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2019年4月22日 (月)

コーポレイト・アメリカ

 ボストンというアメリカのロック・バンドについて記すことにした。特に深い理由はなくて、以前からこのアルバムを聞きたくて、最近購入して聞いたからだ。

 このアルバムというのは、彼らの5枚目のスタジオ・アルバムにあたる「コーポレイト・アメリカ」のことである。2002年の11月に発表されたもので、全10曲47分余りの内容だった。
 なぜこのアルバムが聞きたかったかというと、彼らのアルバムにしては売れなかったという理由と、売れなかったのはアメリカの大企業を批判したせいで、プロモーションが十分させてもらえなかったという噂を聞いたからだった。41th8d26apl_2
 ご存知のように、ボストンは1976年にアルバム「幻想飛行」でデビューした。このアルバムは、全米のアルバム・チャートでは最高位3位どまりだったが、セールス的にはアメリカだけでも1700万枚以上、全世界で20000万枚以上の売り上げがあり、今でも30周年記念盤「幻想飛行」が発売され、売れ続けている。

 続く1978年のセカンド・アルバム「ドント・ルック・バック」、1986年のサード・アルバムの「サード・ステージ」は、連続してチャートの首位に輝き、1994年の4枚目の「ウォーク・オン」も100万枚以上売り上げ、7位になっていた。
 ところが、1997年の「グレイテスト・ヒッツ」を挟んで、2002年に発表されたこのアルバムは、チャート的には42位と低迷し、アルバム・セールスも約50万枚程度だった。まさに、70年代の往時を知る者にとっては信じられない悲劇であり、ボストンというブランドにキズがついたような出来事だったのである。

 ところがなぜ売れなかったかという理由が、半ば都市伝説のように語られていった。それが上記にもあったように、アメリカの大企業を批判したために圧力がかかり、プロモーションができなかったというものだった。また、それだけでなく、一部自主回収もされたという噂もまことしやかに流されていた。

 このアルバムの中に収められていたブックレットの裏表紙には、次のように書かれていた。ちなみに自分は輸入盤を購入して聞いたので、日本語訳はついていなかった。だから、正確な日本語ではないことをお許し願いたい。
 “化石燃料を保護しよう、ムダな資源を削減しよう、菜食主義者の生き方を学ぼう、動物製品を避けよう、銃ではなくカメラで仕留めよう、環境保護者に投票しよう、児童虐待や動物虐待を知ろう、毛皮を買うな!”2_000000002394
 そしてその後には、動物保護団体や環境保護団体、児童虐待を防ぐ委員会などにアクセスできるメール・アドレスが記載されていた。ということは、ある意味、このアルバムはプロテスタントな色合いの濃いアルバムだったということが分かる。ちなみに、リーダーのトム・ショルツ 自身も30年以上のヴェジタリアンとのことだった。

 しかし、これだけでは大企業の批判とは言えないだろう。そこで、アルバムの3曲目に収められていたアルバム・タイトル曲"Corporate America"の歌詞について調べてみた。
「誰が人類の退化を防ぐことができるのか
自分を見つめろ、みんなで協力しよう
たばこ産業やビジネスジェット機のグローバル化などは
恥ずべき事 みんなはそれを最大限に好んでいるけど
だけど結論はまだ取り出して突きつけることはできる

さあ行動を起こせ 俺は今夜少し手助けが必要なんだ
お前は何というのか
お前は何というのか
明かりが見えない時でさえも」

(訳;プロフェッサー・ケイ)

 要するに、環境保護の大切さや地球温暖化の危機のことを暗に仄めかしていて、これ以上地球がこのままいけば滅びるぞ、人類は協力してこの危機的状況を打開できるはずだと訴えている。確かに、かつてのゴア副大統領あたりが聞いたら喜びそうな曲かもしれないが、これだけで大企業批判には当たらないだろう。

 ただ最後のフレーズに、「レザー張りのメルセデスを注文して何の意味があるんだ」という言葉があり、固有名詞が出てくるのはここだけなので、ひょっとしたらこれが原因とも考えられるが、たぶん違うだろう。
 一番の問題は、このアルバムは、それまでのエピックやMCAというメジャーなレコード会社からアルテミスというマイナーな会社に移籍して発表されたものだったから、十分なサポートが受けられなかったことは言えるだろう。そこから、上記のような噂が生まれた(あるいは意図的に流された)のではないだろうか。

