや曲のモチーフをさらに発展させていったのが、残りの2枚ということになる。

 それで、今回は「グリムスパウンド」の特集になったが、次回は「ザ・セカンド・ブライテスト・スター」について調べてみようと思う。


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