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2019年9月 9日 (月)

アフリカ・スピークス

 今年の上半期に発表されたアルバムの中で、気になったものを記している。今回で3回目だが、一気に知名度が上がっていく。何しろサンタナなのだから、これはもう正座をして聞いてもおかしくないだろう。800x_image  今年はウッドストックから50年目の佳節だった。本当はその聖地ウッドストックで、当時のミュージシャンやバンドを中心にニュー・フェイスも含めて大々的なイベントを行う予定だったのだが運営上うまくいかず、結局、イベント自体は取りやめになってしまった。残念なことではあるが、大物ミュージシャンが参加を避けたので集客の見込みが立たなくなったようだ。その中にはサンタナも含まれていた。ただ、サンタナやジョン・フォガティなどは、8月15日から行われる非公式のライヴ・イベントには参加すると表明していて、昔からのファンを安堵させていたが、果たしてどうなったのだろうか。

 そのサンタナだが、今年の1月には5曲入りのミニ・アルバムを発表しているし、6月には11曲入りのフル・レングスのアルバムを発表した。カルロス・サンタナ自身は72歳になるが、その創作意欲には翳りは見えないようだ。
 そのアルバム「アフリカ・スピークス」は、サンタナ・バンドにとっては25枚目のスタジオ・アルバムにあたり、ウッドストック50周年記念を祝うように発表された。全11曲、64分余りの内容になっていて、日本国内盤には2曲のボーナス・トラックが含まれていたから、それを入れると75分以上にもなる。ボリュームいっぱいのアルバムに仕上がっている。812fqut3v7l__sl1400_

 アルバム解説書には、10日間で49曲をレコーディングしたと書かれていたが、72歳にしてこのエネルギーには脱帽してしまう。まるで20代と変わらないパワーを保っているようだ。
 そして今回のアルバムのプロデューサーは、リック・ルービンだった。リック・ルービンといえば、ビースティー・ボーイズやレッド・ホット・チリ・ペッパーズ、メタリカにブラック・サバスなど、ヒップ・ホップ系からヘヴィ・メタル系まで幅広いミュージシャンやバンドと一緒にやっているが、今回はカルロス・サンタナの方から一緒に仕事をしてみたいと声をかけたようだ。

 リック・ルービンはデモを数曲聞いて感動し、ぜひ一緒にということで、リックの所有するスタジオにバンドを呼んでレコーディングを行った。このスタジオはフロリダのマリブにあり、シャングリラ・スタジオといって、ザ・バンドの「南十字星」や「ザ・ラスト・ワルツ」、エリック・クラプトンの「ノー・リーズン・トゥ・クライ」などがレコーディングされた場所としても有名だ。

 リック・ルービンというプロデューサーは、ミュージシャン側に自由に創作させようとするタイプで、曲自体についてはあまり細かな指示を与えないそうだ。カルロス・サンタの言葉を借りれば、”とても礼儀正しくて紳士的で、作業中は相手の領域というものを尊重してくれる”そうである。
 しかもほとんどの曲をワンテイクで録音していて、それだけスタジオ内の雰囲気がよく、同時にライヴの感覚を重視した音作りを目指したのだろう。また、基本的にカルロス・サンタナという人は、”即効性”と”自発性”を重視していて、あまりにアレンジ等にこだわってしまうと良い曲がつまらなくなってしまうのだという。だから最初のテイクが常にベスト・テイクだと信じているのである。何となくジャズにおける即興性重視みたいに聞こえてくるのだが、彼がジョン・マクラフリンやマイルス・デイヴィス、ハービー・ハンコックなどとコラボレーションしているのも、ジャズのような即興性を求めているのかもしれない。

 それで今回のアルバムは、タイトルからも分かるように、アフリカン・ミュージックを意識したものになっていた。カルロス・サンタナは、アフリカの音楽は癒しの音楽であり、世界が殺伐として人々が周囲の出来事に関心を持たなくなってきた現代にこそ耳を傾けるものだと述べていて、世界中の誰が聞いても気分を高揚させ、気持ちを和らげる魔法のようなものと力説していた。

 確かに人類の祖先はアフリカ大陸にあり、そこから枝分かれしているし、今のロック・ミュージックも元はといえば、アフリカから強制的に連れてこられた人たちとヨーロッパからの移民の音楽がミックスされてできたものである。ある意味、原点回帰とも言うべき音楽であろう。

 それにしても、カルロス・サンタナは弾きまくっている。72年の傑作アルバム「キャラバンサライ」の頃よりも弾きまくっているように聞こえてくる。
 まず1曲目の"Africa Speaks"だが、コンガなどのパーカッションが思わせぶりな前奏を形作り、やがて官能的なカルロス・サンタナのギターがつま弾かれる。単純な発想で申し訳ないが、密林を探索中に奥から聞こえてくる太鼓の音を頼りに中に入っていくとサンタナがいたというような感じである。この曲はまだ序章のようで、次の"Batonga"からサンタナは自己主張を始めるのだ。
 
 どの曲でもサンタナのトレードマークとも言うべきあの情熱的で官能的なギター・サウンドを聞くことができる。"Batonga"ではキーボードの掛け合いも聞くことはできるのだが、後半はカルロス・サンタナの独壇場である。3曲目の"Oye Este Mi Canto"ではカルロスのギターと同様に、ボーカルのブイカも目立っている。Buika31000x1500e1509484434754

