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2019年12月30日 (月)

ロイネ・ストルトのザ・フラワー・キング

 "ロイネ・ストルトの"と区切っているのは、この「マニフェスト・オブ・アン・アルケミスト」というアルバムの名義が"ロイネ・ストルトズ・ザ・フラワー・キング"となっているからだ。12920008673_6f6a26aacd_b
 元のバンド名にメンバー(特にリーダー的存在か準リーダー的存在であるメンバー)の名前を付けるのはよくあることで、最近では、ジェフ・リンズ・E.L.O.とか、古くは、アンディ・スコッツ・スウィート、マーティン・ターナーズ・ウィッシュボーン・アッシュなどがある。(かなり古いな)

 これはファンならよくわかると思うけど、バンド内でメンバー間の対立があって、オリジナルのバンド名を権利関係から使用することができずに、自分の名前を冠したバンド名にしたからである。あるいは主要メンバーが事故等で亡くなってしまい、その遺志を引き継ぐ形でバンドを継続する場合もある。例えば、バッド・フィンガーやE,L&Pなどがそれに当てはまるだろう。(ジョーイ・モーランズ・バッド・フィンガーやカール・パーマーズ・E,L&Pレガシー)

 それで、この"ロイネ・ストルトズ・ザ・フラワー・キング"の場合はどうなのかというと、これはあくまでも私個人の考えなのだが、やはり"ザ・フラワー・キングス"の名称を使えなかったか、使うのを躊躇したのではないかと思っている。というのも、オリジナル・メンバーだったキーボーディストのトマス・ボーディン(最近ではトマス・ボディーンと表記される場合もあるが、ここでは昔の名前で出ています)との確執が噂されていたからだ。実際に、トマスは2015年にバンドを脱退している。726

 相手がバンドを脱退したから、別にオリジナルのバンド名を使用してもいいのではないかといわれるかもしれないが、ひょっとしたら何かしらの事情が存在しているのかもしれないし、もう一つ大事なことは、オリジナルのバンド名は"ザ・フラワー・キングス"と複数形になっているのに対して、ここでは単数形になっていることだ。
 もともと、"ザ・フラワー・キングス"というバンドは、ロイネ・ストルトの1994年のソロ・アルバム「ザ・フラワー・キング」に参加したミュージシャンを中心にして結成されたバンドだった。だからバンド名は複数形になっているのだ。それでこの「ロイネ・ストルトズ・ザ・フラワー・キング」という名義は、単数形なのだから、自分のソロ・アルバムですよということを示しているのではないだろうか。71pwqncqd2l__sl1044_

 そんなことを考えながら、このアルバムを聞いてみた。冒頭の"Rainsong"は1分27秒の短い曲で、曲というよりも口の中でつぶやくような呪術的祈りであり、すぐに2曲目の"Lost America"につながっていく。曲調はイエス的な雰囲気で始まり、途中途中で短いながらもギターやキーボードのフレーズが挿入されてくる。メロディははっきりとした幾分ポップなものだから、9分50秒もあってもとても聞きやすい曲に仕上げられている。ただし、イエスのような昇華された趣というか、試聴後のカタルシスは得られにくかった。おそらくはリズムが重くて、スピード感や疾走感が無いからだろう。また、フェイド・アウトで終わるところもピリッとしない。できれば、もっと勢いのある曲を前に置いて、そのあとにこの曲が来れば、もっとアルバム自体も引き締まったに違いない。

 "Ze Powns"も8分27秒もある長い曲だった。この曲は"Lost America"よりももっとゆったりとした曲調で、前曲同様メロディーラインは悪くないものの、やはりカタルシスは得られにくい。個人的に良かったのは、メロトロンのサウンドが印象的だったことだ。最近のプログレッシヴ・ロックのアルバムで、メロトロンの音が聞こえてくるものは少なくて、この曲を聞いてメロトロン信者としてはうれしかった。
 それにまた、曲の雰囲気としては中期のジェネシス、といってもわかりにくいので70年代半ばのピーター・ガブリエルが脱退する前のジェネシスの曲のようだった。ただし、ギターの音はこちらのロイネ・ストルトズ・ザ・フラワー・キングの方が豊かで、使用頻度が高い。自分のソロ・アルバムなのだから、目立っているのは仕方のないことだろう。

