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2018年5月16日 (水)

ホース・ソルジャー

 久しぶりに映画について書く。今までそれなりに映画を見てきたのだが、なかなかコメントする機会が得られなかった。「スター・ウォーズ;最後のジェダイ」、「オデッセイ」、「ゼロ・グラヴィティ」などのSF洋画や「破門 ふたりのヤクビョーガミ」、「三度目の殺人」、「ユリゴコロ」などの邦画など、気の向くままに見てきた。

 書こうと思ったものの、なかなかその時間がなかったというところが本音である。ところが、なぜか今回は短いながらも書こうと思った。それはあまりにも期待が外れたからだ。

 この映画「ホース・ソルジャー」は、原題を"12 Strong"といって、12人の勇敢なアメリカ軍兵士のことを意味している。A2ub7950
 この映画は実話に基づいたもののようで、今まで表ざたにならなかったのは、計画自体が極秘だったかららしい。

 12人の兵士は、陸軍の特殊部隊に所属していて、イラクの軍閥と協力して、約5万人のタリバン部隊と戦うという内容だった。

 これは、2001年の「9・11」に対して、アメリカ軍が極秘に行った最初の反撃と言われていて、この功績を讃えるための馬に乗った陸軍兵士の銅像が、グラウンド・ゼロの跡地に建てられているそうだ。744af604
 ここからはネタバレになるので、まだ見ていない人は、読まない方がいいと思う。一応、注意しておきます。

 この映画は、国策映画である。どこをどう見ても、アメリカの国威発揚と正統性を示しており、逆に、宿敵アルカイダを徹底的に悪者として描いている。
 だから、勧善懲悪主義であり、結果的に、アメリカ軍兵士の英雄的行為が描写されている。したがって、非常にわかりやすく、しかも面白く展開していて、安心してみていられるのである。

 映画の冒頭では、アメリカにおける「9・11」のニュースやそれを受けての人々の対応などが描かれているし、一方のアフガニスタンでは、自分の娘たちに勉強をさせた母親が、公開処刑されるシーンがあった。アルカイダは、8歳以上の女子には教育は必要ないと考えていて、その決まりを破った母親が処刑されたのだろう。

 この辺は、誰が正しくて誰が悪いというのが一方的に示されているので、非常にわかりやすい。しかし、アフガニスタンに旧ソ連からの共産主義が広がるのを防ぐために、1979年からのアフガン戦争時に、現地のゲリラに武器を供給したのはアメリカだった。
 また、アメリカは、中東の地にアメリカの威光を示すために、当時のサウジアラビアと仲良くして、武器や資本を供与したのだ。そういう歴史的な経緯は置いといて、一方的にアフガニスタンの一部の人たちを悪者として描くのもどうなのかなあと思った。

 また、途中で投降してきた兵士たちの中に、自爆テロを行うものがいたが、彼らの宗教というか思想では、死んだ方が豊かで幸せに過ごせるというのだから、生きていても毎日が戦争状態なら、むしろ死を選んで報われたいと願うだろう。

 これは価値観の違いなので、否定も肯定もできないが、もし彼らが、今の日本のように豊かな環境の中で生活していたら、果たして死を選ぶだろうかとも思った。(でもやっぱり死を選ぶだろう。先進国と呼ばれている欧米社会の各国でも、たびたび自爆テロが行われているからだ。宗教的価値観こそ絶対的基準なのである)

 確かに、アルカイダは暴力的で独善的だし、少なくともテロリズムも容認するつもりはない。それはないものの、もう少し批判的に描いてほしかった。世界で一番大切な人の命を奪っているのは、アメリカもアルカイダも同じだからだ。Horsesolider_jpg_pagespeed_ce_tikby
 だからこの映画には、批評性がない。自分はロック・ミュージックが大好きで、今でも聞いているのだが、ロックには批評性が備わっている。カントリー・ミュージックとブルーズやゴスペルが融合して、ロックン・ロールが生まれた。だから、ロック・ミュージックには、旧来の音楽、音楽のみならず社会体制への批判が内包されていると考えている。

 批評性のない音楽などの表現活動には、興味がわかない。それは映画も同じ。ただ、興味がわかないだけで、その存在までは否定するつもりはない。
 それはともかく、だからと言ってこの映画は、全くつまらないというわけではない。アメリカ映画の素晴らしい点は、良い意味でも悪い意味でも、娯楽性が備わっている点だ。

 この映画でも、21世紀の戦争という状況の中で、空からピンポイントで攻撃するところと、馬に乗って戦闘するシーンがあった。この対比が面白かった。まるで、日中戦争のさなかに、満洲国を馬に乗って戦う馬賊のような、そんな感じなのだ。張作霖と関東軍の戦いが、そのままタイムスリップしたような、現代に置き換えられている感じがした。あるいは、戦国自衛隊ともいうべきか。

 それに現代のテクノロジーを集結した最先端の兵器と馬に乗った兵士という、ある意味、ミスマッチというか落差が、この映画を一層面白くさせている。
 また、戦闘シーンは確かに迫力があって、ワクワクさせてくれた。この辺のカメラワークというか、描き方は素晴らしいと思った。Hs10332src
 ただし、突っ込みどころは満載で、12人のうち1人は重傷を負ったものの、それ以外は無傷に近かったというのは信じられなかった。相手の敵陣の中を馬に乗って突っ込んでいくのである。アルカイダから集中砲火を浴びているのである。それでも主人公は無傷だった。
 まるで、織田信長が今川軍の中に突っ込んでいった桶狭間の戦いのようだった。日本でも起きたのだから、アフガニスタンでも起こりえるのだろう。

 正確に言えば、1人は負傷したので、残りは11人だったが、2人は狙撃手として別の場所にいたので、戦闘に参加したのは最大でも9人だ。実際は、後方に位置していた人もいたので、ひょっとしたら5~6人だったのではないだろうか。8fb85322
 映画の最後で、主題歌らしきものが流れた。ザック・ブラウンという人が歌っていて、この人は、アメリカのカントリー・シンガーらしい。この辺もまさに国策映画というような気がしてならなかった。昔の日本でも、さだまさしなどの歌手が戦争映画の主題歌などを歌っていたが、当時は、ニュー・ミュージックの歌手が映画とタイアップしていた。当時というのは、1980年代初頭の頃だ。

 ちなみに、ザック・ブラウンはバンドで活動していて、ザック・ブラウン・バンドはグラミー賞も受賞している人気バンドのようで、ジョージア州アトランタを中心に活動している。彼自身はまだ40歳である。Zacbrownbandrealthing
 いずれにしても、何も考えないで観るだけなら、何の問題もない映画である。むしろハラハラするし、兵士たちは勇敢だし、ある意味、感動するだろう。ただ、それで満足するかどうかは、また別の問題だと考えている。


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