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2018年3月26日 (月)

ソングス・オブ・エクスペリエンス

 今回も昨年の終わりごろに発表されたアルバムについてである。それで3月も終わりを迎えた頃ではあるが、アイルランドから生まれて世界的に有名になったU2のアルバム「ソングス・オブ・エクスペリエンス」について記すことにした。

 ご存知のように、このアルバムは2014年に発表された「ソングス・オブ・イノセンス」と対をなすアルバムであり、最初からそういう目的で制作されていたものである。U2mojo254770
 このアルバムを制作するにあたって、ボーカル担当のボノは、次のように述べている。『前作が自分たちの青年時代の出来事やその影響などをもとにして制作してきたのに対して、このアルバムでは自分たちの家族や友人、ファン、自分自身といった親しい人たちに宛てた手紙のかたちをとった曲が集められている』

 手紙といっても、普段のお互いの近況を知らせ合うようなものでは、当然のことながら違う。アルバム・タイトルにもあるように、"Experience"つまり彼らが今まで約40年間たどってきた経験から、今の世界の状況を踏まえて記した手紙なのである。

 だから、その内容は多岐にわたる。基本的には通常のラブ・ソングのように聞こえる楽曲も、よく聞けば(見れば)、ソマリアの内戦や地中海を渡るイラク難民、「万人に機会ある国」から「分断と差別に彩られた国」に変貌しつつある国に対するメッセージ・ソングとなっているのだ。

 ボノはまた、こうも語っている。『自分は十代ならではの感情から、あまり卒業できていないように感じるよ。怒りこそがロックン・ロールの核だろう?それがロックとポップスの違いなんだ。苦痛を美に昇華するのが芸術の仕事であり、怒りをロックン・ロールに転じる、というのが俺たちのやっていることだ。
 今回のアルバムに関して、とりわけ気に入っているところは、そういうエネルギーがこの作品にはあるという点だ。パンク・ロックではないけれど、このアルバムにはそういったエネルギーがある、そういう挑戦的で反抗的な態度が備わっているんだ』

 アイルランドのダブリンの高校生が掲示板を見てバンドを結成してから約40年余り、今では彼らの発するメッセージが世界中で話題になるほど現在を代表するバンドになってしまったU2だけのことはある。音楽的な深化はあっても現状認識については、デビュー当時と変わらないようだ。

 サウンド的には、80年代のようなエッジの効いた尖った音楽はやっていない。むしろ年相応に落ち着いていて、聞きやすくポップで、部分的には、同時期に発表されたマルーン5のようなメロディアスな部分もある。
 しかし、それはあくまでも彼らが音楽的な“エクスペリエンス”を経た結果であり、成熟した姿といっていいだろう。61rnsredsll
 不穏な雰囲気を醸し出す"Love is All We Have Left"から"Lights of Home"では、愛の姿やその源となる“家庭の灯り”が綴られているし、最初のシングルでもあり堂々たるU2節を備えた"You're the Best Thing About Me"では、自分と相手との分かち難い愛の証が込められている。

 U2はまた、貪欲に音楽を吸収し続けている。例えば、サンプリングに関しては、何かをサンプリングするのには大きな自由がある。ヒップホップがあれほど楽しいのは、自由に取り入れることができるからさ、とボノは述べているが、このアルバムでも"Get Out of Your Own Way"と"American Soul"のつなぎには、アメリカの今をときめく有名ラッパーであるケンドリック・ラマーが参加している。

 これは、まだ制作中だった"American Soul"をボノがケンドリック・ラマーに送ったところ、彼が自身のアルバム「ダム」でサンプリングしたからで、そのアンサー・ソングとして、この曲と前曲の間にケンドリックの声を入れたからだ。

 ケンドリック・ラマーだけでなく、レディー・ガガは"Summer of Love"に、ジュリアン・レノンは"Red Flag Day"に参加している。
 両方の曲とも、イラク難民やアジアやアフリカで今なお起きている紛争等の避難者のことを歌っているが、前者ではループやサンプリングがかなり使用されているが、それが分からないように巧みに加工されていた。

