« 師匠と弟子によるスティーヴ・ハケットの新作 | トップページ | ロイネ・ストルトのザ・フラワー・キング »

2019年12月23日 (月)

ザ・シー・ウィズイン

 ロック界ではワーカホリックなミュージシャンが多くて、ポール・マッカートニーもそうだろうし、ボブ・ディランも今も世界のどこかでライヴを行っている。そして、特にプログレッシヴ・ロックの分野では、働くことが大好きなミュージシャンがいっぱいいて、古くは元イエスのジョン・アンダーソン、最近ではスティーヴン・ウィルソンや最近も取り上げたジョン・ミッチェルなどがいる。

 そして今回もまた、世の中の「働き方改革」に反する有名ミュージシャンが登場する。スウェーデン出身のロイネ・ストルトであり、彼が2018年に結成したバンド、ザ・シー・ウィズインのデビュー・アルバムについて簡単に触れることにした。

 アルバムの内容に行く前に、ともかくこのロイネ・ストルトという人は、とにかく働くことが大好きであり(というか、アイデアに富んでいて、その実現のために活動的になるのだろう)、様々なバンドに参加したり、結成したりしている。始めは1974年に、17歳でカイパというバンドに参加している。そこからスタートして、1994年にはザ・フラワー・キングスを結成して世界的に有名なバンドに育て上げているし、2000年には、元ドリーム・シアターのマイク・ポートノイやマリリオンのピート・トレワヴァス、スポックス・ビアードのニール・モーズらとトランスアトランティックを結成した。また、同時並行でエージェンツ・オブ・マーシーというバンド名でアルバムを出しているし、もちろんソロ活動も行っている。さらには同じ匂いがするのか、ジョン・アンダーソンとも交流を深め、2016年には「インヴェンション・オブ・ノリッジ」というアルバムも共同制作している。まあ、この人の活動歴を記すとなると、それだけでもそれなりの厚さの本になるくらいの活動量なのである。402f4616

 そんな人がまたまたバンドを結成して、アルバムを発表した。それがザ・シー・ウィズインであり、バンド名と同じアルバムなのだ。このバンドのメンバーもそれなりに名前が知られている人もいて、スーパー・グループとまでいかなくても、ちょっとしたビッグ・ネーム・バンドである。

 具体的に書くと、ロイネ・ストルト以外は4人いて、ベース・ギターはザ・フラワー・キングスに所属しているヨナス・レインゴールド、キーボードにはイエスのアルバムやツアーに参加したことのあるアメリカ人のトム・ブリスリン、ドラムにはドイツ出身のマルコ・ミネマンが担当している。マルコについてはザ・ミュート・ゴッズやスティーヴン・ウィルソンのところでも名前が出ていたが、ドリーム・シアターのドラマーの最終候補にもなるくらいの実力派ミュージシャンであり、今のプログレッシヴ・ロック界を代表するドラマーの一人でもある。
 そしてもう一人、ボーカル&ギター担当がダニエル・ギルデンロウだ。このダニエル・ギルデンロウという人は、知っている人は知っていると思うけど、知らない人は何も知らないというくらい有名な人で、スウェーデンのプログレッシヴ・ロック・バンドのペイン・オブ・サルヴェイションのリーダーだ。ダニエルはトランスアトランティックのツアーにも参加していたし、同郷のよしみもあってバンド結成に及んだのだろう。Press_photos_02

 2016年の秋に、ロイネは、レーベル会社であるインサイドアウト・ミュージックの社長と話し合う中で、バンド結成についてのメンバーの人選に及んだようだ。ロイネはこう述べている。『最初に、バンドメイトのヨナスの名前が挙がった。次に、トムにはぜひ加わってほしかったんだ。イエスやキャメルのライヴでは印象的なシンセを弾いていたから。マルコについては彼の大ファンだったし、ユニークなエネルギーに満ちたドラマーだと感じた。そして誰をシンガーにするかという話になって、ダニエルの名前が出てきた。彼とは何度か共演したことがあって、音域の広さとダイナミックな声質を兼ね備えたシンガーだと思えた』

 ただ5人とも多忙なミュージシャンだったし、住んでいるところも異なっていたから、簡単にバンド結成には至らなかった。それでも何とか調整を行って、2017年9月にロンドンでアルバム制作を始めた。
 バンド名については、余計な先入観を与えないように、あえて抽象的なものにしたようだが、ロイネに言わせると、日々そして人生を通じて我々が抱く思想や夢、詩、音楽、愛、恐怖などの広大な海洋が、このアルバムの中に表現されているそうだ。"内なる海"には、人間の生きていく上での様々な感情や思考が含まれている。

 さらにロイネは、このアルバムの音楽性についてもこう述べていた。『このアルバムの音楽性を説明するのは不可能だよ。プログレッシヴ・ロックからジャズ、クラシック、ヘヴィ・ロック、フォークにパンク・ロック、エレクトロニカ、ポップ…そんな多彩な影響を込めている。最高のメロディとフック、メタルの生々しさ、インプロヴィゼーション、シンフォニー、映画音楽の要素もあって、インストゥルメンタル・ジャムを加える余地も残している』71xhccs3ujl__sl1024_

 要するに、何でもありの音楽性なのだが、そのせいかデビュー・アルバムにもかかわらず、ボーナス・トラックなしの2枚組になっていた。それだけ表現欲求が強かったのだろう。冒頭の"Ashes of Dawn"は力強いメタリックなヘヴィ・ロック風だし、続く"They Know My Name"はミディアム・テンポの落ち着いた佳曲で、作詞作曲ともトム・ブリスリンが担当していた。ところで、サックスを担当しているのはゲスト・ミュージシャンのロブ・タウンゼントで、スティーヴ・ハケット・バンドに所属してレコーディングやライヴ活動を行っている。マルコつながりで参加したのだろう。

