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2019年10月21日 (月)

ブレンダン・ベンソン

 ザ・ラカンターズのメンバーの一人であるブレンダン・ベンソンについて調べてみることにした。彼は1970年生まれだから、今年で49歳になる。生まれはルイジアナ州のハーヴェイというところで、父親は溶接工、母親はメキシカン・レストランのウェイトレスをしていたそうだ。Brendanbenson19a35a471c6641feb0aea6900f2
 彼が音楽に目覚めたのは、父親の影響らしい。父親は膨大なレコード・コレクションを擁していたようで、ブレンダンが子どもの頃からデヴィッド・ボウイやT・レックス、イギー・ポップなどの音楽を聴かせていたという。なかなかのロック通のようだ。しかし残念なことに、その父はブレンダンが7歳の時に亡くなってしまい、以降は母親によって育てられている。ブレンダンには父親のレコード・コレクションが残されたのである。

 それらの音楽の影響で、高校生になるとバンドを結成し、様々な場所で演奏するようになり、徐々に自作曲なども披露するようになって行った。高校を卒業すると、一念発起してロサンゼルスに旅立ち、音楽で身を立てようとしたがうまく行かずに様々なアルバイトをこなしながら、曲作りに励んでいった。
 彼はまたマルチ・ミュージシャンでもあるのだが、ギター以外のキーボードやベース・ギター、ドラムスなどをこなせるようになったのもこの時期の経験によるところが多い。不遇の時代を迎えても、夢をあきらめずにコツコツ努力していったから幸運の女神も微笑んでくれるようになったのだろう。

 結局彼は、26歳でデビュー・アルバムを発表することができたのだが、その時のCDの帯にはこう書かれていた。「ジェリー・フィッシュ、ベン・フォールズ・ファイヴを凌駕するメロディー・センス、サンフランシスコから彗星のごとく現れたシンガー・ソングライター、ブレンダン・ベンソンの溢れる才能を凝縮したデビュー・アルバム」51elpxxdr2l

 ジェリー・フィッシュの名前があるのは、当時同じサンフランシスコに住んでいたジェイソン・フォークナーがこのアルバムに関わっていたからだろう。彼は13曲中7曲でブレンダンと一緒に曲を書いているし、ブレンダンのデビュー・アルバムの後押ししたのも彼のおかげだと言われている。ジェイソン・フォークナーといえば、ジェリー・フィッシュのオリジナル・メンバーで、デビュー・アルバム発表後に「自分の曲が採用されないから」と言ってバンドを脱退した人でもある。たぶんジェイソンは自分と共通の何かを感じたから、ブレンダン・ベンソンの応援を買って出たのだろう。

 1996年に発表されたデビュー・アルバムは、基本的にはスリー・ピース・バンドとしてレコーディングされていて、ブレンダン・ベンソンのギター&ボーカルとウッディ・サンダースのドラム、マイケル・アンドリューズのベース・ギターというシンプルな構成だった。また、ジェイソン・フォークナーの応援のおかげだったのか、ヴァージン・レコードから発売されていて新人としては破格の扱いだった。

 しかしこのアルバムは、残念ながら売れなかった。理由は簡単でヒット曲がなかったからだ。どの曲も平均点レベルであり、悪くはないのだが、この1曲というものがないのである。アマゾンのCDレビューには一家に一枚的なことが書かれていたが、個人的には別に聞かなくても他に聞くべきものがあるんじゃないという感じで、数回聞いてお蔵入りさせていた。当時はこういう感じのアルバムが数多く出回っていて、どれを聞いても同じような感じがしたせいもあったからだろう。

 バンド形式で作られているとはいえ、基本的にはブレンダン・ベンソンのシンガー・ソングライター的な資質が発揮されているアルバムだった。1曲目の"Tea"、続く"Bird's Eye View"と、いずれも1分8秒、1分28秒と短く、曲というよりはイントロが続くみたいな感じで、構成的にはオッと言わせるものがあった。しかもこの2曲はポップだったし、2曲目と3曲目が続いていて3曲目の"Sittin' Pretty"はシングル・カットされたくらいだから、これまた耳に馴染みやすいポップな曲だった。

 続く"I'm Blessed"もパワー・ポップな曲で、躍動感がありフレッシュさを感じた。ただバラード系の"Crosseyed"が4分22秒と長くて、ここで一度澱んでしまう。あくまでも個人的な感想なのだけど、ジェイソン・フォークナーと一緒に作った曲よりも、ブレンダン・ベンソン個人の曲の方が出来栄えがいいような気がするのであった。
 例えば、アルバム冒頭の2曲もそうだし、7曲目の"Got No Secrets"などはレゲエ風のアップテンポの曲で、ノリが良いのだ。続く"How 'Bout You"などもこれぞまさにパワー・ポップともいうべき曲だったし、恋人のことを歌った"Emma J"も独特の低音のリフが印象的だった。