 肝心のサウンドはどうかというと、特徴的なギターの多重サウンド、空に突き上げるかのようなスペイシーな音の響きなど、今までのボストンを継承している。
 ただ、このアルバムではトム・ショルツ以外のメンバーが健闘していて、2曲目の"Stare Out Your Window"と6曲目の"Turn It Off"、7曲目の"Cryin'"はアンソニー・コスモという人の手による曲で、この人は同じボストンの当時のメンバーであるフランシス・コスモの息子だった。息子の書いた曲を父親のフラン・コスモが3曲とも歌っていたのだ。

 フラン・コスモは、アルバム「ウォーク・オン」から参加していた人で、ブラッド・デルプの代わりにリード・ボーカルを取っていた。ボストンにはこのアルバムとそれに伴うツアーまで参加している。アンソニーは、2002年のツアーからボストンに参加し、2006年頃まで在籍していた。ギターやベース・ギター、ドラムスにキーボードと何でもこなすマルチ・ミュージシャンでもあった。

 アルバム・タイトル曲の"Corporate America"は、何故かディスコ調の曲で、ブラッド・デルプとフラン・コスモ、新人女性ボーカリストのキンバリー・ダーマという人の3人が歌っていた。バックの演奏は、ドラムスからキーボードまで、すべてトム1人が演奏している。ディスコ調にアレンジすることで、切迫感や自堕落な様子を表現しようとしたのだろう。

 4曲目の"With You"は、女性ボーカリストのキンバリーの手による曲で、キンバリーがアコースティック・ギターを担当し、トムがエレクトリック・ギターとベース・ギターを演奏する素朴なバラードである。ウェストコースト風の爽やかなバラードなのだが、途中のエレクトリック・ギターの入り方がいかにもトム流で、ワ~といっぺんに多重録音で入ってくるのがちょっと残念だった。バラードなのだからもう少しそっと来てくれると、盛り上がっただろうに。

 キンバリーは、53歳になるアメリカ人のミュージシャンで、ボストンではベース・ギターも担当していたが、ベース・ギターに関してはボストンに加入が決まってから手ほどきを受けたようで、そんなに得意ではないようだ。基本はボーカルとギターである。3393672570_74d2a256f6_o
 "Someone"はブラッド・デルプとトム・ショルツの2人のパフォーマンスで出来ている曲で、次の"Turn It Off"とともに、ミディアム調のややダークな曲だった。
 この"Turn It Off"と"Cryin'"については、上にも述べたようにアンソニー・コスモの手によるもので、ボストンというよりは、西海岸のオルタナティブ・ロック・バンドの曲のようだ。メロディアスでありながらも刺々しい雰囲気も備えていて、個人的には好きな曲だった。トム・ショルツのギター・ソロがなければ、ボストンの曲とは誰も気がつかないだろう。

 "Didn't Mean to Fall in Love"は、珍しくトムがアコースティック・ギターのソロも演奏している。また、ハモンド・オルガンなども使用されていて初期の雰囲気を携えていた。ただ、メジャー調ではないので、明るい曲ではない。制作者はトムとカーリー・スミス、ジャネット・ミントという人たちだった。トム以外は、具体的にどんな人かはよくわからなかった。(カーリー・スミスはドラムスを演奏するようだ)

 9曲目の"You Gave Up on Love"では、再びキンバリーがメイン・ボーカルを務めており、伸びのあるボーカルを聞かせてくれる。"More Than A Feeling"の二番煎じといった感じで、フルート演奏が少しだけいい味を出している。
 最後の曲の"Livin' For You"は、ライヴ音源で、オリジナルは「ウォーク・オン」に収録されている。"Peace of Mind"をかなりスローにした感じで、フラン・コスモがリード・ボーカルを、ブラッド・デルプがハーモニーをつけている。一応、ボーナス・トラック扱いだが、そのクレジットはないようだ。

 とにかく、発表されたときは、酷評されたアルバムだったが、最近では再評価されてきている。トムのギターの音色は相変わらず独特だし、それに加えてキンバリー・ダームとコスモ親子の参加がアルバムに色どりを添えている。ディスコ調の曲には参ったけれど、冒頭の"I Had A Good Time"やアンソニーの手による"Stare Out Your Window"や"Cryin'"、バラード調の"With You"など、バラエティに富んでいて聞いていて飽きない。6q0j1u10
 このバラエティの豊かさが、従来のボストン・ファンに受け入れられるか、受け入れられないかが評価の分かれ目だろう。むしろ、ボストンのアルバムと思って聞かない方が受け入れやすいのではないだろうか。ただ、セール私的にはこのアルバムからトム・ショルツの神通力は失われてしまったようだ。


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