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2020年1月

2020年1月27日 (月)

ビッグ・ビッグ・トレインの新作

 ビッグ・ビッグ・トレインの新作といっても、昨年の5月に発表されたものでもう半年以上も経っている。だからもうすでにそれなりの評価がたっているかもしれないけれど、自分なりに感想を記してみようと思う。Photo_20200101155401

 知っている人は知っていると思うけれど、ビッグ・ビッグ・トレイン(以下BBTと略す)は、1990年にイギリスはドーセット州のボーンマスというところで結成された。それ以前のBBTは、もともとはパンク・バンドでバーミンガムで活動していた。その頃は、オリジナル・メンバーのグレッグ・スポートンの兄であるナイジェル・スポートンがバンドを率いていた。
 もう一方のオリジナル・メンバーだったアンディ・プールは、ボーンマスで作曲活動を始めていて、スポートンがボーンマスに引っ越して知り合いになり、バンド活動を始めた。その時にスポートンの兄のバンド名を引き継いだわけだ。パンク・バンドとしてのBBTの歴史はそんなに長くなかったようだ。

 そして、グレッグ・スポートンとアンディ・プールは、メンバーを集めてバンドを結成し活動を始めた。最初のデモ・アルバム「フロム・リバー・トゥ・ザ・シー」は1992年5月に発表され、一部の評論家からは高い評価を得ることができた。当初は"マリリオンの再来"ともよばれたらしいが、そうなると"ジェネシスの再再来"になると思うのだが、真偽のほどは定かではない。

 最初のオフィシャルなスタジオ・アルバムは、1993年に発表された。タイトルは「グッバイ・トゥ・ジ・エイジ・オブ・スクリーム」といってまずまずの評判だったが、ここでキーボード・プレイヤーが交代した。これが、これから続く目まぐるしいほどのメンバー・チェンジの始まりになった。セカンド・アルバムの「イングリッシュ・ボーイ・ワンダーズ」の発表まで3年もかかったのも、メンバー・チェンジの影響からだった。しかし、このアルバムはコケてしまった。演奏に緊張感が伴っていなくて、漫然とした印象が強かったからだ。当然ながらセールス的にも失敗してしまい、さらにメンバー・チェンジが行われた。(ただ、バンド的にはこれが悔しかったのだと思う。2008年には「イングリッシュ・ボーイ・ワンダーズ」をミキシングし直して再発している)

 3枚目のスタジオ・アルバムの「バード」はセールス的にも良くて、ここからBBTの人気が高まり、固定ファンの獲得につながっていった。2007年の「ザ・ディフェレンス・マシーン」には、マリリオンやスポックス・ビアードのメンバーをゲスト陣に迎えていて、このアルバムもまた評価が高かった。
 そして、彼らの人気を不動のものにしたのが2009年の6枚目のアルバム「ジ・アンダーフォール・ヤード」だった。このアルバムには、XTCのデイヴ・グレゴリーや元イッツ・バイツのフランシス・ダナリーらが参加していて、楽曲の豊かさに彩りを備えていた。

 この後も過去のアルバムの再発や新作が発表されていくのだが、アルバムを出すたびにメンバーが変わっていくような感じで、2018年には最後まで残っていたアンディ・プールまでも脱退してしまった。結局、オリジナル・メンバーで今も残っているのは、グレッグ・スポートンだけになってしまった。確かに、プログレッシヴ・ロックのバンドには、イエスやクリムゾンのように激しくメンバー・チェンジするものも多いのだが、このBBTもまたその例に漏れないようだ。

 12枚目にあたる新作「グランド・ツアー」は、6曲の短い曲(短いと言っても中には8分を超えるものもある)と3曲の組曲で構成されている。タイトルの"Grand Tour"というのは、17世紀から18世紀にかけて、イギリスの裕福な子弟が学業の終了時に行ったといわれている大規模な国外旅行のことで、要するに"卒業旅行"をモチーフにして作成されていた。国内盤には7インチサイズのカラーブックレットも添付されていて、そのせいか、お値段的にも1枚のアルバムなのに2枚組に匹敵するものだった。できれば普通の解説と和訳でいいので、3000円以内におさめてほしかったと思っている。A1yv6tfecpl__ac_sl1500_

 冒頭の"Novum Organum"はマリンバのような静かなキーボードで始まり、クールに忽然と終わって行く。アルバム全体のプロローグの役目を果たしているのであろう。続く"Alive"はノリの良い曲で、しかも最初からメロトロンが爆発しているから、これはもう私のようなメロトロン信者には願ってもない曲だった。ロイネ・ストルトもこういう音楽をやればいいのにと思っている。最近の彼の楽曲には、この手の疾走感が欠けているのだ。

