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2019年2月18日 (月)

ワールド・トレイド

 さて、今年もやってきましたプログレ祭り。今回は2か月間限定ということで紹介することにした。実際、最近はプログレッシヴ・ロックのアルバムをあまり聞かないからだ。なかなか良質のアルバムに出会わないのである。

 さて、第1回目はワールド・トレイドというバンドだ。知っている人は知っていると思うけれど、一時期イエスに在籍した、そして今は再び加入し、ツアーに同行しているビリー・シャーウッドが中心となって結成されたバンドである。Worldtrade17c
 ビリー・シャーウッドといえば、イエスのベーシストだったクリス・スクワイアが、死の床で自分の後継者として指名したと言われるほどのミュージシャンだ。昔からビリーのベース音はクリス・スクワイアのゴリゴリのリッケンバッカーの音とそっくりだった。アタックの効いたそのサウンドは、クリス・スクワイアの代名詞だったのだが、今ではビリー・シャーウッドが見事にその代役をこなしている。

 また、演奏面のみならず声質についてもクリス・スクワイアによく似ていて、高音の伸びや声域の広さもクリスを補って余りあるというものだった。それに、時々ジョン・アンダーソンと聞き違えるかのような歌い方もあって、このビリー、実は昔からのかなりのイエス・ファンではないだろうかと思っている。
 実際、1989年にはジョン・アンダーソンの後任ボーカリストとして白羽の矢が当たって、デモ・テープをレコーディングしている。80年代の終わりからイエスはボーカリスト探しを行っていて、それは今に始まったことではなかったようだ。

 その後、ビリーは1991年の8人編成イエスのアルバム「ユニオン」の中で、クリス・スクワイアと一緒に"The More We Live - Let Go"を共作しているし、1994年夏に行われた「トーク」ツアーで、サポート・ミュージシャンとしてステージに立っている。さらには、1996年の2枚組アルバム「キーズ・トゥ・アセンション」でのスタジオ録音曲を2曲分をミキシングしていた。この時点ですでにイエス加入については、時間の問題といってよかったのだ。

 ビリー・シャーウッドについては、クリス・スクワイアとの共同アルバム「コンスピラシー」やトニー・ケイなどと組んだバンド、サーカなどを通して、何度もこのブログで紹介してきたので、もう詳しく語る必要はないだろう。イエスのオリジナル・メンバーがいずれも70歳代になっているなかで、唯一、彼だけはまだ53歳と若い部類に入るのである。

 ネヴァダ州ラスヴェガス出身のビリー・シャーウッドは、80年代に実の兄であるマイケル・シャーウッドとともに、ロジックというバンドを組んで1985年にアルバムを発表したが、やがて解散して、その後元ストーン・ヒューリーというバンドのギタリストであるブルース・ゴーディとともにバンドを結成した。それがワールド・トレイドだった。1988年頃のお話である。

 彼らは1989年にデビュー・アルバムを発表した。全11曲だが、オープニングの"The Painted Corner"は煌びやかなシンセサイザーが目立つ2分足らずのインストゥルメンタルだった。2曲目の"The Moment is Here"は、ワールド・トレイドを代表する曲だろう。ゆったりとした曲で、先ほどの"The More We Live - Let Go"に雰囲気がよく似ている。適度にプログレッシヴで、適度にポップなのだ。後に3枚目のアルバムのボーナス・トラックとして収録されていたから、彼ら自身も気に入っているのだろう。51vl4nnvll
 "Can't Let You Go"は、どことなく80年代初期に流行ったL.A.メタルのようだ。テンポの速いL.A.メタルの曲をクリス・スクワイアがアレンジしたような感じで、声もクリスに似ているし、高音部はジョン・アンダーソンのようだ。

 "Life-Time"は90年代のイエスの曲のように聞こえてくる。ベース音がまさにリッケンバッカーしているし、声質もイエスの曲に似ている。この曲はビリー・シャーウッドとブルース・ゴウディの共作だが、ギタリストのゴウディがあまり目立っていない。もう少し目立つギター・ソロなりフレーズを聞かせてほしかったのだが、それがない。アルバム通しても、ギターが目立っていないのだ。むしろキーボードの方が目立っていると感じた。

 ブルース・ゴウディは、元はメタル・バンドで活動していたからギター・ソロはお得意のものだと思うのだが、このアルバムではあまり目立っていない。スタジオ・ミュージシャンとしても働いていたし、1987年からは矢沢永吉のツアー・ギタリストとして約10年間活動していたから、決して実力は劣っていないと思うのだが、力の出し惜しみか、あるいは楽曲に合っていないからと削られたのだろうか。

 ブルース・ゴウディ自身は、理想とする音楽とはティアーズ・フォー・フィアーズとレッド・ゼッペリンをミックスしたようなサウンドで、現存するHR/HMとは異なるテクノロジーを大胆に導入したもの、と以前インタビューで答えていたが、ちょっとビリー・シャーウッドの音楽観とは違うようだ。

 唯一、7曲目の"The Revolution Song"ではやや長いソロを聞かせてくれていて、かつて流行った速弾きを披露している。そのあとキーボード・ソロがあるのだが、楽曲自体がイエスのようなプログレッシヴ・ロック風だからだろう。

 とにかくこのアルバムは、“リトル・90年代イエス”といった内容で、90年代のイエスの楽曲をこじんまりさせたような感じがした。あるいは逆に言うと、90年代のイエスの方が70年代のイエスよりも極小化してきたともいえるだろうし、さらには、90年代のイエスの楽曲に占めるビリー・シャーウッドの影響力がいかに強かったかが分かるだろう。

