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2018年6月 4日 (月)

キーン

 キーンというイギリスのバンドがいる。このバンドの特徴はギターレスということで、基本的にはピアノを主体としたバンドである。

 結成は1997年だった。イギリスのサセックス州バトルというところで活動していたティム・ライスとリチャード・ヒューズが中心メンバーだった。
 ただ、最初はドミニク・スコットというギタリストがいたのだが、音楽性の違いから脱退してしまった。

 最初は、2000年の2月に"Call Me What You Like"を、2001年6月には"Wolf at the Door"というシングルを4人組で発表したのだが、ほとんど話題にもならずに終わっている。ドミニクは、バンドとしての将来性に不安を感じたのだろう。

 そこで、元々はベース・ギターを演奏していたティムがピアノを担当するようになり、最終的には、リチャードがドラムスを、そしてトム・チャップリンがボーカルに専念して、ギターレス&ベースレスの3人組として再出発したのである。2001年頃のお話だ。0903
 世の中は何が幸いするかわからないものだ。普通は誰かが加入してバンドとしての化学変化が生じて、大きく飛躍するという話はよく聞くもの。
 ところが、キーンというバンドは、逆に誰かがいなくなって大きく成長していったのだ。これはバンド・メンバー間の化学変化というよりは、役割変化による結果によるものだろう。

 2002年に、フィアース・パンダというマイナー・レーベルと契約をしたのだが、ここから彼らに光が当たり始めた。
 このレーベルは、マイナーながらもコールドプレイやザ・ミュージックを発見し、その後押しをしてきたレーベルで、新人発掘と育成に関しては定評のあるレーベルだった。

 2002年5月に発表された"Everybody's Changing"は限定発売だったものの、瞬く間に完売してしまった。続くシングル"This is The Last Time"も大ヒットして、BBCからも取り上げられるようになってしまったのである。 

 そうこうしているうちに、彼らはアイランド・レコードというメジャーなレーベルに移籍して、レコーディングを始めた。また、トラヴィスのツアーにはオープニング・アクトとして、イギリス中を巡業して回った。

 そして、2004年には待望のデビュー・アルバム「ホープス・アンド・フィアーズ」を発表したが、これが全米初登場1位を記録してしまい、まさに“キーン現象”ともいうべき出来事だった。

 自分は彼らのデビュー・アルバムを購入して聞いたのだが、確かに曲はメロディアスで、上場的な雰囲気に満ちていた。
 それに"Bend And Break"のようにアップテンポの曲もあるし、"Somewhere Only We Know"のようなミディアム調の曲もある。アルバム全体の流れも、よく考えられていると思った。51jna0yucel
 それにメロディー楽器がピアノしかないと言っても、実際は他のキーボードやシンセサイザー、ストリングス・アンサンブルなども使用されているので、そんなに単調すぎることもなかった。
 シングル・カットされた"Everybody's Changing"もボーカル主体の楽曲で、バックの演奏もボーカルに負けることなくしっかりしている。

 普通のバンド形態ならば、間奏にはギター・ソロなり曲のリフなりが挿入されるところだが、ギターレスのバンドなので、当然のことながらギター演奏は聞くことができない。
 そこは、ピアノやキーボードの演奏に置き換えられているのだが、曲の流れから行くと、あまり気にならなかった。
 ただ、ギター・ソロを期待している人やギタリストが好きな人にとっては、飽きが来るのが早いのではないかと思っている。

 エルトン・ジョンというミュージシャンがいる。知っている人は知っていると思うけれど、英国王室から勲章とサーの称号までもらったイギリス音楽シーンのみならず、ロック史の中に残るほどの偉大なミュージシャンである。
 彼は、イギリスの王立音楽アカデミー卒業のピアニストなので、演奏能力のみならず、ロックからディスコ・ミュージックまでその演奏ジャンルも幅広く、しかも高水準を保っているのだが、彼の作る音楽とキーンの音楽を比べると、少し差異が見られる。

 例えば、声質である。エルトン・ジョンの声はどちらかといえば、テノール風で深みのあるいい声をしているのだが、キーンのボーカリストのトム・チャップリンの方は声がよく伸びていて、ファルセットまで使っている。デビュー・アルバムに収められている"She Has No Time"や"Sunshine"を聞けば、よくわかると思う。

 また、エルトン・ジョンの曲作りは本人が作曲し、主にバーニー・トーピンがそれに詞をつけるというパターンが多かったが、キーンの場合は3人で曲作りをしている。
 それに、エルトン・ジョンは基本的にシンガー・ソングライターである。だから、ピアノだけをバックに切々と歌う時もあれば、ギタリストを含むバンド形式で歌うこともある。

 一方、キーンの方は、デビュー・アルバムを聞く限りでは、そういうシンガー・ソングライター風の曲は無くて、ピアノやキーボードを主体にしてのボーカル入りの曲が目立つようだ。
 だから楽曲が命なのだ。メロディー勝負のバンドだと思う。いかに聞きやすくし、多くの人から受け入れられる曲を作れるかどうかが、このキーンというバンドの課題だろう。

 プログレッシヴ・ロックの世界では、例えばE,L&Pのように、クラシックと融合を目指したとしても、キーボードとリズム楽器だけでは、どうしても限界が生じてしまう。その限界の中で、どのように音楽を展開していくかが問題なのだけれども、あまりにも急にポップ化してしまって、人気を失ってしまった。

 キーンの場合も弦楽器がないという状況の中で、どのように人気を保っていくかが問題になるだろう。メロディを紡ぐのはピアノしかないわけで、だから曲の展開やメロディの美しさなどが問われるはずだ。

 このデビュー・アルバムには"Untitled 1"という曲が収められていたが、この曲はリズムが面白くて、まるでドラムマシーンで打ち込みをしたような感じだ。でも、そういう無機質なリズムと複雑なボーカリゼーションが組み合わさって聞き応えのある曲が生まれている。ギターレスのバンドには、こういった工夫が今後も問われてくるはずだ。

 ただ、このデビュー・アルバムは全米でもゴールド・ディスクを記録し、全世界で600万枚以上売れた。自分も購入したのだから、それぐらいは売れただろう。
 しかも、このデビュー・アルバムだけではなかった。彼らは2012年までに4枚のアルバムを発表しているが、その4枚ともイギリスではNo.1に輝いている。アメリカでもセカンド・アルバムは4位、サード・アルバムは7位を記録している。恐るべし、キーン、彼らの魅力は決して色褪せていないようだった。

 2011年には、ベーシストとしてジェシー・クインが加入して4人編成になったことも、よい結果につながったのだろう。翌年発表された4枚目のアルバム「ストレンジランド」もまた、全英チャート初登場1位を獲得している。4704
 しかし残念なことに、2013年にベスト盤を発表した後、無期限の活動停止を発表した。理由は、トム・チャップリンと他のメンバーとの確執や音楽的見解の違いのようだ。
 また、彼はまだ39歳なのだが、父親としての役割も果たしたいということで、ソロ活動を追及していて、2018年までに2枚のソロ・アルバムを発表している。しばらくは再活動はありえないようだ。

 いずれにしても、キーンは、90年代のブリット・ポップ以降、ダンス・ミュージックが主流を占めていたイギリスの音楽シーンにおいて、メロディの復権を唱え、その良さを再認識させたバンドだった。イギリスの内外において、おそらく多くのファンが、彼らの再出発を願っているに違いない。


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