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2020年3月 2日 (月)

ルイス・キャパルディ

 この手の音楽って、欧米人は大好きなんだなあ、そんなことを考えながら初めて彼のアルバムを聞いてみた。"彼"というのは、スコットランド出身のシンガー・ソングライターであるルイス・キャパルディという人だ。個人的な感想としては、"第二のアデル"か、もしくは"第二のサム・スミス"だろうか。71bliz2w1ll__ac_sl1500_

 欧米人は、特に、アメリカ人は、こういう音楽を聞いてゴスペルを想起するんじゃないかな、曲の雰囲気やたたずまいは、これはもう立派な教会音楽でしょう、足りないのは"コール&レスポンス"だけのような気がする。
 一方、イギリス人はこの手の音楽を心のどこかで待ちわびているような気がする。国民性といっていいのかわからないけれど、どっかで内省的というか、自己を見つめる視点というか、マイナーな調べに乗って生活を振り返るような、そんな気分にさせられるし、そういうひと時を望んでいるのかもしれない。

 だってイギリスは島国だし、外から攻められる危険性は少ないわけで、そうなると自分たちの人生や生活にどうしても目が行くわけでしょ、だから、仕事が終わるとパブに行っては音楽を聴きながらバカ騒ぎ?をすることもあるわけで、たまに騒いで、でもいつもというわけではなく、やはり時々、自分の人生を見つめ直すんじゃないかな。

 それにイギリスは階級社会だし、労働者階級の人は、本人が意識してそこから抜け出そうとしない限り、死ぬまで労働者階級に留まるわけで、そうなったら騒いで憂さを晴らすか、諦観というか、「明日は明日の風が吹くさ」というあきらめにも似た感情がどこかに渦巻いているような気がする。普段は表に出さないけれど、ある時フッとそういう気持ちが表に出て、こういう音楽を聴きたくなるのかも。自分はイギリス人じゃないけれども、自分がそういう社会で暮らしているのであれば、そう思ってしまうだろう。

 そんなことはどうでもいいんだけど、ちょっと気になったので、この手の音楽の流れを見てみると、次のような感じになると思う。
アデル       ・・・2006年デビュー、当時18歳、売れ始めたのは2008年、20歳の時
エド・シーラン   ・・・2004年デビュー、当時13歳、売れ始めたのは2011年、20歳の時
サム・スミス    ・・・2007年デビュー、当時15歳でも売れ始めたのは2012年、20歳の時
ルイス・キャパルディ・・・2017年デビュー、当時21歳あっという間に人気に火がついてしまった

 こうやってみると、上の3人は、みんな若い時から歌っていたり、演奏していたりと、それなりに下積みがあるというか、頑張っていたんだなあということがわかるけど、ルイス・キャパルディの場合は、いきなり売れてしまったという感が強いんだ、これってやっぱりネットの影響のせいだろうね。
 彼の場合は、自宅で録音していた曲をYouTubeなどでアップしていたところを見つけられて、レコード契約がないのに2017年3月にシングルを発表していて、その後デジタル配信になり、続けて違うシングルを発表して世界的に売れてしまったみたい。今はもう誰でもミュージシャンになれる時代になってしまった。Images_20200201224801

 となると心配になるのが、いわゆる"一発屋"というレッテルが貼られることなんだけれども、たぶんもう少し売れるんじゃなかな、そんな気がする、根拠はないけれど。たとえば、ジェイムズ・ブラントなんかは2005年に"You're Beautiful"が世界中でヒットしたけど、その後はメジャーな扱いはされなくなったよね、でも、コンスタントにアルバムは発表しているし、"You're Beautiful"のようなキャッチーな曲はないけど、シングルやアルバムはチャートの上位に顔を出している。きっと根強いファンがいるんだろうと思うけど、ルイス・キャパルディもそんな感じがするんだ。

 彼はシンガー・ソングライターの扱いなんだけど、1970年代のシンガー・ソングライターというのは、本当に自作自演で、ひとりで曲を書いて、歌って、演奏して、場合によってはアルバムのプロデュースもしたりと、文字通りの"自作自演歌手"だった。でも、今のシンガー・ソングライターというのは、アデルやエド・シーランの場合を見ればわかるように、バックに強力なサポート体制があるんだよ。

 ルイス・キャパルディの場合もニック・アトキンソンやエド・ホロウェイ、エミリー・サンデーを手がけたEMSというプロデューサー集団がバックアップしていた。これはもうほぼ完璧な支援体制じゃないだろうか。それだけ才能に恵まれているというか、可能性を秘めていると見込まれたわけだから、ルイスも大変だと思う。

