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2018年5月14日 (月)

エンブレイス

 CDラックを整理していたら、エンブレイスという名前のバンドのアルバムがあった。しかも2枚。自分は気に入ったバンドのアルバムは2枚以上購入するようにしているので、2枚あったということはそれなりに気に入っていたということだろう。

 ただ、今までこのバンドのことを思い出すことがなかったということは、気に入った割には長続きしなかったということだろう。そんなことを考えながら、もう一度聞くことにした。

 エンブレイスは、1990年にダニーとリチャードのマクナマラ兄弟を中心に、イギリスのヨークシャーで結成された。最初はベースレスの3人組だったが、1994年にベーシストが加入して4人組になり、1996年には当時の(今でも?)有名バンドだったヴァーヴも所属していたハット・レーベルと契約し、翌年にシングル"All You Good Good People"を発表している。

 デビュー当時の彼らは、はっきり言って“第2のオアシス”だった。それはミディアム・テンポで広がりのある楽曲やスローで叙情的なバラードなど、当時のオアシスと比べて、あまり変わりもないような歌を歌っていたからだ。

 ただ、確かに“第2のオアシス”だったかもしれないが、楽曲は優れているし、曲も聞いていて気持ちいい。彼らのアルバムを聞いていて時間を無駄にしたとは思わないし、アルバムを購入しても損をしたとは感じさせなかった。だから2枚目も購入したのだろう。

 デビュー当時のメンバーは次のようなことを言っていた。『俺たちの曲のスケールには今やウェンブリーにすら大きすぎやしないぜ』
 ウェンブリーとは当時のロンドンにあったウェンブリー・アリーナのことで、今はSSEアリーナ・ウェンブリーと呼ばれているが、楽に1万人以上収容できる施設でもある。

 『俺たちがアルバムを発表したとき、ヴァーヴがセカンド・ベスト・バンド、オアシスがサード・べストになるのさ』
 何とも新人らしいふてぶてしさというか、大言壮語というか、音楽のみならず言動もオアシス並みのビッグ・マウスだった。

 この時はまだデビュー・アルバムは発表しておらず、編集されたEP盤が全英アルバム・チャートの34位や21位まで上昇していた。だから1997年の最後のロンドン公演では、『こんな小さな会場で俺たちを観れるのは最後だからな!』と叫んだらしい。よほど自信があったのだろう。

 実際、翌年発表された彼らのデビュー・アルバム「ザ・グッド・ウィル・アウト」は、50万枚以上の売り上げを記録し、全英チャート1位、見事プラチナ・ディスクを獲得した。有言実行なのである。51kbtozleyl
 全14曲60分のこのアルバムには無駄な曲はひとつもなく、どの曲も起承転結がはっきりしていて、美しいメロディで構成されている。
 2曲目の"My Weakness is None of Your Business"や3曲目の"Come Back to What You Know"における壮大なストリングスや管弦楽器などの使い方などは確かにオアシスの影響は感じさせられるが、それ以上にドラマティックな印象を与えられる。

 また、"One Big Family"や"I Want the World"におけるノイジーなギターには、粗削りながらも計算された演奏が感じられるし、"Fireworks"や"That's All Changed Forever"ではピアノやアコースティック・ギターを基調として、叙情的でドラマティックな美しさを漂わせている。やはり売れるアルバムには、売れるだけの理由が備わっているようだ。

2年後の2000年に、彼らはセカンド・アルバム「ドローン・フロム・メモリー」を発表した。率直な感想を言わせてもらうと、デビュー・アルバムよりも幾分丸くなった感じがした。
 “丸くなった”というのは、ハードでノイジーなギター・サウンドが影を潜め、むしろ"Save Me"のようにブラスがフィーチャーされ、R&Bの影響を感じさせるコーラスなどが目立つのだ。
 ひょっとしたら、このアルバムからメンバーになったキーボーディストのミッキー・デイルのおかげなのかもしれない。 988469_0_embraceguests_1024
 キーボーディストが加入したおかげで、前作では少し過剰装飾とも思えたストリングスも、このアルバムではそんなに目立ってはいない。むしろ適切に使用されているようで、わざとらしさや鼻につく(耳につく?)ことはない。

 それでも、美しいストリングスやピアノをあしらえた"Drawn from Memory"や、ドラマーのマイク・ヒートンが担当したクラリネットが目立つ"I Had A Time"のような叙情的なバラードも収められていて、彼らのファンなら感涙ものだろう。いや、彼らのファンだけでなく、このアルバムを聞いたほとんどの人は感動するのではないだろうか。

 また、"Hooligan"には遊び心が漂っていて、カズーという楽器(というよりもオモチャだろう)が使われているし、メロディー自体もシンプルだ。間違ってもこういう曲をオアシスはやらないはず。そういう意味では、自分たちの方向性をリセットしたのかもしれない。

 もちろん、以前からのハードな曲調のもの、ここでは6曲目の"New Adam New Eve"や8曲目"Yeah You"のような血湧き肉躍る曲も用意されているし、"Liar's Tears"のようなアコースティック・ギターとキーボードを基調としたメロディアスなバラードも聞くことができる。

 だから従来のファンも安心して耳を傾けることができるし、新しいファンも彼らの音楽的な冒険や方向性に対して大いに賛成するだろう。ある意味、理想的なセカンド・アルバムと言ってもいいのかもしれない。61nnom8qxpl
 このアルバムは、全英チャートで8位を記録し、ゴールド・ディスクを獲得した。アルバムのタイトルは、イギリス人の有名なイラストレーターのE.H.シェパードの自伝のタイトルを借用したもので、彼は“クマのプーさん”などを手掛けていた。

 このあと、自分はエンブレイスから離れていったのだが、その後の彼らは2004年と2006年にアルバムを発表し、連続して全英1位に輝いている。
 ここまでは順調に来たのだが、彼らには“バラード・バンド”というイメージが定着したみたいで、そのせいかバンドとしての音楽的な方向性に迷いが生じてしまい、2007年から2011年までは活動を停止していて、個人での活動が目立っていた。

 彼らは今でも活動中で、今年の3月には7枚目にあたる最新アルバム「ラヴ・イズ・ア・ベイシック・ニード」が発表されている。全英チャートでは最高位5位まで上昇して、彼らの健在ぶりを証明した。410v7sma1l オアシスの亜流としてスタートした彼らだが、今では自分たちの居場所を確保し、確固たる存在意義を示している。本家のギャラガー兄弟とは違って、喧嘩別れもしていないし、一緒に曲を書いて発表している。やはり兄弟の仲がいいことも音楽性に反映されるのに違いない。


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