 また、全体的にゆったりとした楽曲が多くて、何となく爽快感が味わえない。複雑な曲展開もなく、印象的なソロも少ない。どの曲も似たように思えてきて、ある意味、単調で面白みがないのである。

 そして、ワールド・トレイドはこの1枚で活動を停止してしまった。ブルース・ゴウディは、ワールド・トレイドのキーボーディストだったガイ・アリソンとともに、アンルーリー・チャイルドというバンドを結成し、ビリー・シャーウッドの方は、ザ・キーというバンドを結成した。
 アンルーリー・チャイルドの方はアルバムを1枚発表したものの、商業的には成功せず解散の憂き目にあってしまった。
 ビリーの方も自分のバンドよりもイエスとともに活動することの方が多くなり、最終的にはアルバムを出すこともなくバンドは消えていった。(その後1997年には「ザ・キー」というアルバムを発表している)

 ところが、1995年にワールド・トレイドがドラマーを代えて復活し、セカンド・アルバム「ユーフォリア」を発表した。このアルバムには、本物のクリス・スクワイアが参加して、2曲で共演を果たしている。たぶん、ビリーをイエスへのヘッド・ハンティングしに来たついでに、アルバムに参加したのだろう。418dv0e078l
 ビリー・シャーウッドは、イエスの1997年のアルバム「オープン・ユア・アイズ」から正式メンバーとしてクレジットされ、1999年のアルバム「ザ・ラダー」に伴うツアーまで在籍していた。(もちろん現在では再び正式メンバーにクレジットされている)

 その後のビリーは、ソロ・アルバムの発表や、他のミュージシャンのアルバムに参加したり、プロデュースしたりと八面六臂の活躍をしていたが、ワールド・トレイドとしては、突如として2017年に約22年振りのアルバム「ユニファイ~統合理論」というアルバムを発表した。

 前作の「ユーフォリア」では、ドラマーがエイジアやイエスのアラン・ホワイトの代役をしていたジェイ・シェレンだったが、このアルバムではオリジナル・メンバーだったマーク・T・ウィリアムズに戻っている。彼は、「スター・ウォーズ」や「ハリー・ポッター」などの映画音楽の巨匠として知られるジョン・ウィリアムズの息子だという。

 基本的にこのアルバムも、ビリー・シャーウッドの個性が発揮されていて、今までのアルバムと大きな変化はない。ただ1曲当たりの楽曲が長くなった分、より複雑でプログレッシヴした雰囲気を味わうことができる。51sx8t6znol
 それに、ブルース・ゴウディのギターもデビュー・アルバムよりは目立っているし、楽曲に貢献している。ただ残念なのは、アコースティック・ギターやスライド・ギターなども披露してほしかったことだ。そうすればもう少し曲に色どりを施すことができたのではないだろうか。

 "Pandora's Box"は疾走感があっていいし、各楽器のバランスもいいが、各人のソロ、特にギターとキーボードに関しては、もっと目立ってもいいのではないか。この辺は本家イエスを見習ってほしいものである。続く、"Gone All The Way"はワールド・トレイドの得意なややゆったりしたタイプの曲で、ブリティッシュ風味の陰鬱な展開を含んでいる。

 アルバム・タイトル曲の"Unify"もまたスピード感があり、やや複雑な曲展開を持っていて、こういう曲を聞くとプログレッシヴ・ロックのアルバムだと実感できる。もう2曲くらいこんな感じの曲があればよかったと思った。
 また、"Same Old Song"という曲には珍しくバンジョーが使われていて、そういう意味ではデビュー・アルバムよりは工夫されているだろう。こういう意欲的な試みをもっと発揮してほしいものだ。だって、プログレッシヴ・ロックのアルバムなのだから。

 現在のビリー・シャーウッドは、イエスに在籍しているのと同時に、サーカ、ワールド・トレイド、その他のソロ活動やプロジェクトとして活動しており、ある意味、スティーヴン・ウィルソン、ロイネ・ストルトと並んで現代のプログレッシヴ・ロック・シーンを牽引していると言えるだろう。
 できれば、その優れた才能を分散させないで、何か一つに集中させて後世に残るような傑作を作ってほしいと願っているのである。


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コメント

 相変わらず読み応えのあるアーティクルに圧倒されます。
 大御所イエスに関しては、私は御三家ではクリムゾン、フロイドについで3番目という人間で、しかもハウよりはトレバー・ラビンのイエスが好きだったというアウトサイダー的人間でしたので、現在は殆どアプローチなしなんです。あの8人スエスでどうも終わってしまったという感じなんです。
 しかしミュージシャンを一人一人こうして掘り下げていただくと、それなりにその経歴、業績は興味のつきないところに有るんですね。プログレの世界は又そのミュージシャンのある姿というのは味のあるところがよく解りました。

投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2019年2月20日 (水) 11時17分

 コメントを寄せていただいてありがとうございます、風呂井戸さま。やっと気づきました。もう自分自身でさえも、半ば見捨てているようなブログですから滅多に見ないのです。

 しかし、トレバー・ラビンのイエスが好きという人も珍しいと思います。でも彼の参加によって、復活したのは間違いないわけで、そういう意味では、”中興の祖”と言ってもいいのではないかと思っています。
 フロイドは別として、クリムゾンとイエスは彼らの奏でる音楽と同様に、起伏の激しいメンバー・チェンジは共通しているようです。

投稿: プロフェッサー・ケイ | 2019年2月23日 (土) 21時08分

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