 だからブレンダン・ベンソンの曲だけで構成すれば、もっと売れたのではないかと思っていたのだが、そうならなかったことで、ヴァージン・レコードからは契約を切られ、次の配給元を探さないといけない羽目になったのである。

 自分は、このデビュー・アルバムと2009年に発表された4枚目のソロ・アルバム「マイ・オールド、ファミリア・フレンド」の2枚を持っていて、どちらかというと後者のアルバムの方が好きである。81kshcczuwl__sl1256_
 2009年といえば、ザ・ラカンターズが世界的な成功を収めた後になって発表したことになる。ザ・ラカンターズが結成されたのが2005年で、次の年にアルバムが発表されているからだ。ただ、この「マイ・オールド、ファミリア・フレンド」のレコーディングは2007年に行われていて、ザ・ラカンターズのファーストとセカンド・アルバムの発表の間にレコーディングされたことになる。ただ、発表されたのは2009年だから、ザ・ラカンターズの活動を一区切りした後に発表したのだろう。800x_image_20190907184801

 全11曲で40分というコンパクトな構成だが、曲の密度は恐ろしく高く、デビュー・アルバムから比べれば格段の進歩が伺えた。まずシングル・カットされた"A Whole Lot Better"からしてギターのコード・カッティングがまるでピート・タウンゼントである。もちろんテンポもよくアルバムの冒頭にはふさわしい曲だし、続く"Eyes on the Horizon"もミディアム・テンポながらも聞かせてくれる曲に仕上がっている。何しろサビのフレーズと、挿入されるギター・ソロがよく計算されていて素晴らしい。この2曲を聞けば、このアルバムを購入してよかったと誰しもが思うに違いない。

 3曲目の"Garbage Day"なんかは、まるでフィリー・ソウルである。バックのストリングスが華麗で甘くて都会的なのである。これは間違いなくヴァン・マッコイかスタイリスティックスの世界だろう。この曲もいいし、ハモンド・オルガンがフィーチャーされたバラードの"Gonewhere"もまた何となくポール・マッカートニーの匂いを感じさせてくれる。

 このアルバムから2枚目のシングルになった"Feel Like Taking You Home"はブレンダン・ベンソンとディーン・ファティータとの共作で、どことなくザ・ラカンターズのアルバムに収録できなかったアウトテイクのようだ。それにディーン・ファティータという人は、ジャック・ホワイト関係のバンドのデッド・ウェザーのメンバーでもあるし、ザ・ラカンターズのライブではキーボードも担当しているミュージシャンでもある。ザ・ラカンターズの新曲ですよといっても十分通用するだろう。

 "You Make A Fool Out Of Me"は、アコースティック色の強い曲で、ギターの弾き語りから始まり徐々に音が重ねられていく。今頃の秋の季節に聞くにはぴったりの曲だろう。この曲もバックのストリングスが美しい。70年代のシンガー・ソングライターの曲にストリングスを重ねたらこう成りましたよという曲だろう。

 後半は一転してロック調に戻る。"Poised And Ready"はまさにパワー・ポップといっていいし、何しろメロディックでカッコいいのだ。次の"Don't Wanna Talk"もミディアム調でシングアロング出来そうなメロディラインを持っているし、途中転調してアクセントも持たせている。まさにブレンダン・ベンソンの独壇場だろう。

 8曲目の"Misery"については、イギリスのパブ・ロック風で、ニック・ロウやデイヴ・エドモンズ、初期のエルヴィス・コステロの影響を感じてしまう。これまた名曲だし、この時期のブレンダン・ベンソンには汲めども尽きぬ曲のメロディやアイデアが湧き出ていたのではないだろうか。
 このアルバムの曲は1曲を除いてほとんどが3分台の曲で、その1曲というのが"Lesson Learned"という曲だった。このミディアム・バラード・タイプの曲だけは4分29秒もあり、ギターよりもキーボード(正確にいうとオルガン)が目立っていた。

 そしてアルバムの最後を飾るのがこれまたエッジの効いたロック調の"Borrow"という曲で、メロディの跳ね具合が妙にカッコいいのである。やはりロック・ミュージックは、カッコよくないと良くないよねという当たり前のことを再認識させてくれた。中間のギター・ソロはこのアルバムでも一、二を争う迫力とカッコよさを備えている。ちなみにこのアルバムは、ビルボードのアルバム・チャートでは初登場110位を記録している。71rbudpgkil__sl1257_

 やはりブレンダン・ベンソンは、自分の力でやった方がいい曲が生まれるのではないだろうか。この「マイ・オールド、ファミリア・フレンド」を改めて聞いて、これは21世紀のパワー・ポップの名盤だろうと思っている。ブレンダン・ベンソン自身はシンガー・ソングライターとしてデビューしたかもしれないが、実際はパワー・ポップの職人肌を持つロック・ミュージシャンなのである。ジャック・ホワイトとバンドを結成したのも何となくわかるような気がした。


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