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2018年7月 2日 (月)

オクトパス

 西洋では、タコは悪魔の魚とか、漁船や人間を海に引きずり込む海の怪物みたいな扱いをされていて、決して食用にはされない。正確に言うと、イタリアやギリシャなどでは食べられているものの、もっと北の方では網にかかっても捨てられてしまうようだ。

 これは、タコが自分の足を食べるという話から、キリスト教では守銭奴のシンボルとして扱われていたり、毒素や催淫作用が含まれているといった俗信によるものらしいのだが、タコにとってはとんだ迷惑な話である。
 実際には、タコにはタウリンがたっぷりと含まれていて、疲労回復や中性脂肪の減少に効果があると、医学的に裏付けられているからだ。

 だから、西洋の人にとっては、タコの英語名であるオクトパスには、あまりいい印象を持っていないのではないだろうか。918
 1995年に、イギリスでオクトパスというバンドが結成され、翌年にアルバムを発表したものの大した結果を残すこともなく解散してしまったが、その原因もバンド名が悪かったのではないかと思っている。「オクトパス」ではなくて、「オクトーバー」とか「オクタビアヌス」、もしくは似たような生き物である「スクゥイッド」か「キャトルフィッシュ」にすれば、もっと売れたのではないかと思ったりもした。

 冗談はこれくらいにして、この「オクトパス」というバンドの唯一のアルバム「フロム aトゥ b」は、結構イケてるアルバムだと思っていたから、このバンドは売れるに違いないと思っていた。ところが、結果は散々でさっぱり売れなかった。なぜだろうか、よくわからない。

 このバンドは、基本的には4人組だった。基本的というのは、当初は4人だったようだが、アルバム制作にはトランペットやハーモニカ、キーボード奏者などが加わっていて、最大8人くらいまでにはなっていた。だから、アルバム・ジャケットの写真には、いろんな人が写っていた。

 彼らはイギリスのグラスゴー近くのランカシャー、ショッツという街で結成された。最初はみんな学校の友だち同士だった。のちにフランス人のドラマー、オリヴァー・グラセットという人が加入するのだが、この人は元テロリストだったという噂があった。

 また、ハーモニカ奏者のニック・レイノルズという人は、有名な列車強盗だったブルース・レイノルズの息子という話もあった。ちなみにブルースの列車強盗事件については、のちに映画になり、フィル・コリンズがその役を演じていた。

 そんなどうでもいいエピソードも伴いながら、彼らはバンドを結成して、当時のブラーも契約していたフーズ・レコードからデビューした。
 彼らのデビューには、ブラーのデーモン・アルバーンの後ろ盾もあったようで、彼らは間違いなくビッグになるとまで言って、応援していたようだ。

 彼らの音楽性は、一言で言うと、サイケデリック・ポップ・ミュージックである。ちょうど60年代後半のイギリスの音楽シーンに出てくるジュライやスティーヴ・ハウも在籍していたトゥモロウのような感じだ。それらの音楽をもっとポップ化したらこう成りましたよという感じの曲が目立つのである。

 メンバーの一人、ギター&ボーカルのマーク・シェアラーは、次のように述べていた。『オクトパスは取っ散らかったバンドなんだ。僕たちは世界一のバンドになろうとは思わないし、なれないのはわかっている。最も重要なのは、いい曲があるかってことなんだ』、『僕たちは、曲を狭いところに押し込めておこうとはしないつもりだ。一つの形のサウンドしか持っていないバンドが多すぎるし、彼らはそれしかできない。そういうのは好きじゃないし、うんざりしているんだよ』

 なんかえらい鼻高々というか、高慢な気がするが、実際に彼らの曲を聞くと、確かに新人バンドとしては、出来過ぎのようなポップ・アルバムに仕上げられていた。彼らも自信を持って発表したのだろう。

 1996年に発表されたアルバム「フロム a トゥ b」には、15曲(日本盤には17曲)収められていて、どこをきってもポップ風味満載だった。6114ugoczl
 1曲目の"Your Smile"はセカンド・シングルに選ばれた曲で、全英シングル・チャート42位まで上昇した。ホーンとストリングス・キーボードのアレンジが、ザ・ビートルズ中期の音楽性を有している。

 基本的に彼らの楽曲はアレンジが素晴らしく、音の装飾については優れていると思う。また、ドラムスがバタバタしていて、何となくリンゴ・スターのドラミングを思い出してしまった。
 2曲目の"Everyday Kiss"もトランペットがぐるぐる回っていて、「リボルバー」や「マジカル・ミステリー・ツアー」の中の曲を連想してしまった。

