« スターセイラー | トップページ | ザ・モントローズ・アヴェニュー »

2018年6月18日 (月)

マーブルス

 これから、マイナーなブリティッシュ・バンドを数回にわたって紹介しようと思う。いずれも解散したか、解散状態にあるバンドだ。
 ただし、マイナーだけど、音楽的水準は高いと思っている。どのバンドにも言えることは、なぜ売れなかったのだろうか、こんなに良い音楽なのにという印象を伴っているということだ。もし、機会があれば、ぜひ一度は聞いてほしいと思っている。

 それで第1回は、アイルランド出身のザ・マーブルスである。日本ではただ単に、“マーブルス”と表記されていた。R30972701315597529_jpeg
 このバンドの詳細は、今になってみれば、よくわからない。デビュー・アルバムを発表した後、メンバー・チェンジをしたので、それがうまく行かなかったのだろう。あるいは、力を入れて制作したアルバムが、売れなくて自信をなくしたのかもしれない。とにかく、今はもう存在していないのは、間違いない事実である。

 とりあえずは、デビュー・アルバムを聞きながら、このバンドのことをできる限り調べて載せたいと思う。

 このバンドは、1997年にアイルランドで結成された。場所はよくわからない。ダブリンかもしれないし、もっと地方の街なのかもしれない。
 わかっているのは、結成当時は18歳前後の男性だということと、3人のメンバーでスタートしたということだけだった。

 メンバーの名前はわかっている。最小限の3人組バンドで、ドラマーのシーマス・サイモン、ギタリストのジョニー・マクグリン、ベーシストのジャスティン・ウィーランだった。
 曲のクレジットを見ると、シーマスとジョニーの手によるものが多いから、この2人が中心メンバーなのだろう。

 彼らはアイルランド国内で徐々に人気が出てきて、バンド結成して1年後には、“アイルランド国内で、最も期待されている未契約バンド”と呼ばれるようになった。
 そんなときに、彼らをサポートしたのが、アイルランドの国民的バンドであるザ・ポーグスのメンバーだったテリー・ウッズだった。

 彼は自らマネージャー役を買って出て、彼らをいくつかのレコード会社に紹介した。そのうちのZTTレーベルが彼らに興味を持ち、1998年の2月にマネージメント契約を結んだのである。おそらくメンバーはまだ10代だったはずだ。

 ZTTレーベルといえば、設立者はあのトレヴァー・ホーンである。元バグルス、元イエスのメンバーで、本来はミュージシャンだった人だ。
 このレーベルからは、フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドやアート・オブ・ノイズ、シールなどのバンドやミュージシャンが輩出されていて、基本的には、サンプリングやフェアライトなど、最新の音楽的機材やプロダクションを用いたダンサンブルな音楽性を志向したレーベルである。

 そんなレーベル会社であったが、ザ・マーブルスの音楽性はそれとは真逆のもので、ギターとボーカル中心のロックン・ロールだった。しかもデビューして間もないザ・ビートルズ風の爽やかな歌声とメロディアスな曲調も伴っているから、確かに当時は売れるのではないかと思われていた。時代はブリット・ポップの残照がまだ残っていたからだ。(日本の国内盤は、当時のコロンビア・レコードの子会社から発売されていた)

 彼らのデビュー・アルバムは、2000年に発表された。タイトルは「オーヴァーグラウンド」と付けられていた。如何にも彼らの願いが込められたようなタイトルだ。31wzw8b0mel
 このレコーディングの途中に、マルコ・レアというメンバーが加入してきた。彼はギターとボーカルを担当する予定だった。

 なぜ加入したのかというと、ドラマーのシーマス・サイモンがメイン・ボーカルも担当していたので、ボーカル面を強化するために参加してきた。だから、レコーディングの後半部分ではマルコも共作して楽曲を提供していたようだ。

 ところが、ここで予期しないアクシデントが発生したのだ。3人組メンバーでよく起こる問題は、人間関係の軋轢によるものが多い。3人がバラバラになるというよりも、3人のうち1人が残りのどちらかと仲良くなって、ひとりが孤立してしまうということはよくあることだと思う。