 BBTの評価が高いのは、メリハリのバランスがいいからだろう。叙情的な曲では思いっきりジェネシス化しているし、ノリのいい曲では黄金期のイエスをも凌駕するような緻密さやテンポの良さを備えている。だからといって後期ジェネシスのようにポップ化はしておらず、プログレッシヴ・ロックにつきもののテクニックもあれば、耳になじみやすいメロディアスなフレーズも備えている。

 それに"The Florentine"という曲には、フォーク的要素もあれば、後半になってムーグ・シンセサイザーのソロも聞くことができるし、イエス的なアンサンブルの良さも垣間見れる。こういうバランス感覚が優れているのがBBTの音楽の特長ではないだろうか。

 最初の組曲"Roman Stone"は5つのパートの分かれていて、13分34秒という長さだった。この曲とその前の曲"The Florentine"はイタリアが主題であり、特に"The Florentine"はレオナルド・ダ・ヴィンチを、"Roman Stone"はローマ帝国の盛衰をモチーフにしている。ほかの組曲にも言えることだが、BBTの長い曲は"起承転結"がはっきりしていて、最後まで飽きさせないし、時には楽器のソロや管楽器の使用などでアクセントを添えてくれる。この"Roman Stone"も同様だった。

 "Pantheon"もまた最初からメロトロンが使用されている。この曲はインストゥルメンタルで、最初は静かに、徐々にリズムが強調されて変拍子も使用されていく。まるでジェントル・ジャイアントの曲のようだ。途中でフルートやキーボードのソロも用意されていた。曲を作ったのはドラマーのニック・ディヴァージリオという人で、タイコも叩ければギターもキーボードも演奏するという才人だ。
 そのニックがダブル・リードボーカルで歌っているのが次の"Theodora in Green and Gold"で、まるでグレッグ・レイクの歌う"Still...You Turn Me On"のような出だしが秀逸だし、ニックの声はそこまで深みはないのだが、聞いていて悪くはない。曲の中盤からエレクトリック・ギターが添えられて、聞かせてくれるプログレッシヴ・ロック曲になっていた。

 2番目の組曲"Ariel"は14分28秒という長さで、3つの組曲の中では一番長かった。この曲のモチーフは、ウィリアム・シェイクスピアの作品である「大あらし」に登場する精霊のことについてであり、シェイクスピア自身がこの精霊についてほとんど説明していないため、この曲で自由に想像を膨らましているようだ。8パートに分かれていて、部分部分でバイオリンやストリングスが使用されていて、まるで演劇を観ているかのような錯覚に陥ってしまった。上にも書いたが、こういう曲構成の巧みさがBBTの素晴らしさである。

 続いて3番目の組曲"Voyager"が始まるが、この曲は7つのパートに分かれている。このタイトルは、1977年に始まったアメリカの太陽系外探査計画におけるボイジャー1号と2号についてであり、そのせいか、曲調もやや無機質というかボーカルよりも演奏に比重を置いているようだった。
 前の曲の"Ariel"にはすべてのパートでボーカルが含まれていたが、こちらの組曲では7パートのうちパート1と3、6、7にボーカルが入っていて残りはインストゥルメンタルだ。またそのインストゥルメンタルにも、室内管弦楽のような優雅な雰囲気を醸し出しているところもあれば、パートのつなぎに管楽器が使用されているところもある。さらに、ジャズ・ロックを聞いているようなパートもあれば、無理のないように叙情的に盛り上げていくところもある。この辺の変幻自在さというか展開の素晴らしさは、まさにBBTの独壇場だろう。ただ気になるのは、これをライヴで演奏するのは難しいのではないだろうか。Alive1024x576

 そして最後の曲は"Homesong"だった。無事に家に帰還したということだろう。あるいは無事に帰れることを願っての歌かもしれない。これもまたメロディー自体はポップな印象ながらも、多彩な楽器が使用されて転調も多く、テクニカルな面を備えていた。4分50秒と彼らにしては短い曲だが、彼らの音楽的要素がギュッと濃縮されているようだ。71tkowqtsil__ac_sl1200_

 全体を通して聞くと74分もあり、これに国内盤にはボーナス・トラックが1曲ついているから80分近くになる。もうおなか一杯という感じになるのだが、こういう表現力の豊かさがあるということは、いまがBBTの最盛期なのかもしれない。現在のイギリスのプログレッシヴ・ロック界を牽引しているのは、ビッグ・ビッグ・トレインであることは紛れもない事実なのである。

