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2020年1月27日 (月)

ビッグ・ビッグ・トレインの新作

 ビッグ・ビッグ・トレインの新作といっても、昨年の5月に発表されたものでもう半年以上も経っている。だからもうすでにそれなりの評価がたっているかもしれないけれど、自分なりに感想を記してみようと思う。Photo_20200101155401

 知っている人は知っていると思うけれど、ビッグ・ビッグ・トレイン(以下BBTと略す)は、1990年にイギリスはドーセット州のボーンマスというところで結成された。それ以前のBBTは、もともとはパンク・バンドでバーミンガムで活動していた。その頃は、オリジナル・メンバーのグレッグ・スポートンの兄であるナイジェル・スポートンがバンドを率いていた。
 もう一方のオリジナル・メンバーだったアンディ・プールは、ボーンマスで作曲活動を始めていて、スポートンがボーンマスに引っ越して知り合いになり、バンド活動を始めた。その時にスポートンの兄のバンド名を引き継いだわけだ。パンク・バンドとしてのBBTの歴史はそんなに長くなかったようだ。

 そして、グレッグ・スポートンとアンディ・プールは、メンバーを集めてバンドを結成し活動を始めた。最初のデモ・アルバム「フロム・リバー・トゥ・ザ・シー」は1992年5月に発表され、一部の評論家からは高い評価を得ることができた。当初は"マリリオンの再来"ともよばれたらしいが、そうなると"ジェネシスの再再来"になると思うのだが、真偽のほどは定かではない。

 最初のオフィシャルなスタジオ・アルバムは、1993年に発表された。タイトルは「グッバイ・トゥ・ジ・エイジ・オブ・スクリーム」といってまずまずの評判だったが、ここでキーボード・プレイヤーが交代した。これが、これから続く目まぐるしいほどのメンバー・チェンジの始まりになった。セカンド・アルバムの「イングリッシュ・ボーイ・ワンダーズ」の発表まで3年もかかったのも、メンバー・チェンジの影響からだった。しかし、このアルバムはコケてしまった。演奏に緊張感が伴っていなくて、漫然とした印象が強かったからだ。当然ながらセールス的にも失敗してしまい、さらにメンバー・チェンジが行われた。(ただ、バンド的にはこれが悔しかったのだと思う。2008年には「イングリッシュ・ボーイ・ワンダーズ」をミキシングし直して再発している)

 3枚目のスタジオ・アルバムの「バード」はセールス的にも良くて、ここからBBTの人気が高まり、固定ファンの獲得につながっていった。2007年の「ザ・ディフェレンス・マシーン」には、マリリオンやスポックス・ビアードのメンバーをゲスト陣に迎えていて、このアルバムもまた評価が高かった。
 そして、彼らの人気を不動のものにしたのが2009年の6枚目のアルバム「ジ・アンダーフォール・ヤード」だった。このアルバムには、XTCのデイヴ・グレゴリーや元イッツ・バイツのフランシス・ダナリーらが参加していて、楽曲の豊かさに彩りを備えていた。

 この後も過去のアルバムの再発や新作が発表されていくのだが、アルバムを出すたびにメンバーが変わっていくような感じで、2018年には最後まで残っていたアンディ・プールまでも脱退してしまった。結局、オリジナル・メンバーで今も残っているのは、グレッグ・スポートンだけになってしまった。確かに、プログレッシヴ・ロックのバンドには、イエスやクリムゾンのように激しくメンバー・チェンジするものも多いのだが、このBBTもまたその例に漏れないようだ。

 12枚目にあたる新作「グランド・ツアー」は、6曲の短い曲(短いと言っても中には8分を超えるものもある)と3曲の組曲で構成されている。タイトルの"Grand Tour"というのは、17世紀から18世紀にかけて、イギリスの裕福な子弟が学業の終了時に行ったといわれている大規模な国外旅行のことで、要するに"卒業旅行"をモチーフにして作成されていた。国内盤には7インチサイズのカラーブックレットも添付されていて、そのせいか、お値段的にも1枚のアルバムなのに2枚組に匹敵するものだった。できれば普通の解説と和訳でいいので、3000円以内におさめてほしかったと思っている。A1yv6tfecpl__ac_sl1500_

 冒頭の"Novum Organum"はマリンバのような静かなキーボードで始まり、クールに忽然と終わって行く。アルバム全体のプロローグの役目を果たしているのであろう。続く"Alive"はノリの良い曲で、しかも最初からメロトロンが爆発しているから、これはもう私のようなメロトロン信者には願ってもない曲だった。ロイネ・ストルトもこういう音楽をやればいいのにと思っている。最近の彼の楽曲には、この手の疾走感が欠けているのだ。

