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2018年5月21日 (月)

ザ・ヴァーヴ

 以前にも書いたけれど、自分にとって1990年代は、ついこの前の出来事のような気がする。でも実際は、20年以上も前のことなのだ。年を取ったら時間の流れを早く感じるというのは、本当のようだ。

 この20年以上、自分はどんな音楽を聞いてきたのだろうかと振り返ったりするのだが、70年代から90年代の20年間と、90年代から今までの20年以上と比べたら、やはり70年代からの20年間の方が、音楽的には濃密で影響力のある期間だったと思う。人間が一番大きく成長する時期に触れたものが、やはり人格形成や趣味嗜好に大きく影響を与えるのだろう。

 でも、90年代以降の音楽が意味がなかったのかというと、決してそんなことはないわけで、アンプラグドの流行や過去の曲の再評価、ブルーズ・リバイバルやラップ・ミュージックの存在意義などは、自分にとっては大いに有益だったと思っている。

 さらには、90年代以降も新しいバンドは次々と生まれてきたわけで、90年代のブリット・ポップやアメリカにおけるグランジ・ロックなどは、当時はそんなにすごいこととは思えなかったのだが、今では忘れられない刺激的な出来事になった。

 それで、そんなことを考えながら、90年代に一世を風靡したブリティッシュ・ロック・バンドについて紹介しようと思った。今回は、ザ・ヴァーヴである。彼らが1997年に発表した「アーバン・ヒムス」は、まさに90年代のブリティッシュ・ロックを代表するアルバムだと思っている。717flmsdql__sx450__2
 このアルバムを聞いた人は、誰でも素晴らしいと賛嘆するのではないだろうか。このアルバムを聞いてい悪く言う人がいるとは思えないし、もしいたとしたら、それはよほどのへそ曲がりか、音楽自体を嫌っている人ではないだろうか。

 「アーバン・ヒムス」は、冒頭の"Bitter Sweet Symphony"があまりにも有名なので、どうしてもこの曲の紹介を避けるわけにはいかないし、やはりこの曲から始めるのが筋だと思う。

 この曲のバックのストリングスは、今でもテレビのCM等で使用されていて、耳にすれば、あぁあの曲ね、と分かるはずだ。
 ストリングスの部分はサンプリングされていて、元々はザ・ローリング・ストーンズの元マネージャーだったアンドリュー・オールダムの手によるものだった。彼がストーンズの曲である"The Last Time"をオーケストラでアレンジしたものを使用しているのである。

 ところが、最初は無断でサンプリングしていたようで、ローリング・ストーンズのレコード会社側から告訴される騒ぎになった。最終的には、ザ・ヴァーヴ側が無断使用を認めたため、裁判までには至らなかったが、それ以後は、曲のクレジットに"ジャガー/リチャーズ"の名前が記載されるようになった。

 そんな曰く付きの曲ではある。しかし、シンプルなフレーズの繰り返しだけの曲なのだが、いい曲はいい。
 もともとザ・ヴァーヴは、サイケデリックなロック・バンドだったから、この手の曲は得意なのだろう。

 そして、このアルバムから最初にシングル・カットされた曲でもあり、約3ヶ月全英シングル・チャートに留まっていた。もちろん全英1位を獲得し、全米のビルボード・シングル・チャートでも12位まで上昇している。

 このアルバムが有名になったのは、この曲だけのおかげではなかった。続く"Sonnet"もまた見事な曲だからだ。ポップでありながらもリード・ギターもしっかり目立っていて、その構成も見事だと思う。

 一転して"Rolling People"は、ハードな曲になっていて、うねるようなベースに立ち向かうかのようなギターが特徴的だ。この多重録音されたギターは、サイモン・トングとニック・マッケイブが弾いていて、特に、ニックのリード・ギターはエコーが豊かでエッジが効いていいる。

 4曲目の"The Drugs Don't Work"は、非常に美しいバラードで、このアルバムからの2枚目のシングルに選ばれている。しかも全英シングル・チャートでは首位を獲得し、2011年のニュー・ミュージカル・エクスプレス誌が選んだ“過去15年における名曲150選”において78位を獲得した。
 この曲はバンドのリーダーであるリチャード・アシュクロフト自身のドラッグ体験を表していて、ドラッグを用いてさらに悪くなっていった事実を淡々と歌っていた。