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2020年1月20日 (月)

ザ・フラワー・キングスの新作

 昨年末の11月のお話だが、スウェーデンのプログレッシヴ・ロック・バンドのザ・フラワー・キングスのニュー・アルバムが発表された。バンド名義としては13枚目のスタジオ・アルバムであり、タイトルは「ウェイティング・フォー・ミラクルズ」と名付けられていた。81uwzhvtzol__ac_sl1500_

 知っている人は知っていると思うけれど、バンドのリーダーは、ギター&ボーカル担当のロイネ・ストルトであり、ロイネ・ストルトといえば、現代を代表するプログレッシヴ・ロックにおけるミュージシャンだ。このブログでも何度も取り上げているけれど、ワーカホリックで有名で、ザ・フラワー・キングス以外でもカイパやトランスアトランティック、エージェンツ・オブ・マーシー、最近では元イエスのジョン・アンダーソンとのジョイント・アルバムや昨年末にも取り上げたザ・シー・ウィズイン、さらにはロイネ・ストルトズ・フラワー・キング名義だったけれど「マニフェスト・オブ・アン・アルケミスト」というアルバムも発表している。
 自分は、このロイネ・ストルトとスティーヴン・ウィルソン、そしてジョン・ミッチェルの3人をプログレ界の3大ワーカホリックとして認定しているのだが、働き方改革という時代の流れを一向に気にせずに自分の進むべき道を突っ走っているところが何とも潔い。

 それでニュー・アルバム「ウェイティング・フォー・ミラクルズ」のことに話を戻すと、前作の「デソレーション・ローズ」から6年ぶりのスタジオ・アルバムにあたり、しかも2枚組、全15曲(国内版は16曲)90分近い内容になっている。また、メンバー・チェンジも行われていて、ドラマーとキーボーディストが交代していた。かつてのキーボーディストだったトマス・ボーディンは参加していない。やはり噂されていたように、ロイネとトマスの仲はよくなかったのだろう。6年間も待たされた理由の一つは、それだったに違いない。

 また他の理由を考えると、2018年から行われていたワールド・ツアーでの成功が、アルバム制作の後押しをしたともいえるだろう。このツアーでは、最初のバンド名は"ロイネ・ストルト&ヒズ・フレンズ・プレイ・ザ・フラワー・キングス"とまどろっこしいネーミングだったが、各地では大盛り上がりで評判も徐々に上がり、"ザ・フラワー・キングス・リヴィジティッド"と変わり、最終的には"ザ・フラワー・キングス"に落ち着いたのである。だから、このツアーでの成功がロイネに再びやろうという自信を持たせたに違いない。Tfklive

 アルバムは1分55秒の短い"House of Cards"から幕を開ける。短いピアノ演奏のプレリュードだ。続いて"Black Flag"に移る。ザ・フラワー・キングスらしく起承転結のある楽曲で、力強いボーカルにアコースティックギター、キーボード、リズム・セクションが複雑に絡み合っていく。ゆったりとした曲調ながらも途中でのギター・ソロやキーボード・ソロもあるし、転調も行われている。特にリスナーを意識して曲を作ったわけではないのだろうが、結果的には聞いてて飽きさせない工夫が施されているかのようだ。

 3分過ぎから徐々にピッチが上がり、4分過ぎからはドラマティックなギター・ソロが奏でられていく。5分半ばで一旦終焉し、再びアコースティック・ギターが鳴らされ静けさが訪れる。そして6分40秒過ぎから一気にエンディングへと向かっていくと思われたのだが、終わり方がはっきりとしていなくて霧に包まれたようにモヤッとしたまま終わってしまった。もう少し終わり方を工夫すれば、もっと印象的な曲に仕上がったのではないだろうか。

 3曲目の"Miracles for America"は10分3秒もあるアルバム一の長い曲だ。このアルバムを代表する曲の一つだろう。出だしからポップなメロディに乗って歌われるのだが、リード・ボーカルのハッセの声は、ジョン・アンダーソンの声を野太くしたような感じがした。しかも曲調も何となくイエスっぽい明るさというか能天気さを備えているから、なお一層イエスの曲をザ・フラワー・キングスが演奏しているような感じなのだ。
 イエスといっても初期のもので、"Yours is No Disgrace"や"Starship Trooper"のころを彷彿させてくれた。ハモンド・オルガンから始まり、キレの良いリズム・セクションに導かれて肯定的なサウンドが鳴らされる。4分前あたりから一旦ブレイクし、メインフレーズが歌われるとともに各種楽器が入り乱れてのアンサンブルが始まる。そして、6分過ぎから元に戻ってメインフレーズがリフレインされ、次第に昇華され高見へと昇っていく。この辺はトランスアトランティックでよく見られた手法である。この曲にはそれなりのエンディングが用意されていた。