 エンジンがかかってくるのは3曲目の"If You Want to Give Me More"あたりからだろう。アップテンポのこの曲はノリがいいし、シングル向きでもある。
 ギターのアルペジオが美しい"Kong for A Day"はバラード・タイプでもあるが、途中からサイケデリックな音響空間に導かれ、トリップ感覚も味わうことができる。あえてこういう曲形式をとったのだろう。

 サイケデリックといえば、6曲目と10曲目にはタイトルが付けられていなくて、無題である。6曲目はピアノやキーボードが中心になっていて、それにハーモニカやトランペットが並奏していくスローなインストゥルメンタルだった。
 10曲目は22秒しかない間奏扱いの曲で、楽曲というよりは、サウンド・コラージュとして曲と曲をつなぐブリッジ的な役目を果たしているようだ。

 7曲目の"Jealousy"も管楽器が大きくフィーチャーされていて、ミディアム・テンポの印象的な曲だった。この曲は、このアルバムからの4枚目のシングルに選ばれていて、チャートの59位まで上がっている。

 彼らの最初のシングルは"Magazine"という曲で、このアルバムの中盤8曲目に配置されている。これは疾走感あふれる佳曲で、まさに若さに任せてブッ飛ばしていますというような曲だった。これは売れただろうと思ったのだが、実際は90位と低迷した曲になった。これが売れなかったところが、彼らの不運を象徴していたようだった。

 アルバム・タイトル曲の"From a to b"は、幻想的な雰囲気を持った静かな曲で、ギターのアルペジオと広がりのあるキーボード・サウンド、ハンド・クラッピング、鈴の音などが神秘的で荘厳なたたずまいを表現していた。

 ついでに3枚目のシングルに選ばれたのが、11曲目の"Saved"であり、これまたゆったりとしたミディアム・テンポの曲だった。チャート的には40位とまあまあ健闘していた。
 個人的には、この曲よりももっとテンポの速い"Theme from Joy Pop"の方が、パンキッシュで好きだし、ザ・ビートルズの"She said, She Said"をスロー・バラードにしたような"Night Song"の方が、売れるのではないかと思ったりもした。

 そして、"In This World"は、それほど凝っていないストレートなポップ・ソングで、途中でファルセットで歌われるところなんかは、ボーカルのマークの上手さがよく表れていると思った。やはり、バンド活動後にすぐにレコード・デビューできたのだから、それなりに音楽的能力が高かったのだろう。デビュー時の彼は、ジュリアン・コープの再来とまで言われていたからだ。

 最後に、このアルバムには、ザ・ビートルズの「サージャント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」のように、秘密のメッセージが隠されているという。そのメッセージは、アメリカの作家サリンジャーの作品から引用されていたようだが、そのことに気がついた人は誰もいなかったようだ。まさに本当の“シークレット・メッセージ”になってしまったのである。

 結局、このアルバムが売れなかったのは、あまりにもバラエティに富み過ぎていて、ファンとしては全体像がつかみにくかったからではないだろうか。
 確かにブリット・ポップの時代だったから、レコード会社はこの手の音楽も売れると思ったのだろうが、残念ながら、そうはならなかった。

 ブリット・ポップの時代と言っても、何でも売れるというわけではなかったようだ。このアルバムの場合は、躍動感のある曲がもう2,3曲あれば、もっとバランスの取れた良いアルバムになったし、アレンジを簡素化してメロディの美しさで勝負をすれば、もっと売れたと思うのだがどうだろうか。

 ただ、個人的には結構気に入っていて、今でもたまに聞くことはある。おそらくあと20年もすれば、20世紀末の隠れた名盤として、再評価されるのではないかと期待しているのである。


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コメント

 何時も気合の入ったお話で、月曜日を楽しみにしております。
 「octopus」と言えば、四十数年前のジェントル・ジャイアントのロジャー・ディーンのジャケで有名な人気のアルバムしか頭に浮かばない「老人プログレ派」ですが、こんなところもあるのですね。しかしプロフェッサー・ケイさんの掘り起しには脱帽です。

投稿: 風呂井戸(photofloyd) | 2018年7月 2日 (月) 16時40分

 コメントありがとうございます。風呂井戸氏から評価されることほど、うれしいことはありません。ほとんど自己満足のために続けていたので、今後の励みにもなります。
 ただ、私の場合は洋楽関係がほとんどなので、風呂井戸氏のように、音楽評論から音響製品、写真関係、文芸書等々のように幅広くありません。誠にうらやましい限りです。今後も健筆をふるい続けてほしいと願っています。

投稿: プロフェッサー・ケイ | 2018年7月 2日 (月) 21時01分

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