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2018年2月12日 (月)

ロンリー・ロボット(2)

 今月は「いまを生きるプログレッシヴ・ロック」というお題で、現代社会でもしぶとく活動を続けているプログレッシヴ・ロック・バンドを紹介しようと思う。

 最近の邦楽では相変わらずグループ関係の勢いが強くて、集団でパフォーマンスする方が人気も出て目立っているし、洋楽部門ではダウンロード中心で、バンドで活動するよりは個人で活動した方が儲かるという、ますますパイの奪い合いが目立つようになってきた。

 そんな中で70年代の遺物といわれている(というか勝手にそう思っているだけなのだが)プログレッシヴ・ロックについては、拡大再生産路線を突き進んでいて、過去の作品のリマスター盤やライヴ録音を含む未表曲集、さらには〇〇周年記念盤などで往年のファンの財布のひもを何とか開こうとしているようだ。

 確かに昔プログレッシヴ・ロックに夢中だった子どもは、今や人生の最終章を飾ろうとしており、棺桶に入る前にあの時代のあのバンドの曲をクリアな音で今一度聞きたいとか、あるいは未発表音源に囲まれて余生を過ごしたいと思っているに違いないのだ。

 そういう需要があるからこそ、70年代に全盛期を迎えていたプログレッシヴ・ロック・バンドたちは、往年の名曲を中心としたセット・リストでライヴ活動を行っているし、新作を発表するよりはリスナーたちを満足させる方法を探っているようだ。衰えかけた創造性を発揮して無理に売れない曲を発表するよりは、既発の再解釈などの曲を発表した方がミュージシャンとリスナーの相互利益につながるように思える。

 しかし、そういう状況下でも自分たちの存在意義を証明するために、もしくは言葉本来の意味で、プログレッシヴ・ロックにふさわしい楽曲をクリエイトするために真剣に音楽に取り組んでいるバンドやミュージシャンも確実に存在するのである。

 プログレッシヴ・ロックは、熱力学の第二法則のように、イギリスから各国、各地域に広がっていったが、その本家イギリスにおいてもプログレッシヴ・ロックを追及しているミュージシャンたちは存在している。例えば、スティーヴン・ウィルソンであり、クライヴ・ノーランたちであろう。今回紹介するジョン・ミッチェルもその1人であり、しかもリーダー的存在として異彩を放っている。

 ジョン・ミッチェルについては、以前のこのブログでも簡単に述べているが、もう一度確認してみると、1973年6月アイルランド生まれの44歳で、12歳からギターを始め、その後はピアノ、ドラムス、作曲などを学び、音楽活動に取り組んでいる。1
 1997年にアリーナに2代目ギタリストとして参加すると、瞬く間にプログレッシヴ・ロック・ファンの間で人気になり、2006年にはイッツ・バイツにもフランシス・ダナリーの代わりとして、ボーカル&ギター担当でメンバーに加わった。

 彼の尊敬するミュージシャンは、トレヴァー・ラビンとフランシス・ダナリーだそうだが、ジョン自身も彼らと同じようにマルチ・ミュージシャンだ。
 とにかく、今のプログレッシヴ・ロック界を代表するワーカホリックでもあり、自分はスティーヴン・ウィルソンとロイネ・ストルト、そしてこのジョン・ミッチェルの3人をプログレ界の三大ワーカホリックと呼んでいる。

 とにかくアリーナとイッツ・バイツだけでなく、キノ、フロスト*、ジ・アーベインにも在籍しているし、ジェスロ・タルの元ギタリストのマーティン・バレのバンドではボーカリストとして活躍している。また、Aというバンドではベース・ギターを弾いている。
 それ以外にも、様々なバンドのエンジニアやプロデューサーとしても活動しているし、そしてまた当たり前のようにソロ活動も行っている。

 2014年に、ということは彼が40歳を過ぎてからということだが、自分の手で最初から最後まで完全にコントロールされた音楽をやろうと決意したそうで、しかも内容的にはSF的で人類の発展に関するようなものをプログレッシヴ・ロックを通して表現したいと考えたようだ。
 そうやって発表されたのが2015年のアルバム「プリーズ・カム・ホーム」であり、バンド名はザ・ロンリー・ロボットと名付けられていた。510niqkqusl
 このアルバムは彼の音楽的な方向性が示されていて、宇宙飛行士の旅がテーマになっていた。しかも3枚のアルバムを通してテーマを完成させるとのことで、ザ・ロンリー・ロボット名義では、少なくとももう2枚は発表される予定になっていた。