 続く"Vertigo"も9分59秒と長い曲であり、新加入のキーボーディスト、ザック・カミンスの弾くミニ・ムーグシンセサイザーが曲に色どりを添えている。ミディアム調の曲で、やはりこの曲のボーカルも変声期を迎えたジョン・アンダーソンのような感じだった。「リレイヤー」時期の"To Be Over"をややダークにした感じだろうか。7分過ぎのギター・ソロがややブルージィーで渋い印象だった。こうやって聞くと、ロイネって結構上手なギタリストだったということが分かる。また8分半ばからのメロトロンもいい味を出していた。ただ、エンディングがフェイドアウトしていくので、ちょっと物足りない。きっちりと終るか、もう少し盛り上げてほしかった。その点が残念だ。

 "The Bridge"は、ザ・フラワー・キングス流のバラードだろう。あるいは子守唄といっていいかもしれない。ロイネの演奏する前半のアコースティック・ギターと後半のエレクトリック・ギターがとても素晴らしい。そのエレクトリック・ギターにメロトロンやシンセサイザーが重ねられて曲に重厚さを加えていくのである。エンディングていう点では、前曲よりもこちらの方が印象的ではないだろうか。

 "Ascending to The Stars"は5分40秒くらいのインストゥルメンタルで、作曲者はキーボーディストのザック・カミンスだった。バイオリンとヴィオラが使用されているが、メインはカミンスの演奏する各種ヴィンテージ・キーボードだろう。曲の雰囲気としては転調が多く、何となくジェントル・ジャイアントというイメージが湧いた。

 一転して"Wicked Old Symphony"では、彼らのややポップな側面を感じさせてくれた。シングル・カットをすれば売れそうな感じだ。トレバー・ホーンが加入したころのイエスと比較されるかもしれない。5分46秒という時間が何となく短く感じられるし、実際にあっという間に会わってしまった感じだ。

 続く"The Rebel Circus"もまたインストゥルメンタルで、作曲者はロイネとイタリア人ドラマーであるミルコ・デマイオだった。タイトル通りに像?の咆哮から始まり、攻撃的なアンサンブルが始まる。疾走するリズム陣に中を舞うエレクトリック・ギター、隠し味風のメロトロンと目立つシンセサイザーなど工夫が施されていて、インストゥルメンタルだけで終わらせるのは何となく惜しいような気がした。できれば歌詞も付けて楽曲として完成させてもいいのではなかろうか。エンディングも申し分ないと思う。また、アルバム・ジャケットはこの曲をモチーフにしていたのかもしれない。アルバム・ジャケットに関しては、なかなかいいと思った。

 "Sleep with The Enemy"もメロディアスでわかりやすい。"Sleep with Me"とか"Stay with Me"と歌うところが歌謡曲風で、日本人には受けそうな曲だと思った。また、シンセサイザーやメロトロンだけでなく、目立たないけれどもパイプ・オルガンも使用されていて、この辺は職人技を感じさせてくれる。最後はロイネの演奏するエレクトリック・ギターがフェイド・アウトされていった。

 そして最後の曲である"The Crowning of Greed"が始まる。静かなイントロから始まり、ロイネのエレクトリック・ギターが主旋律を奏でフィーチャーされていく。アルバムの最後を飾るインストゥルメンタルかと思ったら、3分過ぎからおとなしくなり急にボレロ調に変わる。そして、4行くらいの歌詞を繰り返し、そして歌詞のフェイドアウトともに、曲も終わってしまった。最後を飾るに最適とは言えないまでも、ふさわしいかもしれない。71bn0nrai5l__ac_sl1200_

 続いてディスク2の1曲目は、"House of Cards Reprise"でディスク1の冒頭の曲のリプライズだった。ただし、こちらの曲の方が躍動感がありカッコイイ、1分21秒しかなかったけれど。2曲目の"Spirals"は、"Call on Miracles - For America"と2回だけ繰り返される歌詞を中心に組み立てられた楽曲で、今回は今のアメリカという国家(というより大統領のこと?)を非難したメッセージを送っているようで、ディスク1に収められていた"Miracles for America"がやはりこのアルバムの主題となる曲だったということが分かる。演奏自体はテクニカルなジャズ・ロックを聞いているかのようだ。こういうザ・フラワー・キングスもまた素晴らしいと思うし、もっとこの手の曲を増やしてらいたいとも思った。ちなみに、作った人はカミンスにストルト、ドラマーのデマイオとベーシストのヨナス・レインゴールドだった。

