« CS&N | トップページ | ザ・ミュート・ゴッズの新作 »

2019年11月25日 (月)

シーンズ・フロム・ザ・サウスサイド

 「シーンズ・フロム・ザ・サウスサイド」は、ブルース・ホーンズビー&ザ・レインジのセカンド・アルバムのタイトルで、1988年に発表されたものである。今回このアルバムを取り上げたのは、結構気に入っていて、今年の夏はよく聞いたからである、30年以上も前のアルバムなのに。91q1islgl__sl1500_

 ブルース・ホーンズビーについては、以前このブログでも取り上げたのだけれどもう一度確認すると、アメリカのバージニア州出身で、現在64歳。若いころから様々な音楽に興味を示し、1984年には"ブルース・ホーンズビー&ザ・レインジ"を結成して本格的に音楽活動を開始した。翌年には当時のRCAレコードと契約を結んでアルバムを発表することになったのだが、これにはヒューイ・ルイスの後ろ盾があったからだと言われている。ヒューイ・ルイスが彼らの演奏を聞いていたく気に入ったようで、レコード会社に推薦をしたらしいのだ。A25441014574280383471_jpeg

 1986年にデビュー・アルバム「ザ・ウェイ・イット・イズ」を発表するのだが、これがアルバム・チャートで全米3位となる大ヒットを記録し、第29回グラミー賞では最優秀新人賞に選ばれるという快挙を達成している。そしてそれから2年後に、彼らはセカンド・アルバムとなる「シーンズ・フロム・ザ・サウスサイド」を発表したのである。

 もともと彼らの音楽は、ブルース・ホーンズビーのピアノ演奏が基盤になっていて、彼のリリカルで華麗な指使いやジャズやブルース、カントリー・ミュージックを一緒くたに詰め込んだようなアメリカ南部独特のメロディなどが、多くのアメリカ人の琴線に触れるのであろう。だからデビュー・アルバムは300万枚以上売れたし、いまだに彼らの代表作として売れ続けている。

 このセカンド・アルバムも、デビュー・アルバムに負けず劣らず優れていると思う。全9曲だが、そのうち6曲を実の兄のジョン・ホーンズビーと共作している。ジョンとはデビュー・アルバムでも9曲中7曲を一緒に作っていて、あの"Mandolin Rain"もジョンと一緒に書いた曲だった。A1jccr1zxel__sl1500_

 アルバムの冒頭の曲"Look Out Any Window"は2枚目のシングルになった曲で、チャート的には最終的に35位にまで上がっている。ゆったりとシンセサイザーが響き渡り、そしてあのピアノ・タッチが聞こえてくる。デビュー・アルバムの延長線上にある曲調だが、ブルース・ホーンズビーのピアノ・タッチはますます冴えわたっていて、曲を際立たせている。

 2曲目の"Valley Road"は1曲目よりもテンポが速い。その分、ブルースの指も鍵盤上で踊っている。彼の故郷のバージニアで生活している人々の暮らしぶりや喜怒哀楽を描いているようで、その内容が当時の人々の感情を揺さぶったようだ。このアルバムからの第一弾シングルとして発表されて、チャートの5位まで上昇している。

 3曲目の"I Will Walk With You"では肩ひじ張ったような感覚が消えて、リラックスして歌っているように聞こえる。1、2曲目がシングルとして用意されていたせいなのかもしれないが、ブルースのピアノだけでなく、間奏のギター・ソロも目立っていて、その調和というかバランスがいい。
 次の"The Road Not Taken"は7分以上もある曲だが、一向にその長さを感じさせない。アコーディオンも効果的に使われていて郷愁を誘うし、ブルースのピアノ・プレイも長くフィーチャーされていて、聞きどころが多いのだ。

 "The Show Goes On"も7分30秒もある長い曲だが、これがまた人生を振り返させられるような感動的なミディアム・バラード曲である。ここではミュージシャンという立場から、自分の人生を振り返り、そこからさらに前を向いて生きていこうと歌っているが、聞く人にとっては、それぞれの人生に置き換えて聞いているはずだ。だからメロディもいいけど、曲の内容もまた優れていると思う。この曲はまた、1991年のロン・ハワード監督の映画「バックドラフト」でも使用されていた。250x250_p2_g2770165w

 "The Old Playground"もまたデビュー・アルバムの曲を彷彿させるようなテンポの良い曲調で、ピアノだけでなくオルガンのような音を出すシンセサイザーもまた目立っていた。
 7曲目の"Defenders of the Flag"でフィーチャーされているハーモニカはヒューイ・ルイスが吹いていて、ブルース・ホーンズビーとヒューイ・ルイスの良好な関係がうかがえる。のちにブルースはヒューイ・ルイスのアルバムのプロデュースも担当していたから恩義を感じていたのかもしれない。またこの曲での歌い方は、何となくボブ・ディランに似ていたが、曲のメロディがディラン調だったからそうなったのだろう。

 そして次の曲がヒューイ・ルイス&ザ・ニューズが歌って全米No.1になった"Jacob's Ladder"だ。ヒューイ・ルイスのバージョンは、1987年に発表されてNo.1になったが、ブルースはその時のアレンジは気に入らなかったらしい。しかし、このアルバムでもほとんどアレンジを変えることもなく普通にセルフ・カバーをしていた。自分的にはエンディング部分のギター・ソロがカッコよかったので、できればもう少し長く演奏してほしいと思った。

 アルバムの最後を飾るのが"Till The Dreaming's Done"で、この曲もまたゆったりとした大陸的な雰囲気を湛えていて、まさにアメリカ南部と言うか、ミシシッピ川を汽船で下りながら河岸の風景を眺めているような(そういう経験はないけれど)、そんな感じを味わうことができる。とにかくこの当時のブルース・ホーンズビーの曲は、イントロのピアノ部分を聞けばすぐに彼のシングル曲やアルバムの中の曲と分かるほど特徴的であり、印象的でもあった。

 とにかく、彼のピアノ演奏にハマってしまえば、もうこれは虜になってしまうこと疑いなしである。ロックの分野で、ピアノの音色を聞いて誰だかわかるピアノ・プレイヤーは、ブルース・ホーンズビーとニッキー・ホプキンスぐらいではないだろうか。Hqdefault_20191019235801

 この後ブルース・ホーンズビーは、グレイトフル・デッドのツアー・メンバーを担当していたが、徐々にロック・ミュージックからジャズの世界に移行していった。一説では、グレイトフル・デッドのライヴでサイケデリックなソロなどをやっていく中で、インプロビゼーションの奥深さに開眼したそうだが、どうなんだろうか。

 おそらく彼が、再びこのような音楽、つまりアメリカ南部の音楽に影響を受けたロック・ミュージックのアルバムを発表することはないだろう。そういう意味では、アメリカン・ロックにおける貴重なレガシーともいうべきアルバムだと思っている。


« CS&N | トップページ | ザ・ミュート・ゴッズの新作 »

アメリカン・ロック」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« CS&N | トップページ | ザ・ミュート・ゴッズの新作 »