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2020年1月20日 (月)

ザ・フラワー・キングスの新作

 昨年末の11月のお話だが、スウェーデンのプログレッシヴ・ロック・バンドのザ・フラワー・キングスのニュー・アルバムが発表された。バンド名義としては13枚目のスタジオ・アルバムであり、タイトルは「ウェイティング・フォー・ミラクルズ」と名付けられていた。81uwzhvtzol__ac_sl1500_

 知っている人は知っていると思うけれど、バンドのリーダーは、ギター&ボーカル担当のロイネ・ストルトであり、ロイネ・ストルトといえば、現代を代表するプログレッシヴ・ロックにおけるミュージシャンだ。このブログでも何度も取り上げているけれど、ワーカホリックで有名で、ザ・フラワー・キングス以外でもカイパやトランスアトランティック、エージェンツ・オブ・マーシー、最近では元イエスのジョン・アンダーソンとのジョイント・アルバムや昨年末にも取り上げたザ・シー・ウィズイン、さらにはロイネ・ストルトズ・フラワー・キング名義だったけれど「マニフェスト・オブ・アン・アルケミスト」というアルバムも発表している。
 自分は、このロイネ・ストルトとスティーヴン・ウィルソン、そしてジョン・ミッチェルの3人をプログレ界の3大ワーカホリックとして認定しているのだが、働き方改革という時代の流れを一向に気にせずに自分の進むべき道を突っ走っているところが何とも潔い。

 それでニュー・アルバム「ウェイティング・フォー・ミラクルズ」のことに話を戻すと、前作の「デソレーション・ローズ」から6年ぶりのスタジオ・アルバムにあたり、しかも2枚組、全15曲(国内版は16曲)90分近い内容になっている。また、メンバー・チェンジも行われていて、ドラマーとキーボーディストが交代していた。かつてのキーボーディストだったトマス・ボーディンは参加していない。やはり噂されていたように、ロイネとトマスの仲はよくなかったのだろう。6年間も待たされた理由の一つは、それだったに違いない。

 また他の理由を考えると、2018年から行われていたワールド・ツアーでの成功が、アルバム制作の後押しをしたともいえるだろう。このツアーでは、最初のバンド名は"ロイネ・ストルト&ヒズ・フレンズ・プレイ・ザ・フラワー・キングス"とまどろっこしいネーミングだったが、各地では大盛り上がりで評判も徐々に上がり、"ザ・フラワー・キングス・リヴィジティッド"と変わり、最終的には"ザ・フラワー・キングス"に落ち着いたのである。だから、このツアーでの成功がロイネに再びやろうという自信を持たせたに違いない。Tfklive

 アルバムは1分55秒の短い"House of Cards"から幕を開ける。短いピアノ演奏のプレリュードだ。続いて"Black Flag"に移る。ザ・フラワー・キングスらしく起承転結のある楽曲で、力強いボーカルにアコースティックギター、キーボード、リズム・セクションが複雑に絡み合っていく。ゆったりとした曲調ながらも途中でのギター・ソロやキーボード・ソロもあるし、転調も行われている。特にリスナーを意識して曲を作ったわけではないのだろうが、結果的には聞いてて飽きさせない工夫が施されているかのようだ。

 3分過ぎから徐々にピッチが上がり、4分過ぎからはドラマティックなギター・ソロが奏でられていく。5分半ばで一旦終焉し、再びアコースティック・ギターが鳴らされ静けさが訪れる。そして6分40秒過ぎから一気にエンディングへと向かっていくと思われたのだが、終わり方がはっきりとしていなくて霧に包まれたようにモヤッとしたまま終わってしまった。もう少し終わり方を工夫すれば、もっと印象的な曲に仕上がったのではないだろうか。

 3曲目の"Miracles for America"は10分3秒もあるアルバム一の長い曲だ。このアルバムを代表する曲の一つだろう。出だしからポップなメロディに乗って歌われるのだが、リード・ボーカルのハッセの声は、ジョン・アンダーソンの声を野太くしたような感じがした。しかも曲調も何となくイエスっぽい明るさというか能天気さを備えているから、なお一層イエスの曲をザ・フラワー・キングスが演奏しているような感じなのだ。
 イエスといっても初期のもので、"Yours is No Disgrace"や"Starship Trooper"のころを彷彿させてくれた。ハモンド・オルガンから始まり、キレの良いリズム・セクションに導かれて肯定的なサウンドが鳴らされる。4分前あたりから一旦ブレイクし、メインフレーズが歌われるとともに各種楽器が入り乱れてのアンサンブルが始まる。そして、6分過ぎから元に戻ってメインフレーズがリフレインされ、次第に昇華され高見へと昇っていく。この辺はトランスアトランティックでよく見られた手法である。この曲にはそれなりのエンディングが用意されていた。

 続く"Vertigo"も9分59秒と長い曲であり、新加入のキーボーディスト、ザック・カミンスの弾くミニ・ムーグシンセサイザーが曲に色どりを添えている。ミディアム調の曲で、やはりこの曲のボーカルも変声期を迎えたジョン・アンダーソンのような感じだった。「リレイヤー」時期の"To Be Over"をややダークにした感じだろうか。7分過ぎのギター・ソロがややブルージィーで渋い印象だった。こうやって聞くと、ロイネって結構上手なギタリストだったということが分かる。また8分半ばからのメロトロンもいい味を出していた。ただ、エンディングがフェイドアウトしていくので、ちょっと物足りない。きっちりと終るか、もう少し盛り上げてほしかった。その点が残念だ。

