« スプリングスティーンの新作 | トップページ | 追悼:ジンジャー・ベイカー »

2019年10月 7日 (月)

ザ・ラカンターズの新作

 今年の上半期に発売されたアルバムで印象に残ったシリーズの最後を飾るのは、アメリカのロック・バンド、ザ・ラカンターズの「ヘルプ・アス・ストレンジャー」である。
 知っている人は知っていると思うけれど、このザ・ラカンターズというバンドは、アメリカ人ミュージシャンのジャック・ホワイトとブレンダン・ベンソンの2人を中心とした双頭バンドである。Raconteurs2018_header  ジャック・ホワイトといえば、現代ロック・ミュージックの復興の祖として崇められているように、22歳の時に当時の妻であったメグ・ホワイトとともにホワイト・ストライプを結成すると、瞬く間に全米で人気を獲得し、やがてその火は世界中へと燃え広がっていったのである。そして、2005年にはホワイト・ストライプと同時並行で、旧友同士といわれているが、ブレンダン・ベンソンほか2名とともに、ザ・ラカンターズを結成して、翌年にはデビュー・アルバムを発表してしまう。

 よほどの才能の塊なのだろう、ジャック・ホワイトという人は。2009年には専任ボーカリストを加えた新しいバンドであるザ・デッド・ウェザーも結成して、一時は3つのバンドを掛け持ちし、その合間にソロでの活動を行うというまさに八面六臂の活動を行っていた。さらには、ジミー・ペイジとU2のエッジとともに映画「ゲット・ラウド」に出演したり、ソロ・アルバムを発表しライヴ活動を行ったり、はたまた自身のレコード会社を立ち上げたりと、一体いつ休むのだろうかと周囲が不安に思うほどワーカホリックな生活を送っている。Jackwhite2920x584

 ブレンダン・ベンソンの方はというと、ジャック・ホワイトほどではないにしろ有名なミュージシャンで、1996年のデビュー・アルバム「ワン・ミシシッピー」ではいくつかの曲で、元ジェリーフィッシュのメンバーであるジェイソン・フォークナーと共作していた。それからもわかるように、どちらかというとポップでマイルドなロックンロールを志向するミュージシャンだろう。今まで6枚のソロ・アルバムを発表してきている。
 ただ、ジャック・ホワイトとは旧友といってもブレンダン・ベンソンの方が4歳ほど年上の48歳だ。そして共通する点では、ジャックもブレンダンもギターからキーボード、ドラムス、プロデューサー業と何でもこなせるマルチ・ミュージシャンということだろう。そういう点でも意気投合したのかもしれない。P01bqlwl

 それでザ・ラカンターズは、2006年と2008年にアルバムを発表しているが、何しろメンバー4人とも忙しい人たちで、セカンド・アルバム発表以降は、なかなか揃うことができずにバンド活動は停止中だった。ところが、昨年からタイミングがあってきたのか、レコーディングを開始し、11年振りのアルバムを発表後は来日公演まで行っている。やはり物事は進むときは一気に進んでいくのだろう。一気呵成とはまさにこのことである。

 このサード・アルバムに当たる「ヘルプ・アス・ストレンジャー」では、25曲から30曲ぐらいが用意され、その中から厳選された12曲がレコーディングされた。ジャック・ホワイトが言うには、『どの曲もいい感じで、一瞬でダブル・アルバムが作れる勢いだった。次のアルバムに良さそうな未完成の曲が今も手元にたくさんあるよ』と述べている。

 このアルバムは、1曲を除いて基本的にはジャックとブレンダンが曲を作っていて、まるでレノン&マッカートニーのような感じでアルバム制作に臨んだらしい。ブレンダンは雑誌のインタビューで、『お互いを補い合っているんだ。ほとんど虎と羊の関係というか、陰と陽の関係みたいなもの』と述べていた。おそらくは、ジャックが虎でブレンダンの方が羊ではないだろうか、たぶん。そしてまた今回のアルバムでは、どちらかが曲を持ってきて他の人からアイデアをもらう形で進行し、最終的にメンバー全員で音作りに加わり携わったという。

