« ザ・バンドのラスト・ワルツ | トップページ | シーンズ・フロム・ザ・サウスサイド »

2019年11月18日 (月)

CS&N

  秋の夜長にふさわしいアルバムはないかと探していたところ、何となく当てはまりそうだったのが、このアルバムだった。クロスビー、スティルス&ナッシュの1977年のアルバム「CS&N」である。これはどうでもいいひとり言だけど、バンド名にはカンマが必要で、アルバム名にはカンマはなかった。つまりバンド名は"C,S&N"で、このアルバム・タイトルは"CS&N"だったのである。ホントにどうでもいい話だ。51bzfrvkgl

 このアルバムは、C,S&N名義のスタジオ・アルバムでは1969年の歴史的名盤の「クロスビー、スティルス&ナッシュ」以来になるもので、なかなかの好アルバムだと思っている。確かに69年の「クロスビー、スティルス&ナッシュ」があまりにも素晴らしすぎるので、その陰に隠れてしまっている感はあるのだが、1曲1曲を見ていくと、中にはこれは聞き逃せないという曲もある。結果的には、ビルボードのアルバム・チャートで最高位2位を記録しているのだから、セールス的にも成功したであろう。(ちなみに69年の「クロスビー、スティルス&ナッシュ」の方はチャート的には6位で終わっている)61ulvbalktl

 このアルバム発表前のC,S&Nは、ニール・ヤングを含めたC,S,N&Yの再編ツアーが終わったあとで、各自がそれぞれ好きなことを行っていた。噂では、この時の模様を収めたライヴ・アルバムが計画されているとか、1970年の「デジャ・ヴ」以来のスタジオ・アルバムを発表するかもしれないといわれていたのだが、結局、そのような話は立ち消えになり、デヴィッド・クロスビーとグレアム・ナッシュの2人はソロ活動と並行して2人組としても精力的にライヴなどを行うようになった。

 一方のスティーヴン・スティルスは、これまたソロ活動を行いながら、元ザ・バーズのクリス・ヒルマンや元フライング・ブリット・ブラザーズのアル・パーキンスらとともに、マナサスというバンドを結成してアルバムを発表していた。だから3人がそれぞれのやり方で音楽活動を行っていたわけだ。

 ところが、1976年にロサンゼルスで行われたクロスビー&ナッシュのライヴにスティルスが飛び入りして、アンコールの時に3人で"Teach Your Children"を歌ったのである。これが切っ掛けとなって、また3人でやろうということで、親しいミュージシャンを集めてアルバムをレコーディングした。それが「CS&N」だったのだ。

 このアルバムには12曲が収められていて、3人が曲を持ち寄ったもので構成されていた。基本的には、自分が作った曲は自分が中心で歌っていて、C,S&Nの代名詞である美しいボーカル・ハーモニーがつけられている。
 冒頭の"Shadow Captain"はデヴィッド・クロスビーの曲だが、この曲では3人が一緒に歌っていて、まるで1969年からの夢の続きが行われているようだ。まさにC,S&Nならではの芸当だし、彼らの魅力が満ち溢れている曲だろう。こういう曲をファンは待っていたに違いない。

 続く"See the Changes"はスティーヴン・スティルスの曲で、彼が中心となって歌っている。スティルスらしいアコースティック・ギターを中心とした曲で、彼のソロ・アルバムの延長線上にある曲だ。最初の曲もそうだが、この曲も当時のアメリカの世相を歌っている。当時は建国200年を迎えていたアメリカだったが、ニクソン大統領は国民を欺き、次のフォード大統領の経済政策は功を奏せず、失業者は増え、国の財政も悪化していった。200年前に誰もが夢を抱き海を渡ってきたものの、200年後の現実はその夢を打ち砕くものだった。

 ロック・ミュージック史的には、60年代後半のフラワー・ムーヴメントにおける自由への解放が、単なるドラッグ・カルチャーとして扱われてしまい、ロック・ミュージックは時代の中で意味をなさないのではないかと危惧されるようになり、かわってシンガー・ソングライターたちが個人の内面を中心にして時代と対峙するようになっていった。そういうモチーフがこの2曲には表れているし、このアルバムを貫くテーマになっているのではないかと考えている。

 3曲目の"Carried Away"はまさに晩秋にふさわしい曲で、ナッシュのピアノ弾き語りにクロスビーがハーモニーをつけている。また、途中に挿入されるハーモニカもナッシュが演奏していて、これまた涙を誘うのである。
 続く"Fair Game"はスティルスの曲で、ボサノバっぽいノリで歌われている。当時はマナサスというバンドでも活動していたので、その影響が出たのだろう。この曲はシングル・カットされていて、チャートでは43位と健闘している。アコースティック・ギターのソロもまたスティルスが演奏していて、彼はエレクトリック・ギターよりもアコースティック・ギターの方が慣れているのかもしれない。

 "Anything at All"はデヴィッド・クロスビーの作った曲で、ボーカルは彼一人で歌っていて、ハーモニーを残りの2人で担当している。これもまたピアノ中心の静かな曲で、心を癒されてしまう。