 "Steampunk"もテクニカルな曲で、カミンスの演奏するミニ・ムーグとシンセサイザーがはじけるようなメロディーを弾いているはいるものの、続くスキャット風ボーカルやタイトなリズムが何となくジャズっぽい。個人的にはこの曲も良いと思っていて、そういう意味では曲数は少ないものの、ディスク2の方がピリッと引き締まっていて印象度として強かった。

 4曲目の"We Were Always Here"では、リズムが工夫されていて、フレットレス・ベースにワールド・ミュージック風の太鼓の音が聞こえてくる。まさかカリプソやブラジリアン・ミュージックをやるのかと思ったら、歌が始まるとザ・フラワー・キングスに戻ってしまった。こういうカラフルで天然色的なサウンドもまたザ・フラワー・キングスの特徴だろう。昔の彼らのサウンドに戻ったような感じがした。やはりディスク2の方が日本人にはあっているのではないだろうか。7分35秒という長さを感じさせない佳曲である。

 ディスク2には5曲(国内盤には"Miracles for America"のインストゥルメンタル・バージョンがボーナス・トラックとして6曲目に置かれている)しかなくて、その5曲目が"Busking at Brobank"という曲で、ストルトが作曲したインストゥルメンタルだった。カミンスの演奏するテルミンが中心となっているわずか51秒の曲だった。今どきテルミンかと思ったが、アクセント的にはいいのではないだろうか。Images_20191222113701

 とにかく、今のネット全盛時代に置いて、いまだに過去のプログレッシヴ・ロックを踏襲しながらも、その拡大再生産を目指す意欲と実践にはまさに脱帽ものである。今のプログレッシヴ・ロック界を牽引しているのは間違いないし、今後の展開がどうなるかは、ひとえにこのロイネ・ストルトを中心にしたバンドやユニット類の力量と取組に関わってくるのではないだろうか。ロイネ・ストルト63歳、今年といわずこれからも末永く頑張ってほしいものである。

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2020年1月13日 (月)

フロム・アウト・オブ・ノーウェア

 昨年の終わりに、エレクトリック・ライト・オーケストラ(以下ELOと略す)の新作が発表された。ただ、正確にいうと、ジェフ・リンズ・ELOという名称になる。これは"ELO"という名義を使用できる権利を持っているのが、オリジナル・メンバーだったジェフ・リンとドラムス担当だったべヴ・ベヴァンの2人だけだからだそうだ。X_elo

 ジェフ・リンズ・ELOについては、2015年に「アローン・イン・ザ・ユニバース」というアルバムを発表していたから、4年振りのアルバムで、タイトルは「フロム・アウト・オブ・ノーウェア」と名付けられていた。前作もそうだったけれど、このアルバムも全10曲という今どきにしてはシンプルなもので、ボーナストラックも付いていなかった、前作には3曲もあったのに…
 さらには、10曲で約32分、各曲はすべて3分程度で4分を超える曲は1曲も含まれていなかった。これでいいのかソニー・ミュージックと思わず言ってしまいそうになるのだが、ジェフ・リンの意向のようだから仕方ないのだろう。71w86snvztl__ac_sl1200_

 ただし内容に関していうと、少なくとも前作よりは70年代後半から80年代初期の当時の趣きを再現していて、確かに黄金期のELOの一部分が戻ってきたという感じがした。そういう意味では、あの時代を回顧したい人にとっては必聴盤になるに違いない。

 実際、イギリス本国におけるELOの人気は未だ衰えずというよりも、ザ・ビートルズやクィーンと比べても勝るとも劣らないほどであり、2014年にはハイドパークでライヴが行われたが、5万枚のチケットはわずか15分で売り切れてしまった。そして2016年にはグラストンベリーでライヴを、翌年の17年にはウェンブリー・スタジアムで6万人を前にヒット曲全開のライヴを行った。

 この時の模様をのちにジェフはこう回顧している。『これまででの最大の山場だった。だってやっぱりいざやるとなったらウェンブリーはちょっと怖かったよ。6万人を前にどうすればいいんだっていう感じだ。でも、やってみたら最高に楽しかった。あれに匹敵するものは何もないし、なんかもう言葉で説明のしようがないね』Img_elo1