 そしてそれから約2年後、2017年4月にセカンド・アルバム「ザ・ビッグ・ドリーム」が発表された。このアルバムのコンセプトは、宇宙飛行士を宇宙から切り離し、奇妙で見知らぬ環境に身を置くことというものらしい。
 ジョンはまた、アラン・シルヴェストリの「コンタクト」、クリント・マンセルの「月に囚われた男」のようなSFに対するサウンドトラック的愛情を抱いていて、そういう音楽を目指していると述べている。

 それでこの「ザ・ビッグ・ドリーム」のアルバムについて聞いてみたが、全11曲のコンセプト・アルバムだった。前作の「プリーズ・カム・ホーム」は3人編成のバンド形式で制作されていて、それに多くのゲスト・ミュージシャンが参加していた。

 今回のセカンド・アルバムでは、基本的にはジョンとドラムス担当のクレイグ・ブランデルの2人で制作されていて、ゲスト・ミュージシャンもバッキング・ボーカルとナレーション担当などの3人だけだった。

 だから、ジョンはギターだけでなく、キーボードにベース・ギター、チェロにハープとハーモニウム、アイリッシュ・ホィッスルなどのドラムス以外の全ての楽器を担当していた。81gcij4ecl__sl1500_
 1曲目は"Prologue(Deep Sleep)"というインストゥルメンタルで、ピアノやストリングス・キーボードを背景にナレーションが流れて行く。
 間を置かずに2曲目の"Awakenings"が始まる。雰囲気としてはスティーヴ・ハケットの曲風にメロディアスなフレーズを乗せたような感じで、サビの部分は耳に残る。3分過ぎに一旦ブレイクして静寂が訪れ、エモーショナルなギター・ソロが始まって曲を盛り上げていく。

 続く"Sigma"も5分少々の曲で、リフレインのところの"Sigma Sigma"と叫ぶところが印象的だった。ミディアム・テンポの曲で"Awakenings"ほどヘヴィではない。こういうメロディアスな曲も書けるところがジョン・ミッチェルの特長だろう。間奏のギターも伸びがいいし、ストリングス・キーボードとの絡みもドラマティックである。

 "In Floral Green"では、アルバム冒頭の"Prologue"で使用されたメロディが繰り返される。どうやらこのメロディがこのアルバムを貫くメイン・テーマのようだ。
 静かなバラード・タイプの曲で、プログレッシヴ・ロックというよりも、叙情的なロック・アルバムに収められていそうな曲だ。後半に短いギター・ソロが用意されているが、テクニック的には素晴らしいと思う。この曲では、ギタリストのジョンよりもソングライターとしてのジョンの資質が発揮されている。

 5曲目の"Everglow"は一転してハードな曲になっていて、テクニカルなジョンの才能が垣間見える。煌びやかなキーボードの音とバックのピアノが印象的だが、3分20秒過ぎからエフェクティヴなギター・ソロが始まる。ただ30秒くらいしか続かないので、ギター小僧には物足りないだろう。

 "False Lights"は変拍子を用いてリズムに凝っている曲で、コーラス部分が3拍子に転調されるところが如何にもプログレッシヴである。
 それ以外は、むしろポピュラー・ソングといってもいいような出来具合だ。特に目立つギター・ソロもなく、ソング・オリエンティッドな仕上がりになっている。

 またまたハードな展開になるのが"Symbolic"という曲で、車の運転時に聞いてみたいノリのよい楽曲だ。ライヴのオープニングの時などにも聞いてみたい曲だと思う。
 ジョンはテクニカルなギタリストなのだが、スタジオ盤ではあまり弾きまくる様子はない。それでもこの曲では印象的なギター・ソロを展開している。もっと目立てばいいのにと思わず声を出して応援してしまう。

