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2018年4月 2日 (月)

リバイバル

 エミネムのアルバムが昨年末に発表された。自分はラップ・ミュージックが嫌いで、あんなものはゴミみたいなものだと思っていたけれど、エミネムのアルバムを聞いて考えが一変した。ラップはロック・ミュージックの進化形であり、恐らくこれからも発展していくだろうと確信したのである。Main17121_2
 ロック・ミュージックが本来持っている衝動性や破壊性、批判精神などは、確実にラップ・ミュージックの中に息づいている。
 特に、エミネムのアルバムの中にはそれらが備わっていて、聞き返すたびに、彼の感情や息づかいまでもがリアルに伝わってくるような気がしてならない。

 彼のファンならよく知っていると思うけれど、2004年のアルバム「アンコール」から2009年の「リラプス」までの間に、薬物依存症を克服するために治療リハビリを行っていて、そこから徐々に全盛期の姿に近づきつつある。

 彼は今でも2000年に発表されたアルバム「ザ・マーシャル・マザーズLP」を自身の最高傑作だと位置付けていて、それを超えるために新作を出し続けている。

 それで昨年の12月に発表されたアルバムが「リバイバル」だった。このアルバム・タイトルから思うに、彼の完全復活宣言を告げるアルバムに違いない。だから、思い切って購入して聞いてみたのだが、相変わらずの攻撃性と先鋭性、衝動性などが伝わってきて、2000年代初めと変わらないスキルを伴っていたようだ。81jq0lcrrl__sl1000_
 例えば、2013年の「ザ・マーシャル・マザーズLP 2」には"Rap God"という曲があって、この6分4秒の長さの曲の中に、1560語がリリックされていて、“最も単語数の多いヒット・シングル”としてギネス・ブックに認定されている。

 なぜエミネムの人気は衰えないのか、どこが他のラッパーと違って自分にとって魅力的なのか、考えてみた。それは次のようなことではないかと思っている。
①彼の紡ぎ出すリリックが攻撃的なリズムを伴っていること
②聞くたびに気持ちが高揚してくること
③リリックを繋ぐトラックがメロディアスであること
④自分のトラウマなどの過去を曝け出していること

 特に3番目のトラックがメロディアスであるということは重要で、以前は過去のヒット曲などのサンプリングで、美メロを引用していたこともあったが、最近では他のミュージシャンと共作してのオリジナルが目立ってきたようだ。

 そして、リハビリ前のエミネムは、自らの生い立ち、母親との確執、妻との愛憎劇、娘への愛情などを包み隠さず、あるときは攻撃的に、あるときは慎み深く、ライムを重ねながらラップしていった。
 そういう自らのプライベートまでも対象化し、世界中に広く訴えてきたところも、人気に拍車をかけていったのではないだろうか。

 彼の自伝的映画である「8マイル」では、幼い頃に父親が家を捨てて出ていき、母親はトレーラーハウスに男を引っ張り込んでよろしくやっている様子が描写されていたが、等身大の彼らの姿だったのだろう。5142870mf1l
 また、デキちゃった結婚をした妻のキムとの離婚や再婚、再離婚などの確執では、楽曲の中でその愛憎を披露するなど、世間も注目するような関係が披露されていた。

 そういう直接的な心情の吐露が、2009年以降は影を潜め、むしろエミネム自身の内面性というか、沈潜した感情の表出が目立ち始めていて、彼の人間的成長とともにリリックにおいても大きな変化が目立ってきているのだ。

 45歳になったエミネムは、情熱は今でもあるがデビュー当時の怒りはなくなりつつあると言っていて、その分、ライムのテクニックやリリックの早さなどでの成熟さを自覚しているようだ。
 彼がデビューする前のラップ・バトルでは、最初から4行ぐらいまでのリリックの中で、皆の注目を集めないとすぐに飽きられてしまうから、なるべく最後まで聞いてもらえるように、刺激的で注視されやすいテーマやコンテントを発しなければならなかった。

 だから、デビューしてから世界的注目を集めるようになっても、彼は自分自身の生い立ちなども含めて過激なラップを展開してきた。そのせいか、逆に性差別者や人種差別者などの間違ったイメージが彼に与えられてきたのである。
 さらには、"Just Lose It"のマイケル・ジャクソンや"Mosh"における当時のブッシュ大統領などの有名人をディスったり、"Cleaning Out My Closet"や"Kim"での母親や元妻などとの裁判などをモチーフにするなど、とにかく世間の注目を集めてきた。