 こういうライヴを行う中で、ジェフ・リンは今までやってきたことや、今やっていることに自信を持ったというか、確信を抱いたのだろう、自分はまだまだ現役で、求められているミュージシャンだと。それで、4年振りの新作が往時の輝きを放っているのも、そんな自信みたいなものが備わっていたからだろう。ジェフは、ライヴの経験がELOとしてのサウンドをさらに磨き上げたというようなことも述べていたし、今の世の中に対して希望を与えられるように感じさせたいから、そのためにも曲にもっとポジティヴで、もっとドライヴを持たせたかった。それはライヴ・パフォーマンスを盛り上げるためだ、というようなことも言っていた。

 それで今回のアルバムを聞いてみると、冒頭の"From Out of Nowhere"は60年代のロイ・オービソンの曲に似ていて、確かにポップで耳になじみやすい。ミディアム調でどこかで聞いたような懐かしさを感じさせてくれた。
 続く"Help Yourself"も同じような傾向の曲だが、80年代のトラベリング・ウィルベリーズの中の曲ですよといわれてもわからないのではないだろうか。ジョージ・ハリソンあたりが歌いそうな曲調だ。

 "All My Love"については、今までのELOにはなかった感じの曲で、ポール・マッカートニーあたりが作りそうな曲で、例えていうなら2007年に発表された"Dance Tonight"をボサノバ調に変換したようなタイプだ。最初の5曲の中ではテンポがよくて、アルバム前半のアクセントにもなっていた。ジェフのファルセットもいい味を出している。

 "Down Came The Rain"こそまさに70年代後半のELOの曲に似ていて、もしくは未発表曲といわれても信じてしまいそうになる。例えていうなら、1977年の"It's Over"か"Mr. Blue Sky"と比べても遜色はないだろう。もしくはELOの曲をトラベリング・ウィルベリーズがアレンジして歌っている感じだ。わかるかなあ。わかる人には分かると思うけど、わからない人には永遠にわからないかもしれない。

 前半最後には、お決まりのバラード曲"Losing You"が用意されていた。これまたロイ・オービソン風の曲で、"Crying"と比べてもいいだろうし、このアルバムでは珍しいことだけど、ストリングスも用意されていた。あるいは、1973年のアルバート・ハモンドの曲"For The Peace of All Mankind(落ち葉のコンチェルト)"にも似ている。
 ジェフ自身は、このアルバムについて、ストリングスとかそういうものは抑えて、ポップやロックン・ロールのフィーリングをもっと打ち出したかったと述べていたが、そういわれてみると、かつてのELOのようなストリングスやオーケストレーションなどはほとんど印象に残らない程のものだった。"Losing You"はそういう意味では、特別なのかもしれない。Eloagaintributetojefflynneselolivephoto

 後半最初の曲"One More Time"はまさにELO風ロックン・ロールだ。1976年の「オーロラの救世主」というアルバムがあったけど、あの中の曲"Rockaria"や"Do Ya"に通じるものがある。この曲には元ELOメンバーのキーボーディストだったリチャード・タンディが参加しているが、本当は他の曲のレコーディングにも参加する予定だったが、本人の体調がすぐれずにこの曲だけで終わってしまった。元ELOメンバーの中で、ジェフ・リンと今でも音楽的に交流があるのはこのリチャードだけのようだ。

 7曲目の"Sci-Fi Woman"もノリの良い楽曲で、後半はテンポの良い佳曲が並んでいる。アルバム構成的には前半が穏やかなミディアム調の曲が占め、後半はノリの良い曲が並んでいる。もう少し前半にも後半にもバランスよく混ぜて配置すると、メリハリが効いてよさそうになるような気がするのだが、どうだろうか。

 "Goin' Out on Me"はスロー・バラード風になっているから、そういう意味ではバランスよく配置されているのかもしれない。この曲は60年代のダンス・パーティーで披露されるようなテイストを含んでいて、ヨーロッパ系アメリカ人が好んで聞きそうなタイプの曲だ。
 "Time of Our Life"では、上述した2017年のウェンブリー・スタジアムでのライヴのことが歌われていて、6万人が携帯電話で明かりを出し、その中で彼らの代表曲でもある"Telephone Line"が始まった時の様子が記されている。これまた軽快な曲で、よほどこの時の印象が強かったのだろう、うれしい驚きが曲調に表れているし、その時の歓声もSEとして使用されている。