 ひょっとしたらこのマーブルスにおいても、このことが起きたのかもしれない。3人組の悪癖みたいなものを乗り越えようとして4人にしようとしたのかもしれない。
 ところが、ここでオリジナル・メンバーだったシーマス・サイモンが脱退してしまったのだ。彼は、アルバムの中ではジョニーと一緒に12曲中9曲を手掛けていたから、バンドにとっては痛手になったのではないだろうか。

 新加入したマルコも残りの3曲中2曲を単独で、残り1曲を共作していて、それなりの高いソングライティング能力を発揮していたが、それだけではうまく行かなかったのだろう。さらにまた、ドラマーが不在になったので、トム・ドミカンという人がアルバム発表後に加入したのだが、新メンバー2人とオリジナル・メンバーとの間で、何かがあったということも考えられる。

 とにかく彼らは、2000年にアルバムを発表したものの、それ以降は目立った動きはなく、いつの間にか自然消滅していた。
 メンバー間の人間関係のみならず、バンドとしての個性も、思うようには発揮できなかったのかもしれない。

 「虎は死して皮を残す」という言葉があるが、ザ・マーブルスも「オーヴァーグラウンド」という素晴らしいアルバムを残してくれた。このアルバムは、初期のオアシスのように瑞々しく、清々しい。
 例えば、冒頭の曲は、短いストリングスからアコースティック・ギターのカッティングが強調されたオアシス調の"Slip Into Sound"というものだったが、これがなかなかの佳曲なのである。60年代の懐古調のメロディと、当時のミレニアムの雰囲気を反映した力強さを備えていて、若い世代も古い世代も満足してしまう魅力を持っていると思った。

 アルバム・タイトルはこの曲から取られたと思われる"Fallin' Overground"は、ミディアム調の耳に馴染みやすい曲になっているし、続く"Crash Car"もアメリカのパワー・ポップな曲を聞いているような錯覚を覚えさせるものだった。曲はギター担当のジョニーが書いていたのかもしれない。アルバムに統一感があるのは、彼のおかげなのだろう。

 4曲目の"History"は新加入のメンバーだったマルコ・レアひとりで書いた曲だが、他の曲と比べて遜色ないし、むしろよりポップ寄りになっている。まるでティーンエイジ・ファンクラブの曲のようだ。

 特筆すべきは、5曲目の"Miles And Miles"というバラードだ。これは90年代のイギリスを代表するような名バラードだと思っている。最初のワン・フレーズを聞いただけで、これはもう涙なしでは聞くことができない名曲だと思ってしまった。メロディーの美しさとバックのストリングスの演奏が絶妙にマッチしていて、何度聞いても感動してしまうのである。

 その他にも、アコースティック・ギターが基調の肩の力を抜いたような"Trampoline"や、地元のアイリッシュ風味の強い"Avalon"、バック・コーラスがユニークな"So Far Away"など、耳を傾けるべき曲は多いのだ。

 彼らのデビューは話題性に満ちていた。曲の良さはもちろんのこと、ZTTレーベルという時代の先端を行くダンス系のレーベルから、正統な英国ロックを演奏するバンドが誕生してきたからだ。だからこのアルバムも売れると思ったのだが、残念ながらそうはならなかった。The_marbles_00s_fallinoverground495
 なぜ彼らが、時代の波の中に埋没してしまったのかはよくわからないが、おそらくオアシスやブラーを代表とする他のブリット・ポップのバンドとの差別化ができなかったからだろう。
 もし彼らがあと3年ほど早く生まれていれば、このバンドは流行の波に乗って成功していたに違いない。それだけの水準は保っていると思うのである。

 もう少しアイリッシュ・バンドとしての個性を発揮したり、ハードな側面も出していけば、もう少し多様なファンを獲得できたのではないだろうか。時代の流れに乗ったように見えて、そこからこぼれ落ちてしまったバンドだった。アルバム・タイトルのように、浮上することはできなかったようだ。


« スターセイラー | トップページ | ザ・モントローズ・アヴェニュー »

ブリティッシュ・ロック」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.f.cocolog-nifty.com/t/trackback/257206/73517386

この記事へのトラックバック一覧です: マーブルス:

« スターセイラー | トップページ | ザ・モントローズ・アヴェニュー »