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2018年3月 5日 (月)

テンプルズ

 さて、3月になってそろそろ本格的な春も近づいてくるだろうということで、今月は比較的新しいアルバムについて、いくつかピックアップしてみようと思う。

 それで今回は、イギリスのバンドのテンプルズの最新アルバムを紹介したい。このバンドは、2012年に結成されている。
 バンドの構成メンバーは4名で、中心人物はギター&ボーカルのジェームス・バッグショーとベース・ギター&バック・ボーカルのトーマス・エジソン・ワームスレイの2人だ。

 彼らは、イギリスの中央部にあるミッドランズ地方のケタリングという町で生まれ育った。ケタリングの人口は約6万人余りだから、地方の田舎町と考えた方がいいかもしれない。
 メンバーのジェームスが言うには、特徴のない街で、年に1回クリスマスの時にワールド・マーケットという市場が立つらしく、それが唯一の町のイベントらしい。

 残りのメンバーであるドラムスのサム・トムズとキーボード担当のアダム・スミスも同じ町出身だから、4人とも子どもの頃からの顔見知りだったに違いない。Mainvisual
 それはともかく、ジェームスとトーマスがやりたい音楽を自宅録音しながら作っていたようだ。そしてそれらをインターネット上で発表していたら、たまたま耳にしたヘヴンリー・レコーディングスの代表者であるジェフ・バレットが気に入り、彼らと契約を交わしてミニ・アルバムを発表した。

 このアルバムの中に"Shelter Song"という曲があり、それが全英で大ヒットを記録し、彼ら2人はフル・アルバムを制作する必要があったので、ドラマーとキーボーディストを加入させてバンドを結成したのである。
 
 彼らの音楽の特徴をごく簡単に言うと、ザ・ビートルズ中期のサイケデリックな趣きを備えたロック・バンドで、ギターよりもキーボードが目立っている。ただし、ザ・ビートルズのようなポップな要素は少なく、どちらかといえば、シド・バレット在籍時のピンク・フロイドやキーボード・プレイヤーを加入させたザ・バーズといった感じだろうか。

 メンバー4人で制作したデビュー・アルバム「サン・ストラクチャーズ」は大ヒットになり、アルバム・チャートでは全英7位を記録した。51uxlj29xgl
 また、元オアシスのノエル・ギャラガーや元ザ・スミスのジョニー・マーという有名ミュージシャンが彼らの音楽を絶賛していて、ノエルに至っては“宇宙的なスペース・ミュージックだ。銀河系の未来は、このアルバムにかかっている”とまで述べていた。
 ちょっと言い過ぎだろうが、確かに新人バンドの中では個性的だし、60年代中・後期の雰囲気を残しながらも、それを21世紀の今にも通用するような音楽性に仕上げたことについては、唯一無二のバンドだろう。

 彼ら4人が共通して気に入っている音楽は、ザ・ビートルズの「リボルバー」、ザ・ローリング・ストーンズの「ベガーズ・バンケット」、ルー・リードの「トランスフォーマー」、デヴィッド・ボウイの「ハンキー・ドリー」だという。こういう音楽が混然一体となって演奏されて出てくる音楽というのは、70年代の洋楽に詳しい人なら、だいたい予想がつくのではないだろうか。

 彼らのデビュー・アルバム「サン・ストラクチャーズ」は、日本では2014年に発表されたが、新し物好きの自分は、早速買って聞いてみた。もちろん貧乏なので、輸入盤である。

 するとこれが結構イケるのであった。シングル・ヒットした"Shelter Song"もいいのだが、個人的には、それよりも下降調のメロディーがポップで印象的な"Mesmerise"、12弦ギターとメロトロンっぽいシンセサイザーが宇宙的な広がりを感じさせる"Colours to Life"の方が気に入っている。

 "Shelter Song"はザ・バーズの影響が強いと思ったのだが、セカンド・シングルにもなった"Colours to Life"は若い頃のムーディー・ブルーズに似ていて、彼らの後継者かと思わせる雰囲気に満ちている。

 また、"The Guesser"という曲は、60年代のフレンチ・ポップのテイストを備えたガレージ・ロックといった感じで、何となく日本のGSブームの中の曲にも似ている。珍しく短いながらもギター・ソロもあって、かなりアレンジに工夫している様子がうかがえる。
 それに、トーマスの書いた"Sand Dance"はレッド・ゼッペリンの"The Wanton Song"に似ていて、後半のエンディングのストリングスはまるで"Kashmir"のようだった。

 確かに有名ミュージシャンが絶賛するようなアルバムには間違いないだろうし、発売当時はよく車を運転しながら聞いたものだった。そしてそれから約3年、彼らのセカンド・アルバムが、昨年発表された。タイトルは「ボルケーノ」と名付けられていた。71y6zpvxfil__sl1181_
 このアルバムは前作とはやや違っていて、デビュー・アルバムよりもサイケデリックな部分は後退し、現代的でモダンな音作りになっていた。また、ファルセットのボーカルは、前作よりも強調されていて、ほぼ全面ファルセットで歌っているのではないかと思わせるほど、気合を入れて歌っている。

 前作から継承されているのは、キーボード中心の楽曲ということと、イコライザーなどの機材は2000年代以前に作られたヴィンテージなものを使用しているといったところだろうか。

 ギター&ボーカルのジェームスは今のクラブで流れているようなドラムとベースのアタック音の強い曲調と、60年代や70年代のサウンドやメロディを融合させたかったと言っていて、そういう意味では、前作よりも霧が晴れたようなスッキリとした印象を与えてくれる。

 また、サイケデリックな部分が少なくなったことについては、バンド結成当時からサイケデリックなサウンドを鳴らそうとした意図はないとも述べていて、デビュー・アルバムは当時流行していた音楽に影響されたからに過ぎないと述べている。
 だから、前作と作風が違った結果になったのも、ある意味、当然であるような言い方をしていて、セカンド・アルバムについては意図的な取組の結果なのだろう。

 そうなると、前作のような音楽を期待していた自分としては少し困ったことになるわけで、確かにメロディアスでクリアな印象はあるものの、どことなく物足りなさも覚えたのも事実である。

 それでも"Born into the Sunset"ではジェームスの美しいファルセット・ボーカルを味わうことができるし、このアルバムの中でも屈指の覚えやすいメロディーを持った曲だと思う。ちなみにこの曲は、3枚目のシングルに選ばれている。
 
 それと個人的には、アコースティック・ギターのカッティングで始まる"In My Pocket"や幻想的な雰囲気に満ちている"Celebration"、チープなキーボードと軽快なリズムがいい味を出している"Mystery of Pop"、セカンド・シングルに選ばれた夢見るような"Strange or Be Forgotten"などには一聴の価値があると思っている。

 そういう意味では、このアルバムは7曲目"Open Air"以降の後半が面白いのではないだろうか。
 色々なことを考えながらこのアルバムを聞いているわけだが、やはり衝撃度としてはデビュー・アルバムの方が優っているし、セカンド・アルバムの方はチャート・アクション的にも全英23位と前作よりは振るわなかった。やはりイギリスのリスナーは正直である。

 そういうことで、進路転換したテンプルズであるが、この次のアルバム第3作目が彼らの命運を決するものになると思っている。Colourstolifebytemples_2
 果たして現状維持を続けるのか、それとも原点回帰するのか、はたまた新展開を見せるのか、とりあえずこのセカンド・アルバムを聞きながら、温かく見守っていくことにしようと思っている。


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