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2020年2月17日 (月)

ザ・ミスティーズ

 昨年の秋に発表された新作を紹介する。これが今どき珍しい超弩級ポップ・ソング・アルバムだからだ。ザ・ミスティーズという名前なのだがバンドではなく、ヨハン・ステントープというスウェーデン人がやっているプロジェクト名だった。プロジェクトといっても、メンバーが流動的とかバンド名にこだわっているとかいうのではなくて、彼一人で作詞、作曲、アレンジ、プロデュースにミキシング、もちろんすべての楽器も手掛けていて、要するにワンマン・プロジェクトなのである。S_img_5553

 それなら別にバンド名っぽくするのではなくて、個人名で発表すればいいのにと思うのだが、彼曰く、バンド名が欲しかったのはその手の音楽だと思ったから、ということらしい。さらに、まだ使われていない名前を見つけるのは難しくて、ポップな響きのする名前を考えていたら"ザ・ミスティーズ"になったという。

 彼は、80年代から活動をしているマルチ・ミュージシャンで、1983年にプラズマというバンドのキーボード・プレイヤーとしてプロ・デビューしている。バンドは1984年に解散したが、翌年にはタイム・ギャラリーというバンドを結成してアルバムも発表した。タイム・ギャラリーは、大物プロデューサーのキース・オルセンの目にとまって、アトランティック・レコードと契約もしていた。順調に活動も進んでいくと思えたのだが、残念なことにセールス的に振るわず、1992年に2枚目のアルバムを発表したあと解散している。 61szdgjydml

 そのあとヨハンは、スタジオ・ミュージシャンとして活動していくのだが、高校時代の同級生だったパール・デヴィッドソンという人と一緒にトランポリンズというユニットを結成して活動を始めた。ユニットは4人組のバンドへと発展して3枚のスタジオ・アルバムを発表していて、折からのスウェディッシュ・ポップ・ブームの波にものり、日本でも注目を集め、来日公演も果たしている。
 トランポリンズ自体は、3枚のアルバムを残して1999年に解散してしまうのだが、母国スウェーデンではもちろんのこと、日本やヨーロッパではセールス的にも好調で知名度的は高かった。

 その中心人物だったヨハン・ステントープの好きなバンドやミュージシャンは、デヴィッド・ボウイやクィーン、10ccにスーパートランプ、ザ・クラッシュなどの70年代から活躍しているバンドやミュージシャンであり、さらにはエルヴィス・コステロ、クラウディッド・ハウス、ドッジー、XTCなどの80年代、90年代のバンドなどにも及んでいて、まさにポップ・ミュージックの博覧会のような感じだ。また、どちらかというと英国中心であり、どこかひねくれたポップ・ミュージックを志向しているようである。

 ヨハンはまた、スクイーズやジェリーフィッシュもフェイヴァリットに挙げているのだが、やはりザ・ビートルズが始まりのようで、中でもジョージ・ハリソンの曲には思い入れが深いという。"Here Comes The Sun"や"Something"はレノン&マッカートニーの曲にも匹敵すると言っていて、そんなことはいまさら言わなくても誰でもわかることだろうとツッコみたくもなる。ただ敢えてジョージ・ハリソンの曲が好きというところに、ヨハン・ステントープの個性というか原点があるような気がする。

 原点といえば、ヨハンが音楽にのめりこむきっかけになったのは、ディープ・パープルの「イン・ロック」を聞いてからで、何故かイアン・ペイスに憧れて11歳でドラムを始めたらしい。普通はリッチー・ブラックモアに憧れてギターを始めるんじゃないかな、もしくはイアン・ギランのようにシャウトしたいとか。それがイアン・ペイスなのだから、やはりヨハンはちょっと違っている。

 そこから始まり、曲作りをするようになってドラムからキーボードに転身した。また、父親からはクラシック、8歳上の兄からはアリス・クーパーからシカゴ、キャンド・ヒートなどのアメリカン・ロック、ピンク・フロイドにジェネシスやイエスのプログレ系、ブラック・サバスやユーライア・ヒープ、シン・リジィなどのハード・ロック系、キャット・スティーヴンス、ニール・ヤング、レオ・セイヤーなどのシンガー・ソングライター系など、幅広いジャンルのレコードを聞いていてその影響を受けている。これらの音楽をひとくくりにすることはあまり意味はないかもしれないが、基本的には70年代の音楽が中心で、メロディーがはっきりとしているバンドの曲が多いようだ。だから最終的に、ポップ・ミュージックを志向するようになったのだろう。

 そんなヨハンの、いや間違えたザ・ミスティーズのアルバム「ドリフトウッド」は、当初40曲余りが準備され、それらを絞り込んで25曲くらいレコーディングをしている。そして最終的に残ったのは12曲だった(国内盤ではボーナス・トラック付きで15曲)。
 タイトル名の「ドリフトウッド」とは流木のことで、彼が住んでいる近くにビーチがあって、時々散歩をするという。散歩をしながら曲のアイデアやメロディーが浮かんできて、それを集めてこのアルバムを作ったようだ。それが浜辺に打ち上げられた流木を集めるような感じだというので、タイトル名になったらしい。61bkk0xsa4l__ac_

 1曲目の"Good Things"から弾けるようなメロディを聞くことができる。この曲では、ヨハンはフリートウッド・マックを意識しているようだが、80年代のフリートウッド・マックよりもポップである。"Your Heart is Bigger Than That"はアメリカのパワー・ポップのバンドの曲のようだ。ウィーザーとかファウンテン・オブ・ウェインとかのややスローな曲を思い出させてくれた。