 10曲目の最後の曲は"Songbird"という曲で、恋愛が最後に成就するというハッピー・エンディングの内容だ。曲もミディアム・スローで、最後を締めくくるには似合っていると思う。この曲も、70年代の未発表曲といわれてもわからない程のポップでメロディアスな特徴を備えている。61y7uvryhjl__ac_sl1200_

 とにかく10曲しかなく、しかも32分程度だから何度も聞いてしまった。そういう意味では、魔法にかかったようにリピート・ボタンを押してしまう。これもジェフ・リンの作戦なのかもしれない。ジェフ・リンも72歳になったが、このアルバムではほとんどすべての楽器を一人で手掛けているし、まだまだ音楽的な才能は枯れていないようだ。ちなみにこのアルバムは、アメリカのビルボード・アルバム・チャートでは47位を記録し、イギリスでは見事首位に輝いている。母国での人気には一向に陰りがささない。ELOの人気は、イギリスでは永遠不滅なのだろう。

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2020年1月 6日 (月)

今年はネズミ年

 明けましておめでとうございます。皆さま方にとりまして、よい1年になることを願っています。さて、新年1回目は、例年のとおりの"今年の干支"のジャケット集です。ご覧いただければ幸いです。

 今年は子年ということで、ネズミが描かれたレコード・ジャケットを集めてみた。最初はわかりやすいこのジャケットから。今の人はひょっとしたら知らないかもしれないが、この人がおとなになってどういう人生を歩んだか、まさに映画のような劇的なクライマックスを迎えようとは、この写真の時点では誰も予想できなかっただろう。41n462ant0l 
 まるで別人のように思う人もいるかもしれないが、これがマイケル・ジャクソンの子ども時代というか、素顔だった。1972年に発表されたこの"Ben"という曲は、ビルボードのシングル・チャートで見事1位に輝いている。もともとは「ベン」という同名映画の主題歌で、警察に追われているネズミの"Ben"と少年との友情というか交流を描いた作品だった。当時のマイケルは14歳、本当なら変声期を迎えている頃だが、今も昔も変わらない歌声を披露してくれている。

 次は、イギリスのパンク・ロック・バンド、ザ・ストラングラーズの1992年のアルバム「イン・ザ・ナイト」のジャケットから。このアルバム発表前に、オリジナル・メンバーでギター&ボーカルを担当していたヒュー・コーンウェルが脱退してしまい、この「イン・ザ・ナイト」では、ギターはジョン・エリスが、ボーカルにはポール・ロバーツという人が担当していた。つまり、それまで4人組だったのが5人編成に変わったのだ。また、ヒュー以外のメンバーは不動で、現在のザ・ストラングラーズについてはギター&ボーカルが交代して、4人編成に戻っているようだ。Stranglersinthenight

 どんどん行こう、次はわかりやすいジャケットから。オーストラリアのプログレッシヴ・ロック・バンドにアラゴンというバンドがあるが、彼らの1995年のアルバム「マウス」である。このアラゴンというバンドは、1987年頃にメルボルンで結成されていて、当初は4人組でそれぞれドイツやイタリア、イギリス、ギリシャ系と国際色豊かなメンバーで構成されていた。この「マウス」は確か3枚目のアルバムだったと思うが、ドラマーが脱退してしまって、ドラム・マシーンが使用されている。内容的には、ネズミを通して現代人の孤独や閉塞感を表現していて、全30曲のトータル・アルバム形式になっていた。30曲といっても、ほとんが2分程度の短い曲だった。Cover_15651742017_r

 さらにわかりやすいジャケットは、これだろう。アメリカのハード・ロック・バンド、ラットのアルバムだ。バンド名自体が"ネズミ"を表しているのだから、アルバム・ジャケットもやはり一度はネズミを使用しないとメンバーもファンも納得しなかったのかもしれない。
 このアルバムは1983年の6曲入りミニ・アルバムだった。もともとラットというバンドは、ボーカリストのスティーヴン・パーシーという人が中心となって結成したバンドで、アメリカ西海岸の気候にようにカラッと明るくてノリノリのハード・ロック・バンドだった。当時は似たようなバンドが雨後の竹の子のように同時多発的に発生していたが、ラットはその先駆けとなったバンドだった。71ldzfgt46l__sl1000_ メディアは、彼らの音楽を"ラットン・ロール"と呼んで好意的に紹介していたが、ブームが過ぎ去り、しかもギタリストがエイズにかかって亡くなったりして、バンドは解散してしまった。現在ではオリジナル・メンバーが対立していて、分裂したままでそれぞれ活動しているようだ。

