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2020年1月13日 (月)

フロム・アウト・オブ・ノーウェア

 昨年の終わりに、エレクトリック・ライト・オーケストラ(以下ELOと略す)の新作が発表された。ただ、正確にいうと、ジェフ・リンズ・ELOという名称になる。これは"ELO"という名義を使用できる権利を持っているのが、オリジナル・メンバーだったジェフ・リンとドラムス担当だったべヴ・ベヴァンの2人だけだからだそうだ。X_elo

 ジェフ・リンズ・ELOについては、2015年に「アローン・イン・ザ・ユニバース」というアルバムを発表していたから、4年振りのアルバムで、タイトルは「フロム・アウト・オブ・ノーウェア」と名付けられていた。前作もそうだったけれど、このアルバムも全10曲という今どきにしてはシンプルなもので、ボーナストラックも付いていなかった、前作には3曲もあったのに…
 さらには、10曲で約32分、各曲はすべて3分程度で4分を超える曲は1曲も含まれていなかった。これでいいのかソニー・ミュージックと思わず言ってしまいそうになるのだが、ジェフ・リンの意向のようだから仕方ないのだろう。71w86snvztl__ac_sl1200_

 ただし内容に関していうと、少なくとも前作よりは70年代後半から80年代初期の当時の趣きを再現していて、確かに黄金期のELOの一部分が戻ってきたという感じがした。そういう意味では、あの時代を回顧したい人にとっては必聴盤になるに違いない。

 実際、イギリス本国におけるELOの人気は未だ衰えずというよりも、ザ・ビートルズやクィーンと比べても勝るとも劣らないほどであり、2014年にはハイドパークでライヴが行われたが、5万枚のチケットはわずか15分で売り切れてしまった。そして2016年にはグラストンベリーでライヴを、翌年の17年にはウェンブリー・スタジアムで6万人を前にヒット曲全開のライヴを行った。

 この時の模様をのちにジェフはこう回顧している。『これまででの最大の山場だった。だってやっぱりいざやるとなったらウェンブリーはちょっと怖かったよ。6万人を前にどうすればいいんだっていう感じだ。でも、やってみたら最高に楽しかった。あれに匹敵するものは何もないし、なんかもう言葉で説明のしようがないね』Img_elo1

 こういうライヴを行う中で、ジェフ・リンは今までやってきたことや、今やっていることに自信を持ったというか、確信を抱いたのだろう、自分はまだまだ現役で、求められているミュージシャンだと。それで、4年振りの新作が往時の輝きを放っているのも、そんな自信みたいなものが備わっていたからだろう。ジェフは、ライヴの経験がELOとしてのサウンドをさらに磨き上げたというようなことも述べていたし、今の世の中に対して希望を与えられるように感じさせたいから、そのためにも曲にもっとポジティヴで、もっとドライヴを持たせたかった。それはライヴ・パフォーマンスを盛り上げるためだ、というようなことも言っていた。

 それで今回のアルバムを聞いてみると、冒頭の"From Out of Nowhere"は60年代のロイ・オービソンの曲に似ていて、確かにポップで耳になじみやすい。ミディアム調でどこかで聞いたような懐かしさを感じさせてくれた。
 続く"Help Yourself"も同じような傾向の曲だが、80年代のトラベリング・ウィルベリーズの中の曲ですよといわれてもわからないのではないだろうか。ジョージ・ハリソンあたりが歌いそうな曲調だ。

 "All My Love"については、今までのELOにはなかった感じの曲で、ポール・マッカートニーあたりが作りそうな曲で、例えていうなら2007年に発表された"Dance Tonight"をボサノバ調に変換したようなタイプだ。最初の5曲の中ではテンポがよくて、アルバム前半のアクセントにもなっていた。ジェフのファルセットもいい味を出している。

 "Down Came The Rain"こそまさに70年代後半のELOの曲に似ていて、もしくは未発表曲といわれても信じてしまいそうになる。例えていうなら、1977年の"It's Over"か"Mr. Blue Sky"と比べても遜色はないだろう。もしくはELOの曲をトラベリング・ウィルベリーズがアレンジして歌っている感じだ。わかるかなあ。わかる人には分かると思うけど、わからない人には永遠にわからないかもしれない。

 前半最後には、お決まりのバラード曲"Losing You"が用意されていた。これまたロイ・オービソン風の曲で、"Crying"と比べてもいいだろうし、このアルバムでは珍しいことだけど、ストリングスも用意されていた。あるいは、1973年のアルバート・ハモンドの曲"For The Peace of All Mankind(落ち葉のコンチェルト)"にも似ている。
 ジェフ自身は、このアルバムについて、ストリングスとかそういうものは抑えて、ポップやロックン・ロールのフィーリングをもっと打ち出したかったと述べていたが、そういわれてみると、かつてのELOのようなストリングスやオーケストレーションなどはほとんど印象に残らない程のものだった。"Losing You"はそういう意味では、特別なのかもしれない。Eloagaintributetojefflynneselolivephoto

 後半最初の曲"One More Time"はまさにELO風ロックン・ロールだ。1976年の「オーロラの救世主」というアルバムがあったけど、あの中の曲"Rockaria"や"Do Ya"に通じるものがある。この曲には元ELOメンバーのキーボーディストだったリチャード・タンディが参加しているが、本当は他の曲のレコーディングにも参加する予定だったが、本人の体調がすぐれずにこの曲だけで終わってしまった。元ELOメンバーの中で、ジェフ・リンと今でも音楽的に交流があるのはこのリチャードだけのようだ。

 7曲目の"Sci-Fi Woman"もノリの良い楽曲で、後半はテンポの良い佳曲が並んでいる。アルバム構成的には前半が穏やかなミディアム調の曲が占め、後半はノリの良い曲が並んでいる。もう少し前半にも後半にもバランスよく混ぜて配置すると、メリハリが効いてよさそうになるような気がするのだが、どうだろうか。

 "Goin' Out on Me"はスロー・バラード風になっているから、そういう意味ではバランスよく配置されているのかもしれない。この曲は60年代のダンス・パーティーで披露されるようなテイストを含んでいて、ヨーロッパ系アメリカ人が好んで聞きそうなタイプの曲だ。
 "Time of Our Life"では、上述した2017年のウェンブリー・スタジアムでのライヴのことが歌われていて、6万人が携帯電話で明かりを出し、その中で彼らの代表曲でもある"Telephone Line"が始まった時の様子が記されている。これまた軽快な曲で、よほどこの時の印象が強かったのだろう、うれしい驚きが曲調に表れているし、その時の歓声もSEとして使用されている。

 10曲目の最後の曲は"Songbird"という曲で、恋愛が最後に成就するというハッピー・エンディングの内容だ。曲もミディアム・スローで、最後を締めくくるには似合っていると思う。この曲も、70年代の未発表曲といわれてもわからない程のポップでメロディアスな特徴を備えている。61y7uvryhjl__ac_sl1200_

 とにかく10曲しかなく、しかも32分程度だから何度も聞いてしまった。そういう意味では、魔法にかかったようにリピート・ボタンを押してしまう。これもジェフ・リンの作戦なのかもしれない。ジェフ・リンも72歳になったが、このアルバムではほとんどすべての楽器を一人で手掛けているし、まだまだ音楽的な才能は枯れていないようだ。ちなみにこのアルバムは、アメリカのビルボード・アルバム・チャートでは47位を記録し、イギリスでは見事首位に輝いている。母国での人気には一向に陰りがささない。ELOの人気は、イギリスでは永遠不滅なのだろう。


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