 このアルバムは、この4曲だけ聞いても素晴らしいと思うし、購入する価値はあると思うのだが、これら以外においても不思議な浮遊感を味わえる"Catching the Butterfly"やニックが作曲したスペイシーな雰囲気が味わえる"Neon Wilderness"なども収められている。

 "Neon Wilderness"は前衛音楽というか、ピンク・フロイドが環境音楽を演奏しているような摩訶不思議で、サイケデリックな2分余りのサウンドだった。
 逆に、"Space And Time"という曲はそのタイトルに反して、全然スペイシーではなく、まともな楽曲に仕上げられていた。強いて言えば、バックのキーボード・ストリングスがややサイケ調を高めているぐらいだった。

 そういえば、リチャード・アシュクロフトと元オアシスのギャラガー兄弟、特に弟のリアム・ギャラガーとは仲が良いようだ。
 ザ・ヴァーヴが最初に解散した1995年には、リチャードはオアシスに呼ばれて彼らのライヴで一緒に歌っているし、オアシスの曲"Cast No Shadow"は、傷心のリチャードに捧げられていた。

 リアムはまた、"Bitter Sweet Symphony"を連続30回以上も聴いたと言われているし、兄のノエルもこの曲をライヴで演奏したことがあるようだ。この兄弟とリチャードの間には他の人にはわからない友情めいたものがあるのだろう。

 だからザ・ヴァーヴの曲の中には、オアシスの曲をややサイケデリックな色彩に染め上げた"Space And Time"や"Weeping Willow"のような曲も収められている。
 また、3枚目のシングルとして発表された"Lucky Man"もまた、一聴に値する佳曲である。もちろんE,L&Pの曲とは同名異曲であることはいうまでもない。

 この曲は、ミディアム・テンポで、前半はアコースティック・ギターが、後半はストリングスが主導していて、ポップかつメロディアスで、ヒットする要素は満載だ。全英のシングル・チャートでは7位まで上がったし、全米のモダン・ロック・チャートでは20位内に顔を出している。

 一転して、けだるいバラードの"One Day"も穏やかで、疲れているときに聞くと、何となく心が軽くなるような気がした。"Velvet Morning"も同じような傾向の曲で、エレクトリックな部分とストリングスの部分のバランスがよく取れている。613nipx3fgl__sl1391_
 これらのメロディアスな曲も収録されているから、このアルバムは売れたのだと思っている。何しろ14週連続して全英No.1アルバムになり、全世界で1000万枚以上売れたのだ。この年のベスト・セラー・アルバムに認定され、翌年のブリット・アワードでは、ベスト・ブリティッシュ・バンド賞と最優秀批評家賞を獲得した。

 また2015年には、イギリスのアルバム・チャートで1000万枚以上売れたアルバムの中で18位に認定されている。ちなみに、首位はクイーンの「グレイテスト・ヒッツⅠ」、2位はアバの「ゴールド;ザ・グレイテスト・ヒッツ」、3位にザ・ビートルズの「サージャント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」が入っていた。

 ただ、“好事魔多し”の譬えではないが、彼らは、翌年の1998年に二度目の解散をしている。原因はリード・ギタリストのニックとの確執のせいで、リチャードとニックは昔からそりが合わず、最初の解散もニックの脱退が原因だった。

 そして“二度あることは三度ある”の諺ではないが、2007年に再々結成して4枚目のアルバムを発表した後、2009年に三度目の、そしておそらく最後となるであろう解散をしている。Uhverve3

 その後、リチャードはソロ活動を始め、ニックとベーシストのサイモン・ジョーンズはザ・ブラック・シップス(のちに「ブラック・サブマリン」と改名)を結成して、バンド活動を続けている。

 昨年の2017年には、「アーバン・ヒムス」の発売20周年記念盤が発表された。これもまた売り上げ枚数に含まれるのだろう。
 とにかくこのアルバムは、90年代を代表するアルバムなのは間違いない。ブリット・ポップの流れから一歩踏み出して、サイケデリックな感覚と流麗なストリングスを配置してのサウンドは、これからも新たなファンを獲得するに違いない。


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