 また、7曲目の"Hey GYP"だけは、イギリスのシンガー・ソングライターであるドノバンの作品であり、1965年のシングル"Turquoise"のサイドBに収められていた曲で、イギリスのバンド、ジ・アニマルズもカバーしていた曲だった。こういうマイナーな曲をも探し出すセンスはおそらくジャック・ホワイトに起因するものだろう。彼は以前にも、シェールの"Bang Bang"やラヴの"A House is not A Motel"などを探し出してきてはカバーしているからだ。719jb78yapl__sl1200_

 もともとジャック・ホワイトという人は、古典的なブルーズやカントリー・ミュージックの再解釈に長けた人で、伝統的なブルーズの手法などを踏襲しながらもそこに現代的でノイジーなサウンドを持ち込むことで、アメリカン・ロックの再興を果たしたミュージシャンだった。だから、アナログに異常なまでにこだわっており、レコーディング機材はもちろん、ギターのエフェクト類までもアナログで済ませている。自分のレコード会社を立ち上げたと言ったが、これは文字通りレコードを中心に制作、販売を行う会社であり、CDだけでなくレコードでも自分たちの作品を発売しているのだ。

 だから、曲のフレーズやサビなども60年代風なところも目立っていて、オールド・ロック・ファンは思わず涙腺が緩くなり、歓喜の涙を流してしまうところもある。このアルバムの冒頭の"Bored And Razed"もタイトルからしてゼップの"Dazed And Confused"を思わせてくれるし、実際の音もゼッペリンぽくってカッコいいのだ。やはりロックは、カッコよくなくてはいけないというお手本だろう。メロディは素晴らしいし、リフは強力で破壊力がある。1回聞いただけでノック・アウトされてしまった。今どきこういうパワフルで印象的な曲を表現できるのは、このバンドしかいないのではないだろうか。(ちょっと言い過ぎたか)

 ブレンダンが一番気に入っている曲が"Help Me Stranger"で、ブレンダンとジャックはギターとボーカルを担当し、ベーシストのジャック・ローレンスは手でベース・ペダルを演奏し、ドラマーのパトリック・キーラーはスネアをさかさまにして叩いていたという。そういうアグレッシブというか普通でない演奏方法などもブレンダンを魅了させたのだろう。

 3曲目の"Only Child"はお約束のバラードで、アコースティック・ギターが主体になり、それにベースやドラムス、キーボードの音が重ねられていく。実はジャックがアルバムの中で一番好きな曲がこれで、メロディーのみならず歌詞も気に入っているらしい。また、ソングライティングからプロダクションまでメンバー全員で力を合わせてできた曲だと自負をしている。

 "Don't Bother Me"もユニークな曲で、"Don't Bother Me, Bother Me"と何度も繰り返すフレーズが新鮮味でもあり、同時に破壊衝動をもたらしてくれる。1曲の中に転調がいくつもあって複雑な構成になっているが、最後まで聞くと一貫してロック的だと納得できる。特に最後のギター・ソロから短いドラムの連打のところは、まるでザ・フー、しかも60年代後半のキース・ムーン在籍時の様子を想起させてくれた。この曲もまたカッコいいのである。

 ザ・ローリング・ストーンズ主演の映画のタイトルに似ている"Shine the Light On Me"はピアノのリードで始まるミディアム・テンポの曲だ。普通に演奏すればお涙頂戴のバラード風になるのだろうが、それをいったん壊してドラムとベースで盛り上げていくという力業がまさにロックンロールだろう。

 続く"Somedays"のような郷愁を覚えるようなメロディを持つ曲は、ブレンダン・ベンソン主導で作られた曲だろう。ただ、この曲も個性的である。序盤や中間のギター・ソロ後に入る轟音ギター・フレーズの方が目立っていて、ある意味、ロックの持つ衝動性や破壊性がいかんなく発揮されているのだ。普通のポップ・ソングならここまでのアレンジは必要ないだろうが、そこはやはりザ・ラカンターズである。一筋縄ではいかないのだ。

