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2018年6月25日 (月)

ザ・モントローズ・アヴェニュー

 このバンドは、なぜ売れなかったのだろうか?本当に良いバンドだったのに残念だ。たった1枚のアルバムを残して解散してしまった。北ロンドン出身のザ・モントローズ・アヴェニューのことである。マイナーなブリティッシュ・バンドの第2回は、このバンドについてになった。

 自分は彼らの曲をラジオで聞いて、またまた素晴らしい才能を持ったバンドが誕生したなあと思い、アルバムを購入したのである。1998年頃のお話だ。
 このバンドは5人組で、そのうち3人の優れたソングライターがいた。それに3人ともボーカルが取れるので、美しいコーラスも聞くことができたのだ。

 彼らの音楽的なポリシーというか方向性としては、アメリカの西海岸風のサウンド、たとえばザ・バーズやバッファロー・スプリングスティーンを志向していて、それにブリティッシュ・ロック的な骨太のダイナミズムを取り入れていた。

 だから、デビュー当時平均年齢22歳のバンドにしては老成していて、70年代のアメリカン・ロックやブリティッシュ・ロックが好きな人なら、きっと飛びつくに違いないという音楽性や面影を備えていた。それで自分としては一発で好きになってしまったのだろう。

 ザ・モントローズ・アヴェニューは、1996年頃にバンドの2人のギタリストであるスコット・ジェイムスとポール・ウィリアムスが出会ったところから始まった。そして、もうひとりのギタリスト兼キーボード・プレイヤーのロブ・リンゼイ・クラークとパブで出会い、バンド構想を練っていった。バンド名も自分たちが生まれ育ってきた場所から取られていた。8713130_2

 彼らは最初から、ザ・バーズやバッファロー・スプリングフィールド、モビー・グレイプなどのバンドの音楽性を取り入れようとしていた。3人の趣味が合ったのだろう。
 そして翌年には、リズム・セクションのベーシストとドラマーが参加して、バンドとして活動を始めたのである。ちなみに、ドラマーのマシュー・エヴェレットはメンズウェアというバンドの元メンバーだった。

 彼らは、当時のU.K.コロンビア・レコードと契約を結び、"She's Looking For Me"や"Where Do I Stand?"などを発表した。
 そして、これらの曲を含む彼らの唯一のアルバム「サーティ・デイズ・アウト」は、1998年の10月に発表された。418cv538yl
 このアルバムは、個人的には、時代の波にのれなかった名盤だと思っている。デビュー・アルバムらしい若さと疾走感が漲っていて、単なるアメリカ西海岸の音楽の焼き直しにはなっていない。
 また、自分たちのオリジナリティもしっかりと発揮されていて、何度も言うけれど、ザ・バーズやバッファロー・スプリングフィールドなどの二番煎じにはなっていなかった。

 全13曲(日本盤は14曲)のうち、4分台の曲は3曲しかなくて、ほとんどが2分か3分台の曲だった。この辺もいかにも新人バンドとしてのフレッシュさが発揮されているという気がした。

 アルバムの最初は、風雲急を告げるサイレンで始まる"She's Looking For Me"で、2分2秒という短い曲ながらもメロディーは際立っているし、テンポも速く、アルバムの冒頭に相応しい曲だった。ただ、シングルとしては118位というチャート・アクションで、ヒットはしなかった。

 2曲目は"Helpless Hoping"というタイトルで、このタイトルを見れば、思わずC,S,N&Yの曲を思い出してしまうだろう。
 ただ、同名異曲であって、C,S,N&Yの曲とは全く違う。この曲も若さに満ち溢れていて、コーラスの巧みさとソングライティングの上手さが伝わってくる。隠し味として、オルガンやピアノが使用されている点が印象的だった。

 一転して3曲目の"Start Again"はギターが主体の曲で、ギター・ソロやハンドクラッピング、交互のリード・ボーカルなどが織り込まれていて、とても新人バンドの曲とは思えないほど素晴らしい。

