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2018年8月13日 (月)

ステレオフォニックス

 今回のこのバンド、イギリスを代表する国民的なバンドだ。デビューしてもう20年以上にもなるのだが、アルバムを発表するたびにチャートの首位を飾り、ライヴでもスタジアム級の観客動員を行ってきている。そういう実力を持っているバンドなのだ、このステレオフォニックスというのは。

 最初は3人でスタートした。ギター、ベース、ドラムスという最低限の基本構成だった。メンバーはケリー・ジョーンズ(G&V)、リチャード・ジョーンズ(B)そしてステュワート・ケーブルだった。
 一般的には、3人ともイギリスのウェールズにある人口15000人くらいの田舎町カマーマン出身の幼なじみと言われているが、最初から3人でバンドを組んでいたわけではなかった。

 ケリーとステュワートと他のメンバーで活動していた時に、ベーシストが休みを取って不在になった。その時の穴を埋めたのがリチャード・ジョーンズで、そこから彼らの輝かしい歴史がスタートしたのだ。1991年頃のお話だそうだ。Stereophonics
 ケリーの父親も歌手で、若い頃はロイ・オービソンのバックでも歌っていたらしい。だからケリーも6歳頃から人前で歌を歌い始め、ギターを手にした。ステュワートも10歳頃からタイコをたたき始めた。
 それに小さな町だったから、あっという間に噂は広まって、彼らは活動の場を増やしていった。時には、メンバーを入れ替え、時にはケリーもステュワートもそれぞれ別のバンドで活動しながら、とにかく音楽活動を続けていったのである。

 ケリーとリチャードとステュワートの3人になった時に、最初彼らは“トラジック・ラヴ・カンパニー”と名乗っていたのだが、地元のコンサートの主催者が名前を変えるように要求してきた。
 地元の有力なプロモーターの指示に逆らうと、ライヴ活動にも制限がかかるだろうと思い、また、彼ら自身も名前が長いと思っていたので、思い切ってステュワートの家にあった蓄音機会社の「ファルコン・ステレオフォニックス」から後ろの部分を頂戴して、バンド名にしたと言われている。

 地元のウェールズでは大人気だった彼らにはマネージャーがついて、彼らの活動をさらにサポートしていった。彼らには30を超えるレコード会社から契約の申し込みがあったが、最終的にマネージャーはV2レコードを選んだ。この会社の設立者は、あのヴァージン・レコード社長だったリチャード・ブランソンだった。

 彼はヴァージン・レコードを育てた後、航空機業界に進出しそこでも成功したのだが、もう一度音楽業界に戻ろうと思って、このレコード会社を設立した。だから“ヴァージン・レコード”の2代目ということで、“V2”という名前にしたようだ。
 名前といえば、この契約時に、彼らは“ザ・ステレオフォニックス”から“ザ”を取って“ステレオフォニックス”にした。ちなみに、彼らがV2レコードと契約した最初のロック・バンドだった。

 彼らのデビュー・アルバムは、1997年に発表された「ワード・ゲッツ・アラウンド」だ。全英アルバム・チャートでは初登場6位を記録し、150万枚以上売れ、4枚のシングル・ヒットを記録した。61ecxove6bl
 面白いことに、彼らはハード・ロック・バンドとして認識されていた時もあったようで、ヘヴィメタルの専門誌「ケラング」には、その年の最優秀ブリティッシュ・バンド賞に認定されていた。一方、1998年のブリット・アワードでも最優秀新人賞を獲得していて、このことはブリット・ポップの終焉とともに、ニュー・ヒーローの登場を示唆するものだった。

 彼らの当時の音楽性については、ザ・フーやザ・ポリスと比べられることが多く、エレクトリック主体でありながら、アコースティック・ギターの使用方法とか、現実を直視したシビアな世界観などが話題に上がっていた。

 このアルバムでも"Billy Daveys Daughter"やシングル・カットされて20位まで上昇したバラードの"Traffic"など、スローな曲も素晴らしいし、ストリングスのアレンジなどは新人とは思えないほど手が入れられていて、レコード会社の期待がどれほど高かったかが分かると思う。

 続くセカンド・アルバム「パフォーマンス・アンド・カクテルズ」は、1999年に発表された。このアルバムからは5枚の曲がシングルになり、いずれも3位から11位まで獲得している。特に、3位になった"The Bartender And The Thief"は彼らを代表するヒット曲で、2分54秒と短いながらも疾走感のある曲調と物語性のある暗喩などがリスナーたちの心をとらえたようだ。

 また、"Hurry Up And Wait"や"Is Yesterday Tomorrow Today?"、"A Minute Longer"など、バラード風の曲も相変わらず美メロだし、スピード感のある曲の間に置かれていて、アルバム全体のバランスが取れるようになっている。こういう配慮もこのアルバムの素晴らしさを引き立てている気がする。

 このアルバムはチャートの1位になり、それから1年以上もの間チャートに残るというロングセラーを記録した。この年の6月にはエアロスミスの全英公演のオープニング・アクトとしてウェンブリー・スタジアムで演奏し、7月には地元のウェールズで5万人を集めた単独野外ライヴを行った。ここから彼らの快進撃が始まったのだ。51hexlysy1l

