« ザ・ドラムス | トップページ | アフリカ・スピークス »

2019年9月 2日 (月)

ホージアの新作

 「今年上半期の気になった新作シリーズ」の第2弾は、アイルランド出身のシンガー・ソングライター、ホージアの新作である。このホージアという人は3年前にもデビュー・アルバムについて、このブログでも取り上げていた。期待の大型新人として紹介したつもりだったが、ここ日本ではイマイチ盛り上がりに欠けていたようだった。日本でも海外のシンガー・ソングライターは受けないのだろうか。受けるのはバンド活動をしている人たちやエド・シーランぐらいかもしれないなどと思っていた。1

 前回にも書いたけれど、ホージアのシングル"Take Me to the Church"は2013年に全米2位を獲得し、翌年のデビュー・アルバム「ホージア」は全英で3位、全米では2位まで上昇した。母国アイルランドでは、当然のことながら首位に輝いている。また、2014年度のグラミー賞の"Song of the Year"にもノミネートされていた。
 それほどの人気なのに、何故か日本では一部で盛り上がってはいるものの、いま一つパッとしない。これはきっと国内盤が発表されなかったからではないか、そして発表されないから当然のことながらプロモーション不足ではないかと思っている。無名の新人については国内盤が出されるのに、これほど実力あるミュージシャンが冷遇されているのは腑に落ちないのである。81nsetbgiol__sl1500_

 前回も書いたけれど、もう一度、簡単に彼のプロフィールを紹介したいと思う。現在は29歳のホージアは、父親の影響で幼い頃から音楽に親しんでいた。父親はブルーズ・ミュージシャンで普段は銀行で働きながら、夜はパブや、声がかかれば地方のスタジオなどでドラムを叩いていたようだ。
 ホージア自身も15歳頃から曲を書き始め、高校卒業後はダブリンにあるトリニティ・カレッジで音楽を専攻した。しかし、学校生活に馴染めなかったのか、あるいはプロとしての意識が芽生えたからなのか、1年で退学して作曲に専念したり、デモ・テープ作りを行うようになって行った。ただ、退学しても合唱団に所属し、人前で歌うことは心がけていたようだ。
 2013年に5曲入りのEPを自主制作すると、その中に収められていた"Take Me to the Church"がインターネットで評判になり、あれよあれよという間に世界中でヒットしていったのである。まさに、この辺はシンデレラ・ストーリーだろう。

 この"Take Me to the Church"という曲は、性的マイノリティーに対する教会側の方針に対して異を唱えるもので、特にアイルランドでは、昔から権力側にいた教会が、マイノリティーの人々や他宗派の人たちに対して、偏見をもって接していたようだ。ホージア自身はアイルランドでは珍しい少数派のプロテスタントに属していたから、カトリックであれプロテスタントであれ、宗教的権威については根強い反発があるのかもしれない。

 それでデビュー・アルバムから約5年、この間ツアーを続けながら曲作りに励んでいたホージアは、2018年に、「ニーナ・クライド・パワー」という4曲入りのEPを発表した。タイトル曲にはアメリカのR&Bシンガーであるマーヴィス・ステイプルズがフィーチャーされていた。名前を見て気づかれた人もいるかもしれないけれど、彼女はあの名高いステイプル・シンガーズの一員でもある。Nina_cried_power_ep
 そして2019年には、ついにセカンド・アルバムとなる「ウェストランド、ベイビー!」を発表した。全14曲、57分というボリューム豊かな作品で、EP「ニーナ・クライド・パワー」とのダブりは2曲("Nina Cried Power"、"Shrike")だけだった。
 一聴した限りでは、アルバム前半はロック色がにじみ出ているが、後半は前作のようなシンガー・ソングライター風の曲が続いているようだった。

 "Nina Cried Power"は”ゴスペル+ロック・ミュージック”といった感じで、力強いビートに乗って、ゴスペル風のバック・コーラスが展開される中で、ホージアの歌声が性急に何かを訴えるかのように表れてくる。また、途中にはマーヴィス・ステイプルの声がフィーチャーされ、曲に色どりを添えるのである。
 このアルバムにはホージアを入れて4人の名前がプロデューサーとしてクレジットされているが、その中の一人マーカス・ドレイヴスとの共同プロデュースがこの"Nina Cried Power"だった。

 ちなみに、ホージアはそれぞれのプロデューサーと全曲で共同制作していて、マーカスとは9曲、残りの2人については、アメリカ人のアリエル・レクトシェイドと2曲、アイルランド人プロデューサーのロブ・カーワンと3曲である。プロデューサーの違いで曲の趣向が全く違ってくるということはないのだが、アリエルとの曲、5曲目の"Nobody"と6曲目の"To Noise Making"は何となくポップな感じがした。”ゴスペル+ポップ・ミュージック”である。何となく協会の合唱団をバックに歌うエド・シーランのような気がした。