 そして"Hey GYP"が始まる。ドノバンの元歌はブルーズ調だったのだが、ここでは初期のザ・ローリング・ストーンズのようにハーモニカも使用され、躍動感のある曲に仕上げられている。黒っぽい雰囲気だし、途中のごちゃごちゃしたギター・ソロも何となく下世話で猥雑な感じがした。演奏上手なストーンズといった匂いがプンプンするのだ。

 "Sunday Driver"はファースト・シングルに選ばれた曲で、これもまたキレのあるリフとサウンドが荒々しい。中間のハーモニーがザ・ビートルズ的であり、また後半はオルガンも使用されていて、何が出てくるかわからないところがこのバンドの優れたところだろう。こういう何でもありのモダンなロックンロールというところが若者にも支持される由縁だろう。

 そのシングル化された"Sunday Driver"のサイドBが"Now That You're Gone"である。この曲はバラード・タイプの曲で、メロディアスで耳に残る曲だ。ギター主体の音作りでシングルに相応しい曲といえる。中間のギターソロがカッコいいし、ベース・ギターもしっかりと自己主張している。まさにメンバー全員で作りましたよというような曲だ。

 続く"Live A Lie"は2分20秒の短い曲で、この性急感はまるでパンク・ロックだろう。ただ単なるパンクではなくて、よく練られ考えられたパンク・ロックの曲だ。ギターのアレンジが巧みで、普通のパンク・バンドではこの表現は難しいと思う。また、エンディングがスパッと切れるところも清々しい。理想的なパンキッシュな曲構成ではないだろうか。

 "What's Yours is Mine"もリフがゼッペリンぽくって、完全に意識しているよなあという感じがした。こういう過去のお手本を参考にしながらも、そこから自分たちのオリジナリティを生み出していくという方法が、60年代を生きたオールド・ファンだけでなく今を生きる若者にまで感動と興奮を与えているのだろう。この曲も2分台と短いが、あえて長めにアレンジをせずにコンパクトにまとめているところが、現代のロックンロールの特徴のような気がする。昔のような重厚長大はヘヴィメタ部門では受けるだろうが、いわゆるオルタナティヴ・ロックでは違うのだろう。

 そしてアルバムの最後を飾るのは、"Thoughts And Prayers"だ。ロックンロール色は薄く、アコースティック・ギター主体なのだが、特徴的なのはゲスト・ミュージシャンのフィドルがフィーチャーされている点だ。また、シンセサイザーの音なのか、時々、装飾音も入ってきて曲を盛り上げている。例えていうなら、ソロになった今のロバート・プラントが好きそうなサウンドだ。エンディングのフィドル・ソロは圧巻だし、それと他の楽器との調和が見事である。エンディングに相応しい曲といえるだろう。71qlcb9dl__sl1200_

 21世紀の今となってみれば、1950年代のロックンロール誕生から2010年代までのロック・ミュージックを俯瞰できるわけで、その中でよいものや参考になるものを拾い上げていくことは簡単なことだろう。しかし、それが受けるとは限らない。そこにオリジナリティというものがないと、単なるパクリで終わってしまうからで、そんなものには洋楽ファン、特に耳の肥えたファンは見向きもしないだろう。

 ジャック・ホワイトやザ・ラカンターズが受けるのは、単なるオールド・ミュージックの焼き直しに終わらず、そこに現代的なセンスやオリジナリティを持ち込んでいるからだ。だから彼らは広い層から支持されるのである。11年ぶりの新作となったアルバムだったが、イギリスのチャートでは8位を、アメリカでは初登場1位を記録していることが何よりの証明ではないだろうか。


« スプリングスティーンの新作 | トップページ | 追悼:ジンジャー・ベイカー »

アメリカン・ロック」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« スプリングスティーンの新作 | トップページ | 追悼:ジンジャー・ベイカー »