 8曲目の"The Divine Art of Being"になると、80年代のジェネシスかあるいはマイク&ザ・メカニクスの曲のように思えてしまう。2曲目から徐々にライトに、そしてポップス化してしまうのがこのアルバムの特徴だろう。演奏よりも歌ものとして捉えた方がいいのかもしれない。

 2曲目から8曲目までは、ほぼ5分前後の曲でまとめられていて、非常にバランスがいいのだが、アルバム・タイトル曲の"THe Big Dream"は8分2秒の最も長いトラックになっている。
 この曲は、2曲目の"Awakenings"のようなダークな雰囲気をまとっていて、やはりスティーヴ・ハケットの曲を思い出してしまった。そしてこの曲には歌詞がない。つまりインストゥルメンタルなのである。だから、ボーカル入りの曲は初期のマイク&ザ・メカニクスであり、インストゥルメンタルはスティーヴ・ハケットを意識しているのかもしれない。ギターの入り方などはよく似ている。

 スペイシーな前奏からエフェクティヴなギター・ソロ、そしてナレーションを挟んで落ち着いたかと思うと、今度はスローでエモーショナルなギター・ソロが響いてくる。これらの演奏を聞けば、確かにジョンは今の時代を生きるプログレッシヴ・ロックのギタリストということが分かるだろう。

 "Hello World, Goodbye"は3分52秒の短い曲で、アルバムのエンディングに向かうにはふさわしい曲だろう。女性ボーカルも参加していて、叙情的な雰囲気を醸し出している。ジョンのギターも情感が込められているようで、とても印象的だった。

 最後の曲"Epilogue(Sea Beams)"はリリカルなピアノ・ソロで始まり、アイリッシュ・ハープが色どりを添えている。ここにはジョンのギター・ソロは添えられていない。71firfp8rsl__sl1200_
 国内盤には、もう3曲ほどボーナス・トラックが用意されているようだが、その中の"Why Do We Stay?"という曲では、元タッチストーンというバンドの女性ボーカルだったキム・セヴィアーとジョンがデュエットしていて、これがまた印象的なのだが、でもどう聞いてもこれはポップスの分野だろうと思った。シングルにしたら、かなり売れるのではないだろうか。

 とてもよくできたアルバムで内容的にも十分だと思うのだが、強いて欠点を挙げるなら、もう少しギター・ソロを聞かせてほしいという点だろうか。これが3部作の2作目というから、3作目にはその点も期待したい。

 いずれにしても、プログレッシヴ・ロックの発祥の地でもあるイギリスでは、スティーブン・ウィルソンの最新作のように、メロディアスなプログレッシヴ・ロックが主流なのかもしれない。


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コメント

 何をしようとしているのか、何をしなければならないのか・・・・と言う問題意識の薄れた時代に、やっぱりプログレの存在は難しいのでしょうね(なんとロックそのものもその存在がよく解らなくなっている)。
 ミュージックとして目指すもの、コンセプトとして目指すもの、自己の社会経験から目指すもの、どれにとっても明解な意志を持つことすらその意義が混沌としている時代には・・・・なかなか育つ基盤が「?」と感じてしまってます。
 しかし、意識の高さが必ず必要となる時代の到来はあると、歴史が教えている中で、プログレはどんな意味でも存在感の高まる時があると信じています(希望)。

投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2018年2月15日 (木) 12時26分

 コメントありがとうございます。風呂井戸さま。プログレを語り始めればきりがないので止めますが、形式的には70年代のものに近いものの、中身は2000年代の時代性を反映しているようです。

 それはテクニカルな作風や哲学的な問題意識の反映をフィーチャーしたものなど、いくつかありますが、結局、それがメインストリームの一角をなすかどうかは、売れるか売れないかという非常に身も蓋もない商業主義に左右されているようです。デヴィッド・ギルモアズ・ピンク・フロイドとそれ以前のピンク・フロイドの違いといえばわかりやすいかもしれません。

 ただ、ブルーズやロックン・ロールが死に絶えないように、プログレも消え去ることはないと思います。いつの時代にも伝統の継承者は存在すると思っています。

投稿: プロフェッサー・ケイ | 2018年2月15日 (木) 22時33分

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