 "The Bridge"は、ザ・フラワー・キングス流のバラードだろう。あるいは子守唄といっていいかもしれない。ロイネの演奏する前半のアコースティック・ギターと後半のエレクトリック・ギターがとても素晴らしい。そのエレクトリック・ギターにメロトロンやシンセサイザーが重ねられて曲に重厚さを加えていくのである。エンディングていう点では、前曲よりもこちらの方が印象的ではないだろうか。

 "Ascending to The Stars"は5分40秒くらいのインストゥルメンタルで、作曲者はキーボーディストのザック・カミンスだった。バイオリンとヴィオラが使用されているが、メインはカミンスの演奏する各種ヴィンテージ・キーボードだろう。曲の雰囲気としては転調が多く、何となくジェントル・ジャイアントというイメージが湧いた。

 一転して"Wicked Old Symphony"では、彼らのややポップな側面を感じさせてくれた。シングル・カットをすれば売れそうな感じだ。トレバー・ホーンが加入したころのイエスと比較されるかもしれない。5分46秒という時間が何となく短く感じられるし、実際にあっという間に会わってしまった感じだ。

 続く"The Rebel Circus"もまたインストゥルメンタルで、作曲者はロイネとイタリア人ドラマーであるミルコ・デマイオだった。タイトル通りに像?の咆哮から始まり、攻撃的なアンサンブルが始まる。疾走するリズム陣に中を舞うエレクトリック・ギター、隠し味風のメロトロンと目立つシンセサイザーなど工夫が施されていて、インストゥルメンタルだけで終わらせるのは何となく惜しいような気がした。できれば歌詞も付けて楽曲として完成させてもいいのではなかろうか。エンディングも申し分ないと思う。また、アルバム・ジャケットはこの曲をモチーフにしていたのかもしれない。アルバム・ジャケットに関しては、なかなかいいと思った。

 "Sleep with The Enemy"もメロディアスでわかりやすい。"Sleep with Me"とか"Stay with Me"と歌うところが歌謡曲風で、日本人には受けそうな曲だと思った。また、シンセサイザーやメロトロンだけでなく、目立たないけれどもパイプ・オルガンも使用されていて、この辺は職人技を感じさせてくれる。最後はロイネの演奏するエレクトリック・ギターがフェイド・アウトされていった。

 そして最後の曲である"The Crowning of Greed"が始まる。静かなイントロから始まり、ロイネのエレクトリック・ギターが主旋律を奏でフィーチャーされていく。アルバムの最後を飾るインストゥルメンタルかと思ったら、3分過ぎからおとなしくなり急にボレロ調に変わる。そして、4行くらいの歌詞を繰り返し、そして歌詞のフェイドアウトともに、曲も終わってしまった。最後を飾るに最適とは言えないまでも、ふさわしいかもしれない。71bn0nrai5l__ac_sl1200_

 続いてディスク2の1曲目は、"House of Cards Reprise"でディスク1の冒頭の曲のリプライズだった。ただし、こちらの曲の方が躍動感がありカッコイイ、1分21秒しかなかったけれど。2曲目の"Spirals"は、"Call on Miracles - For America"と2回だけ繰り返される歌詞を中心に組み立てられた楽曲で、今回は今のアメリカという国家(というより大統領のこと?)を非難したメッセージを送っているようで、ディスク1に収められていた"Miracles for America"がやはりこのアルバムの主題となる曲だったということが分かる。演奏自体はテクニカルなジャズ・ロックを聞いているかのようだ。こういうザ・フラワー・キングスもまた素晴らしいと思うし、もっとこの手の曲を増やしてらいたいとも思った。ちなみに、作った人はカミンスにストルト、ドラマーのデマイオとベーシストのヨナス・レインゴールドだった。

 "Steampunk"もテクニカルな曲で、カミンスの演奏するミニ・ムーグとシンセサイザーがはじけるようなメロディーを弾いているはいるものの、続くスキャット風ボーカルやタイトなリズムが何となくジャズっぽい。個人的にはこの曲も良いと思っていて、そういう意味では曲数は少ないものの、ディスク2の方がピリッと引き締まっていて印象度として強かった。

 4曲目の"We Were Always Here"では、リズムが工夫されていて、フレットレス・ベースにワールド・ミュージック風の太鼓の音が聞こえてくる。まさかカリプソやブラジリアン・ミュージックをやるのかと思ったら、歌が始まるとザ・フラワー・キングスに戻ってしまった。こういうカラフルで天然色的なサウンドもまたザ・フラワー・キングスの特徴だろう。昔の彼らのサウンドに戻ったような感じがした。やはりディスク2の方が日本人にはあっているのではないだろうか。7分35秒という長さを感じさせない佳曲である。

 ディスク2には5曲(国内盤には"Miracles for America"のインストゥルメンタル・バージョンがボーナス・トラックとして6曲目に置かれている)しかなくて、その5曲目が"Busking at Brobank"という曲で、ストルトが作曲したインストゥルメンタルだった。カミンスの演奏するテルミンが中心となっているわずか51秒の曲だった。今どきテルミンかと思ったが、アクセント的にはいいのではないだろうか。Images_20191222113701

 とにかく、今のネット全盛時代に置いて、いまだに過去のプログレッシヴ・ロックを踏襲しながらも、その拡大再生産を目指す意欲と実践にはまさに脱帽ものである。今のプログレッシヴ・ロック界を牽引しているのは間違いないし、今後の展開がどうなるかは、ひとえにこのロイネ・ストルトを中心にしたバンドやユニット類の力量と取組に関わってくるのではないだろうか。ロイネ・ストルト63歳、今年といわずこれからも末永く頑張ってほしいものである。


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