 12分31秒もある"High Road"も複雑な構成を持つ曲で転調が多く、イエス的といえばイエス的だが、これといった印象的なフレーズに欠けるようだ。内容はいまの世界の状況を憂い、変革を求めるもので、その理念は正しいと思えるのだが、曲とマッチしていないように感じた。変革を求めるのであれば、もっと緩急をつけてもいいのではないだろうか。全体的になだらかに流れていて、つまり"緩"が多くて"急"が見られない。ただし、楽器のソロについてはギターやキーボード、リズム・セクションなども適切に配置されていて、バランス的には素晴らしいと思った。そういう意味では、本家イエスと比べても遜色はないだろう。

 "Rio Grande"はインストゥルメンタルで、出だしのドラムが部族的であり、それに絡むようにキーボードやベース・ギター、エレクトリック・ギターが伴奏してくる。ちょっとしたジャズ的要素も備えていて、何となくリキッド・テンション・エクスペリメントのような雰囲気も漂わせている。途中ブレイクしたあと、オルガンやメロトロンが中心となって曲想を高めてくれる。6分過ぎからはロイネのギター・ソロも聞こえてくるのだが、基本的にはギターよりもキーボードが中心となった曲だろう。

 後半は、"Next to A Hurricane"から始まる。4分24秒と短くて、このアルバムの中ではポップなテイストを備えた曲だ。メロディーラインもわかりやすいし、一度聴いたら、なかなか忘れがたい。71dspetrpbl__sl1167_
 "The Alchemist"は7分近いインストゥルメンタル。"錬金術師"というタイトルからして、もう少しおどろおどろしいものを想像していたのだが、意外とまともだった。強いて言えば、スティーヴ・ハケット・バンドに在籍しているサックス奏者のロブ・タウンゼントのプレイがアクセントが効いていてよかった。何となくクルムゾン的でダークな雰囲気を醸し出していた。ただ、さすがにどのプレイヤーも超一流というか、緊張感では、このアルバムの中で一、二を争うほどの出来栄えではないだろうか。もう少し長く聞いていたかった。

 "Baby Angels"はタイトルからして牧歌的で、ファンタジックな印象を与えるが、曲自体もまさにその通りで、ロイネ・ストルト版"メアリーの子羊"だろう。ボコーダーをかぶせたボーカルから始まり、ボーカル主体の曲は、自分の愛しの娘か孫に向けて歌っているようだ。

 続く"Six Thirty Wake Up"もまた4分17秒と短めの曲だが、こちらは純然たるインストゥルメンタルだった。ただ、ロブ・タウンゼントの奏でるフルートがフィーチャーされていて、そういう意味では爽やかな印象を与えてくれる。途中からロイネのエレクトリック・ギターとの絡みがあって、その部分を聞くと癒されてしまった。前半の長めの曲よりは、後半のボーカル入りの曲やこういうインストゥルメンタルの方が、清涼感や緊張感があって、カタルシスを得やすいと思った。

 そして最後の曲が"The Spell of Money"だ。9分48秒と久々に長い曲の登場である。内容が金銭欲に満ちた守銭奴というか、お金の欲に人生を誤らせてしまわないようにという警告に満ちた曲だから、どことなく暗いし、気分的にも晴れない曲調だ。せっかくの後半の明るさが一転してしまい、前半のようなムードに戻ってしまう。ただ演奏部分に関しては、何度も言うように、超一流ミュージシャンのおかげで、レベルの高いものを聞くことができる。その点では恵まれていると言えるだろう。7分過ぎに一旦ブレイクしたあとは、ややボレロ調になってエンディングに向かって走り出していく。ただこれもフェイド・アウトされていくので、終わりについてはもう少しスカッとさせてほしかった。