 もっとわかりやすいのが、ハンブル・パイの1975年のアルバム「ストリート・ラッツ」のジャケットから。このハンブル・パイは、個人的には大好きで、現在では低く評価されているブリティッシュ・ロック・バンドだと考えている。結成当時は、ピーター・フランプトンとスティーヴ・マリオットという二大スターが在籍していて、結成当時はアコースティックとエレクトリックが絶妙にブレンドされた音楽をやっていたが、徐々にアーシーな雰囲気からソウルフルでノリの良いロックン・ロール路線を歩むようになっていった。これはスティーヴ・マリオットの意向を反映したものだったが、その路線にピーター・フランプトンはついていけず、脱退してソロ活動を始めた。91slveagv8l__sl1500_
 90年代に入って、スティーヴ・マリオットとピーター・フランプトンはハンブル・パイ再結成に向けて動き出したのだが、その矢先にスティーヴの自宅が火事になってしまい、残念ながら帰らぬ人になってしまった。まだ44歳という若さだっただけに残念でならない。もし今でも生きていたなら、きっと素晴らしいアルバムを連発していただろう。

 もう一枚は、ドイツ出身のプログレッシヴ・ロック・バンドのトリアンヴィラートの1975年のアルバム「スパルタカス」だ。ローマ時代の英雄とネズミがどういう関係にあるのかは不明だが、とにかくネズミが存在している。このトリアンヴィラートというバンドは、3人組だったことから"ドイツのE,L&P"と呼ばれていたそうで、ネズミを使用したアルバム・ジャケット群で有名だった。このアルバムは彼らの3枚目にあたるもので、いわゆるスパルタカスをテーマにしたトータル・アルバムである。とにかく目を閉じて聞くと、E,L&Pのニュー・アルバムと思ってしまうほどの出来栄えだと思っている。61or6icj3l__sl1111_

 ここからは分かりづらいというか、見づらいアルバム・ジャケットになる。ジャーマン・メタルの代表格であるブラインド・ガーディアンの1990年の「テイルズ・フロム・ザ・トゥワイライト・ワールド」にはネズミが写っているといわれているが、見えるだろうか。自分はこのアルバムではなくて、1995年の「イマジネイション・フロム・ジ・アザー・サイド」を持っていたが、なかなかの力作で、単なるヘヴィメタではなく、起承転結があり、ドラマティックで聞きごたえがあった。テーマもファンタジー性があり、そういう世界観が好きな人にはピッタリなアルバムではないだろうか。 91yjpmgfxrl__sl1391_

 アンソニー・フィリップスは現在67歳だが、彼の最初のソロ・アルバムは1977年の「ギース・アンド・ザ・ゴースト」だった。彼はジェネシスの初代ギタリストだったが、このアルバムは非常に牧歌的でファンタジック、かつアコースティックな作品で、ハード・ロックとは対極をなす内容だった。このアルバムにも小さくネズミが写っているという。自分も持っているのだが、よくわからなかった。たぶん昔のLPレコードサイズならわかるのだろうが、CDサイズではわかりにくい。それこそ何とかルーペが必要になってくるだろう。81whyul86rl__sl1422_

 最後は、カナダのバンドのクラトゥのデビュー・アルバムだ。しかも表ではなくて裏側である。クラトゥは、そのメロディアスでポップな楽曲のせいで、解散したビートルズの覆面バンドではないかと噂されたバンドだった。実際は、3人組のスタジオ・ミュージシャンの集まりだったから、正確に言えば"カナダのTOTO"なのだろう。Lpklaatusirarmysuitvinilrarod_nq_np_2417
 このアルバムは1976年に発表されていて、カナダでは40位、アメリカでは32位というチャート・アクションだった。アルバム・タイトルの「3:47EST」というのはアメリカの東部標準時間を表していて、1951年の映画「地球が静止する日」での宇宙人が飛来した時間が3時47分だったからタイトルにしたという。ちなみにバンド名の"クラトゥ"というのは、この映画に出てくる宇宙人から引用されたようである。611gi5zzo0l

 さて、いろいろとネズミのいるアルバム・ジャケットを見てきたが、もちろんこれら以外にも、まだまだたくさんあると思う。時間があれば探してみるのも面白いと思う。ただ、ネズミは、ネズミ算とも言われるように子宝には恵まれるようだが、寿命は長くはない。飼育されているラットでも長くて3年といわれているようだ。ひょっとしたら"太く短く生きる"というのが、ネズミ年の象徴なのかもしれない。

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