 また、1曲を除いてすべてホージアの作詞・作曲である。その1曲とは7曲目の"As It Was"で、これはアレックス・ライアンという人との共作曲だった。この曲は雰囲気的にダークで、それまでの楽曲とは少しイメージが違った。バラード系には間違いないのだが、暗い冬空と荒涼と吹きすさぶ原野を想起させる。

 2曲目の"Almost"には"(Sweet Music)"という副題がついているのだが、そんなに甘い歌ではない。これもソウル風で、これにアイリッシュ風のリズムが微妙に合体している。その危うさが非常に印象的で、そういう意味では"Sweet Music"なのかもしれない。
 "Movement"はスローなバラード曲。これはデビュー・アルバムの系列に含まれるような曲で、空間を生かしたバック・コーラスが素晴らしい。
 この人の特徴は、やはりゴスペル・ミュージックとは切っても切れない関係という点ではないだろうか。一人で切々と歌うというような従来のシンガー・ソングライター風ではなくて、壮大なバック・コーラスやエコーを生かした空間的な響きをどの曲も伴っていて、そういう意味では、アイリッシュ風でもあり、アメリカ南部風でもある。だから、欧米、特にアメリカでは好まれるのであろう。

 4曲目の"No Plan"もバックの重く引きずり込むようなビートがロック的でもあるし、逆に、それを膨らましているコーラスは天空にいざなうかのように持ち上げるのである。
 "Shrike"は前年に発表されたEPにも収録されていた曲で、これはホージア風のフォーク・ソングだろう。基本的にはアコースティック・ギターだけなのだが、この人の場合はこれだけでは終わらずに、最小限度の装飾音がついてくる。それでもそれが嫌味にならず、むしろ豊かな想像力が引き出されて行くのだから見事なものである。

 この"Shrike"や次の"Talk"などを聞くと、デビュー・アルバムの延長上に連なる楽曲だとわかる。前半までは重いビートやテンポ良い曲が目立ったのだが、このアルバム中盤辺りからは落ち着いてくるのである。
 10曲目の"Be"もバックのファズ・ギターが目立つものの、全体的には静かな部類に入るだろう。大ヒットした"Take Me to the Church"の二番煎じという声もあるが、こういう音的感覚はホージア独特のものではないだろうか。これに類するものとしては、同じアイルランド出身のU2にも感じられるところだ。特に、U2のエッジのギター感覚に類似するところもあるのだが、アイルランドという土地柄とも関係があるのかもしれない。

 一転して、アルバム前半の雰囲気に戻るのが次の曲の"Dinner&Diatribes"だ。ここでもドラムスが強調されていて、それにエレクトリック・ギターが絡みつき、女性コーラスも後を追うようについてくる。このアルバムが、前作よりもハードになったといわれるのもうなずけるところである。
 そして"Would That I"では、また一転してアコースティック色になり、デビュー・アルバムを彷彿とさせる。従来からのファンやアイリッシュ・ソングが好きな人には懐かしいだろう。

 13曲目の"Sunlight"は、自分にはキーボードの音がチャーチ・オルガンに聞こえてくるほどのホージア風ゴスペル・ミュージックである。これはまさに21世紀に生きるゴスペル・ソングだろう。全体的にはゆったりなものの、途中にはアコースティック・ギターがリードする部分はあるし、バックのコーラスが目立つところもある。そういうバランスが素晴らしいと思う。

 そして最後の曲が、アルバム・タイトルの"Wasteland,Baby!"である。冒頭はアコースティック・ギターで導かれ、徐々にキーボードやベースなどの楽器が加わり、ゆったりと盛り上がってゆく。ところが、それはある意味、ホージアの定石通りではあるものの、その盛り上がりのスケール感はあえて抑え気味であり、逆に言えば肩すかしを食らったような展開になっている。この辺は、彼のシンガー・ソングライター資質が表れているような気がした。この曲が最後に置かれたのも、そういう意図的な印象操作みたいなものがあったのかもしれない。でも、良い曲だと思っている。

 このアルバムは、全米アルバム・チャートでは1位を獲得したし、全英でも6位、アイルランドでは当然1位になっている。これは昨年度EPを発表した後、プロモーションを兼ねたライヴ活動を行ったからではないかといわれているが、約5年間待たされた世界中のファンの期待度の表れでもあろう。
 また、アルバム・ジャケットはホージアの母親が手掛けていて、彼女は画家でもあるそうだ。そういう意味では、彼は芸術一家に生まれたのだろう。71lk89vobel__sl1500_  いずれにしても、これだけの世界的な評価を得ているミュージシャンのアルバムが国内盤未発売という点はいかがなものかと考えている。権利や契約の関係で難しい部分があるのかもしれないが、その点は早く解消して発表してほしい。その時は、2018年に発表されたEP4曲分をボーナス・トラックとして付け加えてほしいものである。


« ザ・ドラムス | トップページ | アフリカ・スピークス »

ブリティッシュ・ロック」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« ザ・ドラムス | トップページ | アフリカ・スピークス »