 後者の"Red Flag Day"とは、“遊泳禁止の日”を意味していて、ギターのハードなカッティングがリスナーにも切迫感を与えてくれる。泳ぎが禁止されていても泳がざるをえない状況の人たちが抱く感情なのだろうか。

 このアルバムの中で一番ポップで、というかポップ過ぎて驚いたのは"The Showman"だろう。50年代から60年代にかけてのバブルガム・ポップをU2流に焼き直したらこうなりましたよという曲なのだ。とても「WAR」や「焔」の時のU2とは思えない曲であり、こういう曲も書けて演奏できるようになったという進化を表しているのかもしれない。

 続く"The Little Things That Give You Away"は往年のU2の姿がよみがえってくるスローな曲で、ジ・エッジの反響するようなギター・サウンドを味わうことができる。昔を知っている人には素敵なプレゼントになるだろう。ボノはこの曲を書きながら、自分自身に宛てた曲だということが最後になって分かったと言っていた。

 "Landlady"もまた懐かしさ満載の名曲だと思う。モチーフは家族のことを歌っているのだが、ボノが個人的に愛する妻アリのために作った曲とも言われている。確かボノはまだ離婚をしていないのではないかな。

 ロックスターともなれば、グルーピーもいるし、言い寄ってくる女性も多いだろうに、ボノの周辺では不思議とそんな話は聞かない。
 ボノのみならず、結成以来不動のメンバーで活動を続けてきたU2には、ドラッグやアルコール中毒、不倫などで話題になったメンバーはいない。そういう潔さも人気の一因なのだろう。

 90年代初頭のU2が味わえるのが"The Blackout"で、ユーロビートのようなリズムや装飾されたキーボード・サウンドなどは「アクトン・ベイビー」や「POP」のようなアルバムに相応しいように思える。
 また、自分の息子に宛てた曲が"Love is Bigger Than Anything in Its Way"で、なかなか感動的なバラードに仕上げられている。

 息子といえば、このアルバムのジャケットには、ボノの息子のエリとエッジの娘のシアンが手を握って正面を向いている写真が使われているが、ここにも家族を大事にする姿やその礎となる愛情や友情や信頼などがシンボライズされているようだ。81dhj8n2l2l__sl1400_
 アルバム本編の最後を飾る曲は"13(There is A Light)"であり、本来は収録する予定はなかった曲である。
 ボノは12曲で終わらせるつもりだった。入れるとすれば隠しトラックで、と考えていたようだが、前作のアルバム「ソングス・オブ・イノセンス」の中に収録されていた曲である"Song for Someone"の一節をこの曲の中に取り入れることで前作と今作の2枚のアルバムを繋ぐことができるというアイデアを気に入り、13曲目を作ったのである。

 この曲の中では、“若い時の自分たち”と“経験を積んだ自分たち”を重ね合わせていて、それはまた、自分が恋に落ちた十代の少女のためと、その彼女の子どもたちのためという意味も込められている。そういう成長した姿も示すことが、このアルバムのタイトルや内容構成に込められているのである。

 思えば、U2は、80年代のアルバム「ボーイ」と「WAR」でも成長した子どものアルバム・ジャケット写真を通して、自分達の成長や状況の変化を示していた。そういう対比する姿勢はデビュー以来変わっていない。こういう首尾一貫性もまたU2が支持される所以であろう。

 ボノは、このアルバムを評して、永久不滅の作品は政治的であると同時に個人的でもあることが多いと述べていたが、確かに個人的な内容のようだが、それはまた普遍的なメッセージを放っているアルバムなのである。

 音楽的には、今までの集大成的で丸くなったところも感じられるのだが、内容的には時代にしっかりと対峙していて鋭いメッセージを放っている。デビュー40年を過ぎても、ますます彼らから目が離せないのである。

 

*ボノのインタビュー等の発言に関しては「ロッキング・オン2月号」を参照しました。ありがとうございました。


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