 当時のレコードのA面最後を飾る曲がグレアム・ナッシュの作った"Cathedral"で、ナッシュとクロスビーで歌っている。最初はナッシュがピアノの引き語りで歌うのだが、途中からアップテンポに移り、壮大なストリングスが添えられて、奥行きのある荘厳な音空間を創り出している。このアルバムの中で一番長い曲(5分15秒)でもあり、一説では、ナッシュが故郷イギリスのウインチェスター大聖堂を訪れた際の経験をもとにしているという。ただ、その時のナッシュはドラッグでトリップしていたというが本当だろうか。Slide11969

 続く曲は、"Dark Star"というスティルスの手によるもの。リード・ボーカルも彼自身である。途中のエレクトリック・ピアノが黒っぽい雰囲気を醸し出していて、アメリカ南部のリズム&ブルーズに影響を受けているようだ。当時のスティルスのバンドであるマナサスのアウトテイク作品のような気がする。

 このアルバムの中で一番メロディアスなのが"just a Song Before I Go"で、聞きやすいといえばナッシュの曲だろう。さすが"Bus Stop"をヒットさせたホリーズに在籍していただけのことはあって、こういう短くてポップな作品はお手の物だろう。ハワイでのコンサート前に雨が止むのを待ちながら、ピアノを使って20分程度で書き上げた曲といわれている。シングル・チャートでは7位を記録した。

 "Run from Tears"もスティルスの曲で、彼のエレクトリック・ギターが前面に出ていて、ミディアム・テンポながらもハードなイメージを抱かせてくれる。10曲目の"Cold Rain"もグレアム・ナッシュの曲で、彼の弾くピアノがメインのバラード曲だ。この曲も2分32秒と短くて、出来ればもう少し長く聞かせてほしいと思ってしまった。

 このアルバムには、デヴィッド・クロスビーの書いた曲は3曲しかなくて、そのうちの1曲は、このアルバムのレコーディングにも参加しているキーボード・プレイヤーのクレイグ・ドージとの共作だった(Shadow Captain)。残りの2曲のうち1曲が"In My Dreams"だった。この曲も最初はボーカル・ハーモニーで始まり、静かに流れていく。3分過ぎからドラム・サウンドが前面に出てきて、それまでのミディアム・バラードが崩れていく。全体的にはマイナー調ではあるものの、前半と後半では印象が変わってくる。デヴィッド・クロスビーは、こういう展開のある曲を得意としているようだ。

 そして、このアルバムの最後を締めくくるのが"I Give You Give Blind"で、イントロからスティルスのエレクトリック・ギターと、これまたスティルスが演奏するエレクトリック・ピアノが曲を際立たせていて、彼らとしては珍しいロックン・ロールの曲に仕上げられている。バックのストリングスが曲に性急感や圧迫感を与えている。メインはスティルスが歌っているが、ナッシュとクロスビーもハーモニーをつけていて、こういうテンポの良い曲でも綺麗なハーモニーは合うということが分かる。

 このアルバムの良いところは、"一粒で3度おいしい"というところだろうか。3種3用の味わいというか、3人の個性が曲に表れていて、それぞれのソロ・アルバムを手に入れたような気がしてしまう。だからバラエティに富んでいて聞いてて飽きない。何度でも繰り返し聞いてしまうというマジックを備えている。Csnbio2
 逆に言えば、それが短所でもある。アルバムに統一感がなく、散漫な印象を与えることも考えられるのだ。特に、アルバム後半はそう聞こえてしまう。理由は簡単で、リード・ボーカルがメインになっていて、ボーカル・ハーモニーが聞かれないか、薄いのである。1969年のアルバム「クロスビー、スティルス&ナッシュ」との違いはこの点である。C,S&NもしくはC,S,N&Yの一番の特徴は、何と言ってもあの美しいハーモニーだった。69年のアルバムにはそれが強調されていたが、このアルバムでは前半はそれが聞かれるものの、後半になるにつれて減少してしまう。その点が残念だった。

 原因の一つは、アルバム制作までに時間がなかったということだろう。あるいはC,S&Nとしての計画性がなかったということも挙げられるだろう。最初からセカンド・アルバムとして準備していれば違ってきただろうが、さあ、もう一度3人でアルバムを作ろうと思っても、時間的な余裕がなければ、とりあえず手元にある曲をアレンジして使おうということになってしまう。そういう意味では、最初から意図的に計画していれば、もっと違ったアルバムになっていたに違いないのだ。

 ただ、それでもこのアルバムの素晴らしさは変わらない。曲の一つ一つが優れているからである。秋の夜長にはマスト・アイテムの1枚だと思っている。


« ザ・バンドのラスト・ワルツ | トップページ | シーンズ・フロム・ザ・サウスサイド »

アメリカン・ロック」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« ザ・バンドのラスト・ワルツ | トップページ | シーンズ・フロム・ザ・サウスサイド »