 "Calling Out!"は80年代のニュー・ウェイヴのサウンドを意識したようなのだが、聞いていてあまりそんなことは感じられなかった。基本的にはどの曲もそうだけど、シンセサイザーなどの電子音楽機器は目立っていないし、性急なビートの曲もない。この曲もテンポは軽快で、聞かせるパワー・ポップの曲になっている。ヨハンは1時間くらいで仕上げて、曲のアイデアが新鮮なうちにレコーディングを行ったという。

 "That in Not What Friends are For"は2分58秒と短い曲だけれど、かなり時間がかかって作られたようで、苦労したらしい。途中で何回か転調しているし、シンプルながらもピアノやギターの短いフレーズも挿入されていて、シンプルな曲のようで複雑な構成なのが分かる。職人技のようなポップ・ソングだ。

 "Face the Sun"もミディアム・テンポのポップ・ソングで、メインのボーカルに対するコーラスの被せ方やメロディが印象的だ。この曲も時間をかけてじっくりと熟成させた感がある。よくできた曲だと思う。"I Fall Back into Your Arms"は冒頭の"Good Things"のように軽快な曲で、サビの部分のメロディがいい。声がファルセットになるところなんかは最高だと思う。ヨハンの知り合いの変な作曲家についてのお話らしい。本人は自分自身のことではないと言っているけれど、でもおそらくは少し自分のことも入っているに違いない。

 "How it Ends"は2分程度で曲名やアイデアが浮かんだ曲で、ヨハンが蚤の市で購入した1936年製のアコースティック・ギターで作曲したもの。この曲もミディアム・テンポの曲で、曲自体は良いものの、同じようなテンポの曲が並ぶと平凡な印象になってしまいがちなので、この辺でバラード系の曲が欲しかった。このアルバムのマイナス点を探すと、同じような傾向の曲が並べられているという点だろう。だから途中で聞き慣れてしまうのだが、1曲1曲の水準はものすごく高いので、高水準のポップ・ソングが並んでいますよという感じだ。だから逆に言えば、非常にもったいないのである。

 8曲目の"Blue Sky Thinking"は、アルバムのレコーディングの終わりの方で出来た曲。この曲もテンポは前の曲と同様なのだが、曲のフックというか曲名のリフレインが耳に残った。そして、やっときましたバラード系が、"Everything We were"なんだけど、このアルバムの中でも数少ないバラード曲で、途中のウーリッツアー社製のエレクトリック・ピアノのソロなんかは曲にピッタリハマッていた。また突然終わるエンディングも効果的だと思った。

 一転してノリノリの"Over And Over Again"が始まる。こういうアルバム構成はいいと思う。アルバムの前半は同傾向の曲が目立つが、後半ではバラエティに富んでいて、リスナーを飽きさせない工夫がある。ほかの曲もそうだけど、この曲は特にシングル・カットしても売れるんじゃないかなと思わせる。
 
続く"Halfway into A Storm"では犬の鳴き声のSEが入り、ミディアム・テンポのアコースティック・ギターからボーカルが導かれる。ヨハンは楽器が近くになくて、頭の中で書いた曲だと言っていた。途中で転調も入り珍しくシンセサイザーやオルガンのソロも聞くことができる。これもみんな頭の中で構想したのだろうか。やはり彼は、常人とは違う才能を有しているようだ。

 "I'm A Winner"もメロディアスな曲で、人生での成功を夢想している人物のことを歌っていて、ヨハンは自分のことだとはっきりと述べていた。それはともかく、この曲にも転調があってそれが効果的だ。曲の最後がフェイド・アウトしていたので、出来ればきっちりと終らせてほしかった、一応この曲がラスト・ソングになるわけだから。

 13曲目からは国内盤におけるボーナス・トラックになっていて、"If Push Comes to Shove"はイギリスのポップ・ロック・バンドのスクイーズに対する敬愛の気持ちを込めて作られたもの。アップテンポで、何となくそんな感じに聞こえてくるから不思議だ。グレン・ティルブルックとクリス・ディフォードが聞いたらきっと喜ぶだろうな。

 "Where were You?"はミディアム・テンポの曲で、中間の部分はヨハンがイギリスのバンドのプリファブ・スプラウトを意識して書いたらしい。短いながらもアカペラのパートもあって、それなりに楽しんで作った様子が伝わってくる。ただ、どこがプリファブ・スプラウトだったのかはよくわからなかった。

 最後の曲は、"The Last of The Mohicans"というもので、彼が子どもの頃に見た映画や読んだ本をもとにして作った曲。曲自体はずいぶん前に作られていて、未完成のままに放っておかれていたのを、今回、曲としてまとめたもの。リズムが少し重くて、このアルバムの全体の印象とは少しかけ離れている。だからボーナス・トラックにしたのだろう。メロディ自体は優しいものなのでポップ・ソングの範疇に入るだろうが、何となくザ・ビートルズの「リボルバー」時期のアウトテイクといった感じか。少し軽めのアウトテイクだろう。71tost3c7l__ac_sl1161_

 ヨハンは10年以上もプロデューサーやソングライティングなどの裏方の仕事をしてきて、このたび久しぶりにアルバムを発表した。このアルバムが売れれば、これからはミュージシャンとして表現活動に打ち込むかもしれない。彼は、今回アルバムを発表するにあたって、インタビューでこのように述べていた。『2019年の最先端の曲も、20年前から30年前の最先端の曲も、人の心を動かす構造は同じだと思う。もちろん、時代とともに音楽スタイルは変化しているけれど、いつの時代でも変わらない何かが確実にあって、その本質の部分に触れる音楽こそが、音楽好きのリスナーの心をつかむことができるんだ』ヨハンにはもう少し頑張ってもらって、これからもアルバムを発表してほしいと願っている。


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