 最後に参加ミュージシャンについて。ドラムはザ・シー・ウィズインのデビュー・アルバムにも参加しているマルコ・ミネマン。ベース・ギターも同じくザ・シー・ウィズインのヨナス・レインゴールド、サックスやフルートはロブ・タウンゼント、数名のゲスト・ボーカル、そして前半の2曲では弟のマイケル・ストルトが歌っていた。以前は1999年までザ・フラワー・キングスに所属していてベース・ギターを担当していたから、久しぶりの兄弟参加となったようだ。Maxresdefault_20191120213501

 このアルバムは2018年に発表されたが、あくまでもロイネ・ストルトのソロ・アルバムだった。そして今年の11月には本家本元のザ・フラワー・キングスのスタジオ・アルバムが発表された。その内容については、来年の2020年に持ち越すことにしようと思う。皆さん、今年もこのつまらないブログを見ていただいてありがとうございました。よいお年をお迎えください。


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プログレッシヴ・ロック」カテゴリの記事

コメント

 さすがプロフェッサーとお名乗りなるだけの、研究・探求心の優れた考察、今年も拝見して勉強させていただきました。
 こちらの知識不足でコメントもままならず、失礼しました。取り敢えず大晦日と言うことでご挨拶いたします。
 来たる新年2020も、ご健康にてご活躍いただけますよう、そして実りある年でありますよう祈念いたします。

投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2019年12月31日 (火) 10時13分

コメントありがとうございました、風呂井戸さま。最近疲れを感じまして、このブログもいつまでもつのかわかりません。年齢のせいではないと思うのですが…
 この場を借りまして、風呂井戸様のご健康とご発展をお祈りいたします。本年もよろしくお願い致します。

投稿: プロフェッサー・ケイ | 2020年1月 1日 (水) 13時40分

明けましておめでとうございます✨本年もよろしくお願いいたします。お疲れを感じるのも、無理はないと思いますが。近頃世界中が、特に音楽業界が疲弊しているように感じます。いつも知らない音楽を教えて頂き、とても楽しみにしてます。明るい明日を信じて今年も頑張りましょう‼️

投稿: 川崎の晴豚 | 2020年1月 5日 (日) 05時11分

明けましておめでとう御座います。
 前回は年末の挨拶に終わりましたので、このアーティクルに対してのコメントを書かせて頂きます。
 私の場合は「フラワー・キングス」というと、プログレ・バンドが崩壊した1990年代の気休めプログレ・バンドだったことを思い出します。
 そんなにのめり込むわけでも無く、無ければ寂しい・・というところで、今見ると数枚のアルバムが出てきますが、もう十数年以上は聴いていませんでした。
 あのカイパのギタリストのソロ・アルバムなんでしょうか、うーーんやっぱり頑張っているんですね。知りませんでした。

投稿: photofloyd(風呂井戸) | 2020年1月 5日 (日) 21時08分

 川崎の晴れ豚様へ。コメントありがとうございます。最近の音楽(ロック・ミュージックですが)を聞くと、閉塞感を覚える今日この頃です。なんかこう新時代を到来させるようなそんな音楽を待ちわびながら、相も変わらず駄文を書き連ねております。でももうそろそろ種も尽きそうだし、ここらでひとつリフレッシュするのもいいかなと。お薦めのものがありましたら、ご教授お願い致します。本年もよろしくお願い致します。

投稿: プロフェッサー・ケイ | 2020年1月 6日 (月) 23時20分

 風呂井戸さまへ、あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願い致します。フラワー・キングスを殿様キングと間違えた知人がいました。やっぱり日本ではマイナーな存在のようです。
 それに、はっきり言って、フラワー・キングスは数作前のものの方が聞きごたえがあってよいです。最近はアルバムの質が低下してきているようにも感じます。もう少し勢いがあってもいいようにも思えるのですが…とにかく本年もよろしくお願い致します。

投稿: プロフェッサー・ケイ | 2020年1月 6日 (月) 23時26分

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