 ところが最近のアルバムでは、そういう過激性が影を潜め、むしろ今までのリリックの内容を反省するような、自省的で他の誰にも備わっている普遍的な感情を曲に込めるようになってきたのである。

 それに伴って、トラックのメロディが聞きやすくなってきたような気がするし、オリジナルで勝負するようになってきたのだろう。
 昔はエアロスミスの"Dream On"をサンプリングした"Sing for the Moment"や、最近でも前作のゾンビーズの"Time of the Season"を一部引用した"Rhyme of the Season"など、ポップなメロディーを伴ったトラックを用意していたが、徐々にその使用比率は少なくなっているようだ。

 それに、以前は“スキット”と呼ばれる曲間での短い出し物があったのだが、これもその出現回数は減って来ていて、前々作の「リカバリー」では0、前作の「マーシャル・マザーズLP 2」では1回しかなかった。今作では“イントロ”や“インタールード”はあるものの、“スキット”自体は0だった。

 逆に、大物ミュージシャンとのコラボレーションが目立っていて、前々作ではPINKやリアーナ、前作でもリアーナやケンドリック・ラマーをフィーチャーしたメロディアスな楽曲が目立っていた。

 今作の「リバイバル」においてもそれは同様だ。リード・トラックの"Walk on Water"では大物ビヨンセが、"River"で今をときめくエド・シーランが、歌姫とも呼ばれたアリシア・キーズは"Like Home"で、そして再びPINKは"Need Me"でフィーチャーされている。71hmrykrrel__sl1169_
 もちろんこれら以外にも何人かの優秀なミュージシャンが関わっているのだが、自分はあまりよく知らないので詳細は省きたい。

 また、内容的にも元妻や娘に対する謝罪を内容にしたものや、"Rap God"とまでいっていた自分自身を、“氷の上を歩けるのは 凍っているときだけ”とまで冷静に見つめるようなものも含まれていて、彼が現実的かつ内省的になっていったのが分かるのだ。

 彼がリハビリから戻って来て約9年、この間に4枚のアルバムを発表したエミネムが、徐々にその姿や精神性を変化させていった。

 思えば彼もすでに45歳である。若い頃は怒りや、それを含む感情のみで突っ走っていったし、それだけでも彼の才能からすれば十分インパクトはあったのだが、もはやそれだけでは済まされない時代の変化や彼自身を取り巻く環境の変化が彼の音楽性に影響を与えていったのだろう。

 今作でもその制作意欲の原動力のひとつになったのは、アメリカの新大統領の登場である。エミネムはあいつを見ていると、怒りで血が煮えたぎると述べており、弾劾されるのならいくらでも協力するとまで言い切っている。

 実際、白人のエミネムがポピュラリティーを得たのは、黒人のDr.ドレーのおかげである。貧しかったエミネムは、当初は白人からも黒人からも疎まれ、嫌悪される存在だったのだが、逆にそれをバネとして、怒りや爆発した感情をもって非難や嘲笑の声を押し倒し、押さえ込んでいった。

 それをDr.ドレーが見つけ、育てていったのだ。こういうアメリカの多様性や懐の深さに自分は敬意を表したいのだが、それを分断し、溝を広げていこうとする新大統領の施策や考え方、メッセージに彼は強い怒りを感じているのである。

 ただ、彼を応援している人は、白人の低・中所得層が多いという。それはまた新大統領を支援している人たちと重なるわけで、エミネムのこの表明がファン離れにつながるのではないかと心配されていた。

 しかし、それは杞憂に終わったようだ。この「リバイバル」は全英、全米のアルバム・チャートで首位を獲得している。特に英国では初登場No.1に輝いた。4年ぶりのアルバムだったが、相変わらずエミネムの人気は衰えていないようだ。

 ともあれ、デビュー時の“怒れる若者”だったエミネムが自分のトラウマや家族関係に素直に向き合い始め、同時に政治的・社会的には積極的にコミットメントをしようとしている。この人間的な成長が、ニュー・アルバム「リバイバル」に込められている。Eminemwalkonwaterpressshotweb730opt
 エミネムが薬物中毒を克服してから、約9年がたった。彼の吐くリリックやライムは相変わらず先鋭的でアグレッシヴなのだが、それが彼の内面的な成長とともに、これからどう変化していくかが楽しみでもある。
 それに伴って、ラップの可能性はまだまだ広がるだろうし、それはまたロック・ミュージックのもつ極限値を広げることにもつながるに違いない。


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