 このアルバムを聞いて、そんなに70年代風の曲やアレンジなどは意識させられないのだが、"Yesterday's Return"は、確かにザ・バーズのような感じがしてくる。70年代というよりも、60年代のホリーズのような感じだろう。雰囲気としては、ホリーズの"Bus Stop"に似ていると思った。

 バンドは2曲のバラード曲を用意していて、そのうちの1曲"Keep on the Radio"で、壮大なコーラスと流麗なストリングス、それにトランペットの管楽器まで使用されていて、盛り上げに必死である。だからというわけではないだろうが、聞かせるバラード曲になっていた。

 "Where Do I Stand?"は再び疾走する曲になっていたし、"Emergency Exit"もタイトルを反映したような焦燥感と性急感が漂っていた。ただ、このバンドが優れていたのは、それを単なるアップテンポの曲として終わらせることなく、コーラスの美しさや緩急をつけたリズムなどを配置している点だろう。
 この"Emergency Exit"の中でもスライド・ギターが要所要所で使われていて、確かにアメリカ西海岸のサウンドに影響されていたというのが伝わってきた。

 バンドの最後のバラード曲になった"Leaving in the Morning"はキーボードとスライド・ギターとブラスがフィーチャーされた曲で、バッファロー・スプリングフィールドの曲をハードにアレンジしたらこうなりましたよ、という感じがした。シングルとしてはヒットしないだろうけれど、決して悪い曲ではないはずだ。

 10曲目の"Closing Time"は、タイトル通りの穏やかな曲で、アコースティックギターとニッキー・ホプキンス風のリリカルなピアノがエヴァーグリーンな香りを漂わせてくれる。この曲もヒットはしないだろうけれど、佳曲だと思う。もっと注目が集まってもよかったのにと、残念でならない。

 ブリティッシュ・ロック・バンドとしてのパワーがあるのが"Lost for Words"だろう。アコースティック・ギターのイントロから始まり、エレクトリック・ギターのカッティングが始まると一気に勢いを増して走り出していく。それにキーボードが音に厚みをつけ、ボーカルとコーラスが盛り上げていく。わかっていても、こういう展開についつい耳を傾けてしまうのであった。

 アルバム・タイトル曲の"Thirty Days Out"は、約1か月間の恋愛や契約から抜け出そうというもので、コーラスの美しさや曲作りの巧みさ、メロディの印象深さなど、彼らの音楽の魅力を詰め込んだ曲でもあった。

 そして最後は、ニール・ヤングのカバー曲"Ohio"のライヴ・バージョンだった。エレクトリック・ギターが前年に押し出され、何のアレンジもなく、勢いで最後まで突っ走っている曲だったが、これも若さという特権の表れなのかもしれない。617nwl9aqll
 このアルバムは、全英チャートでは102位と全く振るわなかった。このアルバムから4曲がシングルとして発売されたが、"Where Do I Stand?"の38位が最高位だった。あとはすべて50位から出ていた。

 彼らは続く2枚目のアルバムを準備していたようだったが、チャートの結果を見たレコード会社が契約を打ち切ったようだ。実質、約1年間少々の活動で終わってしまった。
 もし彼らが60年代か70年代の初頭にデビューしていたならば、もう1枚はアルバムを発表できただろう。90年代にもなると、音楽性よりは商業性が上位に来る時代になってしまっていたのだ。

 とにかく、この1枚だけで解散してしまうには惜しいバンドだった。バンドのもつテンションは素晴らしかったし、時代の空気にはマッチしていたと思うのだが、オーディエンスの渇望感には欠けていたようだった。ということは、やはり結局は時代の空気感にも合っていなかったのだろうか。

 ブリット・ポップではないし、かといってハード・ロックでもない。ブリティッシュ・ロックの持つ陰鬱性は影を潜めているものの、アメリカ西海岸風のようなカラッとした明るさがメインになっているわけでもない。その辺の中途半端さが受け入れられなかったのかもしれない。

 しかし、それでも一度は耳を傾けてほしいアルバムでもある。何度も言うが、時代の波にのり切れなかった名盤だと思っている。


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