 "The Void"も2曲目と同じようなバラード風の曲で、終盤でのギター・ソロではロイネが印象的なフレーズをかき鳴らしていた。逆に、このアルバムの中で一番スピーディーでロックンロールの匂いがするのが、"An Eye for An Eye for An Eye"で、詩と曲はドラマーのマルコが創作していて、ドラム以外でもアコースティック・ギターやボーカルも担当している。マルコ・ミネマンという人は、やはり才能豊かなミュージシャンだった。曲の長さも7分もあり、後半はトムのピアノを中心としたジャズ風にアレンジされていて、再び元の急なロックンロールに戻っていく。

 "Goodbye"では、リード・シンガーが交代していて、ダニエルはバッキング・ボーカルになり、代わってテキサス出身のアメリカ人シンガーであるケイシー・マクファーソンがリードをとっている。ケイシーはフライング・カラーズというバンドのメンバーでもあり、このバンドには元ドリーム・シアターのマイク・ポートノイや元スポックス・ビアードのニール・モーズなども在籍している。ちなみに、マイクもニールもトランスアトランティックというバンドで、ロイネ・ストルトと共演していた。プログレッシヴ・ロック界は広いようで狭いのが定説になっていて、人脈図というか相関関係の図式なんかは(作る人は大変だけど)すぐに作成できてしまうのである。

 6曲目の"Sea Without"は、2分24秒という短いインストゥルメンタルで、ロイネ一人で作曲したもの。そのせいか、ロイネのギターがかなり目立っている。続く"Broken Cord"は14分を超える大作であり、ここではケイシー・マクファーソンとダニエル・ギルデンロウの2人が仲良くリード・ボーカルを務めている。曲の序盤は聞きやすい落ち着いた出だしで、ポップな要素も含んでいるが、5分過ぎからロイネのギター・ソロをきっかけに、トムのシンセサイザーもリードをとったりと、70年代風のプログレッシヴ・ロックが展開される。往年のころを知る人に取っては感動ものだろう。
 演奏が一段落して、シンセとギターをバックに歌ものに代わり、9分過ぎからはさらに落ち着いてアコースティック感が満載になってくる。こうなると、一旦落ち着かせてからエンディングに向かって再び盛り上げていくんだろうなあと察しがついてしまうのだが、逆に全然そんなことはなく、静かなうちに終わりを迎えてしまった。おいおい!そんなことでは往年のプログレ・ファンは納得しないぞ!と言っても後の祭りであった。しかも、この曲にはあのジョン・アンダーソンがゲスト参加しているらしいのだが、どのパートで歌っているのかよくわからなかった。う~ん、ちょっと残念というか、かなり困惑する展開をともなった曲なのである。

 ディスク1の最後の曲は、ロイネが作詞作曲している"The Hiding of Truth"で、ミディアム・テンポのメロディラインがはっきりした曲で、いかにも最終曲にふさわしい感じがした。華麗なグランド・ピアノを弾いているのはドリーム・シアターのジョーダン・ルーデス、リード・ボーカルはまたまたケイシー・マクファーソンが担当していた。そんなことならいっその事、ケイシーもバンド・メンバーに加えて、ダブル・リード・ボーカルにすればいいのに。一説によると、ダニエルは自分のバンドのライヴなども控えていることから、ザ・シー・ウィズインでの一部の公演ではケイシーが担当する予定になっているという。S228191781301347849_p6_i12_w960

 ディスク2の1曲目は"The Roaring Silence"という曲で、歌詞はロイネが担当し、曲はロイネとトムが作っている。8分もある曲だが、全体的に起伏に乏しく、これといった見せ場が少ないような気がした。演奏はイエスっぽいものの、もう少し各人のソロとかテクニックを披露してもよかったのではないかと思っている。

 続く"Where Are You Going?"はトムとダニエルの手によるもので、歌もの中心の曲。プログレッシヴ・ロックの曲というよりは、ポピュラー・ミュージックの範疇に属するような気がした。
 逆に、本来のプログレッシヴな展開を見せるのが次の曲の"Time"で、話しかけるような出だしから始まり、徐々に楽器が増えていき、曲が厚みを帯びてくる。ただこの曲も歌もの中心で聞かせるものになっている。トムのメロトロンのようなキーボード・サウンドが個人的には良かった。
 最後の"Denise"は、バラード曲といっていいだろう。失恋の曲だし、何となくドラマか映画の挿入曲といった感じがした。別れた恋人に対して切々と訴えるかのように歌っているダニエルのボーカルが印象的だった。71r0xizcqfl__sl1168_

 ということで、ロイネ・ストルトが中心となって結成されたザ・シー・ウィズインのデビュー・アルバムだったが、70年代のプログレッシヴ・ロックとは違って、派手なソロなどは控えられていて、その分、歌を聴かせるアルバムに仕上げられていた。それぞれのメンバーは十分に実力を備えているので、もう少し各人が自己主張してもよかったのではないかと思っている。それについては、セカンド・アルバム以降を期待したい。ただ、プログレッシヴ・ロックを継承し、今の時代に合うように発展させようとしている点については、やはり彼ららしいのではないだろうか。


« 師匠と弟子によるスティーヴ・ハケットの新作 | トップページ | ロイネ・ストルトのザ・フラワー・キング »

プログレッシヴ・ロック」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 師匠と弟子によるスティーヴ・ハケットの新作 | トップページ | ロイネ・ストルトのザ・フラワー・キング »