 このセカンド・アルバムから2007年までのアルバム、つまり「パフォーマンス・アンド・カクテルズ」、「ジャスト・イナフ・エデュケーション・トゥ・パフォーム」、「ユー・ガッタ・ゴー・ゼア・トゥ・カム・バック」、「ランゲージ・セックス・ヴァイオレンス・アザー?」、「プル・ザ・ビン」までの5作品は、連続してすべて全英アルバム・チャートの1位になっている。いかに彼らが多くの人から認められ、支持されてきたかが分かると思う。

 ただし、その道は決して平たんではなかった。2003年のアルバム「ユー・ガッタ・ゴー・ゼア・トゥ・カム・バック」前後からメンバー間の関係が悪化していった。特に、ドラマーのステュワート・ケーブルは、レコーディングとライヴ活動の繰り返しによるストレスからアルコールやドラッグに手を出して、薬物中毒になってしまった。

 また、他のメンバーも自分たちの存在意義を忘れて、単なる“ショウマン”に過ぎないと思うようになり、純粋に音楽の楽しみや喜びを伝えられなくなったと思うようになってしまった。

 2003年9月の全米ツアー中に、ついにドラマーのステュワート・ケーブルが脱退してしまうのだが、それから7年後の2010年6月に、彼はウェールズの自宅で亡くなった。原因は書かなくても分かると思う。まだ40歳という若さだった。

 その後彼らは新しいドラマーを入れたり、2009年にはそれまでのサポート・メンバーだったギタリストを正式なメンバーとして迎え入れるなど、現在では4人組として活躍している。O0600040013977437374
 また、連続1位のアルバム・チャートの記録は2013年の8枚目のアルバム「グラフィティ・オン・ザ・トレイン」で途切れたものの、それでも3位と健闘しているし、2年後のスタジオ・アルバム「キープ・ザ・ヴィリッジ・アライヴ」では再び1位になっている。

 自分は彼らの躍動感あふれる曲やしんみりと胸を打つバラードなどが好きなのだが、ひとつだけ気に入らないのが、アルバム・ジャケットである。セカンド・アルバムは曲はいいのだが、ジャケットが気に入らなかった。
 だから次のアルバムを購入するのにためらいがあり、結局購入しなかったのだ。もう少し工夫してくれれば、彼らのコアなファンになったに違いないのだが、そうはならなかった。

 また、彼らの音楽性は徐々にポップにもなっていった。2001年の"Have A Nice Day"や2005年の"Dakota"などはそのいい例だが、いずれもチャートの5位以内に入っていて、ポップになっても彼らの音楽性は受け入れられていったことを示している。
 一方で、"Maybe Tomorrow"や"Superman"のような少しR&B寄りの曲も演奏するようになっていった。彼らもU2のように、徐々に音楽性も広げていったようだ。

 そんな彼らの最初の10年を俯瞰したいと思うのなら、ベスト盤がお勧めである。2008年に発表されたこのアルバムには、彼らの10年間の代表曲が収められていて、お得感がある。また、新曲も含まれていたので、単なる回顧ではなくて、これからも頑張るぞという彼らの意気込みも感じられた。51wi5jztjxl
 彼らは昨年、10枚目のスタジオ・アルバム「スクリーム・アバヴ・ザ・サウンズ」を発表していて、今はツアーを行っている。ネットからのダウンロード中心のこの時代に、チャートでは2位と良い結果を出していた。まだまだ彼らの人気には衰えが見えない。


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コメント

 酷暑の中お元気なご様子何よりです。
 本来なら私の生息地は、首都東京からは羨ましがれる夏向きの地なんですが、なんと最近は東京より熱いのですから居たたまれません。それでも老骨に鞭打って働いている私です(笑い)。
 プロフェッサー・ケイ様の探究心の結果から、私の知らない世界にあって、若干取り付くところも無かったのですが、このStereophonicsは聴いていました。”聴いていました”というのは、最近はちょっと離れていて経過が良く解らなかったのですが・・・フンフンとお話しをしっかり読ませて頂いてます。
 私としては、その何年か前は、彼らの演奏、ヴォーカルになんとなく陰影が感じられるところが接点であったと思います。その陰影こそ2ndアルバムの女性の視線にあると思ってますが・・・。近年は解らないのですが、そうです忘れちゃ行けないバンドでした。こんな雰囲気って意外や意外、英国のせいか、steven wilsonの歌にもある種似ているところも感じているのですが、それは私だけの話でしょうか?。でも今の私には懐かしさの世界でして、ちょっと反省して近年も探ってみたいと思った次第です。

投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2018年8月13日 (月) 21時37分

 これはビックリ、まさかあの風呂井戸氏から、このステレオフォニックスにコメントが寄せられるとは思ってもみませんでした。
 しかもステレオフォニックスを実際に聞いていたとは驚きです。あらためて風呂井戸氏の博覧強記ぶりを知らされた次第です。

 しかもワーカホリックで有名なプログレ界の天才職人のスティーヴン・ウィルソンとの類似性まで指摘されていました。なるほど、もう一度襟を正して聞き直してみようと思います。またお気づきの点がありましたら、ご指摘並びにご指導を賜りたいと思っています。今後ともよろしくお願いします。

投稿: プロフェッサー・ケイ | 2018年8月13日 (月) 22時33分

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