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2018年6月11日 (月)

スターセイラー

 イギリスに、スターセイラーという名前のバンドがいる。日本語にすると、“星間航行者”となるのだろうか。何となくカッコいい感じがするのだが、デビューしたのは、2000年のことだった。

 自分は、このバンドについては詳しくは知らない。ただ、名前があまりにもカッコよかったので、思わず買って聞いてみた。タイトルは「ラヴ・イズ・ヒア」というもので、11曲入っていた。51o1jf8vahl
 楽曲の出来や完成度は、とても新人バンドとは思えないほど完成されていた。老成というか成熟というか、とても新人のバンドのアルバムとは思えなかった。
 逆に言えば、若々しさがない、躍動感がない、聞いていて心が晴れないのだ。ザ・ビートルズの「プリーズ・プリーズ・ミー」とは、180度というか540度は違うのである。

 普通のロックのデビュー・アルバムには、テンポの速い曲やスローなバラードがバランス良く配置されているのだが、このスターセイラーのデビュー・アルバムは、基本的に、曇天の下で梶井基次郎の小説を読んでいるような、あまり気分のすぐれない気持ちにさせてくれた。

 ただ、デビュー・アルバムと思えないほどの重厚で、壮大な、ベテラン・バンドのようなアルバムを発表できるほどの才能があるのは、確かである。
 曲の作詞作曲は、すべてバンド名になっているので、共同で作っているのかもしれないが、バンドの中心メンバーは、間違いなくギター&ボーカルのジェイムズ・ウォルシュである。

 スターセイラーは4人組のバンドで、通常のロック・バンドのフォーマットだった。彼らはイギリスの北西部にあるチョーリー出身で、中産階級の出身だった。

 ご存知のように、イギリスは階級社会で、目には見えないけれども、身分の違いというのは存在している。ただし、それで差別されたり非難されたりすることはなく、むしろ、それぞれの階級に所属している人は、自分たちの階級や仕事にプライドを持っていて、それが階級制の固定化につながっているという説もあるほどだ。

 それでスターセイラーのジェイムズは、オアシスのノエル・ギャラガーに話しかけた時に、横にいたリアムから、「俺の兄に話しかけないでくれ」と言われたそうだ。オアシスは労働者階級の出身なので、中産階級出身のジェイムズに冷たく接したのだろうと言われている。その理由が本当かどうかは不明だが、ありえる話である。

 話は横道にそれたが、彼らはウィガンというところにある大学でバンドを結成した。同場所は、以前紹介したザ・ヴァーヴの出身地でもある。
 ドラマーとベーシストは以前から同じバンドで活動していたが、バンドのボーカルが病気になってしまい、当時大学の合唱部員だったジェームズに声をかけたようである。P01bqm2j
 彼らは中産階級出身とはいえ、当時のイギリスの社会状況は決して明るくはなく、むしろ閉塞感に満ちて、息の詰まるような生活を送っていたようだ。ジェイムズは、「僕たちの住んでいる街では、そういう現実を振り切るには、歌を作るしかなかったんだ」と述べていた。

 もともとジェイムズは歌が好きで、12歳でピアノを始め、14歳で曲を書き始めた。彼がバンドに入った時に、ジェフ・バックリーの「グレイス」というアルバムを聞きこんでいて、その父親だったティム・バックリーの曲からバンド名をつけた。バックリー親子には尊敬の念を持っているのだろう。

 そんな彼らがロンドンのクラブで演奏を行っているときに、ニュー・ミュージカル・エクスプレスの記者がたまたま目撃してそのレビューを記事に乗せたところから火が付き、多くのレコード会社から声がかかり、最終的にはイギリスEMIと契約を結んだのである。2000年10月の頃だった。

 そして、レコード・デビューする前からグラストンベリーのフェスティバルに出演するなど活動を続け、ライヴ活動の合間にレコーディングを行って、翌2001年の8月にデビュー・アルバムが発表された。

 何度も言うが、とても新人バンドのアルバムとは思えないほどの完成度を示している。ただ、躍動感に乏しいのだ。
 だからバンドのアルバムというよりは、感覚的には、シンガー・ソングライターのアルバムに近い。バンド名が象徴しているように、シンガー・ソングライターだったバックリー親子のアルバムのようだった。

 ミディアム・テンポの曲は2曲目の"Poor Misguided Fool"と10曲目の"Good Souls"ぐらいだろう。あとは、アコースティック・ギターの弾き語り("She Just Wept"、"Coming Down")やピアノやキーボードがアクセントになっている曲("Alcoholic"、"Lullaby"など)が多い。

 そして、シングルカットされた"Fever"は、確かに良い曲だと思う。静~動へと広がっていくバラード・タイプの曲で、このアルバムから最初にシングル・カットされた曲だった。全英シングル・チャートでは18位まで上昇している。31ioqkvp6dl
 ちなみに、このアルバムからは、上記の"Fever"以外に、4分台の"Good Souls"や2分台の"Alcoholic"、ニッキー・ホプキンス風のピアノが美しい"Lullaby"などがシングルになっていて、それぞれ12位、10位、36位にまで上がっていた。

 また、アルバム自体もイギリスでは2位に、アイルランドでは4位まで上昇している。イギリスではプラチナ・アルバムに認定されていて、ニュー・ミュージカル・エクスプレス誌によれば、2001年のベスト5のアルバムの1枚に挙げている。

 彼らは2017年まで5枚のスタジオ・アルバムを発表しているが、2009年から2014年まで活動を休止していて、その影響からか、2017年の5枚目のアルバム「オール・ディス・ライフ」は、イギリスでは23位まで上昇したものの、他の国では売れなかった。チャート・インしたのは、イギリス以外では、スイスとベルギーだけだった。

 というわけで、私の中では、バックリー親子の音楽の影響を受けたシンガー・ソングライター風のアルバムを発表するバンドが、スターセイラーだった。ジェフ・バックリーのような音楽が好きな人なら、ぜひ一度は耳を傾けてほしいと思っている。


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