日曜日に映画を見に行った。久しぶりの映画だったし、しかもその映画があのアカデミー賞も獲得している巨匠マーティン・スコセッシ監督のローリング・ストーンズを撮ったものだったから、これはもう見なければ末代までの恥辱とばかりに、ひとりで見に行ったのだ。
雑誌などでは紹介されていたから、映画の内容は知っていたのだが、まさかこんな地方の田舎の映画館で上映されるとは思ってもみなかった。
しかも以前見たロック・フィルムはプリンス主演の「パープル・レイン」だから、まさに四半世紀以上も昔の事。久方ぶりのロック・フィルムである。
そして監督がマーティン・スコセッシとくれば、誰も文句のつけようがない中身になるのは当然の事だった。
マーティン・スコセッシといえば、「タクシー・ドライバー」や「レイジング・ブル」、新しいところでは「ディパーティッド」など現代社会の光と闇、そこで生きていく人間模様を丹念に描くことで定評がある。
またフィクションだけでなく、ロック・ミュージックにも造詣が深く、ザ・バンドの解散コンサートの模様を映像化した「ラスト・ワルツ」、若かりし頃のボブ・ディランを描いた「ノー・ディレクション・ホーム」、ブルーズ・ミュージックのルーツを描いた「フィール・ライク・ゴーイング・ホーム」など、ロック・ファンにもなじみの深い作品を撮り続けている。さらに、マイケル・ジャクソンのプロモーション・フィルム"Bad"を監督したのも彼である。
それで肝心の映画なのだが、これがまた素晴らしい内容で、まさにロック・フィルムの見本のようなドキュメンタリー映画になっている。万人に見てもらいたい映画なのだ。
時は2006年10月29日と11月1日、所はNYのビーコン・シアターというキャパ2800席ほどの小さいホールでのライヴ演奏。最大18台ものカメラを用いて、バックステージから演奏終了までくまなく撮り続けている。
最初はスコセッシ監督とストーンズ側、つまりミックとのやり取りから始まる。実際に撮影するに当たっての確認をしようとするのだが、ストーンズはワールド・ツアー中なので連絡が取れない。特に、当日どの曲を演奏するのか曲目がわからないため、監督も構想の仕様がないのである。
仕方なく過去のセットリストを参考にしたり、最初はアップテンポの曲だろうと予想を立ててみたりして、結局、最終的にわかったのが、当日本番の30分前というものであった。さすが世界最高のロックンロール・バンドのストーンズである。
とにかくこの映画でわかる事は、ミック・ジャガーは怪物であるということ。ストーンズは現役最高のロック・バンドであることではないだろうか。
ミックはこのとき63歳。さすがに顔の皺は隠せないものの、体は30代といっていい代物である。贅肉なんか微塵もない。77年のヨーロッパのツアーのときの体型と全く変わらないのである。いったいどういう生活を送っているのであろうか。体型維持だけでも並大抵の努力ではないだろう。
そしてバンド演奏もプロに徹している。映画の撮影という緊張感を逆手にとって、普段通り、いやそれ以上の素晴らしい演奏を繰り広げている。
たぶん普段はスタジアム級のツアーをやっているのであろうが、このように客席の顔や服の色まで見えるクラスのツアーは久しぶりなのであろう。客席との距離感もまた、彼らの演奏をより完璧なものに近づけたのに違いない。
またビーコン・シアターでのライヴ映像の合間に、60年代や70年代初期のミックや他のメンバーのインタビュー・ショットなどを差し入れて、昔と今を対比している。
その中には“あなたは60歳になってもバンドを続けていますか”という質問があったのだが、そこでミックは“Yes”と答えている。
そして「ラスト・ワルツ」と同じように、このライヴにもゲストが参加している。ひとりはホワイト・ストライプのジャック・ホワイトで、ミックと一緒に"Lovin' Cup"を歌っているが、どことなく緊張しているかのようだ。
びっくりしたのはバディ・ガイが登場して歌ったときの事。このとき70歳のブルーズ・ギタリストは、ミックをも圧倒する声量でマディ・ウォーターズの"Champagne & Reefer"を歌ったのである。
キースはいたく感激してしまい、このブルーズ・ミュージシャンに演奏していたギターを手渡し、ステージ上でプレゼントしている。
また3人目のゲスト・ミュージシャンはクリスティーナ・アギレラで、ミックと"Live with me"を歌ったのだが、この人の声量も豊かで、とても29歳とは思えない見事なボーカルとセクシーな振り付けを披露してくれた。
演奏曲は全部で19曲、"Jumpin' Jack Flash"から"Satisfaction"まで、一曲たりとも手をぬかずに熱演をしている。
映画の撮影という事もあったのだろうが、ベネフィット・コンサートとして企画されてもいたようで、開演前のバックステージでは、クリントン元大統領夫妻やその親戚、元ポーランド大統領なども集まり、記念撮影をしているし、コンサートのMCではクリントン元大統領自らがバンドの紹介をしていた。
このときの模様はライヴ音源として販売されているので、自分も購入しようと思っている。本当に"The Rolling Stones is ALIVE"と印象付けられてしまった。それほど素晴らしいのである。
確かにスコセッシ監督の手にかかれば、こういう素晴らしい映像になるのであろう。とにかくミックが銀幕から飛び出すのではないかと思われるほどの、ステージ・アクションだった。吸入器が必要なのではないかと余計な心配までしてしまうほどだ。
それでも編集作業が大変だったのではないだろうか。すべてのカメラのフィルムを見て、それを1本のフィルムにまとめるのだから、それだけでも数ヶ月もかかる作業ではないかと思うのだが、実際はどうだったのだろう。
しかし、まさか本当に映画館で見られるとは思わなかった。このときの映画館での観衆は、自分を入れてわずか5名。日曜日の昼下がりにもかかわらず、この動員数である。たぶんあと1~2週間で興行打ち切りになるのではないか。やっぱり田舎の人にはストーンズの偉大さはわからないのだろう。
でも、このフィルムを見て、ミックが63歳(今年66歳!)という事を知れば、驚くと同時にどこにその秘密が隠されているのだろうかと、多くの人がさらに映画館に押しかけてくると思うのだが、どうだろうか。
そしてできればストーンズよ、ニュー・アルバムなんか期待していないから、もう一度来日してコンサートを開いてほしいのだ。あのミックの勇姿は、まさに世界遺産級なのだから。
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