 BBTの評価が高いのは、メリハリのバランスがいいからだろう。叙情的な曲では思いっきりジェネシス化しているし、ノリのいい曲では黄金期のイエスをも凌駕するような緻密さやテンポの良さを備えている。だからといって後期ジェネシスのようにポップ化はしておらず、プログレッシヴ・ロックにつきもののテクニックもあれば、耳になじみやすいメロディアスなフレーズも備えている。

 それに"The Florentine"という曲には、フォーク的要素もあれば、後半になってムーグ・シンセサイザーのソロも聞くことができるし、イエス的なアンサンブルの良さも垣間見れる。こういうバランス感覚が優れているのがBBTの音楽の特長ではないだろうか。

 最初の組曲"Roman Stone"は5つのパートの分かれていて、13分34秒という長さだった。この曲とその前の曲"The Florentine"はイタリアが主題であり、特に"The Florentine"はレオナルド・ダ・ヴィンチを、"Roman Stone"はローマ帝国の盛衰をモチーフにしている。ほかの組曲にも言えることだが、BBTの長い曲は"起承転結"がはっきりしていて、最後まで飽きさせないし、時には楽器のソロや管楽器の使用などでアクセントを添えてくれる。この"Roman Stone"も同様だった。

 "Pantheon"もまた最初からメロトロンが使用されている。この曲はインストゥルメンタルで、最初は静かに、徐々にリズムが強調されて変拍子も使用されていく。まるでジェントル・ジャイアントの曲のようだ。途中でフルートやキーボードのソロも用意されていた。曲を作ったのはドラマーのニック・ディヴァージリオという人で、タイコも叩ければギターもキーボードも演奏するという才人だ。
 そのニックがダブル・リードボーカルで歌っているのが次の"Theodora in Green and Gold"で、まるでグレッグ・レイクの歌う"Still...You Turn Me On"のような出だしが秀逸だし、ニックの声はそこまで深みはないのだが、聞いていて悪くはない。曲の中盤からエレクトリック・ギターが添えられて、聞かせてくれるプログレッシヴ・ロック曲になっていた。

 2番目の組曲"Ariel"は14分28秒という長さで、3つの組曲の中では一番長かった。この曲のモチーフは、ウィリアム・シェイクスピアの作品である「大あらし」に登場する精霊のことについてであり、シェイクスピア自身がこの精霊についてほとんど説明していないため、この曲で自由に想像を膨らましているようだ。8パートに分かれていて、部分部分でバイオリンやストリングスが使用されていて、まるで演劇を観ているかのような錯覚に陥ってしまった。上にも書いたが、こういう曲構成の巧みさがBBTの素晴らしさである。

 続いて3番目の組曲"Voyager"が始まるが、この曲は7つのパートに分かれている。このタイトルは、1977年に始まったアメリカの太陽系外探査計画におけるボイジャー1号と2号についてであり、そのせいか、曲調もやや無機質というかボーカルよりも演奏に比重を置いているようだった。
 前の曲の"Ariel"にはすべてのパートでボーカルが含まれていたが、こちらの組曲では7パートのうちパート1と3、6、7にボーカルが入っていて残りはインストゥルメンタルだ。またそのインストゥルメンタルにも、室内管弦楽のような優雅な雰囲気を醸し出しているところもあれば、パートのつなぎに管楽器が使用されているところもある。さらに、ジャズ・ロックを聞いているようなパートもあれば、無理のないように叙情的に盛り上げていくところもある。この辺の変幻自在さというか展開の素晴らしさは、まさにBBTの独壇場だろう。ただ気になるのは、これをライヴで演奏するのは難しいのではないだろうか。Alive1024x576

 そして最後の曲は"Homesong"だった。無事に家に帰還したということだろう。あるいは無事に帰れることを願っての歌かもしれない。これもまたメロディー自体はポップな印象ながらも、多彩な楽器が使用されて転調も多く、テクニカルな面を備えていた。4分50秒と彼らにしては短い曲だが、彼らの音楽的要素がギュッと濃縮されているようだ。71tkowqtsil__ac_sl1200_

 全体を通して聞くと74分もあり、これに国内盤にはボーナス・トラックが1曲ついているから80分近くになる。もうおなか一杯という感じになるのだが、こういう表現力の豊かさがあるということは、いまがBBTの最盛期なのかもしれない。現在のイギリスのプログレッシヴ・ロック界を牽引しているのは、ビッグ・ビッグ・トレインであることは紛れもない事実なのである。


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