 ブイカという女性ボーカリストが今回はフィーチャーされていて、スペインのマヨルカ島出身の47歳で、グラミー賞にもノミネートされたことのあるラテン系のジャズ・ボーカリストだ。最初声を聞いたときは、男性かと思ったほどパワフルで凄みをきかせてくれている。
 カルロス・サンタナとは面識もなかったのだが、彼が誰かいいボーカルはいないかなとyou tubeで検索していた時に、彼女を発見して声をかけたそうだ。そりゃ、カルロス・サンタナから声をかけられれば、断る人はそんなにいないでしょうというもので、ブイカは歌詞とボーカルのメロディを書き上げたそうである。さすが才能あるミュージシャンは、いつ声をかけられても即座に対応できるようだ。これにはカルロス・サンタナも感動したようで、当初の予想以上に素晴らしい楽曲に仕上がったと妻と一緒に満足したという。

 ちなみにカルロス・サンタナの妻シンディ・ブラックマンは、サンタナではドラムスを担当していて、2人は2010年に結婚している。また、このアルバムでは前妻の息子のサルバドール・サンタナが7曲目の"Breaking Down the Door"でキーボードを担当している。
 ということで、今回のアルバムはギターのカルロス・サンタナとボーカリストのブイカがフィーチャーされていて、ほとんどの曲ではスペイン語で歌われている。ある意味、”双頭的な”アルバムだと思っている。4曲目の"Yo Me Lo Merezco"でも最初はゆったりとした歌い出しだが、徐々にピッチが上がっていき、最後はカルロス・サンタナにスポットライトがあてられるのだった。

 そして英語のタイトルの曲では英語で歌われているのだが、ブイカが歌うと英語も何となくスペイン語風に聞こえてきて、そうすると全部がスペイン語で歌われているのではないかと錯覚してしまう。一応、"Blue Skies"と"Breaking Down the Door"という曲が用意され、後者はシングルとしても発売され、確かにポップで聞きやすいし、カルロス・サンタナのギターも抑え気味である。アコーディオンやトロンボーンが使われていて、メキシコの結婚式かお祝い事でみんなが集まって歌っているかのようだ。こういうポップ・センスを忘れないサンタナはやはりつわものである。Santana__buika_photo_1_by_maryanne_bilha  また、"Blue Skies"でのギター・ソロは鳥肌もので、まるで全盛期のクラプトンのようにハードなのである。カルロス・サンタナの場合は、年をとればとるほどギター・ロック路線に移行するのだろうか。

 一方で、"Los Invisibles"では、マルーン5と共作したようなフレーズも飛び出してくるし、"Luna Hechicera"では少しレゲエっぽい雰囲気も味わえる。それでもカルロス・サンタナのギターはブレずに主張しているところが素晴らしい。曲調は違っていても、どこを切ってもサンタナ節なのである。

 "Europe"や"Moonflower"のようなインストゥルメンタルはないものの、"Bembele"はテンポのよい哀愁味があって、その種の系列に含めてもいいような気がした。
 ただ、サンタナといえば"ラテン・ロック"というイメージが強いのだが、今回のアフリカにインスパイアされたアルバムを聞いて、特にアフリカン・ドラムが使われているとか、民族楽器やアフリカ独特の旋律が使用されているというわけではなく、今までのサンタナのアルバムと比べてみてもそんなに違和感はない。61ymyf9dbl

 たぶんそれは、サンタナの音楽とアフリカの音楽とが深い次元で結ばれているからだろう。深い次元というのは、陶酔感や高揚感が両者の音楽に含まれていて、聴く人の精神の覚醒や心の傷を治すヒーリング効果を秘めているからだろう。そういう意味では、今回のこのアルバムも"アフリカ"というテーマの元での癒しの旅なのかもしれない。ちょうどラクダの隊商が月の夜に砂漠をわたっていったように。

 サンタナは現在、このアルバムのプロモーションを兼ねてツアーを行っており、今年は無理だが、来年か再来年には日本に来たいといっている。できれば「ロータスの伝説」のようなライヴを期待したいし、今のサンタナならそれ以上の興奮と熱狂とパフォーマンスを発揮できるのではないかと思っている。


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コメント

月曜日はこちらの更新日。やっと私も話が出来るサンタナの登場。・・・と、言うことで。
 M5."Blue Skies" は、完全にサンタナ・フュージョン・ミュージックの復活とみました。これはロックというよりはジャズの世界と言ってもいいと、私は最もこのアルバムではお気に入り。あの45年前の頃の音楽世界がしっかり残っていることが確信できて、今回は嬉しさを隠せなかった曲です。
 M6."Paraisos Quemados"もアフリカン・ミュージックでありながら、むしろサンタナ・フュージョン世界。
・・・・などと、昔の色が再びと私は喜んだアルバムでした。

投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2019年9月 9日 (月) 20時20分

 親愛なる風呂井戸さまへ
 コメントありがとうございました。人間ドックの検診でお返事が遅れてしまいました。申し訳ありません。

 そうです、私もそう思いました。このアルバムもそうですが、「サンタナⅣ」でもカルロス・サンタナは頑張っていました。でも、このアルバムではそれを上回るかのように元気で、バリバリ弾いています。ジェフ・ベックもそうですが、サンタナも年をとらないのかもしれません。

 また、曲によっては70年代に戻ったかのように躍動感があり、ギターも生き生きとしていました。ある意味、「キャラバンサライ」を超えたと思いました。とにかく来日してもらって、全国行脚してもらいたいです。

投稿: プロフェッサー・ケイ | 2019年9月11日 (水) 22時21分

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