 だから、そのサポート体制が維持されている限りは、ルイス・キャパルディは売れ続けるし、それなりに人気も保っていけると思う。基本はルイス・キャパルディの場合も自分で曲を書いているんだけど、やっぱり曲はアレンジされるんじゃないかな。それがどの程度なのかはわからないけれど、今はいいけど、サポート・チームが口をはさみ過ぎると、彼も嫌になるだろうし、ミュージシャンとしてのプライドもあるだろうし、素直にアドバイスを受け入れられなくなる時が来るかもしれない、そういうときに、どうなるんだろう。

 ミュージシャンとしてのプライドが肥大化してしまえば、傲慢になる場合もあるだろうし、そうなったらサポート体制もなくなるかもしれない。それに、今の音楽業界って厳しいから、セールスが下降してしまうと、すぐにほかの売れそうな新人ミュージシャンやバンドを探してくるだろう。音楽の質よりも話題性が先行しているからね。そうなったら厳しくなるだろうなあ。 Imagessdhavpah

 それにイギリスって流行に敏感というか、流行のサイクルが早いから、そんな中で人気を保っていくのは大変だと思う。パンク・ロックなんかあっという間に終わってしまったし、ヒットを飛ばして売れたバンドもやがては解散してしまう。90年代のブリット・ポップ時代のブラーやオアシスがいい例だよね。

 逆にいえば、そんな中で生き残ってきたミュージシャンやバンドは世界的に有名になっていくのだろう、U2やレディオヘッド、コールドプレイなんかはそうだよね。共通点は、楽曲の良さと微妙に変化球を入れるところだろう。同じ傾向の音楽をやれば、たちまち飽きられると思っているから、音楽的方向性をアルバムごとに替えていくんだろうね。ストーンズなんかは基本はロックで、アメリカ南部のブルーズなんかをルーツに持っているけど、ロック一辺倒じゃなくて、ブルーズっぽい曲やソウルフルな曲、ディスコ調の曲まで取り入れるんだから、それだけの懐の深さが必要だと思う。
 ルイス・キャパルディの場合も、そういうキャパシティの広さを発揮してほしいね。"キャパルディ"じゃなくて"キャパシティ"に変えればいいかも、冗談だけど。

 彼の場合は、もちろん曲がいいというのは当然としても、声が印象的というか、けっこう野太いんだよね。見かけは若いし、清潔感があって、そんな感じには見えないんだけれど、声は綺麗じゃない、特に、声を張り上げて歌うときは少しザラツキ感があるんだ。でもそれがまた印象的で、心に染み入ってしまうんだよね。こればっかりは才能というよりは、持って生まれた天賦の才のようなものなんだろうね。この声がある限りは、彼は売れると思う。

 それに、体型がまた面白くて、見かけと歌のギャップがあっていいんだと思う。デビュー時のアデルのようだね。あそこまで体型は太くないけど、スマートでダンディというわけじゃなくて、もっさりとしてちょい太というところがいいのかもしれない。これが痩せたら逆に人気が無くなるかも。
 それにSNSで発信されるメッセージもユニークで面白いと評判がいいようだし、PVもちょっと変わっているし、そのギャップがいいんだろうね、いろんな意味で。今は注目されているから、彼の一挙手一投足が話題になるんだけど、やっぱりシンガーなのだから歌で勝負してもらいたいし、いい曲を、みんなの記憶に残るような曲を末永く歌ってほしいと思う。Lewisgettyimages1126250775720x480

 彼はスコットランドのグラスゴー出身で、9歳の時にギターを買ってもらい、11歳から曲を書き始め、パブなどで歌い始めたらしい。17歳から本格的に音楽活動を始めたようで、やはり自分のキャリアを自覚して、それに賭けたのだろう。それはやはり作曲能力と自分の声の素晴らしさに気づいたからに違いない。11歳の時に書いた曲が"The Show Must Go On"というタイトルだったというから、その時点で彼の人生は約束されたものになったに違いない。

 最後に、具体的な数字を示して、彼の今までの音楽的成果を確認したいと思う。2017年に発表したデビューEP「ブルーム」は、全世界で1億2000万回以上もストリーミング再生された。そして2018年に出されたシングル"Someone You Loved"は、全英シングル・チャート7週連続首位に輝き、全米でも1位になっているし、世界19カ国でプラチナ・シングル・ディスクに認定された。

 この曲を含むデビュー・アルバム「ディヴァインリー・アンインスパイアード・トゥ・ア・ヘリッシュ・エクステント」は、2019年5月に発表されて、すぐさま初登場全英1位になり、通算6週間1位を獲得した。しかし、いったん首位から陥落したものの、今年になっても人気は衰えず、先月、再び首位に返り咲いている。617ghz67oql__ac_sl1168_
 日本では約半年遅れでこのアルバムが発表されたが、セールス的にはどうなんだろう。イギリスでは、デビュー・アルバムを発表する前からアリーナクラスのツアーが企画され、チケットは約1秒で完売したという。願わくば、商業主義に毒されずに、その豊かな才能を最大限発揮しながら、納得の行くまで自分の音楽的キャリアを追求していってほしいものである。


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